82話 歴史を終えるカーディア帝国
ルビーさんとネーヴェさんに合流できた僕たちは、そのままシリウスたちが戦っている前線へと向かった。
竜族である二人が加わったことで、恐怖は和らいだ。
それは、僕だけでなく皆も同じようで、足取りが軽くなっていた。
よく考えれば、アスールさんも竜族なのに、何故か彼女を竜族として意識していなかったことに気付く。
不思議だ。
僕はアスールさんを見て、もう少し頼りがいがあってくれれば、あんなにビビることもなかったのにと思う。
そして、少しちびらなくても済んだかもしれない……これは、僕だけの秘密だ。
一応、ズボンをそそくさと触って確かめる。
湿っていない、大丈夫だ。
僕も少しの間、この城にはお世話になっていたが、今、進んでいる道は全く見覚えがない。
方向的にも、僕が生活していた場所とは真逆に進んでいる。
城内を見学した時も、アンさんは、こっちまでの案内をしなかった。
きっと、見せたくない物、会わせたくない人物が、こちら側には存在していたのかもしれない。
そんなことを思っていると、かすかに聞こえていた剣のぶつかり合う音が、次第に大きくなっていく。
この先がさっきのような戦場と化していると思うと、腰が引けてしまう。
それでも、少し前ほどの怖さはない。とはいっても、怖さが軽減しただけで怖いことには変わりはない。
僕はケイトと手を繋ぎ、お互いに身体を寄せ合って、音のする方向へと進む。
音のする位置に近付くと、アンさんが立ち止まり、手で僕たちを制した。
そして、少し離れたところから様子をうかがう。
僕たちの先には、開かれた両開きの扉があり、その前では、両軍が争っている。
戦いは激しく、なかなか治まりそうにない。
僕たちは、ある程度鎮静化してから進むことにし、今は戦闘を見守ることにした。
そんな中、こちらの存在に気付く敵軍の騎士が現れ、彼はこちらに向かって剣を振り上げ、襲ってきた。
アンさんとレイリアが剣を抜き、構える。
アンさんがデスサイズではなく、剣を抜いていることに疑問を抱いたが、今はそれどころではない。
敵軍の騎士が、凄い勢いで迫ってきているのだ。
「「ヒィッ!」」
鬼の形相で向かってくる敵軍の騎士の表情を見た僕とケイトは、驚いて抱き合い、その場にしゃがみ込む。
パン。
一発の発砲音がすると、彼は途中で倒れ、動かなくなった。
発砲音がした先を見ると、オルガさんが、彼に拳銃を向けていた。
「なっ! オ、オルガさんも、銃を持ってたの?」
「はい、そうですけど」
彼女は、落ちた薬莢をポケットにしまいながら答える。
あまりにも、ひょうひょうとした彼女の態度に、戸惑ってしまいそうだ。
「何で、持ってるのに、今まで使わなかったの?」
「この銃は貴重なですよ! ほら、見て下さい。『ミネベアッポイP9』なんです。この銃は一丁しかないんです! だから、ここぞという時にしか使わないんです!」
今、ここぞというタイミングではなかったと思うんだけど……。
「フーカ様、この銃は、カザネ様が愛用していたとっておきなんです! カザネ様が日本に戻る時に、私へ託してくれた大切な銃なんです!」
彼女は、『ミネベアッポイP9』を自慢げに語りながら見せつけてくるが、姉ちゃんへの心酔だけが良く分かった気がする。
それにしても、その銃って、自衛隊が使っている『9ミリ拳銃』のことだよね。
僕もこっちに来る少し前に、テレビで初めて知った銃だ。
それを、姉ちゃんが愛用していたとは、マニアックすぎて、さすがミリオタと感心してしまう。
オルガさんから自慢話を聞かされている間に、扉の前の戦闘は、味方の兵士たちによって、終息していった。
部屋の中で戦っているであろうシリウスたちに早く合流するためにも、扉の付近まで近付くと、室内を覗き込んで、様子を確かめる。
その部屋は、キラキラとしていて、豪華で大きな広間だった。
「なんか、贅沢な部屋だな」
「この広間は、各国の要人の方々が訪れた際に、宴を開いておもてなしをするために使われている部屋です」
シャルが教えてくれた。
そんな部屋もあったんだ。
でも、今は戦闘が行われ、血まみれで死体だらけになってしまっている。
あとで、この部屋を掃除するのは、大変そうだなと率直な感想が浮かんでくる。
とにかく、中へ入ろう。
たぶん、端っこのほうにいれば大丈夫だろう。
僕たちは、部屋の隅に移動し、そこから戦闘を見守る。
すると、積み重なった死体の隙間から、何かがヌーっと黒い影が立ち上がり、自軍の兵士と戦っている敵兵の背後に忍び寄り、その首を掻き切った。
「「「「「!!!」」」」」
そして、その影は、再び積み重なった死体の隙間へ静かに気配を消して戻っていく。
僕たちはギョッとし、あまりにも驚愕な光景に悲鳴すら出ない。
当然、僕とケイトは抱き合って、ガクガクブルブルと震えていた。
周囲を見渡すと、そんな光景が各所で見られる。
こ、怖い、怖すぎる!
