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レイと魔法と奇妙な日常  作者: 沖田 了
第1章 はじまり
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第八話 日刊ライムズ通信

 レイが目を覚ますと、部屋がオレンジの光で満たされていた。

 どうやら夕暮れ時のようだ、病室の窓から大きな夕日が見える。


「レイちゃん」


 夕日とは反対側から、泣きそうに震えた声が聞こえたのでレイは振り返った。


「レイちゃんって呼ぶなって言ってるだろ。」


 そこには、長い黒髪に白い肌をした女の子が椅子に座ってレイを見つめていた。

 レイの妹のハルだった。

 ハルは目にたくさんの涙を溜めている、だが兄に涙を見せたくないのか涙がこぼれないよう懸命に堪えている。


「レイちゃんのバカ、すっごく心配したんだからね。

 村の様子を見に行ったきり全然戻ってこないし、心配して見に行けば血だらけで倒れてるし、一週間も目を覚まさないし、私がどれだけ心配したかレイちゃんには分からないよ。」


 ハルは泣いているのか、怒っているのか、それとも笑っているのか判断しにくい表情をしている。


「ごめん、こんなはずじゃなかったんだけどな。」


 レイは苦笑いして言った。ハルを安心させるためにわざとおどけたように答えている。


「生きててくれたから許す。」


 レイの気遣いがきいたのか、ハルの顔に笑みが現れた。

 笑うと同時に目尻から涙がこぼれたのはご愛嬌だ。

 

「でもレイちゃん、どうしてあんなところで倒れてたの。

 あの後爆発は起こらなかったよね?。」


 ハルはずっと聞きたかったことを、レイに尋ねた。この一週間ずっと謎だったのだろう、ハルは少し食い気味でレイを見つめている。

 レイは少し迷っていた。

 ジンとマリアの事を正直に話して良いものか計りかねていたのだ。


 しばらく考えた末、レイは自分の知っている全てをハルに話すことにした。


 爆発の犯人である仮面の男のこと、マリアの死、仮面の男の正体がジンで自らをダルメアと名乗ったこと。

 あの日、レイの身に起こった全てのことをハルに伝えた。


「ウソだ、ジンさんが犯人な訳がないよ。

 だって私達の魔法の師匠だよ、きっとレイちゃんの見間違いだよ。」


 レイが話し終わる前から、ハルの顔から笑みが消え、またも涙と怒りが現れていた。

 レイが話し終わるのを待って発せられたその声には怒りよりも、そうであってほしいという願いが込められていた。


 レイは、静かに首を横に振り


「見間違いなんかじゃない。」


 と、噛みしめるように言った。

 まるで、レイ自身を納得させるかのようにゆっくりと自分に言い聞かせるような物言いだ。


「僕が受けた魔法は間違いなく、ジンのものだ。

 対象物を無数の刃で切りつけるように攻撃する。ジンの一番得意なダクト(攻撃魔法)だ。」


 レイは一言発するごとに元気がなくなっていった。


「でも、その魔法を使えるのはジンさんだけじゃないでしょ。それなら他の魔法使いがジンさんに変装してたって言う可能性も…。」


 ハルが、少しでも希望を持とうと言っていることは、レイには痛いほど伝わっていた。しかし、所詮願いは事実と異なる。


「なくは無いだろうけど、限りなくゼロに近い。この状況からしてあのダルメアと名乗った男がジンであることは、ほぼ間違いない。」


 レイは、重たい口を開き、その希望も願いも届かぬ現実を口にした。


 二人の間に、沈黙が流れた。

 仲のいい兄妹にとって、これほどの沈黙は珍しい。

 二人とも暗い顔をして俯いている。


 沈黙は、看護士が約束通り夕食を持ってくるまで続いた。

 気まずいまま夕食を終えると、ハルは事件の日から泊まっているという宿へ、帰って行った。



 レイは、真っ暗になった病室で一人星空を見て夜を明かした。

 眠ることなど出来なかった。



 それから数日後、レイは退院する事になった。

 傷口自体は閉じたが、レイの身体には消えない多くの刀傷が残った。

 右頬にも一つ、消えることのない傷が残っている。

 それでも、身体能力や魔力は怪我をする前となんら変わりない位まで回復していた。

 入院中の数日で、ハルもジンの事について一応納得したようだ。

 二人の間には、またいつものような会話が戻っていた。

 やっと普通の生活に戻れる、そう思った矢先とんでもないニュースが飛び込んできた。



 レイが退院する日の朝、その日は心なしかいつもより騒がしかった。レイはその理由を看護士から渡された新聞で知ることになる。


 日刊ライムズ通信

 レイの住むライムズ王国で一番の売り上げを誇る新聞社だ。


 その、ライムズ通信の一面にその記事はあった。


[ライムズ王国西部の都市ノミシア市で大規模な反乱]

 そう書かれた見出しにこのような記事が続いた。


〈ライムズ王国屈指の産業都市として知られるノミシア市で昨日大規模な反乱が起きた。

 反乱軍が昨日ノミシアへ侵攻し、侵攻から約三時間で国王軍が反乱軍に破れノミシア市が占拠された。

 反乱軍は(アステカ)と名乗っている。王国議会は、このアステカのリーダーとみられるダルメアという人物を特別指名手配し、アステカ殲滅を決定した。

 王国議会の発表によると、アステカは3万人程で構成され、その殆どが魔法使いである。昨日の戦闘で少なくとも市民約3

万人、国王軍1万5000人が死傷し、ノミシアに住んでいる殆どの人が未だアステカに捕らわれている。

 王国議会は、緊急事態宣言を発令しノミシア市に隣接する都市に……〉



 そこまで読むのがやっとだった。

 レイには、なにがなんだかさっぱり訳が分からなかった。

 ただ、頭のなかで、ダルメア、アステカ、反乱、指名手配というような言葉がくるくると回っていた。


 退院してからの数日間、レイは疲れたように日々の殆どを宿の中で過ごした。

 これだけのことが立て続けに起き、頭の中を整理するのはとても難しかった。


 そんなレイにハルは何も出来ず、ただじっと時間が過ぎるのを待っていた。

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