Χρόνος
ファイル種別:個人記録
本人からの許可:常時公開
SCR:読者、管理者
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私がいつから生きていたか、分からない。
いつの間にか、私という存在がそこにあった。
最初から備わっていたのか、長い年月の末に習得したのかは分からないが、世界の何処でも生きていけるような…いや、それにしては過剰な知識が私にはあった。因みに、私は現在ギリシャに居るのに何故か母国語にあたる言語は日本語。この辺りは上位存在でも関わっているのだろう。
だからと言って、世の中を不自由無く渡り歩けるわけではない。理由は単純。この醜い耳と尻尾のせいだ。
人間というイキモノは、違いを嫌う。自分達こそが崇高な存在、いつかアレが我々を超える脅威になるのが怖い、そんな理由で人間は違いを排除する。別に悪いとは思わない。合理的判断で、とても良いと、私は思う。
…自分が排除排斥の対象になっていることを除けば。
『去れ!悪魔の子!』『呪いの子め!テメェのせいで息子が!』
「…キッツいなぁ」
息子さんは残念だったとしか言いようが無い。心の中で「御愁傷様」と呟いておく。その哀しみを私にぶつけたくなる気持ちは分かるから、後者は何も気にしない。
だけど、前者はかなりキツい。
「…いっそ、死ねば楽になるのかなあ」
ああ、そうだ。死ぬのなんて何時でもできる。今死んだって別にいいし、そうすれば彼らも気が済むだろう。
…けど…
「…死ぬの、怖いな」
所謂「死にたくないけと生きたくない」。私の現状はまさにソレだった。
生をやめれば苦しまなくて済む。けど生をやめるために死ぬのは苦しくて嫌。
…もう、なにもしたくないな。
どのくらい時間が経っただろうか。
少なくとも動いていた記憶はある。ただ生きるために。何もしなくても腹は減るし、生存本能を止めることはできない。
何も考えずに動いていたら、不意にあることを思い出した。
「…3人とも、元気してるかな」
『聞こえてる?今、どこ居る?』
『あ、くろ姉。久し振り。3人とも日本に居るよ』
『…そっか』
『くろ姉はどこ?』
『ギリシャ』
『…なにゆえ?』
『分かんない』
『そっか』
『こっち、来る?くろ姉』
『…行く』
…色々準備しないとな。それと、楽しみなんて感情、久々に感じたな。
…ちまちま稼いだ金と偽装パスポートで日本に到着したはいいものの。やはり猫耳と尻尾は隠さないといけない。帽子を深めに被って、尻尾は服の中に隠して…
とりあえず、いい感じの物件を買った。そのまま店にもできるし、奥を改造すれば、やりたかった鍛冶もできるだろう。
「…ん、くろ姉?」
「えっ?…あ、カコ!それにミライも!」
「久し振り、くろ姉!」
「久し振りー!あれ、イマは?」
「あー、不慮の事故で肉体を失ってさ…ボクとミライが融合しないと出てこれないんだよね。一応生きてるよ」
「…その不慮の事故が気になるけど、いいや。仕事は何やってんの?」
「2人で殺し屋」
「そりゃまた物騒な…ちな、家どこ?」
「くろ姉の店の隣」
「マジか…」
…折角だし、自分の武器作るついでに、3人の武器も作ってみるか。
営業開始…したものの、客はゼロ。分かりきってたことだからいいけど。
改造で完徹したのミスったな…ねむぃ…
…
…すぅ…すぅ…
「お邪魔しまーす…」
「ひゃっ、ひゃい!?」
居眠りしちゃってた〜…!最悪…
「ここ、武器作ってもらえるって本当ですか?」
「あ、えと、はい!」
3人組から、槍とナイフと戦斧のオーダーが入った。
「皆さんは、どんな仕事をされてるんですか?」
「えっと、探索者やってます」
「…ああ、なるほど」
探索者。
数年前から発生した、怪異と呼ばれる生命体を狩る職業。
…実は、ちょっと興味があった。
「…試験だけでも受けてみようかな」
「えっ?何か言いました?」
「いいや、何も言ってませんよ」
今まで、やりたかったことが全然できなかった。
後で後悔しないためにも、やりたいことは全部やる。
「…あ、そうだ」
「あ、はい。何でしょう」
「帽子、落ちてましたよ」
…え?
「可愛い耳が出ちゃってましたよ」
…え?
「はい、どうぞ…って、え!?どうしました!?」
「…ごめん。今までこの耳のせいでキツい目に遭ってたからさ。可愛いなんて言われたことなくて、嬉しくて」
ヤバい、涙が止まんない。
「…」
初めてのお客さんは、頭を優しく撫でてくれた。もっと涙が止まんなくなる…
「ううっ、うあぁ…!」
「試験合格、おめでと〜」
「ありがと。そしたら、早速明日から配信?」
「んだね、そうなる」
「了解」