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うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


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60話 明かされた僕の素性

 今、謁見の間は、とんでもない空気に包まれていた。

 戦闘が始まりそうなピリピリとした空気と、僕のせいでもあるのだが、ポヤポヤとした生温い空気が入り乱れているのだ。

 誰か、何とかしてくれ。


 扉のほうが騒がしい。

 また、誰か来たのか?

 僕の願いが届いたのだろうか。




 ギギー。


 兵士が両扉を開けると、ぞろぞろと見知った人たちが入ってきた。

 エルさんを先頭に、サンナさん、ハンネさんと見たことがあるような気のする男女のエルフ、その後ろには、レオさんとカーヤさんが続いて入って来る。

 先頭の人物を見て、僕の願いはついえた。

 それどころか、おおごとになりそう……。


 「フーカくーん、来ちゃった! って、何この雰囲気……。サンナ、ハンネ、帰りましょう!」


 エルさんは、謁見の間に漂う複雑な空気を察して、回れ右をする。


 「アホか! エル、お前が会議中だからよせと言ったのを、無理矢理に入っていったのだろうが」

 

 レオさんは、彼女に呆れた眼差しを向けた。


 「だってー、今にも戦闘が起きそうな雰囲気なのに、なんか、ポヤポヤもしてるし……。絶対、まともな状況じゃないわ!」


 「「戦闘ですか!?」」


 嫌そうな顔をするエルさんに、嬉しそうに返事をする二人のエルフがいた。


 「何で、あなたたちは嬉しそうなのよ」


 「最近、あまり戦っていないし、娘の前で、カッコいい姿を見せたいじゃない!」


 エルさんが困惑するような返事をするエルフの女性。

 その横では、ウンウンと頷くエルフの男性。


 「エイヤ、アノ。いいか、お前たちは何もするな! 話しがややこしくなる」


 レオさんは眉間を押さえる。

 サンナさんとハンネさんは、いつの間にか逃げ出していたエルさんの両腕を掴み、後ろ向きになった彼女を、そのまま引きずり、戻ってきた。




 一行は、エトムントたちを無視して、彼らのど真ん中を引き裂くように、堂々と横切り、僕のそばまで来る。

 そして、ルビーさんたちを見てギョッとした。


 「な、なんで、ルビー女王がいるのよ? それに、青と白までいるじゃない。どうして?」


 エルさんは眉間に皺をよせると、手をあごに当て、首を傾げた。


 「おっ、エルに言い忘れておった。フーカ殿とアスール殿が婚約したのだった。それで女王がいるのだろう」


 レオさんの言葉に、エルさんたちは驚き、僕を一斉に見る。


 「「「「「……」」」」」


 そして、僕の姿を見た彼女たちは言葉を失う。

 エルさんは、こめかみを押さえて考え込んだ。


 「フーカ君。何で、女装してるの?」


 「お仕置き中です」


 「そ、そう……」


 エルさんの質問に僕が答えると、苦笑した。


 「あらっ? アノ、見て見て! ミリヤちゃんもメイド服よ! フーカ君とお揃いにしてるのね!」


 エイヤと呼ばれるエルフの女性は、口元を両手で押さえ、どこか嬉しそうだ。


 「うむうむ。なるほど、仲がいいな! 夫に女装のお仕置きをするなんて、さすがだ!」


 彼女に、アノと呼ばれるエルフの男性は相槌を打つ。


 「違います!」


 そして、ミリヤさんは、恥ずかしそうに否定した。

 二人はミリヤさんの知り合いのようだ。

 それに、二人ともどことなくミリヤさんに似ている。

 ん? エイヤ? アノ? 

