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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2章 欠番戦闘員
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15. 作戦


 母を救い出すために大和とファントムが考えた作戦はシンプルだった。

 まずは捕獲した素体の輸送用車両に対して破壊工作を行い、騒ぎを起こして怪人たちをおびき寄せる。

 そして怪人たちを引き付けている間に、密かに囚われた人たち元に向かって彼らを逃がすというものである。

 輸送車を破壊することで大和の母を含んだ人間たちがリベリオンに連れて行かれる心配も無くなるため、即興で考えた割には出来のいい一石二鳥の作戦であった。

 バトルスーツの性能と輸送車の構造を把握するファントムの的確な指示によって、車両の破壊工作は問題なくで完了できた。

 ついでに大和は車両を運転していた戦闘員、出会いがしらに気絶させたそれを無理やり立たせて戦闘番号を消した予備の覆面を被せておくという小細工も行っていた。

 あの蜥蜴怪人から既に戦闘員番号を消した戦闘員の存在はリベリオンに知られている筈なので、大和はそれを逆手に取って自身の身代わりを立てたのだ。

 この時の大和の脳裏には、過去にリベリオン脱走時に自身の身代わりを用意したセブンの姿を思い出していたかもしれない。

 以上の作業を終えた大和たちはファントムのステルス機能で姿を消し、密かに怪人たちが△△から離れる瞬間を待った。

 






「"思ったより上手くいったな"」

「"本当ですねー。 まさか怪人たちがここまで間抜けだったなんてファントムちゃんびっくりです!"」


 怪人たちと入れ違うように△△へ大和たちが到着してから、見張りとして残っていた戦闘員たちが全て敗れ去るまでそう長くの時間は掛からなかった。

 全ての怪人たちが居なくなった△△に、怪人用バトルスーツを纏った大和に勝てる戦力は残されていなかったのである。

 大和としてはあの小細工で全ての怪人が釣れるとは思って無かったため、現在の状況に拍子抜けといった感情さえ覚えていた。

 せめて半分くらいの戦力が削れることを願って実行した作戦は、大和の予想以上の効果を発揮したようだ。


「は、早くこんな所から逃げるぞ!!」

「ちょっと、置いてかないでよ!?」

「痛っ!? 押すなよ!!」


 見張りの戦闘員たちが全て地面に倒れ臥し、自由を取り戻した人間たちはこの危険地帯から逃れようと四方八方に駆けて行った。

 自分の命が余ほど惜しいのか囚われていた人間たちの殆どは、周囲の人間を押しのけながら必死に逃げようとしている。

 他者を省みず自己にのみ執着する危機的状況で現れる人間の本性を、大和は目の前で様々と見せられていた。


「本当にありがとう。 おかげで助かったよ!!」

「欠番さん、こっち向いて!!」

「早ク逃ゲロヨ…」


 人間たちの中には自分たちの救い主である大和に対して、わざわざ立ち止まって礼を述べる物好きも居た。

 度胸のあるのか馬鹿なのか判断に困るが、この状況においてスマフォで大和の写真を撮る若者まで居る始末だ。

 大和は呆れ気味な調子で早くこの場から逃げるようにと、無愛想に対応するのだった。







「大丈夫ですか、捕まってください」

「あ、ありがとうね…」

「おい、こっちも手伝ってくれ!!」


 しかし△△で囚われていた全ての人間が、自分のことしか考えていない輩と言う訳では無かった。

 中には他人を思いやる人間も少なからず存在しており、彼らは率先して独力での避難が難しい人たちに手を貸していた。

 イベントに生産者サイドとして参加した年配の方たちや、怪人たちの示威行為によって傷つけられた人たちの手助けをする彼らの行動は、人間の善性を示す立派な行動と言えるだろう。


「"母さんはまだ逃げられていないのか?"」

「"あの様子だともうちょっと掛かりそうですね…"」

 

