61.準備は必要
「それで特別講習になったの? 間抜けな話ねえ」
「学生証のことは教えてあげておけば良かったですね。まさか知らないとは思っていなかったから」
昼休みの食堂で、二年生の朝霞姉妹から学生証や特別講習についての情報を貰うことになった。
穂乃香だけを呼んだつもりだったんだけど、春陽も当然のような顔をしてついてきちゃったんだよね。ちょっとウザいんで、あんまり会いたくなかったんだけど。
「階層が記録されてないのって何か理由があるんですかね? やっぱりシステムのバグですか?」
「どうなのかしらね」
「違うんじゃないかな? ほら、確か領域が違ったでしょ? たぶんそれが原因だと思うわ」
新たちが攻略を進めているのは第三階層だけれど、同じ第三階層でも普通の場所とは少し違う魑魅領域という場所だ。どうやらそれが関係しているっぽい。
「あと、分からないのはレベルなんだけど。中央奥ノ宮に行かないと分からないとか言ってなかったっけ? それなのに学生証に表示されるって」
「ああ、正しいレベルは中央奥ノ宮に行って鑑定してもらわないと分かりませんよ?」
「正しいレベル?」
「学生証に表示されるのはあくまで概算レベルなの。倒した敵の数なんかが自動的に集計されていて、だいたいのレベルが計算されて表示されるんです。だから時々鑑定してもらって、正しい値に修正してもらう必要がありますね」
どうやら変な領域に入り込んだことが原因で、新たちの学生証には階層の情報もレベルの情報も表示されていない、つまり学校側には何の情報も伝わっておらず、魔巌洞探索歴なし、レベルなしということになっているらしい。
「雑なシステムだなぁ。抜け道ありまくりじゃないか」
「だよね! 酷いよね!」
管理されていない領域なのかもしれないけれど、魔巌洞の入場門にはしっかりと魑魅領域と表示されているのだ。そこまで分かってるならそれを記録しておけばいいだけの話なのだ。
「みなさんの実力なら問題は無いと思いますけど、絶対に気は抜かないようにしてくださいね?」
朝霞姉妹も実際に補講を受けたことはないそうで、細かいことは分からないと言う。それでもいくつか大切なアドバイスを貰うことはできた。結局、説明はほとんど穂乃香がしてくれたんだけどね。
今さら学校やら教師に文句を言ってみたところで決定は変わらない。新たちにできることは、準備をしておくこと、そしてため息をつくことだけ。
昼休みの後、午後の実習はすっ飛ばして特別講習の説明会に行くことになった。もちろん実習は出席扱いになっている。相変わらず厳しいのか温いのかよく分からない学校だ。
説明会の参加者は結構多くて五十人ほど。二年生や三年生がほとんどで、どうやら一年生は新たち四人だけの模様。やたらと男子生徒が多く、女子生徒は全体の四分の一ほど、十数人しかいない。
この全員が成績不良者ということではなく、半数ぐらいは成績に問題がないけれど自主参加しているそうだ。自分から参加するなんて、いったいどんなマジメ君なのかと思って顔つきを眺めていたけれど、どう見てもチンピラにしか見えない。
朝霞姉妹から警告されたのはこういうことか。これは魔物だけじゃなく人間にも注意を払っておかないと危ないな。
特別講習はよほどのことがない限り、泊りがけで行われる。今回の特別講習の時間設定は丸々八十時間、つまりは三泊四日の間、魔巌洞に籠りっきりになるってこと。
そうでもしないと脱走するとでも思われているんだろうか。あまりいい気はしない。
特別講習はいつもの領域ではなく、特別な領域で行われるそうだ。そこには宿泊設備が用意してあって、水や食料の配給を受けられるらしい。もちろん自分でテントや食べ物を持ち込んでもいい。
風呂なんかはもちろんない。キャンプ場で数日暮らすようなものと思っていれば間違いないそうだ。
それで結局のところ何が必要なんだろう?
いつもの魔巌洞装備でいけばいいんだろうか?
説明会の後、いろいろ想像しながら購買で必要と思われる物を買い揃える。
「あとは……着替えね」
「ええ、着替えが必要ですね」
「着替えだよ!」
三人の声が揃った。
着替えと言っても、校則で私服が禁止されているから、制服と体操服以外だと、あとは寝間着ぐらいしかないんだけど。あとは替えのパンツぐらいかな。
「取りに行くわよ!」
「もちろんです」
取りに行くとは一体……。
やって来たのは魔巌洞だ。
「毎日の洗濯が大変だったのよね」
「ずっと同じものというのはやっぱり……」
「違う色も欲しいよねっ!」
「着替えって、もしかしたら……ビキニアーマーのこと?」
「そうよ? 決まってるでしょ?」
話を聞いてみると、三人ともあれからずっと毎日、同じビキニアーマーを洗濯しては身に着けていたらしい。
防御力はもちろんのこと、適度なフィット感があって胸が軽くなるというか、自然というか。引っ張られて痛くなったりしないし、着心地としては最高なんだとか。ただ毎日洗濯しないといけないのが困りごとだったそうだ。
それならそうと、早く言ってくれれば取りに来たのに。
早速、第零階層のボス部屋に向かってみる。そこにはボスはおらず、宝箱だけがぽつんと置いてあった。宝箱に手を当ててみると少し暖かい。さっきまでボスがここに座ってたんじゃないかな。逃げちゃったんだろうね。
宝箱を開けてみると中には、レモンイエロー、スカイブルー、そして純白のビキニアーマーが入っていた。
「また同じ色だよ……」
「少しは考えて宝箱に入れて欲しいわね」
これで着替えは回収終了だ。そう思ったけどそんなことはなかった。もう一枚取るのだそうだ。
ということで、三十分待って外に出る。
…………。
……。
「五回も試してずっとレモンイエローってどういうことよっ!」
「黄色、いいじゃないですか、私なんてずっと白ですよ……」
別の色が出るまで、もう一回、あと一回と、何度も試したんだけど、出てくるのはずっと同じ色。サイズごとに色が決まっているとでも言いたげな結果だ。
結局さらに三枚追加して、合わせて八枚ということに。もちろん全部同じ色だった。
「もうちょっと日をおいて、また試しに来ましょうか」
「賛成だよ!」
もう飽きたし、諦めてもいいんじゃないか。新はそう思ったけれど、もちろんそれを口に出す勇気はなかった。




