54.決め手
曲がり角だと思っていたのは実は丁字路、新たちはその真ん中で三方から来るゴブリンたちに完全に包囲されていた。
丁字路の右側に音羽、左側には都久詩がいる。木綿花には中央でどの方向にも魔法を打ち込めるように待機している。新の受け持ちは後ろ、丁字の縦棒の下方向だ。
新は右手の棍棒をしっかり握りしめる。
いつもと違い貧弱な棍棒。こんなものでこの第三階層の鎧を着こんだゴブリンたちに対抗できるのだろうか。かなり心許ない。
向かってくるゴブリンは他のゴブリンたちと同じく、全身が鎧に覆われていて、片手剣とピカピカに磨かれた盾を手にしている。そんなゴブリンたちは二匹、四匹、いや六匹はいるだろうか。
右と左がどうなっているのか、もう彼女たちに任せるより手はない。もしも振り返ったとしても新の場所からでは見えないし分からない。ただ分かることは一つだけ。後ろから来るゴブリンたちを足止めする、それだけだ。
〈まさか足止めなどと、ぬるいことを考えているのではあるまいな?〉
心の声さん? もちろんそのつもりだったんだけど、何か不都合があるんだろうか?
〈たわけ、気合が足りぬわ。確実に潰さねば飲み込まれるぞよ?〉
仕方ない、ここはやる気を見せようか。
別に恐怖は無い。思えば最初から感じたことはない。ただ相手を叩き潰すだけ、そう考えると体の奥底からなぜか力が湧いてくる。
〈許す、薙ぎ払え!〉
心の声さんに従って、二列に並んで盾を構えて突っ込んでくるゴブリン、その先頭の一匹に向かって踏み込み、力いっぱい左からカチ上げた。
ゴキッ!
鈍くて低い音が新の体を伝わってくる。
足をふらつかせたゴブリンの頭を狙って、思いっきり棍棒を叩きこむ。ぶっ倒れたゴブリンの腕を蹴って剣を弾き飛ばした。まだ仕留めたわけじゃない、でも戦闘力はほぼ奪えた。
それだけじゃない。転がったゴブリンが邪魔をして後ろのゴブリンたちは前に出られない模様。それをいいことに、一匹残った先頭のゴブリンを棍棒で殴りつける。倒れたヤツはそのまま放置だ。とどめを刺すと砂になって崩れてしまうし。
ゴブリンは盾で身を守りながら剣で突いてくるが関係ない。全身鎧のお陰でちょっとやそっとじゃ傷を負わない。ゴブリンの剣を気にせずに、力任せに盾の上からガンガン叩く。
どうせ新は都久詩のような華麗な技は無いし、音羽のような運動神経も持ち合わせていない。
小柄なゴブリンよりも小回りだって利かないのだ。勝っているのは体格とパワーだけ、それならパワーに物を言わせた方がいいに決まってる。
何度も何度も斜め上から盾を殴る。力を込めて必死に耐えるゴブリン。
防ぐのにいっぱいいっぱいでゴブリンの剣が止まる。
それでもなお、棍棒を叩きつける。耐えるゴブリン。
巨大棍棒ならこのまま押し切れただろう。でもこの棍棒にはそこまでの威力がない。新は体を沈み込ませるように腰を落とすと、今度は下から掬い上げるように棍棒を振るった。
ゴブリンの体が浮き、体勢が崩れる。
もう一発! もう一度、腰を落として伸びあがるようにしながら、下から棍棒で殴りつける。
ゴブリンの盾が大きく持ち上げられて、まるで万歳をするような恰好になった。脇腹がガラ空きだ。ゴブリンが盾を構えなおす暇を与えずに、力いっぱい胴にフルスイングを叩きこむ。
「グガッ!」
うめき声を上げるゴブリンにもう一発、間髪入れずにもう一発!
ゴキっと、しっかりした手ごたえがあった。間違いなくあばら骨が折れただろう。いくら鎧を着ていても、鈍器の衝撃は防ぎきれるものじゃないのだ。
ゴブリンはもう盾を上げることができないでいる。フットワークもすっかり止まってしまった。
ゴブリンはまるで銃で撃たれる前の小鹿のような目……いや、違うな。これは死んだカエルのような目かな。そんな余計なことを考えながら、その頭を兜ごと何度もぶっ叩く。
あご紐が切れて兜が吹っ飛んだ。
もちろん新は止まらない。そこに数発、追加で棍棒をぶちかます。
ついにゴブリンは泡を吹いて倒れた。
それでもまだ息はあるようで、砂になって消えたりしていない。その手からこぼれた片手剣は念のために後ろに蹴り飛ばす。倒れているのが演技で、突然復活して襲い掛かって来られたら危ないのだ。
最初に倒れたゴブリンもまだ死んでない様子。ピクピク動いているので何発か蹴りをぶち込んでおく。
これで最初の二匹は何とか片付いた。それにしてもタフで硬い。下の階層の時のように、そう簡単には息の根を止めることができない。
ゴブリンたちもゴブリンたちで、仲間が二匹転がっているせいで、後続が素早くこちらに踏み込めないでいる。
膠着状態になってしまったけど、結果オーライってヤツだ。
〈なんと嘆かわしい……〉
どうやら心の声さんは納得いってなさそうだけど、殲滅しろなんて無理を言われてもねぇ。やりたくても決め手が足りない。
それに下手に無理をしてここを突破されでもしたら、そっちの方が危険なのだ。今はこれで我慢するしかない。
自分のこともあるけれど、新には後ろにいる美少女たちのことも心配だった。
余裕が生まれたのは確かだったけれど、さすがに後ろを振りむけるほどではない。そっちはそっちで何とかしてくれると信じて、新はゴブリンたちの足止めに専念することにする。
もちろん、勝機と見れば一気に殲滅する。その事だけは忘れずに。




