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サークル合宿への誘い

 千寿が実家に戻ってきて数日。ダラダラと過ごしつつ、祖父母の家へ遊びに行ったり、家族で日光東照宮へ行ったりと、それなりに充実した日々を送っていた。

 高校時代もオカルト陰キャぼっちを極めていた千寿は、地元に戻ってきたからといって会うような人物もおらず家から全く出ていない。そんな千寿を憂いた母がこんな提案をしてきた。


「こっちのダンジョンにも行ってみたら?」


 ダンジョンは日本全国各地に存在しており、ダンジョンが確認されていない県は数個ほどしかない。もちろん栃木にも高深度ダンジョンが出現している。

 ダンジョンは災害であると同時に重要な資源窟でもある。強い探索者の存在は県の収入にも直結してくるため、地方の県では東京よりも待遇が厚かったりする。


「ダンジョンね〜」

 実家に帰ってきてまでダンジョンに行くつもりのない千寿は母の言葉をスルーしながら、ダンジョン関連の予定を一つ思い出した。


(そういえば、そろそろ廻先輩たちがダンジョンに行く日か)


 夏休みの序盤、廻たちダンジョンサークルの上位メンバーでダンジョンの下見に行くと言っていた日が迫っている。千寿には関係のない話だが、目的地が箱根であるという点だけは羨ましいと思っていた。


「温泉入りたいなぁ〜」

「ごろごろしてるだけの人が何言ってんのさ」

 穀潰しのような生活を送っている千寿に母の厳しい指摘が飛ぶ。


(本番は俺もみってみようかな……)

 誰とも会わない退屈な日々を送っている千寿はほんの少しだけ気の迷いが生じていた。千寿は一人でも大丈夫なタイプだが、誰かと遊ぶことが嫌いなわけではない。むしろ好きだ。色々な人にチヤホヤされたくて動画投稿者をやっている節もある。


 だが、オカルトは暗い趣味で、ダンジョンという世界的なコンテンツが現れて十年の時代に生まれた千寿は、コミュニケーション能力が発達せず行き遅れてしまった。


(まあ、俺には呪物があればそれでいいし、九郎丸もいるし)

 千寿はソファで共に寝ている九郎丸の腹を撫でながら、誰に向けているかも分からない言い訳を胸の内で溢した。



 それから数日後。千寿のスマホに連絡が入る。


「もしもし」

『有麻君! 元気?』

「あぁ、元気ですけど」


 電話の相手は廻だ。


「どうしました?」

『ダンジョン探索のことでお願いがあって連絡したの』


 いきなりの連絡に何事かと身構える千寿だったが、廻が言い出すことはいつもと変わらずダンジョンについてだ。


『この前箱根ダンジョンの下見に行ったんだけど、その時にメンバーの一人が怪我しちゃったの』

「なるほど」


 千寿はみなまで聞かずとも廻が何を言いたいのか察した。案の定、廻は『代わりに護衛役やってくれないかな』と頼み込んできた。

 廻たちが行った下見は、サークルの中位以下のメンバーを育成を安全に行えるようにするものだ。その最中に上位陣が怪我をしたとはやんごとではないが、ダンジョン探索は予定通り行うらしい。


「まあ、俺で良ければ全然良いですけど」

『本当!? あ、ちゃんと護衛としての手当は出すから!』

「頑張ります!」

『助かる!』


 報酬が出る仕事となれば話は別だ。使える金が手元にない千寿はやる気に漲り始め、電話越しで廻に笑われた。

 こうしてサークルへの参加が決定した千寿は、実家から帰る予定を少し前倒しし東京へと帰っていった。



 探索者の稼ぎは主に企業からの依頼で成り立っている。モンスターの素材採取や鉱石採取、ダンジョンや地上に限らない護衛依頼なども発生する。世界が変わってから十年が経った今でも、ダンジョン産の素材はいつでも不足している。


 そんな探索者たちの稼ぎはかなり良い。大学生の探索者でも家賃が月十万の部屋に暮らせるほどには稼ぐことができる。そんな夢のある職業に就くため、近年では若者のダンジョンアタックが増えている。


 大学のダンジョンサークルも同じようなもので、大人になってから仕事として始めるよりも、少しでも経験を積みスキルを獲得しておくことで就活が有利になるため、どの大学でも人気があり活動が活発に行われているわけだ。


「有麻君! こっちこっち!」


 サークル活動でダンジョン探索に向かうことになった千寿は朝早くから東京駅へとやってきた。廻が駐車場で大きく手を振りながら存在をアピールしている姿は、美人なせいもあってかなり目立つ。


