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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第4章 女王蜂の今昔
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8. 怪人の有り方


「最近、無断外出を頻繁に行っていますね?

 一体支部を抜け出して何処に行っているのですか?

「別に外出くらい構わないじゃない、私が担当している仕事も無いんだしさ。

 それに私が何処で何をしようと、私の勝手でしょう!!」

「クィンビーさん、あなたにはリベリオンの怪人としての心構えが…」


 リベリオン関東支部のとある一室で、クィンビーは上司である蟹型怪人からお叱りの言葉を貰っていた。

 最近、クィンビーが頻繁に関東支部を抜け出して外出していると言う情報が、蟹型怪人の耳に入ったのである。

 現在、リベリオンは戦力補充に集中するために派手な作戦行動を控え、隠密裏に行う素体捕獲任務を中心に行っていた。

 そのため純粋な戦闘要員であり、性格的にも隠密行動に向かないクィンビーは必然的に手薄になるのは自然の流れだった。

 しかしだからと言って、暇だから支部を抜け出しす等と言うクィンビーの行動は言語道断である。

 そしてクィンビーの上司である蟹型怪人は、己の職務を放棄するようなことは無かった。

 左腕に備えた巨大な鋏を無意味に揺らしながら、蟹型怪人は胡散臭い敬語口調でクィンビーに対してのお小言を続けた。


「…おや、もうこんな時間ですか。

 では今日はこの位で済ませますが、これからは勝手な行動を慎むのですよ」

「ふんっ…」

「…あなたがそれだけ勝手な行動を許されている理由は、あなたのその高い性能と、これまでの戦績を高く評価している事にあります。

 凡百の怪人であれば、とっくに廃棄処分になっていることを理解して下さい」


 長々とした説教を終えた蟹型怪人は、最後に捨て台詞を残して部屋を後にしていく。

 蟹型怪人の言葉からクィンビーは、リベリオン内での自分の立場が段々と危うくなっている事実を察した。

 普段のクィンビーなら流石に身の危機を感じて、暫くは勝手な行動を自粛していただろう。

 しかし妃 春菜という自分の過去を求める今のクィンビーには、止まると言う選択しは存在しなかった。

 クィンビーは蟹型怪人が出て行った扉を暫く睨み付けた後、荒々しく扉を開けて部屋を去るのだった。






 蟹型怪人の説教を終えたクィンビーは、自室に戻るために関東支部の通路を歩いていた。

 まだ蟹型怪人に対する怒りが収まっていないのか、明らかにクィンビーは機嫌の悪い様子であった。

 怒りのオーラを撒き散らす危険な蜂型怪人に近寄る者は誰も無く、戦闘員どころか怪人でさえ今のクィンビーに近付くこと無く道を空けた。


「…よぅ、聞いたぞ、クィンビー。 シザーズの奴に絞られたそうだな…」

「シザーズ? ああ、そういえばあの蟹野郎、そういう名前だったわね。

 普通に忘れていたわ…」

「くっくっく、上司の名前を忘れるとは、相変わらず自由な奴だな…」


 不機嫌状態のクィンビーに声を掛けるチャレンジャーが現れ、クィンビーは通路の真ん中で足を止めた。

 クィンビーを呼び止めた蜥蜴型怪人、リザドはクィンビーに臆すること無く相変わらず偉そうな態度で喋りは始めた。


「まぁ、お前の気持ちも解る。 最近は派手な戦闘も無くて、体が鈍ってばかりだからな…

 俺も最後に我がライバルと戦ったのは、あのリベリオン基地襲撃の時だったか」

「確かそのライバルって例の欠番戦闘員よね…。

 あんた、この前も欠番戦闘員に瞬殺されたんじゃなかったけ?」

「あ、あれは欠番戦闘員が卑怯にも俺を不意打ちしたんだ!?