ルビーさんとネーヴェさんが両手を握りしめ合いながら、青ざめた顔で恐怖している姿も目に入る。
もしやと思い、振り返ると、オルガさん以外は、青ざめた顔で恐怖していた。
それも、護衛の兵士とメイド部隊の皆さんもだった。
「さすが、特戦群と特殊部隊は、エリートだけあって見事ですね!」
オルガさんは、満足そうに頷いた。
「オルガさん! あれ、怖すぎるよ!」
「フーカ様? 気配を消して静かに殺す。これって、フーカ様の世界の戦い方ですよ」
「た、確かに……」
彼らを称賛するオルガさんに、やりすぎではと思い反論したのだが、事実を突き返されて、何も言えなくなってしまった。
そして、この場に、エルさんたちがいなかくて良かったと思ってしまう。
もし、あの光景を見たら、今頃、どやされていたことだろう。
とにかく、今はシリウスたちを探そう。
戦っている人たちを見渡し、彼らを探すのだが、なかなか見つからない。
「フーカ様、シリウスたちなら、あそこにいます」
アンさんが指差す方向を見ると、彼らは、一番奥で護られている宰相バルト・フォン・ボイテルロックとハウゼリア新教司教カス・オウル・ゼンデン、そして、彼らに与している帝国貴族たちに向かっていた。
シリウスたちが宰相たちを広間の角へと追い込むと、彼らの前にハウゼリア聖騎士たちが立ち塞がる。
僕たちも加勢に行きたいが、彼らと僕たちの間では、戦闘が行われていて、たどり着けない。
シリウスたちの姿が見えているのに、近付けないのが歯がゆい。
何かいい手段はないだろうか?
そう思っていると、アスールさんが視界に入った。
こういうことに彼女を使いたくはないが、致し方ない。
「アスール先生! シリウスたちのところに行きたいんで、ここら辺の敵を蹴散らして下さい!」
「お? おう! 分かった! ブレスを吐けばいいんだな!」
「ちがーう!」
「ん? 違うのか?」
彼女は首を傾げる。
なんで、蹴散らすイコール、ブレスなんだ……。
「そうじゃなくて、普通に蹴散らしていただけるとありがたいんですけど」
「そ、そうなのか。つまらん」
そんなにブレスが吐きたいの……。
彼女は、戦闘の中をひるむことなく歩いて行き、目の前に現れた敵を拳や蹴りで吹き飛ばしていく。
そして、シリウスたちへの最短距離を開いてくれた。
「あっ! す、すまん……。ごめんなさい」
彼女は、勢い余って味方も吹き飛ばしてしまった。
吹き飛ばした味方の兵士に頭を下げて謝ると、目に涙をため、焦った表情でこちらを振り返る。
僕は、その表情にいてもたってもいられずに、彼女へ駆け寄り、ギュッと抱きついた。
「ご、ごめん。わしは味方を手にかける気はなかったのだ! 本当だぞ!」
「うん、分かってるよ。それと、吹き飛んで、気を失ってるだけみたいだから、手にかけてないよ。大丈夫だよ」
彼女の頭を優しくなでてあげると、彼女は僕にしがみつき、甘えてくるのだった。
ふと、背中に突き刺さるような視線を感じ、振り返ると、奥さんたちが冷たい目で僕を見つめていた。
僕が愛想笑いを浮かべると、彼女たちはムッとした表情で、僕とアスールさんの横を無視するように通り過ぎて行く。
「さっさと行きますよ」
「は、はい……」
シャルからすれ違いざまに言われ、僕は申し訳なさそうに返事をすると、その後をついて行く。
シリウスたちに合流すると、目前にいるハウゼリア聖騎士たちを、ルビーさんとネーヴェさんが睨みつける。
二人からはゾクッとするような殺気が出ていることが、僕にも分かった。
宰相たちは、僕たちがこの場に現れた事に気付くと睨んでくる。
そして、隣にいる司祭と何やら話し、頷き合っていた。
ヘルゲさんはそれを無視して、降伏勧告をするが、彼らは、あざけるように笑いだす。
何か企みがあるのだろうか?
