Χρόνος
ファイル種別:個人記録
本人からの許可:常時公開
SCR:読者、管理者
実験施設で暴走したのが、私の最初の記憶。それ以前の記憶は無く、Project:Phenomenaの概要によるとそれで正常なようだ。
それで、こんなとこ居られるかーってなって、自分の世界を作ったんだっけ。
最初の頃は、ずっと独りだった。宇宙発生前は特に。
特筆すべき内容は無いし、人類誕生まで割愛。
最初から備わっていたのか、何故か世界の何処でも生きていけるような…いや、それにしては過剰な知識が私にはあった。
だからと言って、世の中を不自由無く渡り歩けるわけではない。理由は単純。この醜い耳と尻尾のせいだ。
人間というイキモノは、違いを嫌う。自分達こそが崇高な存在、いつかアレが我々を超える脅威になるのが怖い、そんな理由で人間は違いを排除する。別に悪いとは思わない。合理的判断で、とても良いと、私は思う。
…自分が排除排斥の対象になっていることを除けば。
『去れ!悪魔の子!』『呪いの子め!テメェのせいで息子が!』
「…キッツいなぁ」
息子さんは残念だったとしか言いようが無い。心の中で「御愁傷様」と呟いておく。その哀しみを私にぶつけたくなる気持ちは分かるから、後者は何も気にしない。
だけど、前者はかなりキツい。
「…いっそ、死ねば楽になるのかなあ」
ああ、そうだ。死ぬのなんて何時でもできる。今死んだって別にいいし、そうすれば彼らも気が済むだろう。
…けど…
「…死ぬの、怖いな」
所謂「死にたくないけと生きたくない」。私の現状はまさにソレだった。
生をやめれば苦しまなくて済む。けど生をやめるために死ぬのは苦しくて嫌。
…もう、なにもしたくないな。そう考えた事もある。
まぁ、勿論楽しい事もあった。
だけど、そういうのって長く続かないんだ。私より先に相手が居なくなるから。
そんなある日、外を散歩していたら、気になる気配を感じた。その気配のする建物に潜入すると、自分そっくりな3人の少女が居た。
どうやら私のクローンらしい。とりあえず私の妹って事にして、4人で脱走した。
更に年月が経ち、気になる研究に新人研究員としてこっそり参加した。
…私の一生涯に於ける1番の失敗だと思う。
さて、どのくらい時間が経っただろうか。
少なくとも動いていた記憶はある。ただ生きるために。何もしなくても腹は減るし、生存本能を止めることはできない。
何も考えずに動いていたら、不意にあることを思い出した。
「…3人とも、元気してるかな」
『聞こえてる?今、どこ居る?』
『あ、くろ姉。久し振り。3人とも日本に居るよ』
『…そっか』
『くろ姉はどこ?』
『ギリシャ』
『…なにゆえ?』
『分かんない』
『そっか』
『こっち、来る?くろ姉』
『…行く』
…色々準備しないとな。それと、楽しみなんて感情、久々に感じたな。
ちまちま稼いだ金と偽装パスポートで日本に到着したはいいものの、やはり猫耳と尻尾は隠さないといけない。帽子を深めに被って、尻尾は服の中に隠して…
とりあえず、いい感じの物件を買った。そのまま店にもできるし、奥を改造すれば、やりたかった鍛冶もできるだろう。
「…ん、くろ姉?」
「えっ?…あ、カコ!それにミライも!」
「久し振り、くろ姉!」
「久し振りー!あれ、イマは?」
「あー、不慮の事故で肉体を失ってさ…ボクとミライが融合しないと出てこれないんだよね。一応生きてるよ」
「…その不慮の事故が気になるけど、いいや。仕事は何やってんの?」
「2人で殺し屋」
「そりゃまた物騒な…ちな、家どこ?」
「くろ姉の店の隣」
「マジか…」
…折角だし、自分の武器作るついでに、3人の武器も作ってみるか。
自分の店に客は来るのだろうか、なんて考えながら店の準備をしていると。
「…え?」
店の前で、女の子が寝ていた。まぁ、この話は別の機会にでも…。
営業開始したものの、客はゼロ。分かりきってたことだからいいけど。
改造で完徹したのミスったな…ねむぃ…
…
…すぅ…すぅ…
「お邪魔しまーす…」
「ひゃっ、ひゃい!?」
居眠りしちゃってた〜…!最悪…
「ここ、武器作ってもらえるって本当ですか?」
「あ、えと、はい!」
3人組から、槍とナイフと戦斧のオーダーが入った。
「皆さんは、どんな仕事をされてるんですか?」
「えっと、探索者やってます」
「…ああ、なるほど」
探索者。
数年前から発生した、怪異と呼ばれる生命体を狩る職業。
…実は、ちょっと興味があった。
「…試験だけでも受けてみようかな」
「えっ?何か言いました?」
「いいや、何も言ってませんよ」
今まで、やりたかったことが全然できなかった。
後で後悔しないためにも、やりたいことは全部やる。
「…あ、そうだ」
「あ、はい。何でしょう」
「帽子、落ちてましたよ」
…え?
「可愛い耳が出ちゃってましたよ」
…え??
「はい、どうぞ…って、え!?どうしました!?」
「…ごめん。今までこの耳のせいでキツい目に遭ってたからさ。可愛いなんて言われたことなくて、嬉しくて」
ヤバい、涙が止まんない。
「…」
初めてのお客さんは、頭を優しく撫でてくれた。もっと涙が止まんなくなる…
「ううっ、うあぁ…!」
たっぷり泣いた日の翌日。
「試験合格、おめでと〜」
「ありがと。そしたら、早速明日から配信?」
「んだね、そうなる」
「了解」
此処までが、私の今までの話。此処から先は、ねこにち本編にて。




