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第三十九話「迷宮出発と新たな部屋」

 


 >>>


【ルーク視点】


 部屋から出てきたニーナの顔が引き締まっている。

 こんな顔をしたニーナを見るのは久しぶりだ。

 臨時でパーティを組んだ時以来だろうか。

 あの時も魔石ハントの依頼で迷宮に入ったんだったな。


 あれから三年は経つだろうか。

 あれでニーナを知り、ギルドへ引き抜いたんだったな。

 実力もそうだが、何よりも機転が利くのがニーナの魅力だ。


 一冒険者にしとくのはもったいねぇ。


 そう思ったんだったな。

 有事の時には俺の右腕となって冒険者をまとめ上げてもらいてぇと思ったが、やはり冒険者としての血が騒ぐんだろう。

 退屈させちまってたのかも知れねぇな。


 まあ退屈と言えば、俺も人の事言えねぇな。


 支部長である親父が王都に呼ばれて二年以上経つ。

 その間、俺はこのギルドの実質的な支部長として切り回さなきゃならなくなった。


 全くもって面倒くせぇ。


 冒険者の助っ人で他出する事も無くなっちまったからな。

 しかし、今回のイオン探索は他の話と全く違う。

 なんせイオンは俺が保護した娘な上に、殿下の運命人さだめびとなんだから俺が行かねぇとな。


 イオンには本当に驚かされるぜ。


 とにかく必ず探し出さねば。


「ジョシュは見つかったの?」

「ああ。イオンの料理の噂を聞きつけて、ちょうど飯を食いに来てたみてぇだ」


 ジョシュと言うのはジョシュア・モンギールと言って、人間族の猿人族のハーフの男だ。

 昔ニーナとパーティを組んでいた男で、戦闘力は低いが索敵に関しては天下一品なのだ。

 道案内や料理も熟せる男で、俺やニーナのような戦闘型の者にとっては、パーティを組むにはもってこいの男だ。


 運がいい事に新しい料理が食えると聞いて、ギルド直営の定食屋に顔を見せていたのだ。

 昔から勘働きのいいヤツだから、今回も何かしらの勘が働いたのかも知れない。


 俺とニーナの他にジーニャがいて、そこへジョシュが加わったのだから、まあパーティとしてのバランスはいいだろう。

 欲を言えば治癒ヒール系の魔術師がいれば文句の付け所がない。


 それを言えば、イオンは最高の治癒魔術師と言っていいだろう。

 ここにイオンが加われば、Sランクのパーティと言ってもいいだろうな。


「運が向いてきたわね。あとはあの迷宮転移魔法陣ラビリンストラップが双方向であれば言うことないわね?」

「そうだな。でも俺はこの流れからして双方向な気がしてるぜ?」


 ツキが回ってきたってヤツだ。

 ジーニャもそうだが、ジョシュの一件で益々そう思う。


「早えとこイオンを探し出そうぜ?」

「そうね、早くイオンを見つけてあげましょ!」


 ニーナも同じ思いなのか、その言葉に確信めいたものがあった。


 さあ、迷宮に出発だ。



 >>>



「なにココ……」

「なんだろね……?」


 通り穴を抜けた私と銀一は呆然としてしまう。


 通り穴の先にあった白い石っぽいの小さな扉を開けると、そこは壁や天井に地面にいたるまで、白い大理石みたいな磨かれた石でできた部屋になっていた。

 光源が何なのかわからないけど、昼間のように明るい。

 部屋の大きさは教室くらいで丸いドーム型をしている。

 一瞬、あの小学生の白い空間を思い出したけど、明るさに目が慣れると全く違う場所だとわかった。


 しかも何かモンスター的なモノに遭遇することを覚悟していたのに、この部屋はもぬけの殻。


 本当に何もない。


「行き止まりってこと……かな?」

「さあ……」


 銀一先生にもわからないことがあるらしい。

 ま、何から何まで知ってる訳ないか……。


 でもヴィギーダの通り穴を埋めてしまった今、ココが行き止まりだとこの迷宮から出られない。


 どうしたものかしら。


「イオン、とりあえずなにか魔法を使ってみて反応を見てみる?」


 壁をぐるりと見て回っていた銀一が、妙なことを言い出す。

 なんの反応を見るって言うのだろう。

 壁に何かあったのかな?


「でも魔法って言ってもどんな魔法で何すればいいの?」

「うーん、そうだなぁ……」

「ッ!!!」


 腕を組めるんだ銀一!

 ネコが腕を組んで考える姿ってめっちゃ可愛い!


 嗚呼、スマホがないのが悔やまれる。

 パシャリとやって待ち受けにしたかったよ……。


「なにイオン? もう血はついてないでしょ?」


 私が残念な気持ちで銀一を見ていたせいか、自分の体を見い見いキョトンとした顔の銀一。

 治癒はしたけど血だらけだったから、さっき水魔法で綺麗に洗ってあげたのだ。

 ちゃんと魔法ドライヤーで乾かしてあげたから、風邪をひくことはないだろう。

 でも、ちょう水を嫌がってたけど。


「あ、うん。もう綺麗よ。ちょっと違うこと考えてただけ……」

「もう。人に考えさせといて、違うこと考えないでよね?」

「ごめんなさい……」


 あんたが可愛いからいけないのよ。

 でもごもっともね……。

 何から何まで銀一頼りも良くないな。


 私も壁際に行き、ペシペシと大理石みたいな壁を叩いて観察してみる。


 うん。綺麗に磨かれた大理石ってとこ。


 だから?

 何も考えが浮かばない……。


 なんなのよココ。

 意味がわからないよ。


 魔法で穴を開けて通り穴を作ればいいのかしら……。


「ギギ、とりあえず魔法で通り穴でも作ってみる?」


 もっともらしくペシペシ壁を叩きながら聞いてみる。


「そうだね、それもいいかもね。とりあえずさっきのアダマーレムの件があるから、魔法が通じるかどうか見たかったから何でもいいんだけどね?」

「そ、そうなのね……」


 本当に何でもよかったのか……。

 じゃあ考える必要なくない?


 ま、とにかく魔法ってことね。

 確かにアダマーレムには魔法が効かなかったから、最初に確かめておくべきかもね。


 さて、どこに穴を作ろうか。


 天井に開けた方が外に地上に出られそうな気もするけど、それじゃあさっきと同じで私が出られないものね。


 などと思いながら天井を見上げていたら、天井のちょうど中心部分に黒い点みたいなものがあるのに気がついた。


「ねえギギ、あんなとこに黒い点ってあったかしら?」

「ん?」


 銀一が私の側に近寄ってきて天井を見上げた時、その黒い点がススススっと静かに大きくなった。


「えっ?!」

「イオン、なんか出てきたよ!」


 黒い点は穴となり、その穴の中から白い塊が下りてきたのだ。



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