カフェ店員の紫晶(しあき)、人生を変える大ショック
カフェを愛する人に贈る、恋と夢のハートフルストーリー。
あなたの心を癒しながら、夢を叶える力を引き出す「機能小説」、始まります!
第1話 ある夏の日の衝撃
品川のビジネス街。駅前にずらりと並ぶビルの一角にあるカフェ・プルミエは、夕方の客でにぎわっていた。
「カフェオレ、ホットで。Mサイズでご用意いたします」
石田紫晶はきびきびとした動きで、客の注文をさばいていた。
カフェ・プルミエは創業14年のカフェチェーンで、紫晶は専門学校を卒業してからここで契約社員として4年働いていた。店では店長のすぐ下の主任で、バイト13名をシフトで回していた。
店長の柳悠樹は紫晶よりも2つ上で、父親が創業グループの1人だ。そのため、彼は将来、このカフェ・プルミエの経営陣の一人になることが約束されている。
悠樹が1年前にこの店舗に来たとき、紫晶は最初、以前の店長よりも若かったので、少し不安を感じた。しかし、悠樹は前の店長よりも細かい点にこだわり、清掃、衛生、経費削減、笑顔、声の出し方など、細かくスタッフを指導した。
(いつか、自分でもカフェを開きたい……)
それが紫晶の夢だった。
悠樹の仕事の知識や取り組み方は、紫晶には大いに参考になった。そして、次第に悠樹のもとで働くことが好きになった。
悠樹はさわやかなアスリート派で、背が高く、甘いイケメンではないが、かっこいいと言える容姿である。紫晶はだんだんと悠樹が気に入っていった。
(こんな人が恋人なら……)
ひそかにそんな空想を抱くようになった。
紫晶は狭いキッチンで、手際よくオーダーをこなす。
今、一緒にキッチンにいるのは、2歳年下の三浦綾乃だ。パートナーとして問題はない。
紫晶は綾乃が8か月前にここに入ってきたとき、そのかわいらしい見た目に圧倒された。
大きな目、長いまつげ、丸い額。逆三角形の顎のライン……。
どれを見ても、女の目からも愛らしく、思わず「なんでカフェで働くの?!」と思ってしまうほど、かわいらしいのだ。
最初はモタモタしていた綾乃だが、今ではすっかりと慣れて、動きにぶれがない。
これは、紫晶の教育のたまものだと自分では思っていた。
紫晶はバックヤードで2か月後のシフトを確認する。
「あれ? 店長と三浦さん……。8月の後半のシフト、入っていませんけど……」
店長の悠樹に言うと、彼は照れたように微笑んでこう言った。
「ああ、僕、結婚するんです。ちょっとお休みします。石田さん、そのとき頼みますよ」
「えっ…………」
店長が結婚。
「あの……。もしかして、三浦さんと……」
「あ、そういうことです」
照れながらもサラッと言った悠樹の言葉が、紫晶の頭を直撃した。
(えっ、どういうこと……?)
紫晶の心の中に、何かが生じた。
だが、それは言語化できない、真っ黒な嵐の雲のようだった。
第2話 癒しの石の力
悠樹に好きだと言ったわけではないし、彼も自分に気があるような態度をしていたわけではない。純粋に仕事場だけの関係だ。
目黒駅近くに行きつけの大手チェーンのカフェがある。
紫晶はすぐに家に帰る気になれず、ここでコーヒーを注文したまま、飲みもせず、うつむいていた。カップを持ったまま、じっと動かずに止まっている。
「なんで結婚相手がうちのスタッフなの……?」
そんな言葉が頭を何度もめぐる。
「なんで三浦さんなの……?」
自分が何を怒っているのかわからなかった。
ただただ、悔しい気持ちがあふれて、ポトンと涙が落ちるのだ。
(おかしいな……。どうしちゃったんだろう……)
ときどきハンカチで涙を拭く。
こんなに彼を好きだと思っていたわけではなかった。それなのに、悠樹が自分にとってすごく大切な存在なのに、自分の知らないところで奪われたように感じている。
(私、どうかしてる……)
しばらくそこで時間を過ごした後、紫晶は自宅のある目黒通りを一人で歩く。
すでに町は暗くなり、人通りもあまりない。
あとは通りを右にまがって、アパートに帰るだけだ。
家具店が並ぶインテリアストリートを歩いていると、角を右に少し入ったところに、新しい店があることに気づいた。
それは、パワーストーンの店だった。
紫晶はその店の前に立ち、ウィンドーに並ぶ石を見た。
それはどれも大きめの石で、芸術作品のように流木と水晶を組み合わせたものや、切り出したままのアメシストの大きな原石などだ。それらがライトアップされて展示されている。
涙を拭いてその石に魅入った。
「いらっしゃいませ。中をご覧になりませんか?」
60代の女性の店員がガラス戸を開けた。
「え……」
紫晶は誘われるまま、店内に入る。
「うわ~……」
あまりの美しさに感嘆の声が上がる。
「どうぞご自由にご覧くださいね」
そう言って、店員は少し下がった。
それは、アメシストカペラと呼ばれる形の石で、小さなドームのような形をした岩だ。
高さは60センチから120センチ。
幅は30センチから80センチくらいの石がずらりと並んでいる。
小さいものでも100万円台。大きなものは数百万円だ。
紫晶の名前は、母の婚約指輪にはまっているアメシスト、紫水晶から付けたのだと、母が言っていた。
「ふうん。もっといい名前を付けてほしかったのに!」と言ったくらいだ。
子供のころは、石なんか興味もなかった。
だが、こんなにも大きなアメシストを見ると、その美しさに目が離せない。
母の指輪は今、紫晶の指にはまっている。父が母にもっと高価なダイヤの指輪を買ったので、古い指輪を紫晶にくれたのだ。それは、紫晶が持っている唯一の宝石だった。
「これだけの大きな結晶が並ぶカペラは、もうあまり出ないんですよ」
と店員は言った。
「へえ……。そうなんですね」
その貴重さは、紫晶にはまったくわからなかった。
だが、これだけ大きなアメシストは見たことがなく、その濃い紫色を眺めているだけで、心が静まり、ムカムカしていた怒りが消えていく。
「アメシスト、お好きなんですね。指輪もアメシストですね」
店員は目ざとく、紫晶の指に目を止めた。
「ええ……」
静まった心に、母の昔の言葉が響く。
「お母さんね。アメシストが大好きなの。だから、お父さんが『婚約指輪に』って買ってくれたのよ。あなたが生まれたとき、嬉しくて、名前を紫晶にしたの」
そう言って、微笑んだ母の顔が浮かぶ。
いつの間にか、紫晶の頬に暖かい涙が一筋ツ~ッと流れ落ちた。
なぜ母の顔を思い出して涙が流れたのかわからなかった。
今は、悠樹のことで頭がいっぱいなのに……。
「あ、私ったら……」
思いがけず落としてしまった涙をあわてて拭く。
その様子を見て、店員はレジ付近から取り出した1枚のカードを差し出す。
「これ、差し上げます。きっとお役に立ちますよ」
紫晶は店の名前が書いているカードだと思った。
ところが、それにはこの店の名前ではなく、別の言葉が書いてあった。
「カウンセリングラボ」
(え……?)
紫晶は頭が空白になった。
一瞬、なにが書いてあるのか、よくわからなかった。
次回は、紫晶の心の中で起きていた化学反応の仕組みがわかります!
それを知って、紫晶は……。




