アダム理事長
理美は夜、晴菜と車の中で会った。
今回の話し合いで、事情を聞き、親御さんには謝罪と処罰を受け入れる事を承諾したのを教え、明日から学院にも行くよう促される中、晴菜がこんな事を言う。
「――そうそう、前々から理事長がアダム神父にそっくりなのよ」
運転手を買って出ている琴が、あっ誤魔化さないとと言う顔になる。
「それより、大丈夫なんです理美様?」
理美は急に振られ、きっとアダムの話から逸らしたい琴に合わせる為、話を聞いていなかった風を装った。
「えっ? あ、あぁぁ、でも机大丈夫かな? って思ってて頭がその、いっぱいで」
とても申し訳なさそうにそれについて伝える。
「それについては、机は使われていない新品と、壊れた備品も加害者の親御さん達が出してくれてるのと教科書もそちらで用意して貰う手筈になったから、また書くの面倒だけどよろしくね」
「お、ふぅ……」
机はまだしも、やはり教科書に関して無事なのもあったが、あっち持ちで新しい教科書に名前を書くのは正直面倒だ。
項垂れる理美をよそに、琴が腹ただしく言う。
「好意があったにせよ、別の男に取られるくらいなら取りに行くのが男ってものですよ」
「へっ? どういうこと?」
理美の理解が及ぼない、晴菜もこの時点で、好意があったのに伝えもしなかったのが分かってあきれ返った。
「あー」
琴も理美と共に暮らしていた時期があったので分かる。
言わないと分からないタイプであり、それとなく好意があろうが理美自身、惹かれなければいけないのだからそうなる。
しかも冬美也の名前が出たあたりで、すぐに会いに来たか迎えに来たのだったらもう敵わない。
「そうですよねぇ、普通見たら諦めつけるか、男は度胸でやってもらわないと頭きますね」
男ならと言う琴に晴菜がつい口説かれたらと言うと、やっぱり琴だなと思ってしまった。
「琴さんは男に口説かれたらどうします?」
「まず私に勝ってからですね話は」
「あ、はい」
なんとも歯切れの悪い中で話が終わる。
そんな中で理美は、どうして沢村が目の敵をしたのかと改めて聞いてしまう。
「ところで沢村、さん達がどうしてあんな行動を?」
ずっと気になっていた。
理由を聞いても今一理解できない。
「……そうよねぇ、それだったら最初から冬美也君に噛み付くなり言うなりすれば良いのに」
「なんで冬美也に?」
「ですから、あなたに興味があったんです。沢村さんが」
ここで理解した。
同時に疑問も生まれる。
「えぇっぇぇぇ普通に話しかければ、良かったのに」
普通に話せばいいのに、どうしてあんな嫌味になったのか。
「冬美也様に口では勝てないから? いやいや、やっぱりアレかな?」
ゼフォウの存在があるからとかも考えるも、どうも腑に落ちない。
「でも、手を出したのだから、それなりにきちんと絞めないといけませんよ理美様」
「分かった」
「後日改めて謝罪させるにしてもそれでおしまいにはさせないから大丈夫、それから、また何か起きそうな時は私で無くても、大人に相談してね」
「はい、分かりました」
今回後回しにしたのが要因とも言えるので、今後学院で何かあったらすぐに相談しようと思った。
話終え、寮へと戻るとまだ桜夜が起きており、スマホのイベントで夢中になっている。
「何してるの?」
「バーサーカー、春の収穫祭をしているのだよ理美たん」
またかとすぐ呆れる理美に桜夜は本気で真剣に言う。
「あー、軽トラ、専用トラック限定イベント……」
「そう、しかもこれ、クリア報酬が意外な事に必要アイテムをどっさり貰える、まさに春の収穫祭!」
「分かったよ、そんな騒がないで」
「そうだ、明後日、休みじゃん神崎先輩と出掛けるの?」
