9. 過去探し
「でさー、あの蟹野郎、確かシザーズって名前だっけ…、シザーズの奴が相変わらずうざいの何のって…。
仕事が無いんだから、ちょっとの外出くらい多めに見なさいよね!!」
「リベリオン上層部を挑発する真似は控えた方がいい。
もし上があなたの支部外での行動を探らせたら、リベリオンが私たちまで辿りつく事に…」
「ああ、その辺は大丈夫よ。
念のため私の蜂たちに警戒させてるけど、今の所はマークまでは付けられて無いから…」
セブンとの再会を果たしたクィンビーはその後、頻繁にセブンの住むアパートの一室を訪れるようになっていた。
どうやら蟹型怪人のお小言はクィンビーに何の影響も与える事無く、かの怪人は今でも平然と関東支部からの脱走を繰り返しているらしい。
かつての自分である妃 春菜の姿に偽装したクィンビーは、セブン相手に他愛も無い愚痴を零してた。
持ち込んだ菓子を方張りながら机にもたれかかるクィンビーの姿は、何も知らない者が見たらただの少女にしか見えないだろう。
まるで何時かのリベリオン時代のセブンとのやり取りを思い出すように、クィンビーはセブンとの一時を満喫していた。
「あ、戦闘員。 そういえばあんた、リザドとか他の怪人に狙われているみたいよ。
絶対に殺してやるって息巻いていたから、注意しといた方がいいわねー」
「…はっ!? な、なんで俺が…」
「あれだけ派手に暴れておいて、その反応は無いでしょう…」
「これも戦闘データ収集を行う上で予想できたリスク。 問題無い」
「そんな予測をしていたら、教えてくださいよぉぉ、博士!!」
先ほどクィンビーから指示された大和は、冷蔵庫から新しい麦茶のボトルを持って丁度部屋に戻って来ている所だった。
リベリオン時代からの…、下手をしたらそれ以前の時代から幼馴染同士の力関係が変わっていないのか、大和はクィンビーに逆らうことが出来なかった。
そんな何か腑に落ちない物を感じながら雑用をこなしていた大和に、クィンビーが何気ない調子でとんでもない情報を漏らしてしまう。
大和はクィンビーから聞いた新情報に心底驚き、思わず手に持っていた麦茶のボトルを落としそうになった。
リザドに狙われている事を知っている大和であったが、他の怪人共にも自分の首を狙われているとは思ってなかったらしい。
バトルスーツの性能試験とは言え、大和はこれまで結構な数の怪人と矛を交えてきた。
リザド以外の怪人に目を付けられるのは自明の理ではあるが、愚かにも大和はその可能性を考えていなかったのだ。
欠番戦闘員こと大和は、今更になって欠番戦闘員として活動していた日々に対して後悔を覚えた。
クィンビーは何もセブンや大和と雑談するためだけに、危険を冒して関東支部を抜け出している訳では無い。
かの蜂型怪人には、かつて人間であった頃に記憶を取り戻すと言う目的が有った。
そのためクィンビーは大和を引き連れて、妃 春菜と言う少女に所縁の地を回っていた。
「…この前も見たけど、何か平凡な学校ね」
「平凡で悪かったな…」
現在、クィンビーは大和の通う学校に…、かつて妃と言う少女も通っていた場所を訪れていた。
以前に姫岸に連れられて怪人調査研究部に訪れた際に、クィンビーは一度この学校には来た事はあった。
しかしあの時のクィンビーはは学校のことなどは眼中に無かったため、改めて学校の中を見て回ろうと考えたのだ
夏休みと言う事もあり、学校の中は部活に来ている教師や生徒以外の姿は無い。
クィンビーは物珍しい物を見るように、学校の中をぶらぶらと回っていた。
「…おい、丹羽。 こんな所で何をしている?」
「あ、先生…。」
学校内を徘徊していた大和たちの前に、所用のために学校を訪れていた教師が現れた。
大和のクラスの担任を務めている中年の教師は、顰めっ面を浮かべながら自分のクラスの教え子に声を掛ける。
未だに志望校をまともに決めていた出来の悪い生徒である大和に対して、この教師は余りいい印象を持っていなかった。
