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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第1章 リベリオン
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10. 9711号


 その場所はある種の人間の業を感じさせる末恐ろしい所だった。

 部屋の中心には手術台らしき物が置かれ、壁際には9711号では何に使うか検討も着かない機械が沢山並んでいた。

 手術台付近の床にはまるでこの部屋に連れてこられた者たちの怨嗟を伝えるように、所々に血が飛び散った後が見える。

 自然の摂理に反して、人工的に人を超えた存在を作り出すリベリオンの闇を最も強く表す場所が此処にあった。


「イィィィッ…」


 リベリオン日本支部にある怪人製造用の施術室に連れて来られた9711号の胸に去来したものは、驚愕ではなく諦めであった。

 最初からセブンは言っていた、自分はあくまで研究対象であると。

 何時かはこういう時が来るだろうと予想しつつ、来て欲しくないと願っていた未来がとうとう9711号に訪れたのだ。

 恐らくかつての自分も此処で戦闘員に改造されたのだろう、9711号は有る意味での自分の第二の生誕の地に足を踏み入れた。

 

「…此処は怪人の製造に使われれる施設、戦闘員は此処では製造されない」

「キィッ!?」


 前言撤回、どうやら9711号はこの場所で生み出された訳では無いらしい。

 実は戦闘員は製造コストを削減するため、専用の製造ラインでまとめて製造されるのだ。

 施術室で1体1体丁寧に製造されれる怪人と違い、戦闘員は製造工場のラインのように流れ作業によって大量生産される。

 ワンオフである怪人と大量生産品である戦闘員、その差は製造の時点から大きく違うようである。








 予想をしていたとは怖いものは怖く、施術室に訪れた9711号の覆面の下に隠された表情は盛大に引きつっていた。

 先ほどから生きたまま己の体を切り開くセブンの姿が脳裏に思い浮かび、9711号の心臓は破裂しそうなほど激しく鼓動し、無意識に右手指を忙しなく動かしている。

 研究のためにならばあの悪の博士は喜々としてやるだろうと、有る意味でのセブンの研究への熱意を理解している9711号の内心は戦々恐々としていた。

 

