12. 怪人の逆襲
街中を白染めの車、ガーディアンの移動用特殊車両が駆けていた。
正義の味方は交通ルールは縛られないとばかりに白い車両は信号を無視し、一時も止まる事無く走り続ける。
勿論、道路には一般市民の車も走っているが、白い車両は周りの車を意識すること無く道を走ることが出来た。
何故なら市民たちは心得たとばかりに、自主的にガーディアンの車両のために道を開けて行くのだ。
市民たちにとってあの白染めの車両は、警察や消防のそれと同じ緊急車両の扱いなのである。
これもガーディアンが正義の味方としての地位を確固としている証とも言えた。
「くそっ、またリベリオンにしてやられたって訳か!?」
「おいおい、間に合うのかよ、黄田のおっさん」
ガーディアンの車両には、交通ルールを無視してでも急ぐ理由があった。
リベリオンの大規模な素体捕獲任務の情報を聞きつけたガーディアンは、精鋭と言える戦闘部隊を現場へと派遣していた。
この車両に登場している面々はその精鋭部隊であり、彼らはつい先ほどまでガーディアンが入手したリベリオンの作戦予定地点に向かっていたのだ。
しかし彼らが向かった先はリベリオンが仕掛けたダミーの作戦地点であり、ガーディアンはまんまとリベリオンに欺かれたのである。
遅まきながらリベリオンの真の作戦地点を把握したガーディアンの精鋭たちは、リベリオンを逃がすまいと必死に現場へと向かっていた。
ご丁寧なことに偽の作戦地点は本来の場所とは正反対の位置にあり、ガーディアンがどれだけ急ごうととも数十分の時間が掛かる距離である。
車両に乗るガーディアンの戦士たちは焦燥に駆られながら、ただ車両が現場に着くのを待つ事しか出来なかった。
突如、輸送車に備え付けられている車載通信機から電子音が鳴り響いた、この車両宛の通信が入ったのだ。
車両を運転していた黄田は通信機を手に取り、彼らの拠点である東日本ガーディアン基地から伝えられた新情報を知る事になる。
「おい、新情報だ。 現場に例の欠番が現れたそうだ」
「旦那が? また先を越されたのかよ、旦那も働き者だな…」
「欠番…、一体何処から情報を…」
黄田は車両に乗っているガーディアンの戦士たちに、すぐさま情報を伝達する。
彼らが向かっているリベリオンの作戦地点に、既に欠番戦闘員が現れたと言うのだ。
どうやら不幸にも蜥蜴型怪人スラッシュに捕まり、そして幸運にも欠番戦闘員に解放された人間がガーディアンに情報を提供したらしい。
以前にもガーディアンはリベリオンの偽装に引っ掛かり、欠番戦闘員と言う謎の存在に先を越されるという醜態を演じた。
△△の時といい、一体欠番戦闘員はどのようなルートでリベリオンの作戦行動を正確に掴んだのだろうか。
欠番戦闘員に思う所が有るガーディアンの戦士白木は、都合のいい欠番戦闘員の登場に違和感を覚えたのか端正な顔を顰めていた。
「欠番戦闘員さんが現れたんですか! なら安心ですね…」
「ははは、下手したら俺たちが着いた頃には怪人たちが一掃されているかもな!」
しかし白木のように欠番戦闘員を疑う人間は少数らしく、大多数のガーディアンの戦士たちは欠番戦闘員の登場を無邪気に喜んでいた。
欠番戦闘員は未だに正体が不明な謎の存在であるが、今までの行動を見る限りは少なくともガーディアンの敵では無いと言うのが彼らの認識なのである。
加えて記憶に新しいガーディアン東日本基地のリベリオン侵略時に、欠番戦闘員はガーディアンのために獅子奮迅の働きをしたと言っていい。
現場の戦士たちの中には欠番戦闘員が怪人を一蹴する姿を目撃した者も居り、欠番戦闘員は一部の戦士たちから英雄視さえされていた。
「少なくとも今回も欠番は怪人相手に戦っているらしい。
奴の目的がどうあれ、リベリオンから市民たちが救われる事は悪いことじゃ無いだろう、な?」
「黄田さん…」
優先順位は間違えるな、黄田の言葉の裏に秘めた意味を正確に理解した白木は気持ちを切り替えようとする。
欠番戦闘員の持つスーツのコアの正体は確かに気にはなるが、今はガーディアンの戦士として市民を守る方が重要である。
白木は己の我を胸の内に押し込め、場合によっては再び欠番戦闘員と共闘する覚悟を決めるのだった。
ガーディアンたちが向かっているリベリオンの素体捕獲任務の作戦地域では、既に欠番戦闘員が怪人たちと死闘を繰り広げていた。
今回の任務のために派遣された怪人、ハウンドとリザドは欠番戦闘員の姿を確認した途端、問答無用で襲い掛かってきたのだ。
「今度は油断はせん、全力で貴様を倒す! アォォォォォォォンッ!!」
「「「「グルルルルルッ!!」」」」」
