どうやら夢じゃなかった
「ゆめだったのかも・・・」
精霊の言動の考察を任された明日の私だが、まずそもそもあれは夢だったのか現実だったのかがわからない。夜中のあり得ない刺激のせいか、珍しく起こしてもらう前に目が覚めた私は、ベッドの上で腕を組んで悩んだ。
大体今まで転生してからは夜中に目が覚めたことがない身だ。やけに鮮明な夢だったのかもしれない。うんうんと悩んでいると、ドアをノックする音が聞こえて、夏休みにもついてきてくれている、私が大人になったときの専属侍女候補のマーシャが入ってきた。
「まあ!おはようございます。今日はお早いんですね」
ベッドの上に起き上がっている私を見て、マーシャは驚いたように目を見張っている。
それだけでなく、
「お腹や頭が痛いのではありませんか」
体調を気遣う言葉を続けられた。・・・何気に失礼では。といったん思ったが、普段の寝起きの悪さに鑑みればやむを得まいと思い直し、
「へいき」
組んだ腕をほどいて振り回し、元気をアピールしておいた。
「よろしゅうございました」
マーシャはクラリッサではないので、元気いっぱいの私の仕草を咎めることなく微笑んでくれた。
「さあ、お仕度をいたしましょう」
「はい」
私は、ベッドを抜け出して、マーサの手を借りて1日の仕度を始めた。
ころん。
「あら?」
私が抜け出した弾みで何かがシーツから転がり落ちた。マーシャがそれを拾い上げてくれる。それは緑のなめらかな小さな石だった。
「どこかから拾っていらしたのですか?」
「ん~?」
いや、寝る前にはこれはなかった、と思う。もしかして。マーシャから受け取った石に軽く魔力をこめてみる。・・・弾かれた。
これは昨日の精霊がおいていったのかな?私が夢だと思わないように、現実だったと伝えるために。
「アリシアにきいてみよ」
アリシアは、前から精霊学を学んでいたと聞いたから、何かわかるかもしれない。そう決めて身支度を終えて、いつもより早く食堂に向かうことにした。
「おはよう!」
食堂に着くと、アリシアだけが既に席についていた。
「おはよう」
「まだアリシアだけ?」
「ええ。私が一番みたい」
ふふふっと笑うアリシアは、朝が強いのだろうか。うらやましい。
て、それはともかく、それなら今聞けるかも。この屋敷にお邪魔してから、食事のときにはいつも座っている椅子に座る前に、お隣のアリシアの席に近づいて、
「これがなにかしっている?」
そっと今朝見つけた石をアリシアに見せてみた。
「まあ」
受け取ったアリシアは、しばらくして驚きの声をあげたけど、私が何となくこっそり見せたせいか抑えめの声だった。
「?」
そんなに驚くようなものなのかなと首をかしげる私に、
「これは精霊の魔石というのよ」
「せ、せいれいのま?」
聞きなれない言葉の意味を脳内変換できずどもる私に、
「魔石よ」
アリシアはもう1度教えてくれる。
「魔力を通さない石で、精霊が作り出したと言われているの」
「そうなの?」
「・・・もしかして」
私はまだ首をかしげてたけど、アリシアの目がキラキラし始めた。
「アレックスも精霊と契約したの?」
珍しくわかりやすくわくわくした様子で、アリシアが聞いてくれたけど、
「ううん、そうじゃないの」
残念ながら。
「だけど、ゆうべちょっとおはなししたのよ」
ちょっとがっかりしかかったところへ、私が続けたので、アリシアは再び嬉しそうになって、
「まあ、そうなの。ではいずれアレックスも契約するかもしれないわね」
と言ってくれた。
・・・それはどうなんだろうなぁ。私がさらに首をかしげたところへ、
「「おはようございます」」
お兄様とエステバンが入ってきたので、私とアリシアのお話はとりあえず終わりになったのだった。