 二人の名前に聞き覚えがあるような気がする。

 そうだ! ミリヤさんの両親だ。




 アンさんたちは騒ぎに動じず、いつの間にか、エルさんたちの席をルビーさんたちの脇に用意していた。

 マイさんは、素知らぬ顔でエルさんの隣に椅子を置き、そこに座る。

 凄く嫌な予感のするツーショットが出来ていた。

 火事に油を掛けている面持ちで二人を見る。

 僕と目の合った二人は、両手で顔を押さえ、恥ずかしそうに(しな)を作った。

 似たようなのが二人もいる。最悪だ。


 「フーカ君、ちょっといいかしら」


 エルさんは、手をクイクイと曲げながら、僕を呼んだ。

 彼女のそばへ行くと、二人のエルフを指差した。


 「もう、気付いていると思うけど、二人を紹介するわね。ミリヤちゃんの両親よ」


 「エイヤです。娘がお世話になっています。そして、これからもよろしくお願いします」


 「アノです。話しは聞いております。父親としては少し複雑な思いもありますが、娘を幸せにしてやって下さい」


 二人は、僕に向かって頭を下げた。

 エイヤさんは、ミリヤさんにそっくりで、アノさんは、エルフとしてはがっちりとした体型をしていた。

 そして、エルフだからなのか、二人とも美形だった。


 「フーカ・モリです。よろしくお願いします。そして、婚約の事をご報告できず、申し訳ありません」


 僕も、二人に頭を下げた。

 二人は手を振って、僕の謝罪を断ると、「事情は聞いているので気にしなくていい」と、優しい声を掛けてくれる。

 感じの良い人たちで良かったと、僕は内心ホッとしていた。


 「うん。挨拶は済んだわね。それで、フーカ君、少し合わないうちに凄いことになってるわね。私は、フーカ君が竜族と婚約したなんて知らなかったんだけど、どういこと?」


 エルさんは、少し膨れているようにも見えた。


 「えっ? 何でエルさんに報せるの?」


 「「ブフォッ」」


 ルビーさんとネーヴェさんは吹き出すと、顔を背け、身体を震わせた。


 「なっ! 何かしでかす時は呼んでくれる約束でしょ!」


 「そんな約束をした覚えはありません。それに、僕だって、(たくら)んでやっているわけじゃないんだから、前もって報せられるわけがないじゃないですか!」


 エルさんはムスッとするが、サンナさんとハンネさんは、ウンウンと頷いてくれた。


 すると、マイさんが何かを思い出したようにポンと手を叩き、ヒーちゃんを呼んだ。

 彼女はルビーさん、ネーヴェさん、サンナさん、エイヤさん、アノさんに、ヒーちゃんを紹介すると、彼女たちの表情が強張っていく。

 ヒーちゃんは、彼女たちに頭を下げて、挨拶をした。

 彼女たちは、さらに顔を強張らせる。

 

 その様子を、マイさんは、面白がって見ている。

 そして、その横では、エルさんも彼女と同様に悪そうな笑みを浮かべて見ていた。 

 マイさんは、ヒーちゃんの素性を知って、緊張するルビーさんたちを見たかっただけだな。

 それにしても、この二人は……。




 「いい加減にしろ! さっきから何なんだ! 亜人ばかりがぞろぞろと、ここは人間の国だ! 伝統ある貴族会議に亜人ばかり集めて、殿下は何をお考えか!」


 チャドが苛立ちを抑えられずに怒鳴った。

 ルビーさんたち、亜人と呼ばれた人たちは、険しい表情でチャドを睨むと、彼はエトムントの後ろに隠れてしまう。

 隠れるくらいなら、そんな暴言を吐かなければいいのに……。


 「この貴族会議は異例すぎる。それに、そこの使用人は何者だ! いつも我らの邪魔ばかりしおって!」


 今度は、マシューが僕に向かって怒鳴った。

 ヘルゲさんが僕を庇うように前に出ると、彼もエトムントの後ろに隠れてしまう。 

 どうしようもない奴らだ……。

 そんな奴らをそばに置いているエトムントの気が知れない。


 エトムントたちは、雰囲気が良くなると、台無しにしてくれる。

 見ているだけでイライラする。

 自分たちが、この場で一番の邪魔者だということに、周りの空気を察して、気付けないのだろうか? 

