47話 世界の王
玉座に座る男が一人。
彼の纏う甲冑は黄金に輝いており、それに引けを取らぬ程の容貌を持ち合わせている。
黄白色の艶のある髪、陽光を反射するほど白い肌。万華鏡のようにキラキラと色を変える瞳。
人の形をしているが、見下ろす彼の目線にどうしても人ならざる何かを感じてしまう。
<ルガル・ギ・メスフィア>
「ふむ、もう少し詳しく見ておこう」
王はこちらに近づくと、僕の頭を優しく触り
玉座に戻っていった。そして一つため息を吐いた。
<ルガル・ギ・メスフィア>
「モリタミの奴らめ、流石に抜け目がないな。《《余でも見通せぬ》》とは余程他人を信用していないらしい」
何の事だろうか。
<ルガル・ギ・メスフィア>
「大方分かったが、これ以上は後の事が済んでからだな。パレリブッカー、御苦労だった。報酬は入れておいた、美味いものでも食べに行け」
<パレ・リブッカー>
「有難き幸せ」
<ルガル・ギ・メスフィア>
「シリウスと言ったな。ここまで来た褒美だ
三つまで余に対する質問を許す。些細な事でも何でも良いぞ」
意外な返答だった。
奴含め周りの人もこれには予想外だったようで全員目を丸くしていた。
何を言えばいいんだろう。
下手な事を言えば殺されるかもしれない。
でも、転生して、モリタミの人に救われて、あいつに会って、ミスガイや頭領の人達、王都の人に触れて。ここまで色々な景色を見て知って思った事がある。
<シリウス>
「…………何でモリタミの人達を殺そうとするんですか」
モリタミの人達は暖かく迎え入れてくれた。
王都の人々や連盟軍の人達は見ず知らずの僕に優しくしてくれた。
それぞれの居場所では優しい時間が流れていた。なのになぜ彼らは敵対するのか。
<ルガル>
「奴らは神を信仰している。神がこの世界に仇成す以上、それに連なるものは我々の敵だ」
王は静かにそう言った。
<ルガル>
「以上だ。二つ目を聞こうか」
たったそれだけ?
王から語られた話は奴とそう変わらない。
ただ敵だからってそんなのって。
<シリウス>
「……そんなの罪もない魔術師を殺した魔女狩りの奴らと同じじゃないですか」
<ルガル>
「何?」
<シリウス>
「あなたは知らないでしょう!みんながどんな生活をしているのか。この首都はすごい。互いに尊重して助け合って生きている。でもそれはモリタミの人達も変わらない!彼らも互いを種族を超えて助け合いながら生きているんだ!なぜ、同じように生きている人を殺さなきゃ行けないんですか!あなたは異世界人もこの世界の人間と同じだと、何も変わらないと言ったんでしょ!」
玉座に僕の声が響く。その残響が鳴り終わると王は静かに口を開いた。
<ルガル>
「知っている。全て知っている上で殺しているとも」
<シリウス>
「何を………言って……………」
<ルガル>
「ああ、貴様が疑問に思っている神を殺す理由も答えてやる」
なんでその事を知ってるんだ。ここではまだ言ってないのに。
<ルガル>
「貴様は神が何たるかを知らない。神々はこの世で最も欲深く、己の事しか考えぬ生命体だ。奴らは我々人間や魔族の事など微塵も考えぬ。人類の為に何かをしているのならそれは、自分の生態系を広げる為に利用しているに過ぎない。その最たる例がモリタミだ」
<シリウス>
「え………」
<ルガル>
「モリタミは自然の神がこのままでは己が死ぬと予見し、我らに対抗する為に作り上げだ組織に過ぎぬ」
<シリウス>
「そんなことはない!違う!みんなは自分の意思で違う世界を選んだんだ!」
<ルガル>
「そう思うのも無理はない。だが、それこそが神という存在の恐ろしさよ」
王はゆっくりと玉座へ背を預けた。
<ルガル>
「貴様ら元の世界では神とは信じるものであろう。居るかも知れぬ、居らぬかも知れぬ。故に人は神を疑い、否定する事も出来る。だかこの世界に神は実在する。人はその姿を見る、奇跡を目の当たりにし、神託を聞く。そこに存在を疑う余地など無い」
確かに僕はモリタミの本部で自然の神に会い、その枝に触れている。
<ルガル>
「神が雨を降らせば人は神を崇める。神が病を癒せば神に感謝する。神が敵を裁けば、人はそれを正義と呼び、神が敵だと言えばそれは悪となる。神が死ねと言えば人は疑う事なく命を捨てるだろう。そうして人は自ら考える事を止める」