「「「「「我らが神のために! 邪教は掃討すべし!!!」」」」」
ハウゼリア聖騎士団が胸の前に剣を掲げ、叫び出した。
うっ、ちょっとカッコいいと思ったしまった自分が恥ずかしい。
そして、彼らはこちらに剣先を向けると、向かってきた。
シリウス、ヘルゲさん、アルバン、カイを中心に、ハウゼリア聖騎士団との戦闘が目の前で始まる。
「貴様らは我が聖騎士団に手を上げた。これは邪教徒の証! 亜人と与するお前たちを、ハウゼリア新教司祭である私が神を脅かす敵であると確証した! 神への慈悲を求めるなら、素直にその首を差し出すがよい!」
司祭は吠え出すが、こいつは何を言っているのだろう? バカなのだろうか?
そんな一方的な言葉を聞くバカはいない。
「「「「「我らが神の敵を掃討すべし!!!」」」」」
ハウゼリア聖騎士団が叫びながら、シリウスたちへの攻撃を強める。
騎士団の全身がほんのり光っている気がする。
そして、少しずつ、シリウスたちが押され始める。
「マズいですね。強化魔法が掛けられてます」
ケイトが僕のそばでつぶやく。
「ケイトは、シリウスたちに掛けてあげられないの?」
「さすがに、この手の魔法は私には無理です。ミリヤ様ならできるんですけど、今、いないですからね」
僕とケイトが悩んでいると、アンさんとレイリアが加勢に向かう。
「ここでなら使えますね」
アンさんはそう言うと、デスサイズを組みあげて振り回し出す。
そして、敵に向かって襲い掛かる。
だが、強化魔法のせいか、敵の防御力に苦戦を強いられていた。
ハウゼリア聖騎士団との戦いは均衡、若干こちらが押され気味といった状況だ。
そんな中、僕に向かって襲いかかてくる聖騎士が現れる。
彼の目はいってしまっていた。
「「ぎゃぁぁー!」」
僕とケイトは悲鳴を上げた。
そして、あろうことか、ケイトは僕の背に隠れると、僕の背中を押してくる。
「ケイト! 何、押してんの!? バカでしょ!」
「フーカ様なら、加護があるから大丈夫です! 私たちの盾になって下さい!」
「盾って……。私たち?」
首をめいいっぱい横に向けて振り向くと、彼女の後ろには、シャルたちも隠れていた。
ん? ちょっと待て、なんで、オルガさん、イーリスさん、ヒーちゃん、アスールさんも隠れているんだ!?
こんな時に、乙女にならないで欲しい……。
「フーカ殿たちは、何を遊んでるのだ!」
「そうです。油断していると、本当にやられますよ」
ルビーさんとネーヴェさんは、僕たちを呆れるように見つめる。
別に、遊んでも油断してもいないんだけど……。
そして、二人が僕の前に出ると、聖騎士は躊躇した。
躊躇する彼に、他の聖騎士たちが加勢に入る。
そして、彼らはルビーさんたちとの間合いを少しずつ詰めていく。
ある程度の距離を詰めると、彼らは二人に向かって、一斉に襲い掛かった。
ルビーさんは、一番近くにいた聖騎士の振り下ろす剣をかいくぐり、彼の頭を殴りつけると、頭が木っ端みじんになって吹き飛び、頭をなくした胴体が倒れる。
「「「「「ぎゃぁぁー!!!」」」」」
スプラッターな光景を目の当たりにした僕たちは、近くにいる者と抱き合い、悲鳴を上げた。
僕たちの心労なぞ気にせずに、ルビーさんとネーヴェさんは、スプラッターな光景を大量生産していく。
そして、二人は宰相たちに向かって歩を進める。
宰相たちを護ろうと間に入った者たちは、血しぶきが上げて倒れていった。
二人は、いまだにピュッ、ピュッと血を吹いている亡骸が転がる中を悠々と歩き、僕たちは身を寄せ合い、首や上半身のない死体の転がる中を恐る恐るついて行く。
怖い、気持ち悪い、勘弁して欲しい……。
宰相たちが逃げ回るからこんな目にあうんだ。
一ヶ所で縮み上がっていればいいのに。
二人の後ろをついて行くのは、衝撃が強すぎて、何度も立ち眩みを起こしそうになる。
それはシャルたちも一緒で、身体をフラフラさせていた。
平然としているのは、オルガさんとアスールさんだけだ。
ただ、オルガさんとアスールさんは、「きゃぁー。こわーい」と言ってぶりっ子をしては僕をチラ見する。