 それは、愚問だった。

 それが分かる人格ならすでに退散、いや、こんな貴族主義派閥なんかは結成されていないだろう。


 シャルたちは、失礼なエトムントたちに代わって、ルビーさんたちに謝った。

 マイさんですら、エルさんの手を取り、頭を下げている。

 自分たちの君主に、頭を下げさせている時点で臣下失格だ。


 「エトムント! 貴様たちはいったい何なのだ! 他国の王族を亜人と蔑み、自分たちの主張はハッキリとせん。子供の口喧嘩を貴族総会に持ち込むな! そして、賓客(ひんきゃく)方々(かたがた)に謝り、さっさと立ち去れ!」


 ダーフィットさんの堪忍袋の緒が切れた。


 「父上は黙っていて下さい。殿下が何と言おうと、シュナ家の当主は私です」


 エトムントは、父親であるダーフィットさんを睨みつける。


 「兄上、いい加減にして下さい」


 「黙れ! (めかけ)の子に兄と呼ばれる筋合いはない!」


 彼は、アレックスさんの忠言を拒む。


 「やはり、妾の子をそばに置く父上に、当主は無理です。それに、その身体を酷使されていては、先が見えています」


 彼のその言葉に、ダーフィットさんは頭を抱えてうずくまり、怒りからだろうか身体を震わせていた。

 貴族主義派閥を統率し、帝国貴族のクレーメンス・フォン・シュミットと関係を持っているエトムント自身が元凶だからこそ、領主の候補から外されているのだ。

 それを、彼は何を勘違いしたのか、父親の様子を見て、勝ち誇るように毅然としていた。


 「父上、無理をするものではありません。その病を患っている以上、当主に復帰すれば、身体がもちませんぞ」


 僕には、エトムントが病の正体を知っているようにも聞こえた。


 「ダーフィットさんの病気の原因が、何だか知ってるの?」


 思わず尋ねてしまうと、彼、いや、彼らは僕を睨みつける。


 「さっきから、貴様は何なのだ! 殿下の従者と思って見逃しているというのに、頭に乗るな!」


 今までの会話や流れから、僕がどういった存在か察することが出来ると思うんだけど、やっぱりバカなのか?

 ここにいる貴族たちは、うすうすと感づいているみたいなんだけど……。


 僕はシャルを見る。

 彼女は僕と目を合わせると、悩みだした。

 まだ、僕のことを発表したくないようだ。

 ここは気を利かせよう。


 「僕は、マイさんの親戚だ!」


 僕はドヤ顔で言ったのだが、マイさんとエルさんは笑いだすし、シャルたちは天を仰ぐ。

 そして、貴族たちは苦笑した。

 このパターンは、やらかしたんだな……。

 こういう時の助っ人は彼女しかいない。

 僕は「助けて」との思い込めて、ケイトを見つめた。

 彼女は、もの凄く嫌そうな顔をして、そばに来る。


 「はいはい、分かってます。そんな捨てられた子犬のような目で見つめないで下さい」

 

 彼女は面倒くさそうな表情を見せると、溜息を吐いた。


 「フーカ様、いいですか。マイ様の実家はリンスバック家なんです。そして、リンスバック家は王家です。その親戚って言ったら、どういうことか言わなくても分かりますよね」

 

 「そうでした……。本家である僕の家は平民、ムゴッ……」


 ケイトが僕の口に手を突っ込んでくる。

 口を押えてよ。なんで、手を突っ込んでくるかな……。


 「フーカ様はバカですか! 何で、そんな余計なことを言おうとするんですか! ややこしくなるじゃないですか!」


 彼女は、焦った表情で僕の顔を覗き込む。


 「もう、この件のことは話さないで下さい。いいですね」


 「むむ、ままっら」


 僕が言葉にならない返事で頷くと、彼女は、僕の口から手を抜いてくれる。


 「あー。ばっちいです」


 「それは、口を(ふさ)げばいいのに、手を突っ込んでくるからでしょ」


 自分の手を見て嫌そうな顔をする彼女に、僕は言い返した。

 彼女はブツブツと愚痴を言いながら、僕の言葉には耳を傾けず、ハンカチで手を拭く。

 僕が悪いみたいな雰囲気を、(かも)し出さないでくれ。




 一方で、エトムントたちは、目を丸くして呆けていた。

 怖気づいたのか? それとも理解できないのだろうか?


