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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第1章 リベリオン
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13. 脱走計画


「リベリオン、今日こそ正義の鉄槌を下してやる!!」

「人間風情がいい気なるな、返り討ちにしてやるわ!!」


 リベリオン日本支部の周囲でガーディアンの戦士とリベリオンの怪人が激しく矛を交え、両組織の戦闘員たちが死屍累々と倒れている戦場が広がっていた。

 形勢としては今回の襲撃のために十分な数を揃えてきたガーディアンが優勢だが、リベリオンも惜しみなく怪人を戦場に投入することとで何とか拮抗させていた。

 ある所ではリベリオンの怪人の豪腕がガーディアンをなぎ払い、別の所ではガーディアンの戦士の剣がリベリオンを切り裂く、まさに人外の戦いがこの場所で繰り広げられている。

 そんな中で戦場から逃げるように離れていく、場の雰囲気にそぐわない一台のマシンがぽつんと存在していた。

 しかし戦場に居るガーディアンとリベリオンの面々は、何故かそのマシンの姿が目に入っていないようだ。

 激しい戦闘の最中に偶然にも数十センチ単位でマシンに近寄った怪人でさえ、側にあるマシンのことが見えていないらしい。

 戦闘中の彼らは終ぞ、マスクの下で冷や汗を流しながらマシンを操る戦闘員と、その後ろにしがみ付く一人の少女の存在に気付く様子は無かった。








「"ふっふっふ、これがファントムちゃんの秘密機能の一つ、ステルス走行です!

 亡霊の名は伊達じゃ無いですよ!!"」

「"ああ、それでファントムって名前だったのね。 でもそれならゴーストとかの方がそれっぽいんじゃ…"」

「"だってゴーストよりファントムの方が強そうだし、響きが格好いいじゃ無いですか!!"」

「"自分で名前を付けたのかよ、お前は…"」


 セブン謹製のバトルビークル、ファントムの誇る機能の一つに自身と搭乗者の姿を完全に周囲と同化させるステルス機能が存在していた。

 ファントムは周囲に霧のような物体で覆い、霧から周囲の背景と合わせた映像をリアルタイムで描画させることで、最新技術を用いた忍法隠れ蓑の術を行うことができるのだ。

 勿論、この霧はレーダーやら何やらを遮断する機能も持っており、視覚的にも電子的にも覆い隠す完全なステルスを実現していた。

 9711号はこのファントムの装備を使って、セブンと共にリベリオンからの脱出を試みていた。

 何故、ガーディアン諜報員の仕掛けた爆弾で死んだ筈の彼らが此処に居るのか。

 それを説明するためには9711号がファントムに脱走を持ちかけられた時まで、時間を遡らなければならない。

 













「"に、逃げるって…、一体どういう訳で…"」

「"理由は簡単です、このままだと私は爆弾代わりにさせられるんですよ!?