「…安心して欲しい、今日はちょっとあなたの体を調べるだけ。

 軽い健康診断とでも思っていい」

「イッ? イィィィ…」

 セブンはそんな9711号の怯えに気づいらしく、土壇場でようやくこの場所を訪れた理由を話し始めた。

 別にセブンは9711号が考えているように、ここでこの彼女的に非常に使い勝手のいい戦闘員を遣い潰すつもりは無かった。

 それならば最初にそのように言っておけば9711号がここまで怯えることは無かったのだが、セブンにその辺りを気遣う機微が薄いのだろう。

 とりあえずここで人生が終わることが無いと理解した9711号は、気が抜けたのか盛大に奇声交じりの溜息を漏らした。


「…では此処に横になって」

「イッ!!」


 こうして9711号はセブンに言われるがまま手術代に寝そべり、麻酔によって一時的に意識を失なった。

 施術室でセブンの言う健康診断とやらが始まり…、次に9711号が目覚めたのはこの3日ほど後になる。











 眠っている間に移動させられたらしく、9711号は手術室でなくセブンの研究室内で目を覚ますことになった。

 目覚めた9711号は何時の間にか研究室に運び込まれていたベットから身を起こし、寝ぼけ眼で辺りを見回して自分が研究室にいる事を知る。


「目を覚ましたか、9711号」

「…は、博士? 俺は確か健康診断とかで…、て、あれ、何で声が…」

「博士?」


 研究室で仕事をしていたセブンは9711号の目覚めに気付いたのか、彼が寝そべるベットへと近づいてきた。

 まだ目覚めたばかり意識が朦朧としていた9711号はセブンの呼びかけに応え…、そこであることに気付いて驚愕する。

 何と戦闘員改造手術で声を失った筈の9711号が、何時もの奇声では無いまともな声を発しているでは無いか。


「な、なんで声が!? 博士、これは一体!!」

「落ち着いて、9711号。 これから説明する」


 記憶喪失の上で目覚めた時から奇声しか出すことができない状態だったため、己の声を初めて聞いた9711号は混乱の極みに陥っていた。

 セブンは慌てる9711号を抑えて、何時もの無表情を崩さずに淡々と話し始めた。






「…つまり健康診断と言う建前の元、俺の体を色々と弄くったんですか、博士は」

「建前ではない、あなたの機能に問題ないかチェックは一通り行った。

 ついでに業務の効率化のために発声装置を仕込んだだけ」


 やはり悪の秘密組織の女博士がただの健康診断で済ませる筈が無く、9711号の体は彼女の手によって色々と手を加えられたようである。

 今のところ声意外で9711号の体に変化は見られないが、実はロケットパンチを仕込まれたり何てことも有りそうで恐ろしい。

 しかしそのお陰でまともに会話が出来る声を取り戻せたのだから、9711号は幸運であると言える。


「まあ、喋れるようにしてもらったのは感謝しますけど…。

 博士は俺の喉を直してくれたんですね」

「それは違う、あなたの声帯は改造手術の時に完全に破壊されて修復不能だった。

 私は壊された声帯の代わりとなる装置をつけただけ、だから装置が壊れたら元通りになるから気をつけて欲しい」

「えっ、修復不能って…」


 戦闘員に施される改造手術は効率とコストダウンと優先しているために、言い方が悪ければ雑な施術が行われている。

 初めはセブンも9711号の声帯を修復しようと考えていたが、残念ながら彼女の技量を持っても9711号の声帯は回復不能なほどずたずたになっていた。

 戦闘員は消耗品であるというのがリベリオンの一般的な認識であり、何時壊れるか解らない廉価品にはそれ相応の扱いしかされないのだ。

 これが戦闘員ではなく怪人であったのなら、後で修復が可能なくらいには丁寧に施術が行われていただろう。

 仕方なくセブンは代案として、声帯の役割を果たす装置を9711号に取り付けることにした。


「その声はあなたの身体データを元に推測した合成音声、恐らくあなたの声帯がまともだったらそのような声だった筈だ」

「…本当ですか?

 普通に声が出せますし、これが機械のお陰っていわれても信じられないんですけど…」

「嘘ではない。 例えば装置の機能を停止したらこの通り」

「イィィィツ!? イィィィ、イィィィィィッ」


 セブンが何かの端末を操作すると、途端に9711号からまともな声が出なくなり以前のような奇声しか発せられなくなった。

 幾ら頑張っても先ほどのようにちゃんとした発音が出せず、否がおうにも9711号は先ほどの声が作り物であると理解させされる。


「これで解った?」

「は、はい…」

「それは良かった。 これで仕事の効率が上がる」


 一方的にセブンが指示するだけなら良いが、仕事の関係で9711号がセブンと意思疎通を行わなければならない場合もある。

 今まで9711号がセブンに意思伝達を行う時は、筆談という面倒な手順を行わなければならなかった。

 この無駄を解消するため、セブンは9711号にまともな声を取り戻させたのだ。


「一つ注意がある。 その装置はこの部屋の中でしか使用しないように」

「えっ、外だと装置を切るんですか? 折角喋れるようになったのに…」

「まともに喋れる戦闘員が居ると知られたら面倒になる。

 最悪不良品扱いされて問答無用で廃棄される可能性もあるが、それでも外でお喋りをしたい?」

「この部屋の中だけで結構です!!」


 そもそも自意識を持っている戦闘員というだけでもイレギュラーな存在なのである。

 それに加えて喋れるなんて要素も加わったら怪しいなんてものでは無いだろう、下手したらその場で廃棄処分される可能性だって否定できない。

 9711号は安全のために、セブンの提案に応じること即断した。











「それはさておき…、あなたに一つ聞きたいことがある。

 何故私を博士と呼ぶ、私は博士号を取った覚えは無い」

「いや、博士は博士じゃ無いですか。 ほら、悪の組織によく居る…」


 本来、博士と言う学位は博士課程を修了した者に授与されるものである。

 少なくとも見た目の年齢的に、そして立場的にも義務教育を受けているかさえ怪しいセブンが博士号を持っている筈は無いだろう。

 しかし記憶が無いくせに妙な知識は残っている9711号は、セブンが所謂悪の組織の博士ポジションの人間であると捉えており、自然とそのような呼称が出てしまったようだ。


「それならセブン様とかって呼んだ方がいいですか? やっぱり俺の立場的にも…」

「…好きにして」


 博士と呼ぶ理由が気になっだけで、別に呼称について拘りを持たないセブンは9711号に自分のことを博士と呼ぶことを許すのだった。












「"マスター、今日もいい天気ですね!

