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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2章 欠番戦闘員
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6. 素体捕獲任務


「本当にこの道であっているの?」

「大丈夫だよ、ちゃんと調べたんだから」


 深夜、とある山道から少し離れた森の中に一組のカップルの姿があった。

 恐らく物好きなカップルが二人の思い出とやらを作るために、わざわざ車でこんな人気の無い場所に来たのだろう。

 二十台前半の男女は懐中電灯の明かりを頼りに、女が男の腕を組みながら木々の間を歩いている。

 流石に舗装はされていなが、大勢の人に踏み荒らされているらしい獣道は歩きやすく二人は淀みない足取りで進んでいた。

 密かにデートスポットして噂されているこの場所で、これから二人は一生記憶に残る思い出を作ることになる。

 しかしその思い出は彼らが期待するようなものでは無く恐怖の彩られた記憶を刻むことになってしまう。






「いい所だろ、ネットで密かに話題になった穴場スポットなんだよ」

「ええ、静かな場所…」


 森の奥に広がる木々が生えていない広場に辿りついた男女のカップルは、その場所で夜空に浮かぶ月を見上げていた。

 男は女の肩に手を回しながら、静寂に包まれた森の空気を堪能していた。

 仮に一人でこんな寂しい場所に来たのなら、夜の森の不気味さに耐え切れずにすぐに引き返しただろう。

 しかし男女が揃えば、この雰囲気も逆に二人の愛に刺激を与えるスパイスにしかならないようだ。

 彼らはお互いに夢中になって気付かなかった、彼らの背後に並ぶ木々の陰から黒ずくめの集団が現れたことに…。











「な、なんだんだ、お前ら!!」

「キィィィッ!!」

「いやっ、助けて!?」

「離せ!? こんなことをしてただでは…」


 彼らが背後から忍び寄る黒ずくめたちの存在に気付いたのは、既に黒ずくめたちは彼らに手が届く距離までに近づいていた。

 異変を察知した男女は慌ててその場から逃げようとするが、それに先じて黒ずくめたちが奇声とともに俊敏に襲い掛かってきた。

 四方から襲い掛かる黒ずくめたちの異様に、女の方は悲鳴を上げてその場に蹲ってしまう。

 結局、数の暴力に成す術が無く男女はそれぞれ黒ずくめたちに腕を取られて拘束されてしまう。


「手荒に扱うなよ、下手に傷を付けたら後で文句を言われる。 抵抗できないようにさっさと縛ってしまえ」

「キィィッィッ」

「ひっ、化け物!?」

「ふっ、人間ども、貴様たちはこのリザドの復活のための生贄となって貰おう」


 木々の陰からから新たな人影が現れ、黒ずくめたちに指示を下した。

 新たに現れた人影を正面から見たカップルの片割れは、その異形の姿に驚きの声をあげる。

 そもそもそれを人と呼称するのが間違いなのだろう、それは蜥蜴をそのまま人型にした怪人と呼ばれる存在だったのだ。

 赤い鱗に覆われた硬質な体を持ち、蜥蜴を思わせる顔立ちをした怪人は尊大な態度で囚われた男女の姿を一瞥する。


「初仕事は上手くいきそうだな…。

 最下層から脱したとは言え、元の地位に戻るまで何時まで掛かるのやら…」


 自身をリザドと名乗る異形の怪人、それは以前に大和がリベリオン日本支部で出会った蜥蜴型の怪人だった。

 かつてガーディアンに返り討ちに遭い、ペナルティとして組織の掃除係にまで降格していた筈の怪人が何故此処に居るのだろうか。

 実はこの怪人は現在、組織の掃除係から研究用の素体回収係への出世を果たしていたのだ。


「いや、風は俺の方を向いている。

 こんなにも早く底辺から脱出できたことは幸運と言ってもいいだろう、この件に関してはガーディアンに感謝せねばな…」


 本来ならばリザドは、今も掃除係という最底辺の屈辱を味わい続けている筈だった。

 しかし消耗したリベリオンの現状が、彼を掃除係と言う無益な立場に留めていることを許さなかった。

 先のガーディアンのリベリオン日本支部への襲撃の折、少なくない怪人や戦闘員が被害にあった。

 日本支部の残党は他の支部と合流してどうにか組織を立て直すことは出来たが、消耗した戦力は未だに回復していない。

 戦力を取り戻すことが急務となり、その一端を担うためにリザドは掃除係から素体回収係となったのだ。

 素体回収係とは文字通り、怪人や戦闘員の素体となる人間を調達するのが主任務となる。

 哀れにもこの男女は怪人や戦闘員の素体とされるために、リザドによって捕獲されてしまった。











「止めてくれ!? 金なら出す、だから見逃して…」

「許してっ!? お願いぃぃぃぃ」

「おい、そのうるさい口を黙らせろ」

「キィィッッ」


 喚き続ける男女の声が癇に障ったのだろう、リザドは戦闘員たちに彼らの口を塞ぐように命じる。

 指示に従って一人の戦闘員が、抵抗を続ける男女の口に猿轡を噛ませようと背後に回る。

 しかし戦闘員はリザドの指示を完遂できなかった、何故ならその戦闘員は何時の間にか横に立っていた他の戦闘員によって殴られてしまったからだ。

 

「キィッ!?」

「えっ、何…」

「なんだと!?」


 突然の不意打ちに対応しきれず、無防備のまま殴り飛ばされた戦闘員が地面に倒れる。

 戦闘員たちの仲間割れに驚く男女たちは、新たな状況に付いていけないようで呆然とした様子だ。

 それは怪人リザドも一緒だろう、戦闘員の反乱という有り得ない自体に直面として思考停止してしまったリザドは、その戦闘員が男女が縛られたロープに手を掛ける所を見ているしか無かった。