 そして心ある人間の中に、母の霞が混ざっている姿を見つけた大和の心境は複雑なものだった。

 霞は戦闘用犬によって足を傷つけられた女性に肩を貸している、家をを出る時には綺麗だった彼女のスーツは今では土や血で汚されていた。

 自分の母が他人を気遣える出来た人間であることを知ったことは誇らしい、しかし今は何時怪人たちが戻ってくるか解らない危機的な状況なのだ。

 怪我人や老人の足に合わせて遅々として進まない避難状況を見守る大和は、そんな物を見捨てて早く逃げて欲しいと母に願ってしまうのも仕方ないだろう。

 母親との繋がりによって自信の正体に気付かれる危険性が有るため、表立って霞を助けられない大和は焦燥を胸に抱きながら母の姿を見つめていた。










「マスター、しゃがんで!?」

「っ!?」


 突然のファントムの警告に従って、大和は即座に半ば倒れこむように上半身を地面に近づける。

 すると先ほどまで頭部があった箇所に何かが高速で通り過ぎる、ファントムの警告が数秒遅かったら大和の頭部はもがれていたかもしれない。

 顔を上げて先ほど頭の上を通っていた方を見れば、そこには空からこちらを見下ろす鳥型怪人フェザーの姿があるでは無いか。

 大和の策略に嵌って輸送車のある場所までおびき寄せられた怪人たちの内、空を自由に飛びまわれるこの怪人だけはいち早くこの場所に辿り着いたようだ。

 フェザーは緩やかな降下速度で地面に着地し、怒りを露にして大和に鋭い鳥の目を向ける。


「やってくれたな…、お陰で我々の作戦は水の泡だ」


 既に囚われた人たちの大半が逃げ出した△△の状況を見たフェザーは、自身に課せられた任務の失敗を知る。

 再びあの数の素体を集めるのには時間が掛かり過ぎるし、その間にガーディアンたちが此処に集まってしまうだろう。

 内心の激情をそのまま表すかのように、フェザーは羽と一体化した腕を大きく羽ばたかせて大和を威嚇する。


「"…母さんは?"」

「"駄目です、囲まれています…"」

「"くっ…"」


 大和の目的はあくまで母である霞の救出である、その目的を果たせればこの場で怪人と戦う必要は全く無いのだ。

 最悪、母を連れて逃げることを考えた大和は、フェザーと睨み合いながらファントムに母の動向について確認を取った。

 しかし時に既に遅く、何時の間にか現れたハウンドの戦闘用犬たちが残った人間たちを囲んでおり、彼らの逃げ道を防いでいたのだ。

 戦闘用犬たちがこの場に戻ったということは、その主であるハウンドや他の怪人たちもそう遠くない内に現れるだろう。

 取り残された面々の中には霞も残っており、恐れていた事態が現実の物になってしまった大和は仮面の中で顔を歪めた。










 母を救うために大和に残された手段は、他の怪人たちが現れるまでに速攻でフェザーと戦闘用犬を排除することしか無かった。

 幸運にも戦闘用犬たちは△△に残された人間たちを見張るための行動しか取らず、今の所は大和に襲い掛かる様子は無い。

 恐らく戦闘用犬たちはハウンドの指示が無ければ動くことは無く、フェザーと共に先行した犬たちは捕獲した素体の逃走を阻止するための命令しか受けていないのだろう。

 一対一であれば怪人を倒すことは可能であると、今までの蜥蜴怪人との戦闘経験から判断した大和はフェザーとの戦闘を開始した。

 しかし当初の思惑に反して、大和はフェザーに思わぬ苦戦を強いられてしまう。


「クァァァァッ!!」

「くっ!?」


 鳥型怪人であるフェザーはその最大の特徴である飛行能力を駆使して、大和に対して空中からの急降下攻撃を敢行する。

 空から降ってくるフェザーの両足に備わる鋭い鉤爪に対して、大和はファントムの指示を聞きながら何とか避け続けていた。

 常に安全地帯である空中に身を置きながら、攻撃の瞬間にだけ大和に近づくヒットアンドアウェイに終止するフェザーに対して大和は防戦一方であった。


