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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2章 欠番戦闘員
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16. 一対四


 四体の怪人を一度に相手にしなければならない最悪な事態を迎え、大和は覆面の下で引きつった笑みを浮かべる。

 初めて複数の怪人と同時に相対した大和はその人外の圧力に圧倒されて、まるで蛇に睨まれた蛙のような気分を味わっていた。

 状況は圧倒的に不利であるが今更後には引けない大和は、この場から母と共に生き残る手段を模索する必要があった。

 しかし大和の絶体絶命のピンチは、とある犬型怪人の気まぐれによって思わぬ展開を見せることになる。






「おい、そこの偽戦闘員、今からこのハウンドが直々に遊んでやろう。 安心しろ、他の連中には手を出させん」

「なっ、ハウンド!!」


 四体の怪人に加えて無数の戦闘犬と戦闘員たちという戦力が集まり、相手はバトルスーツを装着した謎の偽戦闘員一人しか存在しない。

 幾ら相手が蜥蜴型怪人リザドを退けた実績のある存在でも、これだけの戦力差があれば負けることは有りえない。

 状況はリベリオン側に完全に有利な状況だった、それ故に彼らの中に慢心が生まれたのかもしれない。

 自分たちの作戦を台無しにした偽戦闘員に興味を持ったハウンドは何と、数の有利を捨てて大和に対してタイマンを挑んできたのだ。

 その突然の提案が寝耳に水だったのか、ハウンドの行動を諌めようと声を荒げる。

 自身の突進を正面から受けた大和に対して怪人並の底知れぬ性能を感じたホーンとしては、そのような遊びをする余裕は無いと思ったのだろう。


「いいじゃないか。 新型怪人様のお手並みを見てやろうぜ、ホーン。

 あのリザドを倒した奴のことも気になるしな…」

「俺たちの分を残しておけよ、ハウンド」

「解っているさ、先輩方。 上手く手加減して見せるよ」

「お前たち…」


 しかしホーン以外の怪人たちはむしろハウンドの提案を面白がり、逆に彼らのタイマンを促し始めた。

 大和の実力を噂でしか知らないトータスは、偽戦闘員の力を見るいい機会だと興味津々の様子である。

 フェザーの方も先ほどの一方的な戦闘から大和の能力を下方評価しており、この程度の余興は問題無いと考えているようだ。

 勿論、発案者であるハウンドは大和との戦闘に対して不安を一切感じている様子は無く、ただただ傲慢に自身の勝利を確信していた。

 他の怪人たちの態度を見てハウンドの行動を止めるのは不可能と理解したホーンは、渋々とした様子で口を閉じた。







「…後悔サセテヤルヨ」

「面白い、させて見ろよ!! グラァァァァッ!!」


 怪人たちの態度に自分が馬鹿にされていると感じたのか、感情が解り難い機械的な声の奥から大和の怒りが滲み出ていた。

 そもそもこの連中が来なければ母が巻き込まれることは無く、大和もこのような戦場に来る必要は無かったのだ。

 そして今も大和の目の前でこのくそったれの怪人たちは、自分に対して舐めきった態度を取っている。

 もう大和の脳裏には先ほどまで感じていた怪人たちの恐怖は綺麗サッパリ消えており、ただあの犬野郎を全力で殴り飛ばすことしか頭に無かった。

 その感情に呼応するように内臓型インストーラのコアが赤く光り、両腕から激しい炎が生み出される。

 戦闘意欲を見せる大和に対して、ハウンドは雄たけびをあげなら襲い掛かった。











 何度も触れたと思うが怪人の最大の特徴は、人間を圧倒的に上回る肉体能力にある。

 犬型怪人ハウンドもその例に漏れず、バトルスーツを纏った通常のガーディアンの戦士を翻弄するだけの肉体能力は備わっていた。

 しかしリベリオンの最新の流行である特殊能力を重視したハウンドのそれは、あくまで平均的な怪人レベルのものでしか無い。