「サッサトニゲロ」

「え、ええ…」

「ま、待ってくれ、俺も…」


 戦闘員を殴り倒した戦闘員は、あろうことか先ほど他の戦闘員が縛り上げたロープを解いて男女のカップルを解放してしまう。

 開放されたカップルに逃げるように命じる戦闘員、その声は機械で作られたかのような無機質な響きだった。

 一瞬呆気に取られた様子のカップルだったが、すぐに逃げるチャンスだと理解して急いで森の中に駆けて行く。

 森を抜けた先には彼らが此処に来る時に使った車がある、一刻も早くこの状況から逃れるために彼らは全力で走った。


「に、逃がすな! 追え…」

「悪イガ此処ヲ通スワケニハイカナイ」


 この場から逃げる男女の姿を見て遅まきながらに状況を理解したリザドが、彼らを逃さないために戦闘員たちに追跡を指示する。

 しかし怪人と戦闘員たちの逃げる男女の間に、先ほどカップルを逃がした戦闘員が割り込んできた。

 反乱を起こした戦闘員は男女たちの盾になるように、リザドたちの前に立ちふさがる。


「戦闘員が喋っただと!?

 貴様は戦闘員じゃ無いな、何物だ!!」

「ヤッパリ怪人ハ戦闘員ノコトヲロクニ気ニシテイナンダナ。

 一人部外者ガ紛レ込ンデモ、全然気付キモシナインダカラ…」


 暗い森の中で見分けるのは困難だがよくよく目を凝らせば、リザドに立ち塞がる戦闘員の覆面には戦闘員にそれぞれ割り振られている筈の戦闘員番号が塗りつぶされている。

 番号の内容まで記憶はしていないが、少なくともリザドが連れて来た戦闘員たちの中には覆面の戦闘員番号を塗り潰していた者は居なかった。

 どうやらこの戦闘員はリザドが連れて来た戦闘員で無く、何時の間にか彼らに紛れ込んだ偽者のようだ。


「ふん、どうやらしてやられたようだな…、だがこの後はどうする?

 悪いが貴様を逃がすつもりは無いぞ、何故この場所に来たのか、何故俺たちの邪魔をするのか徹底的に聞かせて貰う」

「サテ、此処カラガ本番カ…」


 偽戦闘員とリザドが会話をしている間に男女の姿は森の奥に消え、一目散にこの場を離れて死地を脱することに成功した。

 男女が向かった森の方を忌々しげに見たリザドは、己に課せられた任務の失敗を理解する。

 リザドは名誉挽回のためにこの事態を引き起こした偽戦闘員を逃すまいと、手振りで戦闘員たちを偽戦闘員たちの周りに配置した。

 怪人を正面に置き、周囲を戦闘員に囲まれてしまった偽戦闘員は絶体絶命の状況に陥ってしまう。











「イヨイヨ出番ダゾ、…ファントム!!」

「"待ちくたびれましたー!"

 "いよいよマスターとファントムちゃんの初戦闘、今日は張り切っていきますよー!!"」


 戦闘員と怪人に囲まれた偽戦闘員はこの死地を脱するため、高らかに彼の相棒に呼び出す。

 すると偽戦闘員のすぐ横の何も無い空間から突如、黒いバイクらしき存在が現れたではないか。

 ステルス状態を解除して姿を見せたファントムは張り切った様子で、通信機越しに偽戦闘員へ語りかけてくる。


「なっ!?」

「…変、身」


 突然現れたファントムの姿に驚きの声を漏らすリザド、それを尻目に偽戦闘員は己の体に埋め込まれたある機能を起動させる言葉を呟いた。

 偽戦闘員の言葉をトリガーに彼の中に埋め込まれたインストーラが目覚め、腹部辺りの位置に楕円形をした機械が浮かび上がる。

 楕円形の機械の中心に嵌められた正方形の赤いコアから光が生み出され、赤い光が偽戦闘員の体に包まれていく。

 やがてその赤い光は偽戦闘員の首から下を覆い、偽戦闘員の体の上に戦闘用のバトルスーツが展開した。

 光が止み、偽戦闘員の衣装は戦闘員特有の黒ずめのそれから、赤い炎を印象付けるバトルスーツに変わっていた。

 基本は黒衣スーツだが四肢には炎を模した赤色の紋様が浮かび、手首まで覆う赤い手甲、胸部を覆う赤いブレストアーマーを身に着けている。

 そして腹部に浮き上がった内臓型インストーラの中心に、赤いコアが爛々と輝いている。


「こ、これはガーディアンの!?」

「"マスター、どうぞ"」


 バトルスーツの装着が完了したことを確認したファントムは、シート部分をスライドさせて自身の内にある格納スペースを開いた。

 偽戦闘員はファントムの格納スペースに手を伸ばし、そこから後頭部のスペースが空いている奇妙なフルフェイスのヘルメットを取り出す。

 本来、フルフェイスのヘルメットは視界を確保するため正面の部分は透明になっている筈である。

 しかし偽戦闘員の取り出したそれは透明になっている部分は無く、完全に装着者の顔を覆う形状になっていた。。

 偽戦闘員にバトルスーツの姿に合わせたのか、ヘルメットは黒をベースに赤の文様が浮かび、目に当たる部分には赤い大きな瞳が据え付けられている。

 偽戦闘員は取り出したヘルメットを戦闘員用の覆面の上からそのまま装着すると、ヘルメットから新たなパーツが生まれ後頭部の空間を覆って頭部全体をカバーした。

 全身をバトルスーツとヘルメットで包んだ偽戦闘員の姿に、既に戦闘員としての面影は残っていなかった。

 輝く赤いコアの光が暗い森の中で一際目立ち、彼を囲む怪人たちに威圧感を与えた。


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