「おはようございます。私服なんですね」

「うん! まずは宿に荷物を預けるから、そこまでは旅行気分だよ!」

「あー、はい」


 廻だけでなく、サークルメンバーもおしゃれをしており、一人だけジャージを着てやる気満々かのような千寿は浮いてしまった。


「ごめんね。ちゃんと予定伝えればよかったよね」

「あー、大丈夫ですよ。どうせ私服もこれと変わんないですから」


 おしゃれに興味がない千寿の服は母がイ○ンで適当に見繕ったものだ。高校時代から着ているため、だいぶへたっており、みっともなさで言えばジャージとどっこいどっこいだ。


 千寿の浮っぷりに罪悪感を抱いている廻は、夏全開の麗しい姿をしている。デニムのショートパンツからは健康的な白い太ももが露出しており、太陽の輝きを反射し眩い。

 上は白いTシャツ。その上にデニムジャケットを羽織りセットアップになっているが、中のシャツの丈が短く、縦筋の入った綺麗なお腹が見えてしまっており、童貞の千寿は目のやり場に困りつつ太ももをガン見した。


「有麻君も車に荷物積んじゃって!」

「あざす」


 廻は背後に停めてあるハイエースを親指で指し示す。箱根へは二泊三日のため、キャリーケースには着替えが詰まっており、装備がない千寿の荷物はそれだけだ。他のサークルメンバーは新参者の軽装備を訝しんでいる。


「それじゃあ、みんなで行こうか!」

 廻はそう言いながら運転席に乗り込んだ。意外な姿に驚く千寿は廻の指名により助手席へと座らされた。


「箱根まで付き合ってね」

「了解です」


 サークルメンバーとは初めての顔合わせのため、人付き合いが苦手な千寿を気遣っての座席配置だろう。後部座席には五人乗せて七人で箱根へ向かう。


「これだけですか?」

「他のメンバーもそれぞれ免許持ってる人たちで向かってるよ。全部で二十三人」

「多いっすね」

「まあでも、ダンジョン内で一緒に行動するのはここのメンバーだけだから」


 車を箱根へと走らせながら廻が言う。

 サークルでのダンジョン活動を行う際は、全員で行動を共にするわけではない。広さ的に混雑するということもあるし、経験値を効率よく稼いでレベルアップするためだ。


 また、安全に探索を行うため、中位層五人チームには上位層三人の護衛がつき、低レベル帯である下位層五人チームには上位層二人が護衛につき、それぞれ十人未満のチームで行動する。

 今回千寿が対応するのは、下位層の五人たちだった。


「移動の間に顔合わせしておこうと思って、私たちのグループは東京駅でみんな集まってもらったんだ」

「なるほど」

「じゃあ、みんなに有麻君のことを紹介するね」


 廻は前を見ながら意識と声だけを後ろへ飛ばす。


「有麻君はレベル十六の探索者で、私と同じで十階層程度ならソロで行けるくらいの実力者だよ」


 廻は言葉を選びながら千寿の実力が一言で伝わるように説明した。

 ドラゴンを討伐した探索者=アリマックスという情報は知れ渡っているため、千寿とアリマックスが繋がらないように慎重に説明する必要があった。


「ちなみに、前の探索でレベル十七になりました」

「マジ? 早いねぇ。杏ちゃんが嫉妬でおかしくなっちゃうんじゃない?」


 レベルアップに必要な経験値は指数関数的に増えていくため、単純に考えてレベリングの労力が倍になる。下の階層で経験値量が豊富なモンスターと対峙してきた千寿でも、レベル十六以降はかなりの苦労を要するはず。と廻は考えていたが、オーガを討伐した千寿はその予想を裏切った。


「ちなみに、今日私たちが護衛する後ろの子たちは一年生だよ。有麻君の一個下だね」

「あー、よろしくお願いします」


 千寿は後ろ振り返りながら軽く頭を下げた。どこかの先輩のように嫌味な感じに捉えられてはこの後の活動が気まずくなってしまう。コミュ力が低い千寿はそんな環境に耐えられないので、なるべく愛想良く振る舞う。


「「「よろしくお願いします」」」


 ダンジョン探索は十八歳以上と法律で決まっているため、多くの若者は高校卒業を機に探索者登録を行う。そのため、ダンジョンサークルに入部してくる一年生の中には素人〈スキルなし〉も多くいる。

 今回の参加メンバーたちは、もちろん入学してすぐに活動を始めているためある程度のレベルにはなっている。


「だいたいレベル十前後って感じで、今回の遠征でレベル二つは上げたいなって思ってるの!」

「何階層まで行くんですか?」

「目標は六階層だね」


 六階層はコボルトが出現する階だ。千寿と廻の護衛があることに加え、五人でチームを組んでいるため比較的安全に探索が行えるラインだろう。


「分かりました」


 一年生たちはまだ千寿のことを信用していないようで、怪訝な表情は拭えていない。それをバックミラーで確認していた廻は特に不満も不安も抱いていなかった。千寿の実力はすぐに、一目見れば証明されるからだ。

 運転席に座る廻が楽しい雰囲気を作りながら、一行を乗せた車は箱根を目指した。


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