43話 魔術大戦④
<シリウス>
「異世界転生人ってそんな昔からいたの?」
<ダンセ>
「最初の異世界転生人は第一次魔術大戦の光臨者と言われております。それ以降僅かにはいたようですが、本格的に人口が増えたのはこの大戦以降になります」
<シリウス>
「なんで増えたかっていうのは分かっているんですか?」
<ダンセ>
「それがなんとも。王ならば何か掴んでいるかと思われますが、研究でも未だに分かっていないのです」
<パレ・リブッカー>
「王の手を煩わせる訳にもいかないしな。民の中の誰かがいずれ解明してくれるだろうよ。私はこういうのは向かないしな」
<ダンセ>
「適材適所というのであれば、王ほどの斡旋者はおりますまい」
<パレ・リブッカー>
「王には人を見極める才能があるんだ。魔術大戦の後始末、魔術連盟の再編、レヴィリオンの建国、異世界転生人への対応と激動の時代に次々と優秀な人材を取り込み復興させた手腕。さすが我らが王!」
<ダンセ>
「特に異世界人への対応は今の事務局の礎となっているのです。言語教育、異世界人の集合住居と仕事の斡旋、優秀な者がいれば魔術連盟での就職が認められるといったものです」
<シリウス>
「そんな昔からやっていたなんて」
一昨日行った異世界人事務局の事を思い出した。
<ダンセ>
「レヴィリオンの治世を安定させる役割もあったとは思います。異世界転生人が反乱分子になるのは面倒ですからな」
「敵はできるだけ最小限に、逆らう者は完膚なきまでに叩きのめす。王にはそれができる実力があった。だからこの世界は平和になったのさ」
<ダンセ>
「おや、まだ平和には程遠いですぞ。次の魔術大戦を語り終えておりません」
<パレ・リブッカー>
「そうだったな。頼む」
<ダンセ>
「ええ!お疲れでしょうが踏ん張って。第四次魔術大戦。それは――未知なる敵との戦い!」
その瞬間、空間に無数の黒い影が浮かび上がる。ゴブリン、エルフ、オーク、リザードマン。あらゆる魔族の軍勢がひしめき合い、その奥には巨大な城が浮かんでいた。
<ダンセ>
「時は1620年、魔王は自身の復活を宣言したと共に、レヴィリオンに対し宣戦布告!魔王軍の残党は第三次魔術大戦の動乱の裏で着実に配下を増やし、この頃には魔族の約九割を手中に収めたと言います」
<シリウス>
「九割も!そんなのって……………」
じゃあモリタミにいるみんなは……………本当は多くの同士が……………
<ダンセ>
「王は急いで残存している純正の魔族の捜索と、魔王軍への進軍を指示り魔王の軍勢は過去最高のものとなっておりましたが、王は異世界人達を騎士団に迎え入れる事で互いの戦力は拮抗し、約四十年ほど膠着状態が続いておりました」
<シリウス>
「四十年……」
<ダンセ>
「状況が一変したのが1663年、魔王による疫病の流行です」
現れた世界地図に赤い光点が一つ、また一つと次々と広がり、世界を侵食していく。
<ダンセ>
「魔王が生み出した特殊なウイルスは致死性が高く、感染したらほぼ助からないとされていました」
淡々と語られる言葉が、余計に不気味さを際立たせる。
<ダンセ>
「この頃、治癒魔術はあれど今より医療知識が不足しており、感染対策が不十分だったことも重なり、世界の約三分の一の人間が感染症により亡くなりました」
<シリウス>
「三分の一も……………」
数字として聞くだけでも現実感が薄れるほどの規模だった。
<ダンセ>
「魔王軍はこれに乗じて本格的に侵攻を、とはならず、余りにも強い致死性は魔王軍にも有効だったようで、軍内で感染が拡大し、幸運な事に約二年ほど侵攻はありませんでした」
<パレ・リブッカー>
「敵も巻き込んでいたのか……」
<ダンセ>
「1665年、王はついに光臨者を召喚」
空間に一人の人影が現れる。
黒い服を纏った男だった。
<ダンセ>
「彼はウイルスに対する治療薬を作り、人類絶滅の危機を救いました」
赤点に染まりかけていた地図に段々と緑の光が広がっていった。
<ダンセ>
「翌年1666年、魔王軍との戦い。ウイルスを克服した魔王軍は相当数生き残っており、戦いは劣勢を強いられる中!」
彼が勢いよく指を突きつけると上空から紫の光の柱が降り立った。
巨大な魔術陣が展開されその中心にいるのは見たことのある――
<ダンセ>
「四人目の魔法使い、ファリア殿の登場によって一気に形勢は逆転!光臨者も参戦し、見事勝利を収めたのです!」
<シリウス>
「え、あいつ連盟軍にいたの?」
<ダンセ>
「ええ。当時彼女は魔術連盟の総長をしておりましたが、戦力として軍に力を貸していたのです。彼女の参戦がきっかけとなり勝利した事で、彼女は“大戦の英雄”と呼ばれております」
<シリウス>