ハウンドは欠番戦闘員との距離を一定に保ちつつ、配下である戦闘用犬を使って欠番戦闘員を消耗させる作戦に出ていた。
先の戦いで迂闊にも欠番戦闘員に近接戦闘を挑み、一撃でノックダウンされた過去と同じ轍を踏まないつもりなのだろう。
犬型怪人ハウンドの遠吠えに呼応して、戦闘用犬たちは次々に欠番戦闘員に対して飛び掛ってきた。
戦闘用犬たちは機械染みた統一された動きで、ほぼ同時に欠番戦闘員に向かって牙を立てようとする。
欠番戦闘員は迫り来る戦闘用犬たちを相手に、両の拳を振るって迎撃するのに精一杯であった。
戦闘用犬の一匹の実力は大したことは無い、精々戦闘員と互角か少し上といった所である。
実際、怪人すら一撃倒す欠番戦闘員の拳に耐え切れず、迎撃された戦闘用犬たちはうめき声を漏らしながら次々に地面に倒れていく。
しかしいかんせん、戦闘用犬の数が多い。
ハウンドの戦闘用犬たちの真骨頂は数の利を生かした集団戦闘であり、ハウンドは動員できるだけの戦闘用犬をこの場に連れてきていた。
戦闘用に調整された戦闘用犬たちは、倒れていく仲間たちに一切意を介した様子もなく、淡々と欠番戦闘員に飛び掛って行く。
欠番戦闘員の両腕に激しく燃え盛る炎にも全く怯えた様子は無く、動物が持つ本能さえも消し去った戦闘機械たちは欠番戦闘員を苦しめていた。
そしてこの場にはもう一体、欠番戦闘員をライバル視する怪人リザドの姿もあった。
何時ものリザドなら自身の特殊能力である擬態能力を使用して姿を隠し、欠番戦闘員の隙を窺った筈だった。
しかし今の多数の戦闘用犬が動き回る戦場で迂闊に姿を消しても、戦闘用犬にぶつかって居場所が相手に解ってしまう可能性が高い。
そのためリザドが多数持つ特殊能力の内の一つ、体内で作り出した粘着液を利用した攻撃を選択した。
「はははは、犬ころばかりにかまけていいのかな!! クァァッ!!」
「!?」
戦闘用犬に掛かりきりになっている欠番戦闘員に向けて、リザドは口から勢いよく粘着液を吐き出す。
リザドが粘着液を放ったタイミングは完全に欠番戦闘員の虚を突いており、本来ならば欠番戦闘員はあえなく粘着液に絡め取られていた筈だ。
欠番戦闘員がリザドの奇襲を避けられた理由を挙げるならば、優に二桁になるであろうリザドとの戦闘経験の賜物であろう。
直感的に危機を覚えた欠番戦闘員はその場に倒れこむように、反射的に上半身を前に倒した。
そしてその直後、本来なら欠番戦闘員の体があった場所をリザドの粘着液が通り過ぎ、それは本来の目標を外れて近くに居た戦闘用犬に命中することになる。
粘着液と接触した戦闘用犬は瞬時に体の自由を奪われ、地面に転がるしか道は残っていなかった。
「ほう、やるな! 流石は我がライバルだ!!」
「おい、リザド! 俺の眷属たちに何をする!!」
「ふんっ、欠番戦闘員の首は早い物勝ちという事になった筈だ。 俺の攻撃を避けられなかった犬ころが悪い!!」
「なんだと!!」
欠番戦闘員にとって幸運なことは、この場に居る怪人たちが互いに協力的で無かったことだろう。
仮にハウンドとリザドが適切に連携をしていれば、下手をすれば欠番戦闘員は既に倒されていたかもしれない。
しかし欠番戦闘員を倒すのは己だと譲らない怪人たちは協力する所か、互いの足を引っ張り合うような真似すらしていた。
宿敵を尻目に喧嘩を始める怪人たちであるが、そんな不甲斐ない主人にも愛想を付かずに戦闘用犬たちは働き続けていた。
戦闘用犬たちに道を阻まれた欠番戦闘員は、こちらを無視して言い争いを始めた怪人たちに近付くことすら出来ない。
欠番戦闘員の体には捌ききれなかった戦闘用犬たちの牙や爪の跡が刻まれており、このままではバトルスーツの耐久を超えたダメージが蓄積されてしまうだろう。
接近戦しか出来ない肉体能力特化の怪人戦闘用バトルスーツの弱点をもろに突かれた欠番戦闘員は、絶体絶命の状況に陥っていた。
欠番戦闘員・リザド・ハウンドから少し離れた場所で、信号機の上に腰掛けているた蜂型怪人クィンビーの姿があった。
足をぶらぶらさせながら頬杖を突いているクィンビーからは、戦意と言う物を全く感じられない。
前言通り、クィンビーは今回の戦いに参加する気は毛頭無いらしい。
「大丈夫なのかしらねー、あれ」
欠番戦闘員の戦いを上から暢気に見物しているクィンビーは、欠番戦闘員こと大和の敗色濃厚の戦況にこれまた暢気な感想を呟いていた。
今回の素体捕獲任務の妨害した依頼主の立場としては、このまま大和に負けて貰うのは困るのである。
しかし自分から手助けをするつもりは無いクィンビーは、引き続き大和とハウンドたちの戦いの観戦を続けた。
 