<ルガル>
「信仰とは本来、人が神を選ぶものだ。だがこの世界は違う。神の実在は人から知性を奪う。それは信仰とは言うまい、支配そのものよ。モリタミとはその果てに生まれた世界だ」
<シリウス>
「そんな事は……」
<ルガル>
「奴らは皆、己の意思で選んだと思っている。だがその意思を形作ったのは誰だ?自然の神が現れ、教導を示す。その時点で人は神という絶対の存在を基準に世界を見るようになる。善悪も、敵味方も、生き方すらもな」
モリタミのみんなは……あの生活は神によってそうさせられていると言うのか。
<ルガル>
「神は思想ではない、権力だ。神はそれを自覚している。人心を弄び、命すら己が為に消費する。あやつらも神の偽りの威光ではなく、余の威光の下で暮らしておれば、命を失う事も無かろうに」
<シリウス>
「それでも……命を奪うのは間違ってる!」
<ルガル>
「だから言ったであろう。神の為なら奴らは命すら捧げると。己の意思で捧げていると思い続けながらな。信仰の為に永遠に終わらぬ戦争を貴様らの世界は繰り返してきたのではないのか?」
元の世界の記憶は曖昧だ。
それでも、その言葉だけは胸の奥へ重く沈んだ。
<ルガル>
「余を誰だと心得る。このレヴィリオンの、世界の王だ。余は神から民を守らねばならぬ。神は厄災を齎す病原体だ。余の世界を守る為、神と、それに連なる者を滅ぼす。それが王たる余の責務だ」
王の目には一点の曇り無く、ただひたすらにまっすぐ僕を見ていた。
<ルガル>
「それにだ。レヴィリオンとは違う世界、余の庇護なき世界はどうだったか?資源や、物資、生活環境を自ら探し作り上げねばならない。彼らは苦心していたのではないか?今の生活に」
<シリウス>
「それは……………」
<ルガル>
「奴らの自給自足にもじき限界が来るだろう。増え続ける人口に耐えきれなくなり瓦解する。神の世界で生きるとはそういう事だ」
頭領達の会議を思い出す。
詳細は分からなかったけど、何とか知恵を集めてみんなで頑張っているのは分かる。
だけどこの首都は、食べ物は無料で出てくるし、住居も仕事も斡旋してくれる。第一層で僕を助けてくれたように、三層で見ず知らずの人をみんなで助けようとしていたように、なんて穏やかな生活だろうと思ってしまった。
これが完璧な世界なのか……?
<ルガル>
「複数の質問に答えてしまったがまあ良い。二つ目を答えてやろう」
<シリウス>
「……だったら、なぜ異世界の信仰は許しているんですか!」
<ルガル>
「簡単な事だ。この世界に奴らの神は居らぬ。
異世界人は己の神を信じている。だがその神はこの世界では奇跡を起こさぬ。神託も無い、姿も見せぬ、神罰も無い。故に最後に決めるのは人だ」
<ルガル>
「先も言うたが、信仰は全て己の選択だ。
それは思想であり、ならば余はいかようにも御し得る」
<ルガル>
「だがこの世界の神は実在する。もはやそれは思想ではない。その信仰こそが絶対だと疑わず、人は神の奴隷へと成り下がる。そうなった結果、凄惨な結末を迎えた者がいる」
<ルガル>
「第一次魔術大戦の事はダンセから聞いただろう。ここにいるホロノアの両親は第一次魔術大戦時に神によって殺された。信仰していた神にな!」
<階段に座る女>
「私もだよ〜!」
<ルガル>
「全ては神の意志だと言うてな。貴様は許せるのか?親友が神によって殺されたとしてもそれは神の意志だからと許せるのか」
きっとミスガイが殺されたのは神の意志だと言われたなら、平静を保ってられる気がしない。
<ルガル>
「余は神による悲劇を止めなくてはならない。
二度と神によって凄惨な世界にしてはならないのだ」
王の言葉には決意があった。それも決して曲げてはいけない、命を賭けるほどの生き方と言えるものが。
<ルガル>
「二つ目は以上だ。3つ目を聞こうか」
二つの質問でだいぶ自分の精神が削られているのを感じる。口を開くことすら力を振り絞らなければならない程に。
だからつい何も考えずに発してしまった。
<シリウス>
「あいつが、ファリアが”元魔法使い”というのはどういう事なんですか?」
次回は7/8になります!




