藤浦愛弓
理美は愛されし者の力を使って、藤浦の前に立つ。
「り、りみ、な……なん」
「冬美也、少し我慢してて、片付けてからすぐ安全な場所へ連れてくから」
「へぇ、あんた、普通じゃないと思ってたけど、人間がこんな事出来る筈ないじゃない」
「皆にどんな風に掛けていたか分かった。好意を持っている人間を憎悪に変えたのを」
藤浦の顔が一瞬にして歪んだ。
「だから何? 動物しか仲間作れない奴が言うの?」
「後は冬美也に対する好意や尊敬も利用したんだよね? 皆、見てた子達が集めてくれた情報だよ。人間より正直だから」
理美は1羽のカラスを撫でる。
まがい物の全然効力が出ない分、理美の言い分を否定するしかできない。
「誰が信じるのよ! あんたみたいな奴!」
「別に信じなくていい、言ったところで信じないから、特にあんたみたいな奴は」
今までの経験もある為、一切迷いがない目だ。
1歩理美が歩み寄れば、1歩藤浦が下がる。
圧倒的に理美が強く感じる程、周りの動物たちまで詰め寄ってきた。
恐怖だ。
藤浦は何かないかとカバンを探るのを見たアライグマが飛び掛かる。
「来るなぁぁぁ!」
何を取ったのか見れば、カッターナイフだ。
アライグマはすんでで避けたので無事。
そのカッターナイフがどんどん鋭利な刃物になっていく。
流石に動物たちも距離を置き逃げる者も現れた。
どこにまがい物があるのか、理美はじっと見る。
先に動いたのは藤浦だ。
「ぶっ殺してやる!」
一瞬、見えた腕に付いたまがい物のブレスレット。
普通に外すにはもうかなり食い込んでいる。
考えている合間に、理美との距離を縮め、振り回す武器が当たった。
間一髪避けるも、目の付近をやられ、激痛が走る。
「……! アース、どう、すれば、いい?」
それでもどうすれば、いっそ襲わせれば早いが、それでは人を襲った動物たちがどうなるか分かっている分、メリュウと融合するしかない。
「メリュウ」
誰かが理美の目を覆う。
「もう大丈夫です、無理しないでください」
そう言った直後、藤浦の腕をジルが掴み、振り払おうとあの武器を振り回すも、相手は手練れ、すぐに取り押さえそのまま武器を持つことすら出来ず手を放すしかない。
「このまま抹消させるぞ、アヌビス!」
「おう!」
食い込み、少しだけ浸食が始まった腕を掴んだ。
「やめろぉぉぉ!!」
藤浦は叫びとともに、蘇る過去。
たまたま運悪く教科担任がより多めの教材を渡され、教室に運ばなくては行けなくなった。
「なんで、1人休みなの知っているくせに、ここまで渡すのよ糞だろアイツ」
そう悪態を付いた時、誰かが来てその荷物をいきなり取る。
「ちょっと何し――」
「どこに運ぶんだ?」
「いやあなたには」
「良いから、1人じゃ階段とか危ないだろ」
取り返そうとするも、彼は一切妥協もせず、危ないからと教室まで運んでくれた。
それが初めての恋だった。
ただ後から分かったのは、殆どの女子が振られているという事。
それでも自分は大丈夫と意味の分からない確信をもって告白したが、すぐに振られてしまった。
「好きです付き合ってください」
「ごめん、オレ、好きな子がいるから」
「なら! ダメだった時に」
「それでも、無理だごめん」
結局、振られた。
普段は好きな子がいるという話なんて一切出てこないのに今回、初めていると知った。
ショックだった。
彼の友人がすぐに来て、かなりきつめに説教していた。
多分、言わせないようにしていたのに、今回口を滑られたのだろう。
許せなかった。
だから、嘘ついてでも、周りを巻き込んででも自分の気持ちに気付いてほしい。
それが彼を苦しめるか分かっていても――。
しかも好きな子があんな子供だなんてふざけているだろう。
でも分かっていた、あぁあんな風に力強い、何をも寄せ付けない目は誰だって凌駕する。
「……ふぅ、なんとかなった」
ジルがもう押さえるのを止め、離れても藤浦は一向に動かない。
手がの蹴られ、理美は上を見て気づく。
「先生⁉」
バートンだ。
バートンは凄いジルに対して不審者として見ている。