なんで、乙女を演じようとしているのかは分からないが、わざとらしすぎて、逆にイラっとしてくる。
しばらくすると、ルビーさんとネーヴェさんのおかげで、ほとんどのハウゼリア聖騎士と護衛の兵士たちは、肉の塊へと変わっていた。
その光景には、宰相たちも、かなりの精神的ダメージを受け、顔を蒼白にするしかなかった。
しかし、僕たちも恐怖と気持ち悪さでヘロヘロになっていた。
味方にも精神的ダメージを与えてどうするんだよ! と叫びたくても、口を開くと吐きそうなので、心の中で叫ぶしかなかった。
とうとう、宰相たちを追い詰めた。
残っているのは、宰相と司祭、そして、数人の貴族たちだけだ。
シャルは、彼らに向けて投降するように呼び掛ける。
だが、彼らは敵意をむき出しにする。
「ふざけるな! どこの馬の骨とも知らぬ者に股を開き、カーディア帝国を滅ぼそうとする売女めが!」
宰相のこの言葉に、皆がキレた。
背筋が凍るほどの殺気が周りから溢れ出す。
冷静なのは僕くらいだ。
捕捉するが、僕だってイラついてはいる。
でも、悪党の捨て台詞の定番はこんなものだろうと、予測がついていたから冷静なのだ。
ここは、皆に冷静さを取り戻してもらうために反論しないと。
「宰相! あなたは間違っている! シャルは……まだ、股を開いてくれない! あ、あれ? なんか違う」
ゴツン。
脳天に衝撃が走り、目がチカチカする。
僕はその痛みでしゃがみ込むと、目の前に立つ者がいた。
顔を上げると、シャルだった。
彼女は耳まで真っ赤にして、身体をフルフルと震わせている。
「何を言い出しているんですか!? フーカさんはバカなんですか? 何でこんな場で、そんなことを言い出せるんですか!」
「ご、ご、ご、ごめんなさい! シャルは売女じゃないって言いたかったんだけど、言い間違えました。本当にごめんなさい!」
恥ずかしさから目に涙を溜める彼女に、イーリスさんが寄り添う。
そして、皆から蔑むような視線が送られてくる。
視線が突き刺さって、痛い……。
「どこまでもふざけおって! こんな奴らに屈服なぞできるか!」
宰相が剣を抜くと、貴族たちも剣を抜き、司祭はブツブツと何かをつぶやきだす。
そして、貴族たちが斬りかかってくると、シリウスたちによって、簡単に返り討ちにされる。
もう、残っているのは、宰相と司祭だけだ。
カーディア帝国の裏側、闇の部分を吐かせるためにも、この二人は生かしておきたい。
それは、ヘルゲさんも同じ思いだったようで、彼は再び、投降を勧める。
しかし、宰相は悪そうな笑みを浮かべると、そばに近付いたヘルゲさんに斬りかかった。
同時に、司祭が僕へ向けてて火魔法を放つ。
ヘルゲさんは、僕に向けて放たれた火球を防ぐべく、宰相を真っ二つに切り裂き、こちらを見る。
こちらに放たれた火球は、誰にも止められない。
僕がそう思った時、ケイトが僕を抱き寄せ、手を前にかざして光り輝く魔法陣を、空中に出現させた。
そして、その魔法陣の前に、ヒーちゃんが飛び出す。
「「「「「!!!」」」」」
僕たちは彼女の行動に仰天する。
何故? 前に出るの……。
ヒーちゃんからスーっと静かな呼吸音が聞こえると、目前に迫った火球に向かって、彼女は凄い速さで刀を抜いた。
すると、火球は真っ二つに斬られ、僕たちを避けるように背後の壁で音を立てて燃え上る。
「うそー! 何で、魔法を斬れるんですか!? これじゃあ、魔導士や魔術師の立場がなくなるじゃないですか! ヒサメ様は、何をしてくれちゃってるんですか!」
ケイトは尋常とは思えないほどの勢いで、ヒーちゃんに食って掛かる。
「えっ? えーと、ごめんなさい。もう、しません」
ヒーちゃんは、ケイトに謝っているが、何も悪いことしてないよね。
むしろ、助けられたと思うんだけど……。
それに、ヒーちゃんも、簡単に「もう、しません」とか言わないで欲しい。
また、同じ目に遭った時は、してもらわないと困る……。
僕はケイトをなだめ、ヒーちゃんにお礼を言って、「次もお願い」と念を押しておく。
ケイトが動揺するだけあって、そのあまりにも非常識な光景を見た司祭も、混乱と恐怖で目を見開いたまま、放心していた。
