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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2章 欠番戦闘員
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17. 切り札


「…繰り返し警告する。 一歩でも動いたらこの人間の命は無いと思え!!」


 △△での怪人たちと大和の戦いは佳境を迎えていた。

 ガーディアンが現れる前に大和の息の根を止めたい怪人たちは、彼らが捕らえた人間の命を盾にすると言う悪の組織らしい選択を取ったのだ。

 △△で捕らえられた人間たちの中で無造作に選ばれた不幸な女性は、フェザーの鋭い爪を喉に突きつけれられていた。

 怪人の匙加減で簡単に人生が終わっしまう理不尽な状況に陥った女性は、怒りと悲しみが入り混じった表情を浮かべながら気丈にも瞳を閉じることは無く正面を見据えていた。

 大和の動きを止めるための人質にされてしまった女性、母の霞を目の前にした大和は怪人への激しい怒りが湧き上がっていた。

 しかし大和はその場から動くことは出来なかった、下手な行動を取って霞の命を危険に晒すわけにはいかないのだ。


「よーし、いい子だ。 そのまま大人しくやられれば人間たちの命は保障してやる」


 大和がその場から動かない様子を見て人質に効果がある事が解った怪人たちは、自分たちの勝利を確信した。

 人質を抱えたフェザーを残し、ホーンとトータスが大和に止めを刺すためにじわりじわりと近寄り始める。

 まだガーディアンが現れる様子は無く、大和一人だけではこの絶体絶命の状況を覆すことは不可能であった。

 しかし大和は一人では無かった、彼には亡霊の名の通りに姿を消している相棒がこの場に残っていたのだ。











「"…やれ、ファントム"」

「"あいあいさー!"」


 大和はこれからの行動予定を脳内で繰り返しシミュレーションしながら、内臓無線機で密かに彼の頼れる相棒へ指示を下す。

 主の指示と同時にステルス状態のまま密かにフェザーの背後まで近寄っていたファントムは、その姿を見せると同時に全力で加速した。

 ファントムはフェザーの無防備な背中目掛けて、勢いのまま自身のボディをぶつける奇襲攻撃を敢行したのだ。


「…何っ!?」

「きゃっ!?」

「っ、フェザー!!」


 背後から突然現れたファントムの突進をまともに受けたフェザーは、その衝撃で意図せず霞を手放すことになる。

 フェザーたちの声に大和の方へ近づいていたホーンたちは異変に気付き、慌てて仲間の下に戻ろうとした。

 しかし状況判断をするために一瞬立ち止まったホーンたちの隙を付いて、この事態を既に予測していた大和がするりと怪人たちの間を抜けて霞の元に辿り着く方が早かった。

 ファントムの出現に驚く怪人たちに先じて霞の元に辿り着いたた大和は、そのまま霞を抱えて怪人たちから離れていく。


「ま、待て…」

「"ファントム!!"」

「"マスターはちゃんと目を瞑ってて下さいね!!"」

「うわっ、目がぁぁぁぁっ!!」


 そして大和が霞を確保すると同時に、ファントムが内蔵していた対怪人用の目くらましを発動させる。

 怪人の強化された視力にダメージを与える強烈な光がファントムから生み出され、大和たちを追おうとしていた怪人たちはそれを直視してしまう。

 ファントムに搭載された一回こっきりの虎の子を、今まで温存していた甲斐があったようである。

 目くらましを受けて一時的に視界を失った怪人を尻目に、大和は霞を連れて一目散に逃げて行った。












「大丈夫カ? オ前ハ早ク此処カラ逃ゲロ」

「で、でもまだ他の人たちが…」


 怪人たちの目の届かぬ所にまで来た大和は、抱えていた霞を地面に降ろした。

 当初の目的である母の救出に成功した大和は、霞に対してこのまま△△から離れるように命じる。

 助けられたことを理解した霞は一瞬だけ安堵の表情を見せるが、すぐに残された他の人間たちが気になったらしく表情を曇らせた。

 霞の中に他の人間たちを残して一人だけ助かってしまったことに対する罪悪感が芽生えたのだろう。


「…安心シロ。 リベリオンハ俺ガ全部倒シテヤル」


 他の人間を心配して逃げることに躊躇いを見せる霞に対して、大和は母を安心させるために再び怪人たちの待つ△△に戻ろうとする。

 母親を安心させるための方便では無い、この時の大和は本当に怪人たちが待つ△△に向かおうとしていたのだ。

 本来なら大和の目的はあくまで母である霞の救出であり、怪人たちから母を引き離した現在の状況は既に目的を達したと言える。

 ファントムの情報によると後少しの時間が経てばガーディアンが△△に到着するらしく、大和には再び危険な戦場に戻るだけの理由は存在しない筈だった。

 しかし大和はあえて戦いに戻ることを決意していた、一体何が彼を動かしたのだろうか。