「そんな事一度も聞いた事無いな」
<ダンセ>
「話すのが恥ずかしいのでしょう。まあ、その後の事を話したくないというのもあるかもですが」
<シリウス>
「その後?」
彼は少しだけ視線を逸らした。
<ダンセ>
「彼女、途中で失踪しますし」
<シリウス>
「え」
<ダンセ>
「総長は失踪癖でもあるのですかな?大戦終結から十年後、突如としてファリア殿は連盟から姿を消してしまいました」
奴は何も言わない。ただわずかに眉を寄せていた。
<ダンセ>
「話を戻しますぞ。彼がもたらしたものは数多くあります。まずは専門的な医療知識。かの光臨者は医学の祖ともされております」
展示空間に薬品や器具の映像が次々と浮かび上がった。
<ダンセ>
「これにより治療魔術の技術が向上。今では治せぬ病気は無いとまでされております。そして科学技術の導入!彼の作ったもので特に有名なものはiDeasでしょう!」
<シリウス>
「そうだったんだ!」
<ダンセ>
「今やルーンショット社の代表商品ですが、開発は彼が最初です。そしてiDeasのノウハウから生まれたのが力学魔術!」
途端に空間が今の王都に移り変わった。
超高層ビルに無数の行き交う人々。片腕にはiDeasを携え浮遊する画面を操作している。自動で動く装置や無数の魔導機械が生活のありとあらゆる場面で散見される。
<ダンセ>
「この概念が誕生してからレヴィリオンの文明は加速度的に発達し、この王都も作られる事となるのです。ちなみにこの博物館も力学魔術の賜物ですぞ」
彼は誇らしげに胸を張った。
<ダンセ>
「彼は後の世に多大な影響を与え、我らが王と並び“叡王”と呼ばれておりましたな。そして1687年、今の地点に王都が遷都し、以降現在まで平和な時代が訪れるのです」
<パレ・リブッカー>
「まあ実際は、モリタミの出現や、王による神殺し、神の信仰者の殺戮などはあったがな」
<シリウス>
「え!?神殺し!?神は殺せないんじゃ――」
<ダンセ>
「我々では不可能ですが、魔法使いであれば可能という事なのでしょうな」
<シリウス>
「何でそんな事を!」
<ダンセ>
「それは直接本人に聞いてみるのがよろしいかと。答えてくれるかは分かりませんが」
<パレ・リブッカー>
「モリタミと敵対しているのも彼らが神の信仰者、神に連なる存在だからだ」
<シリウス>
「だからって争う事なんて……」
<ダンセ>
「我々は王命を全うするだけです。王が戦えと言えば、まあ、仕方ないですが戦います」
その声には迷いも激情もなかった。ただ、事実だけを語る軍人の声音だった。
<シリウス>
「そんな……」
<ダンセ>
「お忘れかな。我々は軍の人間ですので」
沈みかけた空気を振り払うように、彼が大げさに咳払いする。
<ダンセ>
「暗い話はここまで!物語の後味が悪いのは語り部として最悪ですからね」
指を鳴らすと、展示空間が柔らかな光に包まれた。
<ダンセ>
「少し良い話をしておきましょう。なぜ、異世界転生人を“グレイト”と呼ぶのか。それは我らが王がお決めになったのです」
「前に聞いたことがあります。それが何か?」
<ダンセ>
「彼らは別の世界から来た。しかし彼らと我々に違いなどさしてないのだ。よって彼らは異物では無い。だからimmigrant《移民》ではなくgreat《良き人》なのだと。彼らはかつて、魔術も使えぬ世界の異物として虐げられていました。しかし王は、異なるものとも手を取り合って生きるべきだと道を示されたのです」
<シリウス>
「手を取り合って生きる……………」
<ダンセ>
「そう考えるお人だからこそ、我らはかの王に仕えるのです」
――であるなら。
ならばなぜ。
モリタミを、神を、そこまで憎むのだろうか。
<パレ・リブッカー>
「いい展示だった、侮っていた。ここまで凝ったものだったとは、助かった」
<ダンセ>
「ええ!何か知りたい、見たいものがありましたら是非ワタクシに!そして取材の方も!」
<パレ・リブッカー>
「分かりました諦めますよ。代わりに貰うものはきっちりと頂いていくぞ」
呆れ半分の声に、彼は楽しそうに笑った。
<ダンセ>
「どうぞ、こちらへ。出口です」
展示空間の壁が静かに開き、現実の館長室へと続く扉が現れる。
<ダンセ>
「語りはこれにてお終い。世界の歴史を知ったあなた方には、この世界、改めてどう見えておられますかな?もし見方が変わったのなら、語り部としてはこれ以上ない喜びであります」
彼は振り返り、芝居がかった所作で一礼した。
重厚な扉がゆっくりと開く。
<シリウス>
「色々見せていただいてありがとうございました!」
<ダンセ>
「又のご来場、心よりお待ちしておりますぞ」
次回は6/10になります!