 …てっ、そこは地下だから天気がわかる訳無いって突っ込む所じゃ無いですか!! ボケ殺しは酷いですよー!!"

「"…"」

「"もう、次からは気をつけてくださいよ! ボケ殺しはされると結構キツイんですからねー"」


 セブンの健康診断を終えて仕事に復帰した9711号は、日課であるファントムのテスト走行をしていた。

 しかし覆面で隠されている彼の表情は、余りよろしく無いようだ。


「"あれ、マスター、ちょっと何時もより反応が鈍いですよ。 気をつけて下さいね、下手したら事故で死んじゃいますよ!

 あ、でもマスターと一緒にスクラップになれるなら本望…、なーんちゃって、ジョークですよ、ジョーク!!"」

「"…"」

「"やっぱり戦闘用として開発された身としては、戦いの果てにスクラップになるのが望みですかねー。

 マスターと一緒に特攻ってのも有りですけど、マスターを庇うために犠牲になるってシチュエーションもグッドですよ、グッド!!"」


 9711号のテンションを著しく下げている原因は、彼の頭の中に先ほどから聞こえてくる声にあった。

 セブンによって施された改造の一つとして、9711号の頭部には特殊な通信機が埋め込まれていた。

 先のクィンビーに強制連行された件を反省して、9711号がセブンと遠距離でも使用できる連絡手段を持たせることにしたのだ。

 今、頭部の通信機を通して延々と9711号に話しかけてくる声が、彼の頭の中に直接響いていた。


「"テストも重要ですけど、そろそろ実戦でも使って欲しいですねー。

 ああ、でもそのときはマスターじゃ無くて、他の怪人が私を使うのかー、うーん、ちょっと嫌ですねー"」

「"…"」

「"ねぇ、マスター。 どうせならこのまま正式に私のマスターになってくださいよー。 私、マスター以外の人間に操ってもらいたくありません。

 ほら、私って貞淑って言うか、やっぱり初めて乗ってくれた人にずっと仕えたいなー、なんて…"」

「"あのさ…、ちょっと黙っててくれないか、ファントム…"」


 いい加減、エンドレスで流れてくるトークにうんざりした9711号は、内臓の通信機を通じて無駄話を止めるようにファントムに命じる。

 先ほどまで延々と9711号に話しかけていた声の主は、今彼が乗っているファントムと言う名のマシンなのだ。

 先にも述べたが、ファントムはセブンが開発した戦闘用のビークルであり、この機体には搭乗者をサポートする人工知能が備わっている。

 ファントムには外部に音声を発する機能は備わっていないため、今まで己の意思を表現する術はランプの点灯などでしか行えない。

 実際、9711号が洗車をしてやった時などにはファントム嬉しそうにランプを点灯して喜びをアピールしていた。







「"えぇぇぇっ、まだ全然喋ってないのに!?

 もっと喋りましょうよー、まだまだ話したいことは沢山あるんですからー!!"」

「"いや、だからさ…"」


 しかし9711号が通信機を内部の備えるようになったことで話は変わった。

 ファントムには声を発する機能は無いが、通信を行う機能は存在したのである。

 こうしてファントムは通信機を通して直に9711号と会話が出来るようになり、思う存分に話し掛けてくるのだ。


「"もっとテンション上げましょうよ、マスター! 私はこんな絶好調なのに!!"」

「"なんでそんなに元気なんだよ、お前は…"」

「"だってマスターとお話できて嬉しいんだもん!

 マスターと一緒にお話しながら走れて、ファントムちゃんの気分はサイコー!!"」

「"はぁ…"」


 戦闘用に開発されたことも有り、黒い大型バイクの形状をしたファントムの見た目には何らかの威圧感を感じられた。

 そして戦闘用の名に恥じない化け物スペックに翻弄されてきた9711号にとって、ファントムはもっと硬いというか重厚なイメージを持った存在だった。

 しかしフタを開けて見たら、ノリが軽い女の子のような性格の人工知能がご機嫌な様子で話しかけてきたのだ。

 今までのイメージとのギャップが簡単に埋められない9711号は、ファントムのマシンガントークを聞き流しながらテスト走行を続けた。


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