「たまたま、見回りで変質者がいたので」
ジルは俺かよと言いながら説明した。
「違います! 俺はただ理美が切りつけられての見えて取り押さえただけの人です!」
「そうだ! 冬美也! 冬美也、大丈夫⁉」
「う……ぐ……」
まだ苦しんでいる。
まがい物の気配はないのに治っていないのだ。
駆け寄ろうとした時、バートンがいきなり冬美也の胸倉を掴んで殴った。
「いい加減、目を覚ましなさい!」
そういうが殴られて気を失ってしまう冬美也を見て理美は悲鳴を上げる。
「きゃぁぁぁ!!」
ジルも慌てて言う。
「いや、先生殴っちゃダメでしょ!」
「ショック療法です」
確かに呼吸は安定したが、顔が腫れているのだから駄目だろう。
「物理はダメ!」
丁度その時、アダムもやって来た。
「お前ら無事か!」
猫が一緒に走ってきているのを見て、理美に頼まれたのだろう案内役をしてくれてたようだ。
「バートン先生が、冬美也殴った」
「いえ、ショック療法です、これから寮まで運んだ頃には目を覚ますでしょう」
「だから物理はダメだと言っただろう!」
ジルと同じ事を言っていた。
「で、犯人……藤浦愛弓は?」
「浸食状況にもよるが、暫くは精神状態が戻るまでこのままだな」
「戻ってくるの? 行方不明者?」
「さぁ、でもまがい物の影響だったからちゃんと無事なら近いうちに保護されるだろ」
「でもなんで冬美也をあれだけ好きになったの?」
「惚れた女心なんて分かるかよ」
その間にもバートンが冬美也を俵担ぎで持ち上げ運び出そうとしている。
「バートン先生、あの、えと」
理美はバートンに何か言おうとした。
バートンはこのことなら大丈夫と曖昧な言葉で言い、冬美也を運ぶ。
「大丈夫です、見なかった事にしておきます。それとこれもちゃんと届けますので、他はアダム理事長にお願いしますのであなたも集まった動物たちをなんとかしなさい」
「いや、そうじゃなくて……行っちゃった」
実際聞きたかったのはそうではない。
目の付近、いや実際目に傷ついて下手したら失明していた可能性があった。
それなのに、視界は良好、血の付いた筈の肩や頬にも血がない。
ただ目の付近を拭えば、少しだけ血がついている。
怪我をしていた。
でも消えている。
治ったというより消えているがしっくりくる程だ。
「理美、俺らは救急車呼ぶからお前は帰ってろ」
「えっ!? でも」
「動物たちがいると後々面倒になるから、さぁ」
「わ、分かった」
結局、理美は面倒ごとになる前に、動物たちを元の場所へと帰らせ、自分もアダム達の言う通りにして帰ることにした。
冬美也は寮の自室で目を覚ます。
「――痛ってぇぇ……」
殴られた左頬を摩る。
「お前、だから言っただろ1人になるなって」
ゼフォウも帰ってきていた。
「今、何時?」
「今夜の7時、さっき藤浦愛弓が救急車に運ばれて即時入院、暫くは来ない」
時間も夜、そしてあの騒動の犯人、藤浦が救急車に運ばれたのを知り、とりあえずもう大丈夫と思いホッとするも、あそこまで出来るなんて到底思えない。
「……そうか、でもなんで藤浦はあんな事が出来たんだ?」
ゼフォウは言う。
「理美ちゃんから聞いたら、まがい物を持っていた」
やはり薄々気付いていたが、持っていたか。
だが同時にどうしてゼフォウならやりそうな問い質すのをしなかったのか気になった。
「……! そうか、やっぱり、でもどうしてすぐに問わなかったんだ?」
「そらねぇ、まがい物を持っていて暴れられると浸食が一気に進むから慎重になるらしいけど、俺も持っているわ、理美ちゃん管理者だわで中々思い通りにいかなかったんじゃないの?」
下手な問い質しで相手の命が脅かされる可能性もあり、証拠が出てこない以上問うのは難しいとの事。
そしてその後の話は内容がほぼ藤浦と一緒だ。
冬美也はある疑惑を持つ。
「お前、わざと告白したんじゃないのか? オレを囮にするために?」
「酷い! 振られたばかりの人間に悪意を向けるなんて!」
「そのフリ程度だからそこまで傷ついてなくね」
「お前なぁ、こう見えても空元気ってやつなの、アメリカ人め」
