63.特別講習の本質
新たちが草原の探索を始めた頃、五ヶ所あるキャンプ場のような拠点には、特別講習の参加者たちがそれぞれ集まりつつあった。
ここはそのうちの第壱拠点、集まってきたのは二年生の成績不良者、男子六人組だった。階層ノルマを果たしていない、レベルも十ちょっとしかない集団だ。
「入り口からちょっと離れてたけど、無事にたどり着いてよかったぜ」
「ああ、この領域の敵は俺たち程度じゃ倒せないだろうからな」
「女子がいれば良かったんだが……まあ、仕方ない」
「他の拠点に探しに行く?」
「やめとけって、敵が出たら死ねるぞ」
「そうだそうだ。命がけで女を見つけたって、どうせ後から来る三年生に奪われるだけだ。拠点はそこそこ安全だって話だし、このままここに居座ろうぜ」
「だいたい三年生なら、いくら成績が悪いって言っても転職してるよな。なんで俺たち程度がそんな奴らと同じところに放り込まれないといけないんだよ。死ぬわ」
「成績いい奴も来てるからな。二次職のレベル三十とか意味わかんねえ」
彼らは成績不良者だけあって、最初から真面目に魔巌洞探索なんかするつもりはない。
というよりもこの特別講習、レベル設定が異常だった。少なくとも二次職に転職していないと話にならないし、できれば二次職のレベル二十以上になっていないと危険な領域なのだ。
二次職レベル二十と言えば第十階層、三年生前期のノルマを突破しているレベルになってくる。三年生だって危険、ましてや二年生の成績不良者がやってくるような場所じゃない。
拠点だって百パーセント安全というわけじゃない。できれば三年生にも居ついて欲しいけれど、上納できる女生徒がいないので望み薄。彼らにできることはただひたすら四日間、息を殺して粗末な丸木小屋に立てこもることだけだった。
第弐拠点には第壱拠点と同じく、二年生の成績不良者六人が集まっていた。ただしこちらは男子三人に女子三人、全員が別のクラスのあぶれ者たちだ。
「ごちゃごちゃ言ってないで、お前らとっとと脱げよ」
「そうだぞ、ここで抵抗したって無駄だぞ」
「どうせ三年生が来たら酷い目に会うんだ。早めに諦めとけって」
男女で人数が同じ、レベルも全員十前後でそんなに差がない。男子だからと言って女子を一対一で押さえつけられるほどの力の差はない。
「なんであんたたち程度の相手しないといけないのよ!」
「そうよ、私たちに何のメリットもないじゃないの」
「どうせなら、強い三年生の方がはるかにマシよ。守ってもらえる可能性だってあるんだから」
「何だと、このクソビッチどもが!」
これで男子の方が数が多ければ、とっくの昔に女生徒たちは男子のおもちゃにされていたことだろう。
お互いが武器を構えて一触即発状態、今にも戦いが起こりそうだ。いやその前に強い三年生がやって来る方が先だろうか。
第参拠点ではその男子の方が多く集まった状態だった。三年生の成績不良者が男子三人、女子二人。そこに成績優良の三年男子が六人もやって来ていた。
さすがに三年生だけあって全員が二次職に転職しているものの、成績不良者のレベルはまだ一桁前半。成績優良者は二次職のレベル二十前後。レベルが十以上離れているだけでなく、数の上でも負けている。これではまったく勝負になるはずがない。
強い男子生徒六人が、たった二人の女子生徒に襲い掛かる。全く悲惨な話だ。こんな目に会えば、そりゃトラウマになるに決まっている。
「……あの、俺たちにも回してもらえたり……しないかな?」
「ああ? 舐めてんのか? お前らは隅っこでうずくまっとけや」
「女は安心していいぞ、ちゃんとレベル上げ手伝ってやるから。しっかり仲良くなった後だけどな」
何を安心しろというのか。それでも女子生徒たちは圧倒的な暴力の前では逆らえない。彼女たちには泣く暇すら与えられていない。その約束が果たされることを願う以外に何もできることはないのだ。
第肆拠点には女子はいなかった。三年生の男子だけ、成績不良のものが五人、成績優秀のものが四人の合計九人が集まっている。
「女の子……いないじゃないかよ……」
「面倒だけど探しに行くかぁ」
この特別講習では、水と食料を持ち運ばなければいけない。成績不良の五人を荷物持ちの奴隷にして、九人は早々に拠点を後にする。
「第伍拠点が近いな」
「ああ、そっちから回ろうぜ」
第弐、第参拠点の女子たちにさらなる災厄が降りかかるまでには、おそらくそんなに時間はかからないだろう。
第伍拠点には成績不良者は一人もいなかった。いるのは成績優秀な三年生が十人、ただそれだけだ。
「なんつー運の悪さだよ、笑えるぜ」
「今回、女子が十人ちょっとしかいなかったからなぁ」
「仕方ない、女狩り、行くぞ」
「ああ、面倒だけど仕方ないな」
女だけじゃない。荷物運びの奴隷も必要だ。
「あ~あ、新品だっていただろうに、もうヌルヌルのベタベタになっちゃってるんだろうなぁ」
「奴隷共の水で洗えば使えるだろ」
女子生徒ほどじゃないにしても、男子生徒だって無事には済まされない。ここは魔巌洞内、外のルールは適用されない、力が全てを支配する無法地帯なのだ。
彼らは自分の水と食料を持って拠点を出発する。十人でまとまって行動する必要はない。自然に五人づつの二手に分かれた。第壱拠点から回る組と第肆拠点から回る組。
狼たちは野に放たれた。もうどこにも逃げ道はない。
「あいつら出ていくわよ?」
「どうする? 拠点に入る?」
「いえ、もうちょっとここに隠れていましょうよ」
「そうね、危なくなるまではここにいた方がいいわ」
第伍拠点から少し離れた草むらの中に、成績不良の三年生女子が四人、拠点の中に入らずに隠れ潜んでいた。
四日間もあればどうせいつかは捕まることだろう。それでも、もしかしたら逃げ切れる可能性だって無くはない。
だけど拠点から離れていれば、敵に襲われて命を落とすかもしれないわけで、それは捨て身の賭けだった。
「あんな奴らに捕まってたまるもんか」
その悲壮な決意は凶と出るか吉と出るか。
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拠点ごとの人数配置
第壱 二年男6
第弐 二年男3+二年女3
第参 三年男3+三年女2、つよつよ三年男6
第肆 三年男5、つよつよ三年男4
第伍 つよつよ三年男10
外 三年女4
外 新たち4