 ハウンドの特色はあくまで特殊能力、眷属である戦闘用犬の操作能力や物理的な威力を伴った音波攻撃の能力を駆使する戦闘方法にあるのだ。

 そのため今のように戦闘用犬も引き連れずに単独で大和に接近するハウンドの行動は、彼の特色を消す行為と言えるものだった。

 恐らくハウンドとしては今の状況は先ほど自身が言った通り、大和を相手に遊んでいるつもりなのだろう。

 簡単におもちゃが壊れてはつまらないと考えたハウンドは、不用意にも得意分野とは言えない接近戦を挑んでしまったのだ。

 あの怪人を身体能力を至上と考えるセブン謹製のバトルスーツを相手に…。


「…なんだとっ!?」


 それは言葉にすれば一行で済んでしまう程度の攻防だった。

 ハウンドの攻撃を左腕の手甲で受け止めた大和が、返す刀ですぐ呆然とした表情を浮かべていた犬っころの顔面に右拳をぶつけたのだ。

 怪人である自身の攻撃を正面から何でも無いかのように受け止めた大和に、ハウンドは余ほど驚愕したのだろう。

 ハウンドは信じられない物を見るかのように大和の左腕、自身の爪を受けて微動だにしないそれを凝視してしまった。

 そして致命的な隙を大和が逃す訳が無く、怒りを込めた最大パワーの一撃をお見舞いするのだった。


「……………がはぁっ」


 カウンター気味に拳をめり込まされたハウンドは、うめき声を上げてそのまま地面に沈んだ。

 平均的な肉体能力しか持たないハウンドが、偏執なまでに肉体能力にリソースをあてた近接特化のバトルスーツに真正面から挑んだのだ。

 この結果は極々当然のものと言えるだろう。

 ハウンドの不幸は、大和のバトルスーツはガチガチの近接特化タイプであることを知らなかったことにある。

 もし仮に先ほどまで矛を交えていたフェザーや、大和のバトルスーツの底知れぬパワーを察知したホーンが忠告していたらもっと違った展開になっていたかもしれない。

 しかし現実はそうはならず、ハウンドは以前にセブンが懸念した平凡な肉体能力しか持たないという弱点をを突かれてしまった。

 戦闘用犬による連携攻撃や、超音波による中距離攻撃といった得意技を見せることなく、リベリオン最新型の怪人であるハウンドはただの元戦闘員によって敗れ去った。











「"あー、スッキリした…"」

「"いやー、馬鹿が自滅してくれて助かりましたねー。

 しかもこいつ、前にお母さんを馬鹿にした奴の怪人ですよ。 きっとお母様も大喜びですよ!!"」

「"博士がそういうことを気にするタイプか…"」

「"甘いですよ、マスター。 あの人は研究関係だけは極めて粘着質な性格になりますからねー"」


 まずは怪人を一体を倒したことで喜び合う主従は、内臓通信機で軽口を叩き合いながら戦闘態勢を維持していた。

 何故なら仲間が倒されたことで本気になったのか、他の怪人たちの空気が変わった様子がひしひしと伝わってきたからだ。

 先ほどまでホーンを除いた怪人たちは自分たちの勝利を確信しており、大和の戦闘は作戦失敗の鬱憤を晴らすための余興でしか無かった。

 そのため戦術的的にはメリットなど全く無いタイマンなんて真似も見逃し、ハウンドと大和の戦いを能天気に観戦をしていた。

 しかし流石にハウンドが一撃で倒されたことで目が覚めたの怪人たち、欠片の油断も感じさせない表情を大和に見せる。

 最早無駄口を叩くつもりも無いらしい怪人たちは、無言のままジリジリと大和との距離を詰めていく。


「グラァァァァッ!!」

「クァァァァァッ!!」


 一瞬の空白の後、フェザーの上空からの急降下攻撃とホーンの突進による同時攻撃によって再び戦いの火は切って落とされた。









「クッ、硬イ」

「はははは、俺の甲羅はそう簡単には破壊出来ないぞ!!」


 ハウンドのワンマンプレイとは打って代わって、怪人たちは巧みな連携プレイで大和を翻弄していた。

 先ほどと同じようにフェザーは空中からの急降下攻撃で大和を狙い、それを避けたと思えばホーンの突進が迫ってくる。

