雨音とともに
本降りの雨のノイズが鳴り止まぬ薄暗い放課後、足子とヤッキーはただ2人でぽつんと教室にいた。ニアがまた現れて茶化しに来るのだろうか。もしかしたら、傘を届けてくれるのかもしれない。それにしても直感めいたものがあれば進路などあっさりと見つけられるのかもしれないと思うと彼女のその能力だけは羨ましく思えた。僕だってスーパーロボパイロットの才能はあるはずなのだと、頭の中で血気盛んな青年兵に成り切っていると、生の足音が鼓膜を静かに揺らした。
ひた、ひた。
ゆっくりと何かが近づいてくる。足子はただ廊下を一点を見つめる。ヤッキーは、手を震わせ、上履きの中で足の指をヌルヌルと擦り合わせていると、急に足音は止まった。窓が小さくガタガタと揺れ、屋根から雫が溢れ落ち、側溝へ勢いよく飛沫を上げる。一瞬の沈黙に息が止まりかけた次の瞬間、黒い影が窓越しにヌッと現れ、間もなく廊下から濡れた長い髪の女が迫ってきたので、声もなく腰が砕け椅子から崩れ落ちた。目の前で、ぽた、ぽた、と水が滴り落ち、足は濡れていた。恐る恐る、見上げると顔がこちらを覗き、ぐしょぐしょの髪の奥から鋭い眼差しを向けられ、こちらに手を伸ばしてきた。得体の知れぬ存在に身体は凍りつき、その場から動けなかった。ただ深い吐息とともに吸い込まれるように目の前を暗く覆うと、おもむろに手をつかまれた。ひんやりと冷たく、一瞬引いたが、無理やり掴まれ、引っ張り込まれるので、足をすべらせつつも、自力で立ち上がって、椅子にガクガクと腰を震わせながら降ろすと、女はいきなり金切り声を上げる。
なんでそんなドジやってるの!ていうか、なかなか来ないから、土砂降りでしかも傘もないのに外出て探し回ったりしたんだからね!
あ、あぁ急に現れてびっくりしただけだよ。ジジェイ。
一部始終を黙って見ていた足子は急に口を開く。
ヤッキーの手、冷たかった?
え?まぁ温かかったんじゃないかな。私、濡れてたし。
そう。
彼女は何ら表情の変化も見せなかった。その瞳の奥の彼女の闇を覗いてしまった2人は一瞬だけ、お互いを見つめ口裏合わせをするように、小さくコクリとうなくずと、ジジェイが口火を切った。
とりあえず私の部室へ来てもらいましょう!ほら、早く!
彼女の催促に、2人はバッグを持ち、ジジェイに着いていった。廊下には雨音と上履きの音とともに、生の足音をヒタヒタと響かせた。




