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紫晶が手に入れたもの……。それは最高のふたつ

無事にお店を開業でき、出だしは順調……。

第35話 徹の贈り物


 10日目の夜、紫晶(しあき)は店を閉めて、パソコンで帳簿をつけていた。

 すると、ドアをトントンと叩く音がする。


 紫晶が鍵を外して扉を開けると、徹(とおる)がいた。

「お疲れさま」

 そう言って、入って来た。


 ……会いたかった。

 寝る前にはいつも彼の写真を見ていた。

(いつ来てくれるんだろう……)と思ったけど、来ても、どうせ忙しくて対応できないのはわかっていた。

 だから、彼も遠慮して来なかったのかもしれない。


「うん……。疲れました」

 そう言って、紫晶は玄関に立ったままだ。

 下を向いて、動かない。


(本当は……疲れがふっ飛びました)

 心の中は嬉しくて飛び上がっている。でも、ちょっと疲れたフリをして……楽しいことを企んでいた。


「なんですか?」

 徹が首を傾げる。

「そこに立っていると奥に入れないんですけど」


「うん……。あの……」

 なかなか行動に移せない。このまま体を前に倒して、徹の胸に……。


 徹は一歩前に出て、紫晶を抱きしめた。


 たくらみがばれた。

 自分の腕を彼の背中に回す。

 こうしてもらいたかったのだ。


「頑張りましたね」

「はい……」

 徹のぬくもりが心地よい。

 ずっと前から、抱きしめてほしかった。いつの間にか……大好きだった。

 隅から隅まで大好きだった。


「目標人数、来てますか?」

「はい。今日のお客様は103人です」

「ふん。開業10日目にしては、十分ですね」

「まだ、割引券を持っている近隣のお客様が多いけど……」

「マーケティング、ちゃんとできているってことですね」


「あの……」

「なんですか?」

「抱きしめるか、指導するか、どっちかにしてください」

 安心して鎧を脱いで抱きしめられたいのに、仕事の指導をされると、鎧が脱げない。


「じゃ、抱きしめることにします」

 そう言って、強く抱きしめた。

(うん、幸せ……)

 安心して鎧を脱ぐ。


「あ」

 抱きしめたと思ったら、徹はそんな声を出して、すぐに体を離した。ポケットの異物に気づいたのだ。

「これ、持ってきましたよ」

 そう言って、ポケットから小箱を取り出す。

 それを紫晶の手に置く。


「なんですか?」

「開けてみて」


 紫晶が箱を開けると、中から出てきたのは、アメシストのペンダントだ。

「わっ、きれい!」

 大きなスクエアカットの色の濃いアメシストを金の二重の枠で囲んでいる、洗練されたデザインだ。


「アハッ。開店祝いのプレゼントですよ」

「えっ?!」

「ほら。仕事中はアメシストの指輪、つけられないでしょ? でも、アメシストが売りの店だから、アメシストのペンダントをつけるといいと思って……」

「わあ! やっぱり徹さんは気が利きますね!」


 紫晶はそれを胸につける。

「うん。長さがちょうどいい。チェーンは調節可能だから、夏にも冬にも対応できますよ。これをつけて仕事をしてください。僕の誕生石ですから」

 と徹は満足げだ。


「はい。わかりました……。ありがとうございます」

 紫晶は頬を染めた。


(誕生石……マーケティング戦略だからどうでもいいって言ってたくせに)

 あのとき、紫晶が言いたかった意味を、きっと後で考えたのだ。そして、やっと理解したのだろう。


(自分の誕生石だから、自分だと思ってつけていなさいってことよね……)

 会いたいけど会えないという気持ちをわかってもらえた気がした。


 徹の手を取って、やっと歩いて奥に入れた。

「こんなお店が持てて、本当に幸せです!」

「うん。いい店ですね」


 徹は店を見回して、

「あの危険人物、いい仕事、しましたね」

 と、宮本の悪口と誉め言葉を同時に表現する。


 そして、紫晶を振り向いて、眉根を寄せる。

「紫晶さん、あの男とふたりきりで会ってはいけませんよ」

「え? もう会わないでしょ?」


「街で出くわすかもしれないじゃないですか。同じ代官山にいるんですから」

「でも、仕事はもう終わったし……」

「だから、余計に危険でしょ。あいつ、絶対に紫晶さんみたいな人が好みだから」

「えっ?!」

「紫晶さん、ずっとあの男の後ろをついて歩いていたでしょ。男はああいうの、惚れそうになるんですよ」

「えっ?!」


 紫晶は口元で笑いをキュッと抑えた。

(あれ、勘違いじゃなかったんだ……)


「それから、紫晶さん、3か月くらい経ったら、少し時間ができるでしょ?」

「はい。たぶん……」

「うちに引っ越しませんか? 紫晶さんのアパートより、僕のアパートのほうがここに近いですし」

「え?!」

(ほんの5,6分くらいしか違わないけど……)


 それに、紫晶のアパートと「僕のアパート」は場所の違いじゃない。「アパート」の定義が間違っている。


 徹は紫晶に近づいて、再び抱きしめた。

 そして、耳元でささやく。

「僕は優良物件だと思いますが……」


 紫晶もささやき返す。

「それ、徹さんのアパートのこと? それとも……」

 唇がやわらかくふさがれてその先は言えなかった。


 体が熱くなり、頭がぼうっとする。


 もうアパートの定義の間違いも、指摘できなかった……。


(終わり)


お読みいただき、ありがとうございました。

いつか自分の店を出したい、と思っているかたの参考にしてください!

それから、ビジネスで稼ぎたい方、頭の中に徹を住まわせてください。


あと、もう一つの小説、書いてますので、ぜひ訪問してください。

長編です。本格的にビジネス戦略を身につけたいあなたに。

MBA令嬢の異世界改革――― 交易と流通で王国を侵略から守ります ――

https://ncode.syosetu.com/n6280ly/

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