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第6話:北の鉄砲隊

「いいか、今の俺たちの戦力は『個』の武勇に頼りすぎている。だが、乱世の終わりが見えている今、個人の力など、鉄砲の斉射一斉には無力だ」


九戸城下の練兵場。


そこには、俺が選りすぐった五十名の兵が整列していた。


彼らの手には、この時代の主力火器である種子島が握られている。


ただし、俺が用意させたのは、少しだけ工夫を加えたものだ。


「政実様、この『紙筒かみづつ』に火薬を詰めておくやり方は……確かに装填が速いですが、湿気には弱くありませんか?」


実平が、俺の教えた早撃ちの技術を分析しながら呟く。


「そのための『九戸流・防湿パッチ』だ。獣脂を塗った薄い皮で覆えば、多少の雪や雨なら弾く。いいか、戦場で大事なのは命中率よりも『数』だ。敵が一度撃つ間に、こちらは三度撃つ。それができれば、どんな精強な軍勢もこの北の雪原で立ち往生する」


俺は実演してみせた。


あらかじめ計量しておいた火薬を紙筒から流し込み、弾を込めて構える。


火縄を調整し、狙いを定める。


無駄な動きを極限まで削ぎ落とした「型」だ。


狙うのは、百間(約180メートル)先の藁人形。

――ズドン!


轟音と共に、藁人形の胸部が粉砕された。


「おおおお……!」


兵たちがどよめく。


この距離でこれだけ正確に当てられれば、立派な戦力だ。俺は満足げに頷いた。


実は、この練兵場のすぐ近くに、密偵たちが潜んでいることを俺は知っている。


南部家の者か、あるいは豊臣方の間者か。


だからこそ、あえてこうして「近代的な戦術の基礎」を彼らに見せつけているのだ。


「俺たちがただの蛮族ではないと知らしめる。……実平、この訓練の様子を、わざと密偵たちが見える位置で行わせろ」


「わざと、でございますか? 弱みを隠すのではなく、強みを誇示する……」


「そうだ。豊臣という巨大な権力に対し、ただ抵抗するだけではいずれ潰される。だが、我々が『無視できないほどの防壁』であると認識させれば、交渉の余地が生まれる」


俺は空を見上げた。


重い灰色の雲が、雪を運ぼうとしている。


南部信直の元へ、この「九戸の進化」が伝わるはずだ。


俺は戦いたくて戦うわけじゃない。


ただ、俺たち九戸一族が、歴史の彼方に消える運命をねじ伏せたいだけだ。


「政実様、南部領内より急報です!」


練兵の最中、伝令が血相を変えて走り込んできた。


「言え」


「……豊臣秀吉の使者が、南部領へ向かっているとの情報が入りました! その目的は、九戸城の接収と……政実様の『罷免』であるとのことです!」


ついにその時が来たか。


俺は愛刀の柄を握りしめ、冷たく笑った。


「罷免だと? 俺がこの土地に骨を埋めると決めたのに、勝手なことを言ってくれるな」


鉄砲隊の兵たちが、俺の殺気に呼応するように、背筋を伸ばした。


俺たちは、ただの山賊じゃない。


北の鬼と恐れられた、九戸政実の精鋭だ。


「実平、兵糧と弾薬を確保しろ。……ここからが本当の『喧嘩』の始まりだ」



7話へ続く

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