 兎に角、数を相手の数を減らすために狙いやすい地上に居るホーンを攻撃しようと思えば、絶妙なタイミングでトータスが割り込んで来てしまう。

 トータスの甲羅の硬度は凄まじく、ハウンドを一撃で沈めた大和の全力攻撃を何度受けてもビクともしなかった。

 何回も甲羅を叩いた感触からそれが絶対に壊せない訳では無いことは解る、恐らく後数十発くらい殴れば破壊も可能だろう。


「余所見をしている暇はあるかぁぁっ!!」

「チィ!!」


 しかし相手は一体では無いのだ、トータスに気を取られ過ぎるとホーンやフェザーに手痛い一撃を与えられてしまう。

 ホーンの突進攻撃を紙一重で回避した大和は、すぐさまファントムのサポートを受けながら三体の怪人たちの位置を確認した。

 複数の怪人の行動を同時に把握できるほどの経験が無い大和の生命線は、彼の頼れる相棒のサポートにあった。

 狙われることを避けるために密かにステルス状態に移行しているファントムから送られる戦術情報によって、大和は三体の怪人たちの連携攻撃を凌いでいた。

 それでも状況は大和にとって不利だった、今の所大和はフェザーとホーンの猛攻を凌ぐのに精一杯であり、数少ない反撃のチャンスもトータスによって完璧に防がれる。

 致命的な直撃こそ避けているものの、じわりじわりとダメージは蓄積されておりスーツの耐久力が限界を迎えつつあった。

 





「…このままでは埒が明かないな、どうする?」

「流石にこれ以上時間を掛けるのはまずい…。 不本意だがあれをやるぞ」

「仕方ないか…。 おい、戦闘員!!」


 しかし追い詰められているのはリベリオンの怪人たちも同様であった。

 このまま戦っていれば確実に勝利を掴める筈の怪人たちが、どうして追い詰められているのか。

 その答えは彼らが作戦を実行してから、今まで経過した短くない時間に理由があった。

 リベリオンはこの大規模な素体捕獲任務のために、最大の障害であるガーディアンを偽の作戦行動で本命の△△から引き離す作戦を実行していた。

 そして怪人たちは今度は逆に大和によって△△から引き離されて、作戦に台無しにされると言う皮肉な結末を迎えることになったのだ。

 兎に角、ガーディアンが△△に来れないのはリベリオンの偽作戦に釣られたからであり、そのことに気付いた彼らが△△に急行するのは明白だろう。

 時間的に既にガーディアンが何時現れてもおかしくない状況になった△△で、怪人たちは選択を迫られていた。

 一つは大和のことを無視して帰還する選択であるが、作戦を台無しにされた上でハウンドまで倒した大和を見逃すという考えは既に怪人たちの頭には無かった。

 そのため怪人たちはもう一つの手段、お手軽に正義の味方を倒せる悪の組織らしい行動を取ることにしたのだ。

 










「…さて、一応お決まりの台詞を言った方がいいのかな。

 動くな、動くとこの女の命は無いぞ」


 戦闘員に命じて囚われていた人間の集団から一人の女性を連れ出したフェザーは、その女性の首筋に腕に生えた爪を突きつけた。

 悪の組織としてはオーソドックスな手法、無力な一般市民を人質に取るという非常に性質の悪い手段を取ってきたのだ。

 恐らく怪人たちはこの選択肢を考慮に入れていたために、わざわざ△△に残った人間たち捉え続けていたのだろう。

 怪人たちの視点では、大和はこの場に捉えられた人間たちを救うために現れた命知らずの阿呆である。

 そのため人間たちを人質に取れば、大和の行動を制限できると考えるのは自然な流れであろう。






「オ前ラ…」


 大和は動くことは出来なかった、何故なら不幸にも人質にされた女性はよりにもよって母の霞であったのだ。

 他の人間が人質なっていれば、人質を見捨てるという選択肢を取ることが出来たかもしれない。

 しかし本来の目的である母親を盾にされた大和は、決して彼女を見捨てることは出来なかった…。

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