 俺がガーディアンの雑魚共にかまけて入なければ…」


 今の所、欠番戦闘員こと大和に全戦全敗しているリザドは、未だに大和に対して執着をしていた。

 最近、欠番戦闘員の正体を知ったクィンビーとしては、元戦闘員に対して此処までの執念を燃やすリザドは滑稽な存在にすら見えた。


「見ていろ、俺は今度こそ欠番戦闘員を倒して…」

「…待て、欠番戦闘員は俺の獲物だ!!」

「お前は…、ハウンド!?」


 関東支部の通路で勝手に気炎を上げていたリザドに、唐突に現れた新たな怪人が待ったを掛ける。

 現れた全身を厚い体毛で覆った犬型怪人、ハウンドはリザドの前に立ち、両怪人のにらみ合いが始まった。


「あの欠番戦闘員には屈辱を受けた。 この屈辱は欠番戦闘員を八つ裂きにしなければ拭え無いだろう。

 何回も敗北している負け犬は引っ込んでいろ、あいつはこのハウンド様の獲物だ!!」

「ふんっ、負け犬はどっちだ…。 欠番戦闘員に手も足も出ずに一撃でやれられた奴が…」

「貴様ぁぁぁっ!!」


 かつてハウンドは大規模な素体捕獲任務に参加し、その作戦中に欠番戦闘員に敗北した過去があった。

 最新型の怪人であったハウンドは、ただの一撃で欠番戦闘員に倒されてしまったのだ。

 ハウンドが欠番戦闘員に恨みを抱かないはずが無く、欠番戦闘員に対する報復の機会を窺っていた。

 自らの爪で牙で欠番戦闘員を倒すことが、傷ついたプライドを癒す唯一の手段なのである。

 そんなかの怪人に取ってリザドの欠番戦闘員に対する勝利宣言は、決して看過できない物だった。

 互いに欠番戦闘員に対して譲れない物がある両怪人は、一触即発も有り得るほどに殺気立っている様子だ。






 リザドとハウンドの不毛な張り合いを、クィンビーは呆れた顔で眺めていた。

 もしこの怪人たちにあの欠番戦闘員の正体が、ただの元戦闘員であることを告げたらどんな顔を見せるだろうか。

 不毛なやり取りに付き合いきれず、クィンビーはリザドたちを無視して自室に戻ろうとする。

 しかしクィンビーが踵を返す前に、また事態が明後日の方向に動いてしまった。


「…いや、欠番戦闘員を倒すのは俺様だ!!」

「あいつをずたずたにしなければ、俺の気がすまないんだよ!!」

「俺の甲羅は強化された! 今度はあの欠番戦闘員の拳を防いで見せる!!」

「また増えた!? 何なのよ、これは…」


 リザドとハウンドのいざこざを聞きつけ怪人の中で、欠番戦闘員に恨みを持つ者が続々と現れてしまったのだ。

 まるで欠番戦闘員被害者の会となった通路内では、怪人たちが自分こそが欠番戦闘員を倒すのだと言って聞かない。

 基本的に自尊心が強い傾向にある怪人たちは、欠番戦闘員を倒す権利を譲るつもりは毛頭ないようである。

 怪人たちの集団に巻き込まれたクィンビーは、身動きが取れなくなってしまい、否応無く怪人たちの争いに巻き込まれてしまった。










 怪人たちのいざこざが納まるまで自室に帰れそうに無くなったクィンビーは、壁に背を預けながら馬鹿共の争いを眺めていた。

 人間を超えた存在である怪人が、確実に人間より劣るものがあるとすればそれは協調性と言う奴だろう。

 通路を埋め尽くす怪人たちは己の我を押し付けることしか考えて無く、誰も引こうとしないため何時までも話が終わらない。

 暫くしててクィンビーは徐に、近くに居たこの事態の発端を起こしたリザドに声を掛けていた。


「ねぇ、リザド。 あんたは昔のことを何か覚えている?」

「昔…、何のことだ?」

「あんたが怪人になる前の、人間だったころの話よ。

 あんたの素体になった人間の記憶を、何か覚えていない?」

「ふんっ、そんな物を覚えて居る筈が無いだろう。

 俺様は怪人リザド、稀代の天才セブンの最後の作品だ!

 脆弱な人間であった頃の記憶などを覚えている筈が無いだろう!!」

「はぁ、あんたならそう言うと思った…」


 現在、己の過去と向き合っていたクィンビーは、同じ怪人である怪人が己の過去をどのように捉えているか尋ねてみていた。

 するとリザドはクィンビーが予想していた答え、貧弱な人間であった頃の記憶などに興味が無いと言い切ったのだ。

 怪人は基本的に己の持つ人間を超えた圧倒的な力に誇りを持ち、人間を下等な生物であると見下していた。

 恐らくリベリオンは人間を相手にする作戦行動に支障をきたす事が無いよう、怪人に対してある種の操作を行ったのだろう。

 リベリオンの思惑通り怪人たちは自分たちが怪人であることに疑うことなく、かつての自分と同じ人間に対して残酷と言っていい所業を平気で行うことが出来た。






「怪人、ね…」


 所詮、人間を超えた存在と言っても、怪人はリベリオンが使い易いように調整された駒でしか無いのだ。

 妃 春菜と言う自分の過去に触れた今のクィンビーに取って、リベリオンの怪人としての有り方は歪な物だった。

 クィンビーのリベリオンに対する不信感が、彼女の心の中に澱のように積もっていった。


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