 霞が心配する残された人間たちを救うため…、では無い。

 正義の味方では無い大和に取って見知らぬ人間たちの価値は、自身の命を賭けるほど優先度の高い存在では無かった。

 例えガーディアンが現れるまでに怪人たちが腹立ち紛れに残った人間たちを全て始末する可能性が有ろうが、大和が戦場に戻るための理由には成り得ない。

 それならば複数の怪人たちが待つ危険な戦場に、何故大和は戻るのか。






「オ前ハサッサト行ケ…」

「お気を付けて…」


 △△の方へと向かう大和を見て、自分に出来ることはもう無いと悟った霞はようやくこの場から逃げ出してくれた。

 霞が△△の反対方向に駆けて行く姿を一瞬確認した大和は、傍まで自走して来たファントム乗って再び戦場へと望んだ。

 母の救出によって肩の荷が下りた大和の胸の中に残る感情は、怪人たちに対する純粋な怒りであった。

 元々、頼みごとが断れない性格をしている大和は、今までは何だかんだでセブンに頼まれるがままバトルスーツとテストとして怪人との戦闘を行っていた。

 しかし今日は何時もと違い、大和は母を救うために初めて自身の意思で戦場に向かったのだ。

 並々ならぬ心持ちで望んだ戦場で大和はそこで怪人たちに舐められ、三対一の圧倒的な不利な状況で嬲られ、遂には母親を人質に取られると言う散々な目にあってしまう。

 有体に居れば大和は切れていたのだ、最早怪人たちを全て殴り飛ばさなければ気がすまないほどに彼は頭に血が上っていた。

 

「"ファントム。 着いたらあれを使うぞ、準備しておけ"」

「"本気ですか、マスター!!"」


 無論、無策のまま△△に戻っても、また先ほどと同じように大和は三体の怪人たちにやられてしまうだろう。

 そのために大和はある切り札を出す決意をしていた、お気楽なファントムが躊躇するほどの奥の手を傲慢な怪人たちに叩きつける時が来たのだ。

 △△に向かう前にセブンから教えられた怪人専用バトルスーツのあの切り札を…。









「ようやく回復したか…」

「ちぃ、やはりあの偽戦闘員は逃げているか、くそぉぉぉぉぉっ!!」


 ファントムの目くらましがようやく回復した怪人たちは、そこで既に大和が人質と一緒に姿を消していることに気付く。

 またしても大和にしてやられた怪人たちの怒りは凄まじかった、このままではその怒りを人間たちにぶつける可能性は高かっただろう。

 しかし人間たちは幸運であった、怪人たちの怒りを一身に受けてくれる対象が自分から戻ってきてくれたのだ。

 まさに怪人たちが八つ当たりに人間たちを始末しようとした瞬間、ファントムに乗った大和が颯爽と△△へと舞い戻って来た。


「偽戦闘員!? 何故戻った、命が惜しく無いのか?」

「ヤリ残シガアッテナ…。行クゾッ!!」


 再び彼らの前に自分から戻ってきた大和に対して、怪人たちはその無謀な行動に不信感を覚えた。

 何か策が有るのかと警戒する怪人たち対して、大和は何の躊躇いも無く特攻して行く。

 相手に隙を見せたらまた他の人間を人質に取られる可能性があるため、大和は問答無用で怪人たちに戦いを挑んだのだ。

 

「何を考えているか解らないが、貴様の攻撃など俺の攻撃で何度も止めてやるわぁぁ!!」

「待て、トータス!? あの偽戦闘員、様子が…」

「ウォォォォッ!!」


 真正面から近づいて来る大和を前にして、他の怪人たちの前に出たトータスはその攻撃を防ぐために自慢の甲羅を構えた。

 例え今の行動に何らかの策があろうとも、先の戦闘で大和の攻撃を防ぎきった己の甲羅なら問題無いと考えたのだろう。

 今居る怪人たちで中で最高の防御能力を持つトータスの行動は決して間違いとは言えない、しかし何故かホーンはトータスを止めようとした。

 サイ型怪人は気付いたのだ、大和の腕から放出されている炎が勢いが先ほどの戦闘と比べて格段に上がっていることに。

 ホーンの忠告を受けながら己の甲羅の強度に絶対の自信があるトータスは、それを無視してそのまま大和の攻撃を防ごうとする。

 次の瞬間、勢いのまま振られた大和の拳はトータスの甲羅と衝突することになった。






「……ぐふぇ!?」

「トータス!!」

「…後二体ダ」


 ホーンは目の前の光景に目を疑った、幾度も無く大和の攻撃を受け止めていたトータスの甲羅が無残に砕けたのだ。

 甲羅を打ち砕いた大和の拳はそのままトータスへと吸い込まれ、亀型怪人は先の犬型怪人と同じように一撃でノックダウンされてしまう。

 トータスを倒した大和は次の目標を定めたらしく、ホーンを正面に据えて両拳を前に構えた。

 その手足からは先ほどの戦闘で見た時と比べて、明らかに勢いが増した炎が放出され続けている。

 大和から放出される炎の熱を感じながらホーンは怪人となった時に置いて来た感情、恐怖とよばれるそれを久しぶりに目の前の偽戦闘員から味わうことになった。

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