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十二話




 出入りする人間が限られているのでひとの気配は少ないが、だからこそ目撃されれば目立つこと必至の特別室へ向かい、賢治はドアを叩くことに成功する。

 少し間を置いてからドアが開き、会長の一瞬驚いてから嬉しそうなものに変わる顔が覗いた。


「おみや」

「ありがとうございます」


 差し出した袋を恭しく受け取る会長に「それじゃ」と言って戻ろうとしたら「まあ茶でも飲んでいけよ」と袖引き妖怪のようにシャツを掴まれた。そこで賢治は思い出す。

 振り返って会長の姿をまじまじと見れば、なるほど賢治がいま着ているシャツとあからさまではないにしろお揃いと言えるデザインのシャツを着ている。

 賢治の視線の意図に気付いたか、会長が「ああ」と頷きながら自身の服の襟元を引っ張った。


「そっちは絶対お前に似合うと思ったが、こっちだと多分色が重いと思ってな。ペアだからバラでは買えないし、俺が着た」

「なるほど」

「なんかあったか?」

「出かける前に会長ファンにちょっと」

「あー……俺が悪いわけじゃ……いや、迂闊だったのか?」

「責めちゃいねえよ」

「そうか。まあ、ちょっと申し訳ない気がするから茶菓子を奮発してやろう」


 賢治は結局会長の部屋へと引きずり込まれた。

 ソファがあるのに「座布団何枚いる? 三枚? 四枚?」と訊かれ、お前なんで座布団そんなに常備してんだよと賢治は内心でツッコミつつ言葉では「おかまいなく」と遠慮する。事実、二枚程度ならまだしもそれ以上座布団重ねられても逆に落ち着かない。

 茶を淹れ終わるまで摘んでいろと置かれた菓子皿の中にはチョコレートが入っていた。


「ゴッドディーバさんじゃないですか」


 高級チョコレートの代名詞ともいえる分かりやすいブランドチョコレートが金色のドレスを着てちょこんとお澄まししているので、賢治は慮外者よろしくドレスを剥いた。


「美味いよな、それ。なのに、一定以上の味は保ってるが日本に入ってきたばかりに比べれば味が落ちたと専ら祖父母世代が煩いんだ」


 お盆両手に戻ってきた会長がおかしそうに言う。お盆から賢治の前に移されたカップには珈琲が注がれ、ゆらゆらと湯気を上らせている。


「いい匂いだな」

「最近のドリップバッグは大変優秀でございます」


 早速頂くとチョコレートの甘さが残る舌にはさっと清々しいほどで、これがドリップバッグだというのならなるほど優秀だ。


「しかし、出しておいてなんだが甘いものが平気でよかった。気付いて戻ろうかと思ったら既に食ってたからな」

「俺は普通にアーモンドチョコとか一人で消費するぞ」

「それでそのお肌か、知り合いの女に情報拡散していいか」

「会長はそんなに俺を闇討ちさせたいの?」

「そんな馬鹿なこと二度と言うんじゃないッ!」


 賢治の頬に手の甲をあて、反対の手で会長はその手のひらを引っ叩く。賢治はふらりとよろめき「酷い……っ」と被害者面で会長を見て、会長とふたりすぐ真顔で体勢を戻す。会長はどっかりと賢治の隣に腰掛けた。


「俺の繊細な心が傷ついたわー」

「分かった分かった、お詫びに明日お菓子作ってあげるから」

「わーい」

「デザートにはちょっと持ち歩き不安だから、寮で渡すわ。帰ったとき連絡するから……お前来るか? それとも俺が行こうか?」

「俺の周囲の部屋大体Fクラスだからやめとけ。遅いなと思って見に行ったらシャツ引っ掛けて震える会長発見とかしたくない」

「Fクラス怖ぁ…尚、こっちでも極一部の過激派がケツバットとかやらかすことがあります」

「けつばっと」

「ケツバット」

「ケツにフルスイング?」

「Bat in ass」

「外面優等生怖ぁ……」


 賢治はぷるぷる震えた。


「おかげで取り締まる風紀委員長は血染めの拳と評判だ」

「マジで? っべーな、煙草見つかってたらどうなってたんだ」

「そんなに吸いたけりゃ吸わせてやるよと喉に根性焼きじゃないか?」

「っべーな」

「すまん、盛った」

「分かってた」


 話している間にチョコレートも珈琲も大分減った。

 寮に戻る前に多少食べてきたこともあり、そこまで腹は減っていないがこのまま食べずにいると夜中空腹で目を覚ますパターンだなと賢治が考えていると、会長が「どうせなら飯食っていくか?」と誘ってきた。悪いなとも思うが、今日はお使いをしてきたこともあり、まあいいかという気持ちになる。


「んー、じゃあご馳走になります」

「あいよ。ああ、どうせなら作ってる間に着替えとか持ってこいよ。出歩いたなら絶対に飯食ったあと部屋戻って着替えて風呂入ってって面倒になるから」

「会長が俺をダメ人間にしようとしている」

「まったく、冠城は俺がいなくちゃ駄目なんだから!」


 会長の予想は賢治としても九割超えて当たるだろうなと思ったので大人しく従うことにして、賢治は会長に「じゃあまた後で」と手を振り自身の部屋へ戻る。

 途中、再びいつかと同じ部屋のドアが開き、中から出てきたのは血染めの拳の風紀委員長。携帯電話を片手に怒鳴っている。


「だからいきなりなんな――」


 賢治を見つめて硬直、賢治は風紀委員長に会釈して目の前を通り過ぎる。後ろで風紀委員長は「は? もう用は済んだ? おま、この前からどういう……!」という怒鳴り声がしたが、通話先の相手と自身には関係ないと賢治は振り向くことがなかった。

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