1. 前世悪役令嬢、幽閉されて死にました。
文章がおかしかったり、誤字・脱字あったらすみません!
アナスタシアは自分の骨ばった指を見た。
腕には、使用人に打たれたり、強く掴まれたりしたあざが残っている。
以前から細身であったが、言われのない罪で幽閉されてからというもの、使用人には虐げられ、ろくに食事も与えられず、さらに痩せ細ってしまっていた。
私はこれほどまでに扱われる罪を犯したのかしら。
元々愛想が良い方ではなく、万人受けする性格ではないと自覚はしているが、それでも最低限礼儀をわきまえていたし、人を貶めたり、嫌味なことを言った事もなかった。
なのに、憲兵に連れられた時、私がしきりに冤罪を訴えても、誰も話を聞いてはくれなかった。
もし、私がフローラのように明るい性格で、みんなに好かれていたら、私のような状況になってもきっとみんなが助けてくれるのでしょうね。
フローラは、アナスタシアのほぼ唯一といっても良い友人で、アナスタシアと同じくクルム国の公爵令嬢だ。
太陽の日を受ければ神々しく輝く白みがかった金髪に、青天を写したかのような明るい空色の瞳、艶のある桃色のくちびる。
ころころと声をあげて笑う姿はまさに花の妖精のような子だった。
対して、自分は純黒の髪に、赤い目、ルージュをひいた口元をキッと結んでいたのだから、さながら悪魔か魔女のような女だった。
いつも友達に囲まれるフローラが時折話しかけてくれていたのも、同じ公爵令嬢であり、幼馴染であった名残であったと思う。
幽閉されてから数ヶ月たったが、部屋は高位貴族用に綺麗に整えられていても、当然娯楽は与えられておらず、部屋には聖書しかない。
敬虔な両親のおかげで、聖書は元々暗誦できるほど読み潰しているから、もう毎日ずっと鉄格子の嵌った外ばかり眺めて昔のことを考えている。
フローラと初めて会ったのは、5歳のときだった。
クルム国の第一王子レオン様がちょうど私たちの一歳年上で、年齢と家柄を考えれば婚約者は私かフローラのどちらかだろうという話になった。
それで、三人での顔合わせがあったのだ。
二人に会った時のことはよく覚えている。
王宮の中庭の一画にあるバラ園に向かえば、二人はすでに東屋で話していた。
少年はストレートの濃いはちみつ色の金髪に深海を思わせる濃紺の瞳を持っており、とても優しく笑っていた。
少年はこちらに気づき、薔薇に手を向けながら言った。
「アナスタシア嬢ですか?
どうぞこちらへ。バラがすてきですよ」
まるで心が踊るような気がした。
初恋だった。
しかし、向かいに座る白金の髪の少女と彼はとてもお似合いで、まるで神様が対にあつらえたような二人に、恋をしたその瞬間から自分の入る隙はないと思わされたのだった。
その後もこの二人とは定期的に会っていたが、レオンが16歳で、貴族の子息が必ず入る全寮制の貴族学園に入学したのを機に、三人で会う機会は無くなった。
それでも、私が学園に入学した後は、レオンは顔を合わせれば、たまに話をしてくれた。
「学園には馴染めてきた?」
「ええ、だんだんと慣れてきましたわ」
「何か、困ったことがあったらいつでも言って。
あなたはいつもじっと我慢してしまうから」
彼はいつも私を気遣ってくれる。
16歳になっても、私はまだ彼のことが好きだった。
彼は成長して精悍さを増した顔で、柔らかく笑いながら話してくれるのだから、雑談をするような男性が他にいない妙齢の女の子として、慕わずにはいられなかったのだ。
尤もレオンとフローラは相変わらずお茶をしたりする仲のようで、彼に話しかけられて舞い上がり、フローラからレオンの話を聞くたびに落胆するというのを繰り返していた。
そうこうして変わり映えのない学園生活を一人で送っていたある日、男爵令嬢の乗った馬車の事故を故意に引き起こした容疑で逮捕された。
事故は悲惨なもので、長期休暇中、領地に帰省する男爵令嬢ミアの乗る馬車が、谷沿いの細い山道を行く最中、滑落したというものであった。
馬車に乗っていたミア嬢、御者と側仕えの3人が亡くなるに至った。
最初はただの滑落事故に思えたこの件だが、調べると誰かが車輪に意図的に傷を入れていたことがわかったらしい。
その犯人として、私が挙げられた。
はじめは、ペア学習でレオン様と半年間仲良くしていたミア嬢が気に入らなかったのだとか、事故当日ミア嬢の馬車をよく見ていたとか、馬車を停める場所で姿を見たと言った証言だけだった。
私がレオン様を好きだという話は今までなかったのに、急に私がレオン様に想いを寄せているという話も広まり、噂はどんどん過激になっていった。
そして、一度着いた火は回るのが早い。
「アナスタシア様ってきつい性格よね。
正直、嫉妬で人を殺していても不思議ではないわ」
「しずかに!聞こえるわ」
「あなたたち、こそこそと信憑性のないことを言うのはやめてちょうだい!
