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レイと魔法と奇妙な日常  作者: 沖田 了
第1章 はじまり
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第七話 隣村の病室

 夢を見ていた。

 肩を叩かれて振り返った先に、とても美しい女の人が立っていた。

 歳は、レイと同じか少し上。

 背は、レイよりも頭一つ分低い。

 ショートカットで、笑った顔にできるえくぼが印象的だ。

 その女の人は、手をレイの顔に添えるようにしてこう言った。



「こりゃダメじゃの、死んでしもうた。」



 レイが目を開けると、数人の男女が立ってレイを見下ろしていた。


 レイが目を開けたのを見つけ、全員が驚いたような顔をして見つめている。


「おいばぁさん、起きてるよ、この小僧。

 生きてる、生きてる、死んでないよ。」


 白衣を着た医師のような男性が、レイのベットの横の椅子に腰掛けた老婆の背中をたたき、レイを指差しながら言った。


「ありゃ、おかしいの死んだと思うたんだがの。」


 顔中シワだらけで100歳を超えるような老婆がゆっくりと呟くように言った。


「この村の魔法使いは、ばぁさんだけなんだからしっかりしてくれよ。」


 医師のような男性が、老婆をなじるように言った。

 老婆からの返事はない。なんと寝てしまったようだ。


「何はともあれ、生きててよかったよ小僧。」


 老婆からの返事が期待できないと分かったのか、男性はベットに横たわり呆気にとられているレイに話しかけた。


「災難だったな、まさか村が丸ごと潰されるなんてな。

 お前も体中傷だらけで、結構危なかったんだぞ。このばぁさんがミーユ(治癒魔法)使えなかったら助かったかどうか分からないからな。」


 男性は、医師の割に乱暴な物言いだ。

 男性は話ながら椅子に座った老婆の背中をバシバシ叩いている。


「先生、ミー婆様をそう呼ぶのはやめてください。この村の宝のようなお方なんですから。そんなぞんざいに扱わないでください。」


 今度は、男性と老婆が居るのとは反対側に立っていた看護士のような女性が、男性を叱りつけた。


「いいじゃねぇか、ばぁさんはばぁさんなんだからよ」


 男性は、悪びれた様子もなく笑っている。


「ほんと、先生はまったく。」


 看護士は溜め息をつくと肩を落とした。

 そして、手に持っているカルテに目を落とし、そからレイの顔を見て


「体調はどう。気分は悪くない。」


 と、問いかけた。

 看護士はとても明るい笑顔だ。


「はい、大丈夫だと思います。

 あの、ここはどこですか。なんで僕はここに居るんですか。」


 レイは、看護士の問いに答えると、おずおずと問い返した。


 レイは、看護士からあの事件の後の話を聞いた。




 イサカ村の大爆発は、山を挟んだ隣の村のタカネ村にも伝わっていた。

 タカネ村では、急いで若者達を集めイサカ村へ様子を見に行く準備を整えていた。

 そこへ、ハルが息を切らして現れ、レイを助けるように頼んだという。

 慌ててイサカ村へ行くと何もかもなくなった土地にレイが一人、血だらけで倒れていた。

 それから一週間、ここにいる三人がつきっきりで看病し、今日やっと目を覚ました。

 と、言うことだそうだ。



「ちょっと待って下さい。マリアさんは、僕の他にもう一人赤毛の女性が居ませんでしたか。」


 レイは、看護士の話を聞くと慌てて、言った。

 マリアのがあの場に居なかったという看護士の言葉が信じられなかった。


「いいえ、あなたが一人で倒れていました。

 イサカ村の生存者はレイ君とハルちゃんの二人だけです。

 残念ながらそのほかの人に関しましては、生存者はおろか、亡骸さえも見つかってません。」


 看護士は悲しそうに目を伏せ、そう言った。

 レイは、その言葉を聞くと、体に入っていた力を抜き目を閉じ体をベットに預けた。


「すいません、少し一人にしてもらえませんか。」


 レイは目を閉じたまま、静かにそう言った。

 心の中の整理が全くできていなかった。


「そうね、たった今意識が戻ったばかりだもんね。

 分かった、それじゃあ夕食の時間にまた来るからね。

 いい、絶対安静だからねベットから起きちゃダメよ。」


 そう言うと看護士は他の二人を連れて部屋を出ていった。

 それを見届け、レイはもう一度目を閉じた。


 師匠の裏切り、親代わり女性の死、故郷の消失

 15歳の男子が負うには重すぎる現実だった。


 精神的に疲れてしまったのか目を閉じてすぐ、レイ眠ってしまった。

 ついさっき一週間の眠りから覚めたばかりだとはとても思えない深い眠りだった。


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