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レイと魔法と奇妙な日常  作者: 沖田 了
第三章 イーストテッド篇 決戦、ペンズ卿
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第五十五話 ミーテル城へ

 イーストテッド市は、人口五十万を超えるこの国有数の都市だ。

 そのため国に五つしかないライムベル親兵基地が置かれ、人口が多いながらも東部一の治安の良さを誇っている。

 そんなイーストテッドにおいて、最も安全な場所。それは、街の中心部に位置するミーテル城だ。

 ミーテル城とはイーストテッドを治める統治貴族、即ちペンズ卿が住まう城だ。

 なぜミーテル城が、屈強な親兵達の居る親兵基地よりも安全なのか?その答えは至極単純だ。

 ライムベル親兵基地に駐屯する親兵よりも、ミーテル城の警備に就いている国王軍の方が強いからである。


 ……そんな国王軍が、レイ達の目の前で次々と倒れていった。



 ミルネバの家を出発したレイ、ハル、ミクル、ミルネバの四人は、イーストテッドで一番安全な場所、ミーテル城へ来ていた。

 ミーテル城は湖のような堀に囲まれた、まさに要塞という感じの建物だ。

 ミーテル城の敷地に入るには、城門の前にある木製の橋を通るしかない。

 敵に攻撃された際、入り口を一つにしておけばそれだけ守りやすいからだそうだ。橋が木製なのは、一度に大量に人が通れないようにするためだ。これも、的からの侵入を警戒してのことだ。

 だが、そんなものはミルネバには通用しなかった。

 ミルネバはミーテル城に入ると、城内にいた兵士を次々と弛緩魔法で倒していった。

 弛緩魔法は、さっき興奮状態だったレイを黙らせたあの魔法だ。

 既に黒魔煙を見ることの出来るレイにとって、その光景はあまりに衝撃的だった。

 ミルネバは自らの体から発した黒魔煙を綺麗に杖に巻き付け、一片無駄なく魔法に変換していたのだ。


「ミクル、君のお婆さんって本当に何者?」


 そう訊いたレイに、ミクルは何言ってるの、という表情を返した。


「レイさっきの話聞いてた?

 私のお婆ちゃんは、ライムズ親兵の魔法騎士隊総帥だったんだよ。つまり、この世界で一番の魔法使いってこと。」


 ミクルのその返答は、とても冗談を言っているようには聞こえなかった。

 レイとミクルがそんな話をしてあえる間にも、ミルネバは次々と兵士を倒していった。


(世界一の魔法使いか…。お婆ちゃんに手伝ってもらったら、ジンさんを止めることもできるかもしれないな。)


 レイは、圧倒的な力でミーテル城を進むミルネバを見ながらそんなことを考えた。

 結局、ミルネバは城の警護にあたっていた殆どの国王軍の兵士を一人で倒してしまった。


「ミクルのお婆さんって本当に強いんですね。でも、こんなに強いなら巻物を奪いに侵入したときに全員やっつけちゃえば良かったのに。」


 レイはミルネバのあまりの強さに、若干引きながらそう訊ねた。

 実際、ミルネバの強さは人間離れしていた。


「そうしたいのはやまやまだったんだけどねぇ。

 どこかで誰かさんが死にかけていたから、助けないわけにはいかなくてね。」


 ミルネバの冗談混じりの返答に、レイは俯いてしまった。

 確かに、ミルネバがあの時助けにきてくれなかったら、レイは死んでいた。そのことを、レイはよく分かっていたのだ。


「そう気を落とすんじゃないよ。確かにお前さんはやられそうになっていた。それは事実さ。

 でもね、私が見た限り戦闘能力では、セリエーヌにそれほど劣ってはいなかったように見えたよ。

 たまたまあのタイミングで黒魔煙が切れてしまったのが運が悪かったのさ。」


 ミルネバは、落ち込んでしまったレイを慰めるようにそう言った。

 ミルネバは、レイと話しながらも、一片の迷いなく確かな足取りでミーテル城を進んでいく。


「あの、お婆さん。私たちはどこに向かっているの?」


 三人に遅れをとりまいといつもより早足で歩くハルが、当たりを見回しながらそう訊ねた。

 今四人は、国王軍の兵士が多くいた城門付近の庭を抜け、場内に入り、長い廊下を歩いていた。

 廊下には、紅の高そうな絨毯が敷かれていて、一歩踏み出す毎に芝生の上を歩いているかのような柔らかな触感が足の裏に伝わってくる。

 ミルネバとミクルは、そんな廊下を迷う様子なく、どんどん進んでいく。その足取りは、進むべき道を分かっているものだ。


「準備運動も出来たところだし、そろそろドラ息子のいる部屋へ行こうと思っての。

 今向かっとるのは、この城の大広間だよ。

 無駄に豪華なステンドガラスに、やたらと大きなシャンデリア、威厳を示すための悪趣味な玉座のある、嫌みったらしい部屋にね。」


 ミルネバはそう答えながらも、どんどんと進んでいく。

 場内に入って、廊下を三、四度折れ曲がった時、四人の目の前に城門よりも更に大きな扉が現れた。

 多分、二階建ての民家がすっぽりと納まってしまうほど大きい。


「ここが、大広間の入口だよ。」


 ミクルは、その扉の天辺を見上げてそう言った。

 その声には、ミルネバのような余裕は感じられない。むしろ、ある種の緊張によって固まったような声をしていた。

 ミクルにとって、自分の父親に会う事はそれくらい特別な事だったのだ。


「これからここへ入って、私達はドラ息子と交渉をする。このイーストテッドの統治権を私達に譲るようにね。

 勝手につれてきておいて悪いんだけど、交渉が終わるまでは、レイ、ハル、あなた達は手出し無用でお願いしたいの。

 これは私達家族の問題でもあるから。

 そのかわり、交渉が終わった後のあの子の体は好きにして良いわよ。

 この街に来て受けた、数々の酷い扱いは、全てあの子の我が儘が原因と言っても過言では無いのだから。」


 ミルネバの声も、心なしか先ほどまでの余裕を無くしている。

 それでも、ミクルの様に固まってしまうということはないが。

 ミルネバのお願いに、レイとハルは一度目を合わせ、そして同時に頷いた。

 それをみたミルネバも、小さく頷くと大広間の巨大な扉に向き直った。


「それじゃあ行くかね。」


 ミルネバはそう言うと杖を前へ向け、小さく右へ払った。

 次の瞬間、重厚な扉が地響きのような低い音を響かせながら、ゆっくりと開いた。

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