第百八話「二人だけでお話・2」
「この世界では凡そ五百年から千年のサイクルで魔王は復活、厳密には新たな魔王が誕生すると言い伝えられている。前回の勇者召喚が凡そ五百年前の出来事なので、早ければ今が魔王復活の時期とも言えるんだよ」
「魔王復活…………」
って言うことは、私がこの世界に転移してきたのは魔王復活に関係しているってことだろうか。
と言うよりも、まさか本当に私が魔王だったり…………?
「誤解しないで欲しい」
私はどんよりした気分で下を向いてしまうも、すかさずかけられたエドワード王子の声で顔を上げる。
「さっきも言ったように、僕は君を魔王だなんて思っていない。むしろ勇者の方が可能性としては大きいと思っている」
「勇者……」
そう言えばあの石ころの潜在使命のところは勇者ってなってた。
厳密には【潜在使命:勇者(助手)】って、カッコ助手になってたから、なんのこっちゃってスルーしてたけど。
てか、助手とか意味わかんないし。
でもこれ、よく考えたら私が魔王じゃないって証拠よね?
まあ、私しか読めないから証拠もへったくれもないんだけど……。
「ただ、君が勇者だとは考えられないんだ、イオン」
「え?」
今の今、魔王より勇者の可能性が大きいって言ったばかりなのに?
一体全体どういうこと?
「そうだよね、勇者の在り方を知らなければ支離滅裂で話が見えないね……」
私が小首をかしげていると、エドワード王子はそう言って自分の髪をワシャワシャっと掻いた。
そして「先ずはそこからだったな……」と呟いて、またキラキラしい瞳を私に向けた。
「実は勇者って言うのは輪廻すると言われているんだ。すなわち一人の勇者の死後、また新たに違う勇者が産まれる、と言う事だね。ただそれは勇者が死んだ瞬間になされる訳ではなく、長くて凡そ二十五年もの時間のズレが生じるんだ。
今から五百年前に勇者召喚をしたのも、丁度その狭間の時期だったからなんだ」
「ご、ごめんなさい。私、理解が追いつかないです……」
何がなんだか良くわからない。
って言うか、何もかもが急すぎて本当にわかっているのかどうかがわからない。
「うむ。そうだね。君にとっては初めて聞く話ばかりな訳だし、理解に苦しむのは致し方ないね」
エドワード王子はそうに言って、両手で包むように私の手を握る。
「勇者と言うのは、ただ単に超絶な魔力量を保持していると言う訳ではなく、ただ一人、聖剣を扱う事の出来る存在なんだ。
その聖剣は、魔王に対して唯一致命的なダメージを与える事の出来る武器で、まさに神に託された神器と言えるんだよ。
ただ、その聖剣には曰くがあって、勇者以外の者は聖剣を抜く事すら出来ないんだ。無理に抜こうとすればその身が朽ち果ててしまう。謂わば選ばれし者である勇者しか触れる事が許されない剣とも言えるんだ。そして今、現存の勇者は魔大陸の何処かで封印されていると推測されている。要は死なずに仮死状態となって拘束されているんだ。
これの意味するところは、現在は勇者の輪廻が止まっている、と言う事なんだよ……」
「…………」
なんとなくわかったようで本質が全くわからない……。
「だから、魔王復活の時期に合わせて我らエクシャーナル王国は、五百年前に行われた勇者召喚の儀を再現しようと秘密裏に動いているんだ」
やっぱりついていけない。
ただ、全くついていけないと言う訳ではなく、ファンタジー小説的に考えればなんとかついていける。
でも、だからこそ尚更現実として結びつかないのよね。
自分も異世界から転移してきた訳だし、その事実を考えれば、こうした現実を受け入れざるを得ないんだけど……。
しかしそうやって考えると、勇者不在のこの時期に私が転移してきたのには、やっぱり何かしらの意味があるのかしら?
全くの偶然にしてはタイミングが良すぎるよね?