少し間が空くも、理美はそういえば今度の休みに一緒に遊ぶ約束をしていたのを思い出す。
「いや、それはないよ。アレの件もあってちょっとお互いで距離置いておこうって事になったから」
元々遊ぶ約束もしていないので、多分大丈夫だろう。
そして同時にまがい物の件もあって下手に遊ぼうものなら被害が及ぶ可能性もあるのだ。
『それにこのまま収縮するでも無いし』
何よりそのせいで冬美也との関係性がおかしくなるとも考え難い。
桜夜も昨日ビンタしようとしたが、広樹のお陰と広樹自身気にしていないと言うので、今回は厳重注意となったのを思い出し、あははと乾いた笑いをしてから、楽しみな言い方をする。
「なら、ジュリアの家行こうね」
「うん……そうだね」
そうして夜が更けていく――。
案の定、桜夜は寝坊した。
朝から冬美也と会う事も無く、そのまま中等部へと着く。
本当に机は新しいのになり、その日持って来ていた教科書が届くまでと言う理由で、学院から貸し出された教科書がバートンから渡された。
ただ原因を作った沢村と相川に野澤は厳罰処分らしいと聞くだけで、席にはいなかった。
『昔は、どうして嫌なのかと被害者だけが公開処刑されるとか正気の沙汰かって思ってたけど、今は違うんだ』
そう思いながら理美は授業を受ける。
昼休み、距離を置くと言うのは本当で冬美也もゼフォウも休み時間とかに来る事は無かった。
そんな中で、放送が流れる。
「嘉村理美さん、嘉村理美さん、至急、理事長室へと来てください、繰り返します――」
いきなり理事長室へと呼び出しがあり、理美は唖然となった。
「ふぁ?」
自分は一体何をやらかしたのだと固まってしまう。
桜夜はアレではと考えるも、それはもうバートンに寮で詳細を話したので多分無い。
「きっと机の投げ飛ばし事件の詳細、聞くためじゃね?」
「いや、それはバートン先生に話したから知っていると思うけど?」
美空としては無視したらそれだけでもっと呼び出されるのが目に見えた。
「でも呼び出されたんだから行っておいで、5分後またなるかもよ?」
最終的にバートンがカンカンになって来そうな勢いまで容易に想像出来てしまい、理美は急いで行く。
「それは困る、行ってきます」
「いってらー」
向かっている最中、ある事を思い出す。
「そういえば、管理者だったよね……アダム神父も」
出会った当初、集会で確かアダムのアース、オースだったかもいたような……。
その瞬間、背後から気配を感じ振り返る。
「おー来た来た。一昨日は大変だったな」
獣耳を生やし、半獣の様な姿をしている少年が立っていた。
「ね、猫耳少年が立っている!」
オースが突っ込んだ。
「おい、幻覚で回りが俺らを見えないようにしてるからって良いようなののも!」
ここで人が居ないのに気が付いた。
「そういえば、回りに人が居ない!」
「まぁ、理事長室はすぐだし別にだけど、本来なら改めて話す気ではいたんだが、一体誰かがそういう風にしたとも言えるけどぉ、とにかくアダムに会って鬱憤やら不満やらぶつけてやれや」
オースが言った時、気が付けばもう理事長室前だった。
「これ、幻覚?」
「違う、あるからちゃんと、でも他の人には見られたくも聞かれたくもないでしょうが」
そう言って、オースは扉を開ける。
「オース、お前は戸を叩かないから正直困る」
「叩いたら幽霊騒ぎなるだろ」
言い合う声をよそに、理美は恐る恐る中へと入る。
「久しいね理美」
若返っているが確かにアダムだ。
説明会で理事長自身は入学式には後日やってくるとだけ聞いていたが、もし会っていれば多分気付いただろう。
全体朝礼等やっても良いだろうに、でも1週間過ぎてもいないのだから仕方がない。
ただ、確信をした。
「理事長……いやアダム神父」