 「マイ様の親戚だから何だと言うんだ! そんなことはどうでもいい!」


 チャドが苛立ちを見せながら叫ぶ。

 後者だったらしい……。


 「殿下、その者は危険です。殿下を騙していると思われます。私にきた調査結果の素性と違います」


 エトムントは僕を指差す。


 「えっ、フーカ君は、正真正銘、私の親戚よ! どんな調査結果を受けたか知らないけど、その人物に騙されたのよ」


 マイさんは僕に抱き着き、彼女には怪しい笑みが浮かべた。


 「そんなはずはありません。クレーメンスが、私に虚偽の報告をするわけがない」


 彼は顔を赤くして反論する。


 「クレーメンスって、クレーメンス・フォン・シュミットよね。帝国貴族にフーカ君の本当の素性を教えるわけないじゃない。それよりも、友人とはいえ、帝国第二騎士団団長とやり取りをしていることは見過ごせないわ! あなたたちは知らないと思うけど、シャルちゃん、ミリヤちゃん、フーカ君は、帝国貴族……帝国宰相の派閥が雇った闇ギルドから、命を狙われたことがあるのよ」


 マイさんは、シャルたちが伏せていた闇ギルドに襲われた件を、ぶっちゃけてしまった。

 エトムントたちは驚きを隠せずにいる。

 そして、貴族たちも驚き、どよめいていた。


 「そ、そんなバカな……。あり得ません。何かの間違いです!」


 エトムントは認めようとしない。


 「事実です。私が刺客でしたから。私は、ミリヤ様とフーカ様の暗殺を闇ギルドから命令されました。シャル様を襲ったのは、別の部隊でしたけど」


 オルガさんは僕のそばに来て、得意げな顔で暴露する。

 何故、得意げなんだ……。

 さっきまでどよめいていた謁見の間は、静かになる。

 そして、その衝撃に、真実を知らされていない者たちは固まってしまう。

 口をパクパクさせて、動揺する貴族たちの姿も見られる。




 すると、シャルとイーリスさんは、エンシオさんとクリフさんのもとに行き、相談を始めていた。

 少し時間を費やしてから、シャルだけが上段の中央に立つ。

 そして、彼女は踏ん切りはつかぬが、致し方ないという表情で、重たそうな口を開く。


 「皆さん、聞いて下さい。訳あって、今まで隠し通してきましたが、新王を紹介させていただきます」


 彼女は僕を見て、来るように合図をする。

 僕は、彼女の横に立つ。


 「彼が……」


 彼女は僕を見て、言葉をとめる。


 「コホン。今は、ちょっと、おかしな姿をしていますが、彼が、ユナハ国の王となるフーカ・モリ、改め、フーカ・モリ・ユナハです」


 「おかしな姿をさせたのは、シャルでしょ!」


 「話しが進まなくくなるから、黙って」


 「うぐっ……」


 彼女に睨まれる。

 理不尽だ。

 会場の人たちを見ると、動揺を見せず、僕に優しい顔を向けてくれる人が多かった。


 「フーカ陛下は、聖王であり、御使い様でもあります。ヒサメ様、こちらへ」


 シャルに呼ばれて、ヒーちゃんが僕の横に立つ。


 「彼女は、ウルシュナ様とルース様の神使であり、フーカ陛下の身を護る守り刀です。ヒサメ様、証拠をお見せ下さい」


 彼女に言われて、ヒーちゃんは頷く。

 ヒーちゃんの身体が眩く光り、銀色の獣耳と二本の尾が生える。


 「「「「「おおー!!!」」」」」


 貴族たちから声が漏れ、僕も一緒になって声をあげる。


 「フーカ陛下……。一緒になって驚いていないで、王印をお見せ下さい」


 「う、うん」


 「んべー」


 皆に見えるように、めいいっぱい舌を出す。


 「「「「「おおー、これは!」」」」」


 前列の見えやすい位置にいた貴族たちから驚嘆の声があがる。


 「今まで隠していたことはお詫びします。ですが、彼の存在を多くに知らせるわけにはいかなかったことをご了承ください」


 シャルは頭を下げる。


 「フーカ陛下は、聖王であり、御使い様であることをひけらかすのを嫌っています。このことは無暗に口外せず、ただの新王として、彼に仕えていただきたい。よろしくお願いします。」