もし大和が一人で学校内に居たなら、遊んでいる暇があったら勉強しろと言う有り難いお説教を受けることになっただろう。
しかし大和の担任である教師は、その隣に居る私服姿の少女に気付いてしまう。
「何よ、こいつ。 偉そうね…」
「丹羽、部外者を勝手に学校へ…、お、お前は!?」
かつてトラブルメーカーであったらしい妃と言う少女は、学校の有名人だったに違いない。
偶然出くわした大和のクラスの担任である教師はクィンビーの顔を見た瞬間、その顰めっ面が一瞬で変えてしまったのだ。
まさに驚愕といった表情を見せた教師は、まるで幽霊でも見るかのように口をあんぐり開けてクィンビーを凝視していた。
「き、妃!? なんでお前が此処に…」
「誰、このおっさん?」
「俺のクラスの担任…」
フリーズしたように固まっていた教師は、暫く経ってからようやく再起動に成功したらしい。
恐る恐ると言った様子で教師は、行方不明である筈の少女がこの場所に居る理由を尋ねてくる。
しかし何時もは顰めっ面で小言が多いあの担任が、クィンビー相手にはえらい代わりようであった。
かつて妃と言う少女がどれだけ教師たちに心労を与えたかについて、大和はこの教師の反応から薄々と察することが出来た。
クィンビーが別に学校に復学するつもりが無いと知り、心底ほっとした表情を浮かべる教師の顔を見れば、誰だって妃と言う少女のかつての影響力を理解できるだろう。
適当な言訳で教師からの追求を逃れた大和は、怪人調査研究部が活動拠点としている情報室に来ていた。
怪人調査研究部はかつてのクィンビーが立ち上げた部であり、彼女に深い関わりがあると言える。
確かにクィンビーが自分の記憶を求めるなら、この怪人調査研究部はそれなりに重要度の高い場所だろう。
しかし先日、こんな部活など知らないと言い放って出ていったクィンビーが、どの面下げて来ているのだと思われるかもしれない。
クィンビーは先日の失態を誤魔化すための手段として、ある正攻法な選択を選んだ。
行方不明になる前の記憶が全て無くなっていると、クィンビーは研究部の面々に対して堂々と記憶喪失宣言をしたのだ。
「…ああ、あのむっつりですか。 あいつは昔、妃先輩にガツンとやられた事が有るんですよ。
折角ですし、妃先輩にあの時のことを詳しく説明しましょうか?」
「いや、止めとこう…。 何か予想付くし…」
普通は記憶喪失などと言われても誰も信じるはずも無い。
姫岸を筆頭とした研究部のメンバーも当然のように納得すること無く、最初はクィンビーに疑いの眼差しを向けた。
しかし過去に妃と言う少女と直接関わりがあった姫岸や星野が、今のクィンビーと話した事で彼らの疑いは晴れることになる。
実際にクィンビーは過去の妃と言う少女であった頃の記憶を失っており、少し話しただけで姫岸たちは否応無く記憶喪失の話が事実であると悟ったのだ。
そして先日のクィンビーの暴挙にどうにか納得してくれた研究部は、クィンビーの記憶探しに協力してくれることになった。
「そ、それより今日も研究部時代の話をしてやってくれよ」
「はい、それは構いませんけど…、私がわざわざ説明する必要があるんですか?
研究部時代の話は、別に先輩も知っている事だと思うのですが?」
「お、俺より君の方が昔のことは良く覚えているからな。
や、やっぱり正確に説明した方がいいと思ったんだよ…」
「まぁいいですけど…」
特にかつて妃に世話になった姫岸は、積極的にクィンビーの記憶探しを手伝ってくれた。
研究部を訪れたクィンビーと大和に対して、姫岸は積極的に過去の思い出話を聞かせてくれた。
その話には腰巾着のように何時も妃と一緒に居たかつての大和の名前をよく出てきて、過去の自分を知らない大和に取っても興味深い話である
クィンビーと同じように記憶喪失な大和としても、これは自分の記憶を取り戻すチャンスになるかもしれないのだ。
大和とクィンビーは姫岸から、妃と言う少女の武勇伝を聞き入るのだった。




