おうちが一番
おうちに帰ってくると、唯一残っていたお父様が出迎えてくれた。
辺境伯の領主が夫婦で不在にするのは今は難しいらしい。なぜ今は難しいのかは教えてくれなかったけど、前世のゲームの記憶と考え合わせるに、隣国が情勢不安定かつ魔物がそのせいもあって増えているからだろう。お父様が一緒に行けなかったのは残念だったけど、残ったお父様も残念だったようで、お父様は嬉しそうに私達を出迎えてくれた。
出迎えてくれたのはお父様だけではない。お父様の前にはリィンがいて、馬車を降りると駆け寄ってきてくれた。
「リィン!」
お母さまに馬車からおろしてもらった私もリィンに駆け寄る・・・と思ったけど。
こてっ。
「たっ」
私の気持ちに足はついてきてくれず、見事に転んだ。
「うー」
ちょっと悔しくてうなっていると、リィンがすかさず寄り添ってくれる。
「ありがと」
私はいつものようにリィンに支えてもらって立ち上がった。
アリシアのおうちの別荘に出発する前、リィンはみんなが荷造りしているそばを不審げにウロウロしていたし、出かけようとする私にぴったりとくっついて一緒に馬車に乗ろうとしてた。
だけど、魔獣というのは中々驚かれるし、特に幼児の私がそばにいるだけではみんなを警戒させてしまうらしい。こんなに安心安全なのになぁ。という私の思いはともかく、よそのおうちにお邪魔するときに一緒に行くのは難しいと申し訳なさそうにお父様に言われた。
なので、私はリィンにお留守番してねとお願いしたのだ。私の言葉に一応リィンは馬車に一緒に乗り込むのはあきらめてくれたけど、心配そうにじっと座り込んで私を見てきた。
リィンの様子を見かねて、
「大丈夫だよ、僕が守るから」
とお兄様が言い、
「俺もついていくから」
とイライアスも言ったけど、リィンは動かなかった。
そこへ、すっと進み出たアルトゥロがリィンの前に膝をついて何かささやくと、リィンは納得した様子になって、馬車から安全なところまで離れてくれた。
・・・アルトゥロよ、何者なのだ。我が侍従ながら謎である。そのアルトゥロもアリシアのおうちには一緒に行かなかったけど、お父様の後ろに控えて、出迎えてくれていた。
「お帰り」
「おとうさま!」
歩み寄ってきてくれたお父様に立ち上がった私はすかさず抱きつく。お兄様も駆けてきて、私の隣でお父様に抱きついた。
「まあ、元気なこと」
お母様がゆっくりと歩み寄ってくると、
「お帰り」
お父様は、お母様と私達越しにハグした。
・・・帰ってきたんだなぁ。アリシア達と過ごした夏休みはとっても楽しかったけど、やっぱりおうちが一番!
「さあ、少し休まなくては」
ぎゅっと私達をハグしてくれたお父様が言って、私達はおうちに入ることになった。
一度それぞれのお部屋に戻る感じになって、私も自分のお部屋に戻ってきた。・・・前世の旅行から帰ってきた日に旅行中の洗濯物や細々したものの片付けをしなければいけなかったことを考えると天国だ!侍女や侍従の皆様には改めて感謝だなぁ。
しみじみと感謝しつつ、
「ていっ」
私は、ベッドに向かってダイブした。
そのままの勢いでゴロゴロしていると、
「アレクサンドラ様?」
静かな、静かな声で呼ばれた。
そう、私はうかつにもクラリッサが一緒に部屋に戻ってきたことを忘れていたのだった。
「ごめんなさい」
ぱっと起き上がって私は謝った。それが一番早いのだ。
今もクラリッサは後をひくことなく、
「アレクサンドラ様。お着換えしてからお休みしましょう」
とだけ言った。
「はい」
確かに。
納得した私は、マーシャにお手伝いしてもらって、お着換えをすると、改めてベッドにしずしずと入った。
「おやすみなさい」
「「お休みなさいませ」」
クラリッサとマーシャの返事を聞いたのを最後に、私はすっと眠りに落ちた。