 彼女は再び頭を下げた。


 パチパチパチパチ――。


 貴族たちから拍手が贈られた。

 そして、一部からは「新王、万歳!」「フーカ陛下、万歳!」といった声があがる。

 は、恥ずかしい……。




 シャルは僕に目配せをし、中央の場所を空ける。

 何を言いたいかは分かるが、いち高校生に、この場でアドリブの演説をさせるのは無理があると思う。

 僕は渋々と中央に立つと、ざわついていた貴族たちが静かになった。

 き、緊張する。


 「こんな姿でごめんなさい。えーと、ただいま、ご紹介に預かりました、フーカ・モリ・ユナハです。正直、聖王だの御使いだのといったことはどうでもいいです。王になってしまったからには、この国を良くしていきたいと思っています。また、近隣諸国との関係を大切にし、困っている国には手を差し伸べられる。そんな国にしたいと思います。そして、貴族や士族、権力を持つ人たちへのお願いがあります。この国の国民だけでなく他の民も含め、弱い人たち優しい人であって下さい。僕は、貴族たちや王族といった地位が偉いとは思いません。民に手を差し伸べ、彼らに信頼されるようにと励んできた貴族たちが偉いのだと思っています。爵位に関係なく、そういった貴族たちが認められる国にするために僕も頑張りたいと思います」


 僕は緊張から、やや早口で、一気に話し続けたが、息苦しくなったため、話しを止めて深く呼吸をした。


 「最後に、民がいるからこそ国が成り立つのです。僕たち権力を持つ者は、民の財産と生活を守り、より良くしていくのが義務です。そのための地位と権力です。どうか、そのことを忘れないで下さい。長くなりましたが、ご清聴ありがとうございました」