空気を読めよと凄い眉間に皺が寄る。
これで一安心としたかったが、あの時理美が来なければ自分はどうなっていたのかと考えてしまう。
恐怖で体が小刻みに震える。
ゼフォウが言う。
「人に親切しても良いが、好意持たれるなって俺口酸っぱく言ってるでしょ?」
実際、それから藤浦の付き纏いが始まったのは言うまでもない。
「ゔっ……!」
胸に突き刺さる言葉を再度ゼフォウが投げかける。
「それに俺言ったよな、告白受けても断る際は好きな子がいる事は絶対言うなって」
「ゔぐぅぅぅ!」
「半分あっちが悪いがもう半分は自業自得だバカ」
本当に原因が自分にもある為、冬美也は項垂れっぱなしだ。
理美にも迷惑掛けたのは自分だと言うのをまざまざと言われ、落ち込む分、バートンの言葉が今になって刺さる。
「オレ、自信なくなってきた」
「おい、お前、告る為に日本に来たっていうのに逃げる気か?」
「そうじゃない、でももう終わったからはいこれで元通りって訳じゃないだろ?」
「良いじゃん、さっきはああ言ったけど、ちゃんと言ってもらわないとこっちが困るんだけど」
理美が好きな人がいるってはっきり言ってくれたから、きっぱり諦めがついたのに、その好きと言われる男が惨めな感じで項垂れ中、これはこれで告るべきタイミングを間違えたと若干後悔してしまう。
「理美が傷ついた、オレを助ける為に、またオレアイツを傷つけて」
「何言ってんの、理美ちゃんどこも傷ついてないけど? 心はどうだろうかは知らんけど」
机捨てられてしまった時は本当に危なかっただろうが、体のどこに傷ついているだろうか。
冬美也はあの時見た話をするが、確かに帰っているのなら病院へは行っていないでかすり傷だったのかもと思ったがどうやら違うようだ。
「はぃ? 目の方を傷つけられたんだ。かすり傷だったかもしれないけど、それで」
「全然、目の辺り傷なんてもの無かったけど? むしろ元気にご飯食べてたけど?」
「……バートンがそういえば理美の目を覆っていたな、なんらかの力を持っている?」
連れてこられた冬美也の頬を見れば、バートンに殴られているのは明白で、もし何らかの力が作用しているなら冬美也を殴ったのを隠すだろう。
「でも君は頬に殴られ跡放置されとるやん」
「あの野郎、オレが苦しんでる時、徐にぶん殴ったんだよ」
「それで気を失って眠ってたのね。ショック療法じゃん」
よくあるよくあると言うゼフォウはきっとマフィアとかだけでなく他にもあったに違いない。
冬美也は言った。
「物理はいらない」
深夜、皆が寝静まる頃、理美は眠れなかった。
「どうしたの理美?」
眠れない理美を見てアースが出てきて聞けば、どうやら昔に出会っているという話だ。
「アース、実はね、バートン先生に一度会っている気がするの」
「会っている?」
「かなり昔、幼少の頃、目の色でからかわれて、気持ち悪いって理由で一度石ころ投げられて、目にぶつかったの。そこから血が出て、すっごく痛かった」
今思い出しても痛くて半泣きになる。
聞いてたアースも流石にそれは危険だと感じる程で、理美もこの時ばかり本当に危なかったと自負している。
「痛かっただけじゃ済まされないわよそれ」
「うん、失明しててもおかしくなかった時、投げつけた奴もビビッて逃げ出して1人になって蹲った時、大人の外国人が来たと思ったら、血の出ているところを触られたら、血どころかすべてが綺麗さっぱりに治ったと言うより消えたんだ」
誰かが前に座り込み、理美の当たった所を触ると、痛みが引き、開けられなかった瞼が自然と開けられ血もなくなっているのだから驚きだ。
その時、その大人は微笑んでホットすらしている印象だった。
「そん時だね、初恋ってやつしたの」
「理美の初恋って冬美也君ではなく?」
驚くアースに理美は笑って言う。
「勿論冬美也に恋をしているよ、今でも、でも今更思い出しただけだし、全然今はそうでもないよ」
「なら良いけど、もう寝なさい」
「うん」
これで漸く元の生活が送れると思う理美だったが、まだ知らない。
冬美也が今まさに悩みを持っていることに――。