ケイトは彼の様子を見て、ウンウンと満足そうに頷き、共感している。
敵に共感してどうすんの……。
僕は、彼女を呆れるように見つめた。
ヒーちゃんの魔法斬りを目の当たりにして、僕たちの緊張の糸は切れた。
「なあ、ヒサメ。もしかしてブレスも斬れるのか?」
アスールさんが、とんでもないことを言い出した。
「試したことがないので分かりません。それに、火球も何となく斬れそうと思ったから斬っただけです。ブレスはたぶん無理だと思います」
「斬れそうと思って、本当に斬らないで……クスン」
ヒーちゃんの言葉に、ケイトは四つん這いになって打ちひしがれ、アスールさんは残念そうな表情を浮かべる。
そんな事をしている間に、司祭が奥の壁にある隠し通路を開いて、この場から逃げ出そうとしていた。
しかし、ハウゼリアに私怨を強く抱いているルビーさんとネーヴェさんが、それを見逃すことはなかった。
彼は、ルビーさんに頭を掴まれ、捕らえられた。
「亜人であるドラゴンごときが、その汚らわしい手で私に触れるな! 放せ! 汚れがうつる!」
彼の言葉に、皆がムッとする。
そして、彼はシャルを見つめるとニヤケ出す。
「皇女殿下、いいことを教えてやろう。お前の母親はいい女だったぞ!」
「「「「「なっ!」」」」」
意味深な彼の言葉に、シャルだけでなく皆が驚き、困惑する。
「あの女は騙されているとも知らずに、先々代の皇帝、お前の父親の病を治すためにと我々のみそぎを受けたのだ。ハウゼリアの秘薬を使って、身体と精神が壊れるまで楽しませてもらったぞ! まあ、こちらも宰相に与していた貴族たちと共に、毎晩、明け方まで数人がかりで喜ばしてやったのだから、持ちつ持たれつだがな。クッハッハッハッハ!」
「「「「「ゲスが!!!」」」」」
皆が彼に殺意を抱く。
僕とヒーちゃん、ケイトがシャルに抱き着いたり手を握って、彼女の心を支えようとする。
アスールさんまでもが彼女の頭を優しくなでてあげている。
パン、パン、パン、パン。
連続して四発の発砲音が広間に響く。
激怒したオルガさんが、司祭の四肢を撃ったのだ。
彼はルビーさんに頭を掴まれたまま、苦痛に呻き、手足をブランとさせている。
オルガさんは、そんな彼にゆっくりと近付いていき、冷たく寒気すら感じる微笑みを浮かべる。
「ハウゼリアは百年前、魔皇帝様の逆鱗に触れ、滅びかけたというのに学習しませんね。彼、フーカ様は、その魔皇帝様の実弟にあらせられる。そのお方に、ハウゼリアは喧嘩を売ったのだ。いや、お前が彼を怒らせたのだ。お前の浅はかさによって、ハウゼリアは滅びるのだ。あの世で、後から来る教徒たちに詫びるのだな」
彼女はそう言い放つと、僕たちのもとへ戻ってくる。
彼は真っ青な顔でこちらを見つめ、後悔なのか、唇が振るえだしていた。
ルビーさんは、怒りを押さえ、ずっと、シャルを見つめている。
目に涙を溜めたまま、グッと堪えているシャルは、彼女に向かって頷く。
グシャッ。
ルビーさんによって、司祭の頭は握りつぶされた。
そして、彼の胴体だけがその場に転がる。
僕とケイトは、再びスプラッターな光景を凝視してしまい、雰囲気的に悲鳴を上げるのをグッと堪え、お互いに涙目で見つめ合うのだった。
僕たちユナハ国は、帝都カーディアを制圧。カーディア帝国との戦いに勝利したのだ。
そして、今日、この時をもって、カーディア帝国は、その歴史に幕を閉じるのであった。
捕捉だが、何故、オルガさんとアスールさんが乙女を演じていたかを尋ねたところ、「きゃぁー、きゃぁー」と怖がっていれば僕と抱き合えると思ってのことだったそうだ。
あまりにもくだらない理由だった……。
お読みいただきありがとうございます。
そして、ブックマークをしていただき、ありがとうございます。
これを励みに頑張れます。
この作品が、面白かった、続きが読みたいと思った方は
下にある☆☆☆☆☆を押して、
評価をしていただけると嬉しいです。
また、ブックマークもいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。