 僕は深く頭を下げた。


 パチパチパチパチ――。


 貴族たちが総立ちし、謁見の間に、拍手喝采と歓声が巻き起こった。

 涙をハンカチで拭っている貴族もいる。

 僕の声が皆に届いたのだと思うと、恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。


 少しの間を置いて、イーリスさんが僕のそばに来て、貴族たちを手で制すと、彼らは静かになり、着席した。


 「フーカ様が、新王に就くことへ異論のある方はいますか?」


 イーリスさんは、謁見の間を見渡す。

 エトムントたちが手を挙げていた。


 「総意とみなし、フーカ様には、ユナハ国の新王となっていただきます!」


 彼女は、あからさまに彼らを無視した。


 パチパチパチパチ――。


 再び、貴族たちは総立ちすると、謁見の間に、拍手喝采と歓声が巻き起こる。

 ルビーさん、エルさん、レオさん、王位を持つ者が僕のそばに来ると、握手をしてから新王就任の祝辞を述べていった。


 「待て! この騒ぎをやめろ! 私たちは認めていない! 無視をするな!」


 エトムントが怒鳴る。


 「そんなふざけた姿を恥ずかしげもなくする奴が王だと。ふざけるな!」


 彼は顔を真っ赤にし、かなりご立腹のようだ。

 だけど、反論させてもらうなら、僕だってこの姿は恥ずかしい。


 「ま、まさか……。き、貴様がレイリアを私から奪ったヤツか!?」


 彼は顔だけでなく、目まで充血させて赤くなっていた。


 「何が奪っただ! レイリアは誰にも渡さん!」


 レイリアのお父さんが立ち上がり、怒鳴った。


 ゴツン。


 彼の頭を奥さんが鞘で叩く。

 い、痛そう……。


 「違った。レイリアはフーカ陛下のもとへ嫁ぐと決まっているのだ! 他人が横槍を入れるな!」


 彼は頭をさすりながら、再び怒鳴るが、先ほどの勢いはなかった。




 レイリアのお父さんが怒鳴っている間に、レイリアのことで我を忘れかけているエトムントを、チャドとマシューがなだめて、冷静にさせていた。

 そして、チャドがエトムントの前に出る。


 「皆さんに、一つ忠告をしておきたい。あの者が王となれば、商業はテネル商会が牛耳る事になりますぞ! 皆さんはそれでもよろしいのか?!」


 チャドは嬉しそうな面持ちで、ケイトの家のことを持ち出した。

 一部の貴族たちはざわつきを見せる。

 ケイトは僕のもとに駆け寄り、しがみついてくると、「自分の役職を解き、宮廷から追い出して下さい」と泣きながら懇願してきた。

 ケイトを手放す気はない。

 一部の貴族たちが気にかけている。

 ここは納得のいく回答を出さなければならない。

 しかし、僕は焦りで、いい打開策が浮かばない。


 「それなら大丈夫です。商業全般をテネル商会が牛耳(ぎゅうじ)ることはありません」


 意外な人物が発言をする。

 それは、ヒーちゃんだった。


 「新しい法律なので、まだ調整中の段階ですが、商法という商売に関る法律を施行する予定です。この法律は、商業ギルドの役割と責任が多く問われるので、彼らと共に精査しています。ですが、施行されるのも時間の問題です。商法が施行されれば、一つの商会が商業を牛耳ることはありません。その代わり、今まで、貴族に取り入って、何かしらを賄賂などで独占していた商会は、商売の方針を変えなければ、つぶれると思います」


 ヒーちゃんは、毅然な態度で、当然と言った表情を浮かべた。


 「馬鹿な、そんな法律を施行したら、貴族が衰退してしまうぞ!」


 チャドの顔が青ざめると、貴族主義派閥の者たちの中には、頭を抱える者も現れだす。




 ケイトに「これで大丈夫だよ」と言っても、彼女は首を横に振り、「私がいれば、また、迷惑がかかります」と、泣きながら先ほどと同じことを懇願してくる。

 ヒーちゃんも、この一件は解決したと思ったのだろうが、彼女に懇願される僕を見て戸惑っていた。

 他に彼女を手放さない方法はないのだろうか?

 僕はシャルたち、皆に視線を向けていくが、誰もいい案が浮かばないのか、曇った表情をしている。


 僕の肩に手を置く人物がいた。

 マイさんだった。彼女は僕の耳元でささやく。

 彼女が教えてくれた方法を使えば、ケイトを手放さなくて済む。済むのだが……。 

 あまりにも反則じみた手段に、僕は苦悩する。

 ケイトを見ると、いつも陽気だった彼女は目をはらし、涙を流したままだった。

 僕は再び周囲を見渡す。

 マイさんはニッコリしているが、他は曇った表情のままだ。


 僕は決断した。

 そして、ケイトの顔を優しく抑え、口付けをする。


 「今、決めた! 僕はケイトを側室に迎える!」


 「「「「「!!!」」」」」


 皆が驚き、ポカーンとする。

 ケイトですらキョトンとして思考を停止させていた。

 マイさんとエルさんだけが、嬉しそうにガッツポーズをとる。

 ケイトを(めと)る提案は二人で考えたものだったのだろう。

 ちょっと、悔しいけど、今回は二人の企てに乗ることにした。


 パチパチパチ。


 マイさんとエルさんが拍手をする。


 パチ、パチ、パチパチパチパチ――。


 徐々に拍手が増え、謁見の間に拍手が響き渡った。


 「私、貴族でも何でもないし、グスッ、実家は商家なんですよ。ウエッ、な、何してるんですか……ズズ。フーカ様は王になったんですよ。ウエッ、絶対、迷惑になりますよ……グスン」


 ケイトは嗚咽(おえつ)を漏らしながら話す。


 「身分とか関係ないし、迷惑ならいつもかけられているから問題ないよ。それに、ケイトがいないのは、なんか嫌だ」


 僕が照れ臭そうに言うと、彼女は笑みを浮かべながら膨れてみせた。

 か、可愛い!


