44話 タンブラーの拳銃
実弾射撃場 タンブラー
演劇場から離れ辿り着いたのは路地の隅にある小さな店
ウエスタン風の佇まいは最新鋭の娯楽施設が揃うビュイージの中でも特に異彩を放っている。
ドアを開けるとカランカランと音が鳴った。
中は明かりがついておらず、窓から陽の光が差しこんでいる。
壁には数多くの銃が飾られている。種類も豊富でマシンガン、ライフル、銃火器まで様々で、ハンドガンだけでもかなりの量だ。
<……>
「んん、ああ、客か。いらっしゃい。愛と希望と、夢と客と客と客が詰まった射撃場タンブラーにようこそ」
——連盟軍 73番隊隊長 Sランク魔術師——
——リンシー・ホーラック——
<パレ・リブッカー>
「その割には客が1人もいないんですが?」
<リンシー・ホーラック>
「ああ、パレか。そうだ。夢も希望も運んでくれる客は来ない。来るのは閑古鳥だけだ、耳元で煩く囀りやがる」
ロッキングチェアに大の字に寝ている男。顔には視界を遮るようにウエスタンハットを被せている。
<リンシー・ホーラック>
「んで、何の用だ?今俺は忙しい。閑古鳥をぶちのめすので手一杯だ」
<パレ・リブッカー>
「鳥はあなたの頭の中だけでは」
<リンシー・ホーラック>
「ひどい事を言うじゃないか。うぅぅ、頭が痛え、撃ち損ねたかクソっ」
<パレ・リブッカー>
「王命で来ました、王宮に上がる為に」
<リンシー・ホーラック>
「お前の実力なら入れるだろ。ああまだSランクじゃあねえのか、他にもいるだろ暇な奴」
<パレ・リブッカー>
「今日非番なのはあなただったので。それに、王の指名ですので」
<リンシー・ホーラック>
「ああぁ、王サマも痛い所ついてきやがる。それで俺に案内しろと」
<パレ・リブッカー>
「はい」
<リンシー・ホーラック>
「あぁあぁ仕方がねえ、体動かさねえと鈍っちまうからな」
<パレ・リブッカー>
「そうして貰えると助かります」
男は重い腰を上げ椅子から立ち上がった。
<リンシー>
「んしょっと。だがパレ、タダではやらない。報酬は支払ってもらうぜ」
<パレ・リブッカー>
「報酬とは?」
<リンシー>
「試し撃ちさせろ。最近相手がいなくてな、それでこの件に乗ってやる」
彼の腰にはホルダーがかかっており、中にはくすんだ黒いリボルバー式の銃が携えられていた。
<リンシー>
「よう坊主、銃が気になるか?」
<シリウス>
「はい、こんなに並んでるのは初めて見たもので」
<リンシー>
「そうだろう。この銃は全部俺のコレクションだ。この世界の人間は本当に銃に関心がない。
銃の代わりに手軽に杖で魔弾が撃てるってな。向こうの世界で銃が好きだった奴も軒並み魔弾に乗り換えやがる」
<パレ・リブッカー>
「銃の流通は規制されているので、そもそも手に取りづらいのでは」
<リンシー>
「それもあるな。ここはSランクの権限で出してる店だ。魔弾の練習場ならいくらでもあるが、銃となると俺の聞く限りじゃここしかない。だから世界中のガンマニア共が来て大繁盛!だと思ったんだがな、商売はなかなか上手くいかん」
男は棚に飾ってある銃を手に取ると、ナプキンで磨き始めた。
<リンシー>
「俺は銃が好きだ。一撃一殺。殺せなくても致命傷になる。これ程殺人に特化した道具はない」
<パレ・リブッカー>
「物騒な」
<リンシー>
「お前も刀持ってるんだから同じようなもんだろう」
<リンシー>
「向こうの世界じゃあ銃は殺人の道具だ、だがこちらじゃそうはいかねえ」
<シリウス>
「どういう事ですか?」
男は奴に目配せをすると、壁に飾ってあった銃を一丁持ち出し、奴の眼前に構えた。
パァン
乾いた音が部屋に響いた。
<リンシー>
「ほら見てみろ、脳天をブチ抜いたってんのに額で弾が止まってる」
弾丸は奴の額を貫通せずシュルシュルと音を立てて回転し続けていた。
<リンシー>
「この世界の人間は実弾じゃ死なない、軍の奴らは常に防御魔術を全身に纏ってるが、基本的にこの世界の人間は硬い、だから撃っても死なないって坊主大丈夫か?」
銃声、銃声、銃声、銃声!
