悲劇は回避しよう。
後を追いかけてきたイライアスとお兄様、先生達と共に、お母さまのところに駆けつけた私は、
「イライアュ、かぞくもいっしょ!」
と強く主張した。・・・うん、我ながら何を言っているのかわからんな。お母さまも当然、
「どうしたの、アレックス」
と首をかしげている。
困った私は、サンダーズ先生とスキナーさんを見上げてみた。さあ、代わりに説明を!幼児の特権とばかりに大人にぶんっと丸投げする。そんな私にサンダーズ先生は苦笑したけど、私の意図したところを代わって説明してくれた。
サンダーズ先生のご説明を聞いたお母さまは、
「そういうことなら、イライアスのご家族も来てもらいましょう」
と請け合ってくれた。何でもちょうど騎士達の食堂を切り盛りする人が欲しかったようで、渡りに船、とは言ってなかったけどちょうど良かったみたい。そうすると、姉弟同然の娘さんも一緒にそこで働くのかなと思ったけど。
「マーシャちゃんよ」
無事に我が家に現れたイライアスの初恋の相手を(と前世の私はゲームをしながらそう推測していた)、なぜか私はお母さまから紹介されている。
「あい。あれっくしゅです」
よくわからなかったがとりあえず名乗ると、
「今日からアレックス専属の侍女を務めてもらいます。アドラに学びながら共に育てるでしょう」
お母さまは説明してくれた。
なるほど。この世界では、きっと年の近い侍女が子供のころからついたりするんだな。見上げたマーシャの瞳が明るく優しかったので、私は嬉しくなる。
「よろしくおねがいしましゅ」
ぺこりと頭を下げると、マーシャも慌てて頭を下げて、
「アレックス様のお役に立てるよう努めます」
とずいぶんしっかりした挨拶をくれた。
そんな私達の様子に、お母さまは満足げに笑って、
「マーシャ、アレックスをよろしくね」
マーシャに私のことをお願いしてくれた。そのとき、この子はお転婆だからとか何とか聞こえたような気もする。が、気のせいだ、きっと。この小さな体でお転婆など大してできるはずもないのだ。
こうして無事にイライアスの家族は我が家で暮らすことになった。これでゲーム通りの悲劇は回避された。イライアスが師匠と共に家を離れている間に、イライアスの実家は強盗に襲われるのだ。その際に家族2人の命も失われる。後にイライアスからの仕送りと食堂の売上を狙った傭兵崩れの犯行であることがわかり、イライアスは大の傭兵嫌いになる。
そして、2人の弔いから帰ってきたイライアスは、別人のようになってしまう。一見無駄に明るいのに、他人を寄せ付けない。そのせいか、ゲームの中でもイライアスはアレクサンドラの養父に仕える魔術師だったけど、アレクサンドラとはゲーム開始後まであまり接点がなかった。
でも、現実は違う。お母さまとマーシャを失わずにすんだことで、イライアスの性格は、まっすぐ明るいままだ。
「イライアス!」
今日も元気に師匠であるスキナーさんに怒られている。
今日はどうしたのかな。またお兄様に魔術を見せすぎでもしたのかな。と呑気に思っていたら、
「アレクシス様?」
サンダーズ先生が私を呼んだ。・・・あ、まずいかも。
「イライアスにまた魔術を見せてもらっていたようですね」
・・・ばれてないと思ってたのに。
そっちからばれたのか!?とイライアスを見ようとしたけど、
「アレクシス様?」
圧の増したサンダーズ先生の声に、
「あ、あい」
先生に向き直るしかなかった。
「もう1度ゆっくりと魔術についてお話しましょうね」
先生、それ幼児に向ける眼差しでも話し方でもない。なんて思ってみたものの、今の私の口はそんなに滑らかに動かないし、こんなことを言っていい状況でもない。
何でばれちゃったかなぁという内心を押し隠し、私はサンダーズ先生のお説教を大人しく聞くことにした。・・・まあ、結局いつのまにやら寝落ちしちゃってたんだけど。幼児の特権だ。