 シャルが安堵した表情で、僕のそばに来る。


 「フーカさん、公共の面前でキスをする必要はあったんですか? ただ、側室に迎えると発言するだけで良かったのでは?」


 「やきもち?」


 「違います!」


 シャルは顔を膨らませて横を向いてしまった。

 貴族たちからは、優しい笑い声が贈られた。


 「何なんだ、お前は! 今は貴族会議の最中だ。時と場所をわきまえろ!」


 マシューが顔を真っ赤にしていた。

 僕は彼を見て、首を傾げる。


 「何だ、その態度は! 亜人を集め、平民を側室に迎えるような王がいてたまるか! こんな王をお前たちは認めるのか!?」


 僕の態度に、マシューがキレてしまった。

 だけど、自分よりも高位の貴族たちをお前たち呼ばわりして、大丈夫なのか?

 それに、ただの苦し紛れのたわごとにしか思えん。

 ん? あれ? 僕の素性もバレたし、もう、こいつらに付き合う筋合いはないのでは?

 僕はニヤッと、悪そうな笑みを浮かべる。


 「あっれー。アイタタタタ。以前、そこの二人に殴る蹴るの暴行を受けたところが痛み出した。あー、アイタタタタ」


 シャルたちは僕の小芝居にギョッとする。

 そして、そばにいるケイトはポカーンとしていた。


 「何を言い出す。バカかお前は! そんなもの、治癒魔法で完治しているはずだ!」


 マシューは僕を鼻で笑う。


 「えー。僕は、いつ売春を斡旋させられるのかと怖れ、部屋に閉じこもり、ケイトだって、お前たちから伽をしろと命じられて、恐怖で僕に治癒魔法をかける余裕がなかったんだよ。酷いなー」


 「ふざけるな! そこの女は部屋に来なかったではないか! おかげで私とチャドは、部屋で一晩待たされたのだ。それに、お前が姿を消したせいで、斡旋した者に、違約金を払うはめになったのだぞ!」


 彼はベラベラとよくしゃべってくれる。

 エトムントは、マシューを睨みつけ、しゃべるなと合図を送った。

 でも、もう、遅い。

 ふと、エルさんとマイさんがワクワクと楽しそうにしている姿が、視線の端に入った。

 そして、その横にいるルビーさんまでもが……。


 僕は、皆の期待に応えるため、標的を変えることにした。


 「そういえば、エロムントは、オルガさんに廊下で全裸になれって命令したんだよね」

 

 オルガさんはウンウンと頷く。


 「エトムントだ! ダークエルフが珍しかったから、ふざけたまでだ」


 彼はムッとした表情を僕に向ける。


 「父親の病気を心配して、帝都の宮廷医師に診せる気遣いを見せつつも、女性には横暴なの?」


 「横暴ではない! ふざけただけだ。それと、父上の病気は関係ないだろう!」


 「宮廷医師にコネがあるなら、オルガさんが逃げなかったら、彼女に変な薬……例えばいやらしい薬。そう、媚薬とかを盛ったかもしれないと思って」


 「そんなこと、するか! それに、宮廷医師はクレーメンスから紹介されただけで、コネはない」


 「本当に? 父親の薬に、コネを使って普通よりもいい薬を混ぜてもらったんじゃないの?」


 「うっ、それは、確かに融通してもらった。先々代と先代皇帝の病状を遅らせた鉱物から採れる薬を混ぜてもらった」


 彼は毒のことは知らないらしいけど、爆弾発言をしてくれた。

 僕は、シャルを振り返る。

 彼女は、もの凄く怖い形相をしていた。

 でも、彼女だけではなかった。

 ダーフィットさんの毒のことを知らされている者は、同じ形相で怒りを抑えている感じだ。




 ダーフィットさんが立ち上がった。

 すると、他にもぞろぞろと立ち上がっていく者たちがいた。


 「フーカ陛下、もう、よろしいです。後は、我々がエトムントたちを処断します」


 彼は、立ち上がった者たちを見つめると、その者たちは黙って深く頷く。

 だが、皆、どこか悲しげだった。


 「エトムント! そして、チャド、マシュー。他の者もよく聞け! お前たちは勘当だ。そして、一族から追放する。今後、家名を名乗ることを禁ずる。各家当主の方々も、それでよろしいですか?」


