第六十四話 レイの出生の秘密
アリスの話の後、レイはアリスの部下によるミーユの治療により、ペンズ郷との戦い以前の状態へと戻っていた。
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「いろいろありがとうアリス。
君の話はちょっとショックなことが多かったけど、知れてよかった。」
レイは治った体の感覚を確かめるようにストレッチをしながらそう言った。
その声は、アリスの話を聞いた直後の戸惑った声とは違い、ハッキリとした意志を持った声だった。
「いえ、お礼を言わなければならないのは私の方です。
本来なら、魔王である私が止めなければならないのに、エルバム様一人にこのような事を押しつけてしまい……」
対するアリスは、歯切れの悪い申し訳なさそうな声をしている。
レイと目を合わせようとせず、手を前で組んでもじもじとしている。
「気にしないで、僕は自分のために戦いに行くんだから。」
「さすが、ジンさんの息子様だけのことはあります。なんて優しいんでしょう。」
アリスは今にでも泣き出しそうな潤んだ目でレイを見つめた。
屈伸をしていたレイは、それに気付くと恥ずかしそうに顔を背けた。
「やめてくれよ。僕はその父親のことなんてなにも知らないんだから。」
「あ、そうでしたね。すいません、懐かしかったもので。
それでは、向こうの世界のエルバム様が目を覚まされるまで、そのお話を致しましょうか。」
アリスはそう言うと、指をパチンと鳴らした。
すると、どこからもなく何時かの椅子があらわれた。
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「エルバム様がもとの世界に戻られる前に、今回の事件がなぜ起こったのか、その理由をお話ししましょう。」
レイが椅子に座るのを待って、アリスがそう切り出した。
「まず初めに、派遣された四人の悪魔の当初の目的についてです。
私達は長年の研究により、悪魔と対極の存在である勇者の力に目を付けていました。
黒魔煙を使う悪魔に対し勇者は聖白纏を纏い戦います。
私達は、聖白纏により黒魔煙で汚れた魂を覆うことができるのなら、失われた輪廻転生の流れを回復できるかも知れないと考えました。
エルバム様も知って居られるかも知れませんが、勇者の力というのは魔法と違い、完全に血の繋がりによって受け継がれています。
その理由は、勇者の母親が子供を産む際、自らの力の一部を子供へと受け渡すからです。
私達はそこに目を付け、悪魔と勇者の間に子供が出来れば、その子は悪魔で有りながら輪廻転生の輪に入れるのではないかと考えたのです。」
アリスはそこで一体言葉を切った。
言葉を切ったというよりも、この後に続く言葉を言うか言うまいか決めかねているようにも見える。
「そんなことを考えていたんだ……。
で、その計画はどうなったの?」
アリスの様子に気付くことなく、レイはそう訊ねた。
アリスは、レイに訊ねられた事により、思い切って続きを話し出した。
「結果から言いますと、一応成功でした。ただし、限りなく失敗に近い形で。」
アリスはそこで一度俯いた。だが、すぐに顔を上げるとその後はスラスラと話し出したり
「四人は、まず始めに優秀な勇者を探し始めました。
四人は世界中をバラバラに旅をし、この計画を遂行させるために一番重要な人材を探し回りました。
その途中王国議会に目を付けられたミルネバがやむなく魔法騎士隊に入隊するなどのハプニングはありましたが、大体は当初の予定通りにすすんでいました。
そして、四人が旅を始めて数十年がたった頃一人の女性に行き着いたのです。
その女性はミーナ・マルロボという三代目勇者の子孫の一族でした。
ミーナは、持って産まれた聖白纏の力も他の勇者と比類無き物でしたが、一番大きな要因はジンとミーナが恋に落ちていたという事です。
私達の目的は、先ほど話したとおり悪魔と勇者との間に子供を作ることです。
その為には、派遣組の誰かと勇者とが夫婦になる必要がありました。
そのため、ミーナとジンの恋はとても都合の良いものでした。
ミーナとジンのおかげで計画は更に順調に進み、暫くして二人の間に一人の男の子が産まれたのです。」
アリスはまた言葉を切ると、目の前に座るレイをじっと見つめた。
レイはアリスの瞳を見つめ返すと、全てを理解したように俯いた。
「つまり、その男の子って言うのが僕なんだね?」
僅かに震えた、怯えたような声でレイは訊ねた。
アリスはその問いを口に出して肯定することはなく、ただ小さく首を縦に振った。
「そうか……。
だけど、それならその計画は失敗したって事だね。
だって、僕は魔法使いではあるけど勇者じゃないもの。」
レイは寂しそうにそう言った。
自分が産まれてきた理由が、そんな実験のようなものの結果だと知り、落胆しているようにも見える。
と、次の瞬間、レイが急に頭を抱えて椅子から転げ落ちた。
「うぁああああああああああああ……」
金切り声を上げて転げ回るレイを見て、アリスは石になったかのように硬直していたが、直ぐに椅子から立ち上がった。
そして、苦しむレイの声に負けないように大きな声を張り上げた。
「落ち着いてください。
これは、エルバム様の魂が元の世界の体に戻ろうとしているだけなのです。
いいですか、エルバム様がこの世界に来れるのは向こうの世界で気絶しているか眠っているときだけです。
向こうの世界で目覚めると、この世界には居られなくなるのです。
今回は精神の世界に居た時間が長かったせいで、副作用が働いているだけなんです。」
アリスは転げ回るレイの肩を押さえながら、器用に胸元から水晶玉を取り出した。
「この水晶には、この世界の黒魔煙が凝縮して詰め込まれています。
本当に危険なときにお使いください。
こんな事しかできなくて申し訳ありません。
エルバム様の無事をこの精神の世界から祈っています。」
アリスはその水晶をレイの内ポケットに無理矢理押し込んだ。
すると、次の瞬間にはそこにレイの姿はなかった。
「お願いします、エルバム様。」
アリスは誰もいなくなった暗闇にもう一度そう話しかけた。