たまたまそっくりな人ではなく、間違いなく本人だ。
「そうだ、私だ」
「学院を作った後に亡くなったって話があったからもう会う事も出来ないって思っていたし、葬式だって密葬って話があって行けなかったから、管理者も死ぬんだって」
不安にさせたのも分かるし、感情的に噴き出しても仕方ないとアダムは分かっていた。
「怒りたい気持ちも分かる。これがアースと繋がりが生まれし呪いとも言われる位には、私さ長く付き合っているオースと」
改めて理美は感じる。
「死んだら、元に戻る……」
「そうだ、我々は不死鳥の循環の如く生きて来た。そして理美、君もその仲間だ」
「……」
「怖いだろうが、何回かすればその内」
アダムが言い掛けた時、理美は今の気持ちを言った。
「実感湧かないから分からない」
返ってこっちが驚き、戸惑ってしまう。
「……あ、ぁぁそうだな」
カラスに言われたのと、琴とかに話を聞いていたのもあって下手な恐怖心すらなく、ただただ普通に受け入れていると言うべきか、一度死んで再生しなければ多分実感しないのではと理美はそれをも込めて言う。
「確かにアダム神父がさ、こうして若返ってここにいるから、恐怖心とか疑心暗鬼とかになるとばかり思ってたんだけど、やっぱり実感が湧かない」
「だが、最初に出会った姿に戻る訳で」
「いや、私、アダムの過去の姿見てないから恐怖湧かない」
オースが流石にツッコミ、アースも先の騒ぎで返って気持ちが落ち着いてしまったのではと考える程だ。
「思ってたよりも鈍感かお前!」
「多分、トラウマ抉られたせいと前持って話されてたから実感が湧いてこないんじゃないかしら?」
でもやはり、それはそれとして、理美はアダムに対して言いたい事があった。
「アダム神父、どうして皆、言わなかったのか……私が幼過ぎたから?」
「そうだ。理美のアースも選んだなりに配慮をしていたんだろう」
オースも言う。
「言う奴は最初から言うし、気に入った奴が居ても触ってもらわんと動けないしね。こいつの場合は、お前が幼過ぎたんだから無理ないだろ」
「原因は分からず仕舞いだが、理美のあの状態では少なからず誰も話せなかった。話そうな連中でさえ」
アダムの言う通り、少しだけ付き合いが出来た管理者の中には実際話そうなのも居た気がする。
ジルとかそんな感じがした。
でも結局事情はどうあれ、あんな状況では話す事は出来ないだろう。
逆に琴は回りにもアダムにも聞いて、一切それに関して言わなかっただけではなく、そんな素振りすらなかったのだ。
だからこそ、先も言ったように実感が無い分、恨む事もないし、それだけ気にしても仕方がなかった。
「隠してたのに関して恨んでは無いです。それは本当だよ」
「そうか、でも、無理しているんじゃないのか?」
アダムには見透かされている気がして、理美はまがい物の件に付いて話す。
「まがい物の件で、ちょっと今回の騒動だって早過ぎる気もしてたからそれだと思う」
イジメが異常に早い気がした。
まがい物の影響なら多分、鎮火はしない。
新たな火種を作る可能性もある。
そこでアダムはある提案をした。
「ふむ、少し幻覚を掛ければ気が紛れるかもしれん」
「幻覚ってあの時見せた?」
「幻覚って言葉では簡単に言ってるけど、幻聴も出来るぜ」
「まぁ見せない、聞かせない程度なら出来るし、この付近でやらかした人間を放ってはおけん」
これなら、少しは気は紛れるだろう。
だがいつまでも野放しにしてはいけない。
理美は早く犯人を見つけなければ学院生活に支障をきたす分、同時にまがい物を使っての行為なら尚の事絞めないと気が収まらなかった。
「そうだねぇ、一回絞めないと気が済まない」
「わぁこんなタイプなん?」