 酷いですよね、戦闘用ビークルのファントムちゃんを一回も戦闘に使わずに爆弾にするなんて!!"」

「"爆弾って…"」

「"実はですね…"」


 9711号が格納庫で手入れをしている所で、ファントムはいきなり組織の脱走を持ちかけてきた。

 突然の爆弾発言に驚く9711号に対して、ファントムは自身が脱走を企てた理由を話し始めた。






 つい先日、ファントムは暇つぶしに組織の監視カメラを通してとある会議を盗み見ていたらしい。

 そしてファントムはその会議で、ある作戦が承認されたことを知ってしまったのだ。

 密かに爆弾を仕込んだファントムをわざとガーディアンに奪わせて、ガーディアンの基地内で爆発させるという無謀な作戦を…。

 今までファントムのような戦闘用マシンをリベリオンが運用したことは無かったため、ガーディアンがファントムに注目することは間違いない。

 確かにガーディアンに偶然を装ってファントムを渡せばすぐに破壊するようなことはせず、まずは調査を行う可能性が高いだろう。

 しかし幾らなんでもガーディアンがファントムの内部に仕込んだ爆弾に気付かずに、基地まで運び込む可能性は低い筈だ。


「"ぶっちゃけこの作戦はお母様への嫌がらせで立てられた作戦なんです。

 お母様って人間であるにも関わらず組織内で結構高い地位に居ますから、主に怪人連中から嫌われてますしねー"」

「"基本的に怪人って人間を見下しているからなー、一応改造手術を受けている戦闘員でさえ眼中に無い感じだし…"」


 つまりこの成功確率が低い作戦は、ある意味セブンに対する当てつけのために計画されてしまった。

 セブンはここ半年ほど怪人の新規設計を行っておらず、スランプに陥った天才に追い討ちをかける下衆な考えを企てた輩が居るのだろう。

 ファントム自体も9711号が現れるまでは格納庫で埃を被っていたので、不用品の始末も付けれて一石二鳥とでも思ったのかもしれない。

 ファントムはこんな馬鹿げた作戦で自身がスクラップになるのは嫌らしく、こうして9711号に対して脱走計画を持ちかけたのだ。


「"この作戦は博士は知っているのか? あの人がこんな馬鹿げた話に…"」

「"お母様が私を売るような真似をする訳ないですよ!!

 勿論、この作戦はお母様抜きで決定された作戦です"」

「"それなら博士にこのことを伝えれば…"」

「"無理ですよ、この作戦は既に決定事項として、本部の承認を得てしまっています。

 今更お母様が文句を言っても組織の決定は覆りませんよ…"」


 短くない期間ではあるがファントムの面倒を見てきた9711号は、このマシンに対して愛着のようなものを感じていた。

 確かにファントムをこのまま死なせるのは惜しい、しかしそのためには組織を裏切らなければならない。

 記憶が無く外の世界にあても無い9711号にとって、この組織を抜けると言うことは自殺行為に等しい行動だろう。

 加えてリベリオンは悪の組織だ、平気で人間を攫うような連中が脱走者に対して慈悲を掛ける訳が無く、脱走者の悲惨な末路は容易に想像できてしまう。


「"少し考えさせてくれ…"」


 9711号はファントムの誘いに対して、明確な回答をすることが出来なかった。

 決断を先延ばした9711号は逃げるように、そそくさと格納庫を後にした。







「キィィ…」


 格納庫でファントムと別れた9711号は、重い足取りでセブンの研究室に戻っていた。

 部屋に戻ったことを知らせるため9711号は中に居る筈のセブンに声を掛けながら扉を開けた、その口から発せられた音は戦闘員特有の奇声だった。

 セブンによって埋め込まれた発生器により声を取り戻した9711号だが、その事実を組織外に漏らさないため普段は発生器のスイッチを切っている。

 通信機越しでファントムを会話するときなどは、声を出すと言うより通信機を通して意志を直接伝えている感じなのでまともに話すことが出来た。

 しかし今のように通信機越しで無く発声器を切っている状態では、9711号の声は今までと同じ戦闘員特有の奇声しか発せられないのだ。


「お帰り、9711号。 早速で悪いけどそこの資料をまとめて欲しい」

「キィィッ!?」


 部屋に入った9711号の視界には驚きの光景が入ってきた。

 毎日9711号が掃除していることもあり、それなり整理されている筈の研究室内が泥棒にでも入られたかのように散らかっていたのだ。

 綺麗にまとめられていた書類やファイルは床にばらまかれ、研究用の資料がまとめられているデスクの引き出しは全て開け放たれている。


「キィィィッ? キィィィィッ」

「うん? ちょっと待って、今スイッチを入れる」


 9711号はこの部屋に何か有ったのか問おうとするが、発声器が切られているためまともに喋ることができない。

 セブンは9711号が何かを言おうとしていることに気付き、端末の操作をして彼の発声器を起動させる。


「…博士、何なんですか、この部屋の有様は?

 まるで泥棒にでもあった見たいですよ、あぁ、折角掃除したのに…」

「荷物を選別する必要があった。

 それに安心して欲しい、もうこの部屋を掃除する必要は無い」

「えっ、選別って…。 どういことですか?」

「9711号、私はリベリオンを抜ける、あなたも着いて来て欲しい」

「なっ…」


 9711号はファントムと同じタイミングでセブンから組織の脱走を持ちかけれてしまう。

 驚愕の余り9711号は言葉を失い、黙々と持っていく荷物をまとめているセブンの様子を見ているしかなかった。


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