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第14話:天下の掌(てのひら)

北信愛が置いていった書状は、極めて簡潔で、それゆえに圧倒的な威圧感を放っていた。


――九戸政実、その軍才と知略を天下のために用いる覚悟あらば、直ちに上洛せよ。さもなくば、奥羽の地を灰燼に帰す。


「……随分と大層な脅し文句だな」


俺は書状を蝋燭の火にかざし、燃え尽きるのを眺めた。灰が床に落ちる。


実平が息を呑んでこちらを見ている。


彼には、俺が何をしようとしているのか、その覚悟が伝わっているようだった。


「政実様……まさか、書状を焼かれるとは」


「返事をする必要もないだろう。俺たちが求めているのは『天下の軍師』になることじゃない。この北の地で、自分たちの食い扶持と誇りを守り抜くことだ」


俺は立ち上がり、広間の窓を大きく開け放った。


外では、冷たい夜風が吹き荒れている。


この風こそ、俺たちが手に入れた最大の武器だ。


「実平、兵たちに伝えろ。これより九戸は、豊臣秀吉の軍勢を……この北の冬へと『招待』する」


「……招待、でございますか?」


「そうだ。奴らは京の華やかさや、南方での戦いには慣れているだろうが、マイナス二十度の極寒の中で、飢えと戦いながらの野営など経験したことがないはずだ」


俺は地図の上に指を走らせた。


九戸領の周囲を取り囲む山道、そして数少ない要衝の橋。


それらすべてを、俺たちが支配する「凍れる罠」へと作り替える必要がある。


「北信愛には伝えておけ。『九戸は上洛せぬ。だが、南部家を滅ぼす気もない。ただし、もし我らを討とうと軍勢が国境を越えれば、その軍勢の全滅は保証する』と」


「……宣戦布告以上の、絶縁状になりますな」


「構わん。どうせ、向こうが俺を『反逆者』と決めた時点で、道は一つしかないんだ」


俺は城の奥から、自作の「火薬の配合比率」を記した巻物を取り出した。


史実の政実は、圧倒的な兵力差の前に散った。


だが、俺は違う。


鉄砲の改良、機動力の向上、そして何より、この土地の地理と気候を知り尽くした「地元の利」がある。


もし歴史が俺を消そうとするなら、俺はその歴史を力ずくで書き換えてやる。


「実平、全軍を国境の防衛線へ移動させろ。豊臣の軍勢が到着するまで、あと一ヶ月……いや、二週間もあれば来るだろう。それまでに、この北の地を『天下の墓場』に作り替えるぞ」


俺の言葉に、実平が深く頭を下げる。


その顔には、もう恐怖はない。


あるのは、主君と共に運命を切り拓こうとする、猛者の顔だ。


天下人よ、北へ来い。


お前たちの持てるすべてを、この雪の中に沈めてやる。



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