それこそファンタジーな小説的に考えたとしたら、この状況での私の転移には何かしら繋がりがある流れな気がする。
それに、死ぬ順番を間違えたから私を転移させたってあの小学生の話、やっぱり胡散臭いもんね。
でも、現実は得てしてそんなものなのかも知れないんだよな……。
とにかく、私の転移には何か別の意味があるのかも知れないってことは、頭の片隅に置いておくことにしよう。
「と言うと、エクシャーナル王国では新たに勇者召喚を画策している、と言うことですか?」
「その通り。勇者の輪廻が絶たれた今、それしか方法が見つからないとの見解で、数年前から執り行われている。詳しい事は言えないが、その為にエクシャーナル王国は秘密裏に尽力しているんだ」
私の問いにエドワード王子は厳かに頷きながら答えてくれた。
要は異世界から転移なりなんなりで召喚しない限り、現状では勇者は現れないとの事なのだろう。
もしくは魔大陸の何処かで封印されてる勇者が解放されない限り。
「それはエクシャーナル王国単独での試みなんですか?」
前に御子息くんが、エクシャーナル王国は召喚魔法ではアレークラ王国に遅れをとっていると言っていた。
ならば召喚魔法先進国であるアレークラ王国の助けが必要よね?
「その通り、我が国が単独で行なっている。
もしかしてこの問いは、我らよりアレークラ王国の方が技術的に先を行っているからかな?」
「はい。ちょうど王都へ向かう前に聞いた話でして、そう言うことでしたら協力してもらえばいいのかなと……」
エドワード王子が「そう言う事は知っているんだな」と呟いて苦笑する。
「うむ。ただ、今はアレークラ王国と停戦状態にあるが、敵国である事に変わりないので現実には協力を仰げない……と言いたいところだが、これはそれだけの話ではないんだ。
これはエクシャーナル王国の国としての威信にかかわる事でもあるんだよ」
エドワード王子はそう言ってほんの少し眉を寄せる。
「本当の理由は、先程話した封印された勇者が我がエクシャーナル王国の人間だからなんだ」
「…………」
えーと、それがなんで国の威信にかかわるの?
やっぱり意味がわからない……。
ポカンとした顔をしていたからか、エドワード王子は「もう少し詳しく話さないとだな……」と小さく呟いて、話を続けた。
「そもそも勇者を輩出した国と言うのは、国を挙げてその勇者を保護する事になっているんだ。
それは有事の際、つまり魔王復活の際には、勇者を輩出した国が中央大陸で最も権威を持つ国になるからなんだ。卑しい話ではあるが、そうなれば戦後の利権は計り知れない。つまり有事に勇者を輩出すると言う事は、そのまま国益にかかわる事なんだ。
だからこそ、世界を救う勇者とて全世界から狙われることにもなる。勇者を亡き者にして、次の輪廻で新たな勇者が自国から出現する可能性にかける訳だ。
それを国が守れなかったとあれば、その国は笑い者になるだろう。ましてやエクシャーナル王国と言う大国がその失態を演じてしまったとあれば、同盟国や傘下の領主達からも信頼を失ってしまう。これは国として極秘裏に解決しなければならない事案でもあるんだよ」
なんだか大人の事情がおありなのね……。
エドワード王子がやけに大人に見えてくる。
「イオン、とにかく今はそうした訳で、君の魔力量を勇者として捉える事は難しい状況なんだ。
もし君の魔力量が露見したら、きっと魔王として見られてしまう。
勿論その時は僕が絶対に君を守ってみせる。が、きっとその事で『運命人』として君を迎え入れる事自体にも横槍が入るに違いない」
エドワード王子の手にギュっと力がこもる。
ずっと手を握られていたことに、今更ながらドギマギしてしまう。
「君がどんな世界から来ていようが、僕はそう問題にはしていない。ただ、君を『運命人』として迎えられなくなるのが問題なんだ。何故ならば、僕は君を王妃として迎え、添い遂げたいと思っている」
「…………」
クラクラする。
正直、私もエドワード王子と添い遂げたい。
こうして見つめ合っていると尚更その想いが深まっていく。
ただ……。
私にはその前にやらなければならないことがある。
そして、だからこそエドワード王子には真実を話さなければならない。
「エドワード王子、私からもお話があります」