 立ち上がった者たちは冷めた目で彼らを見つめ、黙って頷いた。


 「もう、お前たちは貴族ではない! とっとと、この場から立ち去れ!」


 彼らの確認をとったダーフィットさんは、強めに言い放った。

 エトムントは顔を青くして、フルフルと身体を震わせる。


 「そ、そんな一方的な馬鹿な話しがあるか!」


 チャドは反論した。


 「バカ者! お前たちは、身分を隠していたとはいえ、陛下に手を上げているのだぞ! 処刑されないだけでもありがたく思え! 分かったのなら、さっさと立ち去れい!」


 小柄だが、がたいのいい男性が怒鳴った。


 「ち、父上……」


 チャドの父親だった。

 彼らは負けを認めたのか、意気消沈して謁見の間を去っていくのだった。




 ダーフィットさんを筆頭に、貴族主義派閥に関わっていた者たちの家の者が、中央に集まり、跪いた。


 「陛下、(ゆる)い処断を告げたこと、お許し下さい」


 ダーフィットさんが頭を下げると、皆も頭を下げた。


 「いや、かまわないよ。逆に処刑を言い渡していたら止めるつもりだったよ。彼らも貴族の肩書を失くしたことで、考え方を改めてくれるといいんだけど……」


 僕は不安要素に気付き、黙ってしまった。


 「そのお優しいお心に感謝いたします。ですが、何か気がかりがおありのご様子、何でしょうか?」


 彼は僕を見つめる。


 「うーん。本当なら、彼らも改心できるかもしれないんだけど、クレーメンスだっけ、彼が黙って見過ごすかなと思って……。思い過ごしならいいんだけど、彼らを使って何かを企むような気がするんだよね」


 「なるほど。それでは私どもで、奴らに監視をつけます。何かあれば、すぐにご報告いたします」


 「ありがとう。お願いします」


 「はっ!」


 僕とダーフィットさんの会話が終わると、皆が席につく。




 僕はアンさんたちの横に並ぶと、イーリスさんが頭を押さえながら、こちらに向かって来る。

 なんか、怖い。


 「フーカ様は、何をシレッとメイドの列に並んでいるんですか!」


 イーリスさんは、僕の耳を摘まむと、引っ張っていく。


 「い、痛い、速い、許して!」


 貴族たちから笑い声が漏れる。

 彼女は玉座の前まで来ると、耳を開放してくれた。

 シャルが玉座の脇に立っているので、僕は反対側に立つ。


 「フーカさんは、バカですか!」


 シャルがうなだれると、再び、貴族たちから笑い声が漏れる。


 「さっさと玉座に座って下さい」


 「えっ? 何で僕が?」


 「あんたが王でしょ! さっさと座れ!」


 「はひ!」


 シャルの言葉が荒々しくなり、僕は急いで玉座に座る。

 謁見の間は、爆笑に包まれ、シャルとイーリスさんは疲れたようにうなだれた。




 「コホン」


 気を取り直したイーリスさんが咳ばらいをすると、謁見の間は静かになった。


 「ここでお伝えしたいことがあります。ダーフィット卿に処方された薬に含まれる鉱物は鉛で、毒物です。この中に宮廷医師から処方された薬を服用している者は、直ちにやめて下さい。そして、その薬を提出して下さい。また、過去に処方された薬を持っているのなら、それも提出して下さい。毒物が混入している可能性があります。よろしくお願いします」


 イーリスさんが頭を下げると、貴族たちはどよめく。

 今では証拠はないが、エトムントが皇帝に処方されれていたと話していた薬が、毒だったのかもしれないのだから当然だ。


 「では、これで貴族総会を閉会いたします。皆様、ご苦労様でした。別室に食事がご用意されていますので、お召し上がり下さい」


 イーリスさんは、貴族総会を締めた。


 貴族たちが謁見の間を後にするのを見送ってから、僕たちも場所を移動をする。


 皆が僕の執務室に集まると、広すぎると思っていた部屋は少し手狭に感じた。

 それにしても、疲れた!

 話し合わなければならないことは、山ほどあるのだが、今は一杯のお茶をゆっくりと味わいたい。

 それは、皆も同じようだった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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