脳裏を這い回る銃声の音。
この音を僕は聞いた事がある。
冷や汗が全身から吹き出る。
<シリウス>
「あ、あ、あああああああああ」
そのまま意識を失った。
—————
<リンシー>
「へぇ。こいつを上に連れてけ、と。その付き添いか。1ヶ月かお前さんも大変だったな」
<パレ・リブッカー>
「連れて行けば今回の任務は終わります」
<リンシー>
「んじゃあ、俺の店に来てくれよ。射撃の相手だけじゃないぜ。銃の面白さってのを教えてやる。部下も連れてこい」
<パレ・リブッカー>
「あなたの部下呼べばいいんじゃないですか?」
<リンシー>
「もうやったよ。銃の面白さを懇切丁寧に説いてやったんだが、全然乗ってこなくてな。1人見込みのあるやつはいるが、そいつは今任務中だ」
<パレ・リブッカー>
「別部隊に駆り出されてるって事ですか。初耳です」
<リンシー>
「そっちの任務で掛かり切りだったから聞かなかったと思うが、最近魔王軍の動きがキナ臭くなってる。何かの予兆じゃなきゃあいいんだがな」
二人の声が聞こえたのか、シリウスは目を覚ました。
<リンシー>
「お、起きたか、それじゃあ行くぞ」
<シリウス>
「どこへ行くんですか?」
掛けられていた毛布を畳むと、男は天井を指差している。
<リンシー>
「上だ」
気さくに笑う男。彼の意図をシリウスはポカンとした顔で見ていた。
<リンシー>
「ああ、先に報酬を支払ってもらおうか」
<パレ・リブッカー>
「さっきのは」
<リンシー>
「あれは坊主への説明だ。試し撃ちには入んねえよ。それに——」
男はカウンターへと向かい、壁に掛かっている銃を手に取った。
<リンシー>
「撃ち返す意思の無い奴に俺の本気を出す訳無いだろう。試し撃ちだろうが、俺が打つ時は本気だぜ」
<パレ・リブッカー>
「いいでしょう」
<リンシー>
「坊主はまた気絶するかもしれねえからこれ付けて後ろ向いてな」
<シリウス>
「何するんですか?」
<リンシー>
「ほらほらいいから。目も瞑っておけ」
男はシリウスにイヤーマフとアイマスクを付けるとパレ・リブッカーと向かい合った。
手に取った銃をホルダーにしまう男。
パレ・リブッカーは居合の構えで、今か今かと刀を抜くタイミングを図っている。
腰に下げた銃を引き抜くと同時に刀がパレの手から抜かれる。
パン
真っ二つになった弾がパレの後ろで床に落ちる。
パレの顔には複数の擦り傷がついていた。
<リンシー>
「腕を上げたな」
<パレ・リブッカー>
「銃弾を切ったのにこの威力、流石です」
パレは歩きながら治癒魔術で顔の傷を治す。
<リンシー>
「やはり鈍ってやがるな、切られるような弾を撃ったつもりはなかったんだが」
<シリウス>
「ん、終わった?全然見えないんだけど!」
次回は6/17になります!
☆いっしょに!なになに~☆
Sランクの権限
Sランク魔術師には一定の権限が付与される。
王都への入場、秘文書に値する高度な魔術書の閲覧、Cランク以下の魔術師免許の付与権限等
魔術連盟の承認が必須となるが、行動規制の緩和によって特定の商売や魔術を行う事も可能。