「きっといじめによる性格がちょっとひん曲がっちゃったんだと思う」
「早めに叩くべきだな元凶を」
これを見たオースもアダムもこのままだと先に元凶を殺めてしまうのではと不安になる。
少し引いてしまったアダムとオースに安心させようと言うが、どうも言い方からしても絶対1発は殴らないと気が済まないと言っているようにしか聞こえない。
「大丈夫だよ! ちょっと手を出した相手を間違えたって思わせたいだけだから」
と言うより、もう間髪入れずに絞めそうだ。
「それが不安なんだよ」
もうすぐ時間だろう、アダムは理美に言う。
「……理美」
「はい」
「私を見ても動じなかったのはまだ実感も湧かなかっただけだろう。だがそのうち分かるようになる。だから暫くして怖くなったり、苦しくなったりしたらまた来なさい待っているから」
「分かった」
今後は見守り、先の騒ぎを未然に防げれる用に努力しなくてはとアダムは感じていたし、未然に防げなかったのも悔やんでいた。
今度こそは守らなくては――。
理美はアダムと軽く挨拶して理事長室から出た。
教室に向かう最中、冬美也を見つけた。
声を掛けるべきかと悩んでしまうが、決めたのを反故するようでなんか嫌だ。
とりあえず気付いたら挨拶くらいと思ってた時に起こった。
「神崎君、休み一緒に出掛けない?」
藤浦が冬美也に声を掛けて来たのだ。
駆け寄ろうとも考えるが、ここは隠れるべきではとつい曲がり角に隠れて、様子を見る事にした。
またかという顔で、冬美也はすぐに断ろうとするも、同情してほしそうな顔で藤浦が言う。
「断る、良い加減――」
「そういえば、嘉村理美って子に言われたんですよ。ストーカーって」
あの時言ったからそのまま伝えたのかと、少々呆れるが後でloinでもして言わないようにと考えるも、まずは藤浦に対して、事実として言い返す。
「いや、事実だろ、そもそもそれ言ったのオレだし」
その態度には一切同情もしない。
言ったのが冬美也だからこそ、そこはとても毅然としていた。
藤浦が舌打ちをする。
「……っ! それよりも、私と一緒のほうが楽しいですよ?」
普通の人間なら食い下がらずに、諦めがつくと言うか、そもそもやらない。
いっそ発狂して回りにの目に晒されれば少しは頭が冷えるだろうが、運悪く居ないのだ。
「楽しくない、お前最近本当に変だぞ? なんか不気味と言うか」
本気で引いているのに気づかないのか、もう少しキツく言うべきか。
本来ならゼフォウと居るべきだったが、運悪くゼフォウは日直、自分はと言えば……どうしてここに居るのか分からない。
必死に考えている中、バートンがやって来た。
「そこ、何しているんです? またですか、愛弓藤浦」
藤浦はバートンがあの時呼ばれて以来苦手なのか、すぐさま逃げ出す。
「あ、あの……」
冬美也が言おうとした時、隠れていた理美に言う。
「理美嘉村、そんな所に居ないで、行きなさい。もう授業が始まりますよ」
そういえば、昼休みに呼ばれ、話し込んでいたのでほとんど時間がない。
距離を置くとは言っていた手前もあるが離れる際一応声をと思っていたが、バートンに無理やり促されてしまう。
「は、はい、冬」
「早く、いきなさい、1年の教室は遠いんですから」
「わかりました」
しぶしぶ、理美が去った。
それを見て、冬美也もこいつがいなければ少しは話せたかもと思ってしまう中、バートンは冬美也にだけきつめに言ってくる。
「冬美也神崎もさっさとしなさい」
「オレだけ言葉おかしくね?」
「お前が迷惑かけているって事を少しは自覚しろ」
その言葉にカチンと来て言い返そうとした時、丁度チャイムが鳴る。
「あぁもう!」
腹立だしくも急いで教室へと戻るしかなかった。