悪質なのだから、アナスタシアも我慢しないで」
「ごめんなさい、フローラ」
はじめは静観していた学生たちも、あることないこと言い始めた。
フローラがそばにいる時は、彼女がちゃんと訂正してくれるが、むしろこのような嫌味は一人の時を狙って投げつけられる。
そんなときは言い返せずじっと聞こえないふりをするしかなかった。
学園に行くのは今まで以上につらく、そして自分がみじめに感じられた。
それでも、フローラとレオン様はたまに話しかけてくれた。
しかし、捜査が進むにつれ、私の持っている果物ナイフが歪んでいた点、傷跡の大きさから推測される刃物の大きさが私の果物ナイフ程度だったという証拠まであがった。
私はやっていないはずなのに、いつの間にか私がやったという状況が整えられていた。
いよいよ寮の部屋のものが全て押収され、
このままでは逮捕される。
そう思った私は、レオン様かフローラに会って助けを求めようと、学園中を探した。
侍女を振り回し、探し回した結果、レオン様は生徒会室にいらっしゃった。
焦りながら人払いをし、頼んだ。
「私についての噂をお聞きになったと存じますが、どれも根も葉もないものなのです。
どうか、みなさまをおとりなしいただけないでしょうか」
「…君、ここまで証拠があって、よくそんなことが言えるね。
僕は噂以外にも、憲兵から捜査状況を直接聞いたよ」
聞いたことのない冷たい声だった。
「それは何かの間違いなのです。
もっと幅広く捜査をするか、再捜査をお願いできませんか。
私はやっておりません」
そう言い切りレオン様の顔を見れば、彼は見たこともないような冷たい瞳をしていて、いつも上がっている口元は苛立ちで少し歪められていた。
そして、
「あなたのそういう姿は見たくない」
とだけ言って、取り付く島もなく立ち去ってしまった。
その直後、私は憲兵に逮捕され、そのまま貴族牢への収容が決まったのであった。
ここに来てから、以前の知り合いは誰にも会っていない。
手紙も月に一度フローラから送られるのみだ。
一通目には、私が逮捕された日に近くにいなかったことや、その前に自分から助けることができなかったことに対する謝罪が述べられていた。
その後定期的に送られてくる手紙には、私の体調を気遣う内容といつでも頼ってほしいという申し出が書かれていた。
しかし、甘えて牢での扱いを認めて送ろうとしても、看守は許さず、取り上げられるばかりだった。
結局当たり障りのない話を書いて返事をするだけになっていた。
私はなぜ今ここにいるのだろう。
なぜこんな仕打ちを受けているのだろう。
私の何が悪かったのだろう。
ここに来てからもう何度も考えた。
そして、気づいたのだ。
私が罪を犯したというのならば、
それは、人に愛想よくできなかったこと、
冷たいと思われるような対応をしてしまったこと、
人と関わろうとしなかったことである、と。
「本当はこんなはずではなかった。」
日記の新しいページの真ん中に、震える文字でそう書いた。
もし、もう一度機会が与えられるのならば、フローラのようになりたい。
明るくて、よく笑い、皆に愛されるフローラになりたい。
霞む思考の中、アナスタシアはただそれだけ願ったのであった。




