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第16話:太閤の激昂

秀吉さまに尾張弁・名古屋弁でブチギレさせたかっただけです。



京の聚楽第。豪華絢爛な広間に、怒声が響き渡った。


「五千だと? それが、たかが辺境の山賊一味に、泥に沈められて潰走しただと!?」


豊臣秀吉は、机を拳で激しく叩いた。


顔は怒りで朱に染まり、いつも浮かべている愛嬌のある猿面は消え失せ、天下人の苛烈な本性が剥き出しになっていた。


手元には、南部信直から届いた震えるような早馬の報告書。


そこには、九戸政実なる者が操る「氷と火の罠」、そして一斉射撃によって先遣隊が壊滅した顛末が克明に記されていた。


秀吉は報告書を握り潰すと、血走った目で家臣たちを睨みつけ、荒々しい尾張・名古屋弁で怒鳴り散らした。


「やっとれんわ! なんで五千もいて、そんなへたっぴな真似しとるんだて! 泥だらけになって逃げ帰ってきただぁ? おちょくっとるのか!」


秀吉は机を蹴り飛ばし、部屋中をのたうち回るように歩き回る。


「わしが天下を平らげたっちゅうに、この日本で、わしに逆らうようなふざけたやつがおるとはな! なんだて、あの九戸とかいうやつは!『北の鬼』だと? ふざけとるのも大概にせえよ! 鼻からうどんが出るくらい笑えんわ!」


秀吉は呼吸を荒くし、家臣たちを指差して吠えた。


「蒲生氏郷! 浅野長政! お前ら、すぐさま奥州へ行け! 九戸なんちゅう小さな村、地図から消し去ってやれ! その政実っちゅう男、生け捕りにして京へ引きずってこい! その顔の皮を剥いで、天下に逆らうっちゅうことがどういうことか、死ぬより苦しい目にあわせてやるわ! 分かったか!」


「はっ!」


歴戦の猛将たちが、秀吉の鬼気迫る殺気に圧倒され、平伏する。


秀吉はゼェゼェと荒い息を吐きながら、血走った目で北の方角を睨みつけた。


「死なせてたまるか。わしが許すまで、あやつに楽な死なんてあたえん! あの雪山より冷たい地獄を味わわせてやるわ! 覚悟しとけよ、政実……!」


その頃、遠く離れた九戸城では、俺は再び冷たい雪を見つめていた。


秀吉の激昂など知る由もないが、これ以上ないほどの大軍がこちらに向かっていることは肌で感じている。


「来るな……」


実平が戦慄を隠しきれない声で呟く。


南部軍だけではない。真の「天下の軍勢」が、この北の地を滅ぼしに来る。


「ああ、来る。だが、面白い。奴らが怒れば怒るほど、この罠はより美味しくなる」


俺は笑った。もはや引き返す道はない。


歴史という巨大な暴力に対し、俺はただの「鬼」として、最後の一撃を食らわせてやるつもりだ。

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