「ふんっ、手も足も出ないようだな!!」

「"ファントムゥゥゥッ、このスーツには何か遠距離攻撃とかは無いのかぁぁぁっ!!"」

「"そんな余分な物をあのお母様が付けている訳無いでしょう"」

「"本当かよ!? だってあの白木とかって奴は、このコアを使ったスーツでがんがん狙撃とかしてたよな!!"」

「"そういう機能は全部オミットして近接特化に魔改造されているんですよ!!"」


 今もフェザーの鉤爪を両腕に嵌めたガントレットでどうにか捌くものの、反撃試みようとしてもフェザーは既に大和の上空に退避している有様だ。

 反撃も出来ずに一方的に嬲られるこの状況に大和は、内臓の通信機越しに相棒に対して憤りをぶつける。

 大和の纏う怪人用バトルスーツに遠距離攻撃用の武装が無いため、空中に退避するフェザーに対して何も出来ないのだ。

 怪人用バトルスーツは怪人の肉体能力を何よりも重視にするセブンによって、コアの全リソースを肉体能力の強化にあてている。

 それ故に近接戦闘では怪人相手でも互角以上に殴り合える能力を手に入れたが、代償として近接戦闘が出来ない状況では無力化されてしまう欠点があった。

 元々は遠距離専用のバトルスーツで使われており巨大な炎の弾丸を生み出すことも出来たコアも、セブンの調整によって今では手足に炎を纏わせる程度の能力しか使用できない。

 八方塞りの状況になった大和は繰り返されるフェザーの急降下攻撃に、何の打開策も立てれずにただ受け続けた。

 そんな防戦一方の大和の様子を、戦闘用犬に囲まれて怯える逃げ遅れた人間たちは絶望した表情で見守っていた。











「"マスター、右後方!?"」

「くっ!?」


 何度目になるか解らないフェザーの急降下攻撃を間一髪かわした大和は、次の攻撃に備えて空中に退避した怪人の方を注視していた。

 しかしファントムの警告が耳に入った大和は指示された方向に視線を向けて、そこで直前まで迫ってきている巨大な角の存在に気付かされる。

 自慢の角を突き出して突進するサイ型怪人ホーンの急襲に、咄嗟に大和は両腕をクロスさせてそれを受け止めようとした。

 クロスさせた大和のガントレットとホーンの角が激しくぶつかり合い、金属が打ち合った甲高い音が辺りに響いた。

 

「ほう、おれの突進を受け止めるか」

「馬鹿力ガ…」


 突進を正面から受けた衝撃の余波で数メートルほど後退したものの、大和はホーンの攻撃を受け止めることが出来た。

 ホーンは並みの怪人でも防ぐことが難しい自身の突進を受け止める大和に、面白いものも見たかかのように獰猛な笑みを見せた。

 対して大和はかつて受けたリザドの拳とは比べ物にならない重さの一撃に、ホーンに対しての警戒心を露にする。

 視線を外さないまま数歩下がってホーンは大和から距離を置き、その横に先ほどまで空中に居たフェザーが降りてきた。

 どうやら大和が悪戯に時間を浪費する間に、ホーンが戻ってきてしまったようである。


「グルルルルルッ、この屈辱を万倍にして返してくれる」

「良かった、まだ獲物は生きているようだな…」


 そして現れた怪人はホーンだけでは無かった、彼の二人から二体の怪人たちが姿を見せた。

 戦闘用犬を引き連れた犬型怪人ハウンドは、犬歯をむき出しにして唸り声を上げる。

 巨大な甲羅を背負う亀型怪人トータスは、何とその甲羅を取り外し盾のように大和に向けて構えた。






 怪人との戦闘を避けつつ母を救おうとに立てた大和の作戦は、皮肉にも霞の他者への献身的な行動によって失敗に終わったようだ。

 こうして大和は、四体の怪人を相手取る最悪の展開を迎えることになってしまった。

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