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37話 ダンセ

第四層 ビュイージ


この層に足を踏み入れるといつも少しだけ空気が軽く感じられる。人の声も、足音もどこか弾んでいる。

娯楽と文化の集まる場所。総面積31400k㎡。世界一のエンターテインメント複合施設。それがここ、ビュイージだ。

※岩手県の約二倍です。


せっかくの非番の日。

特に目的もなく歩いていたはずなのに。


<連盟軍二十一番隊隊長 シャトレ>

「……また来ちゃったな」


気がつけば、目の前には見慣れた演劇場があった。

外観は古風で、どこか重厚。だがその扉の向こうには、いつも新しい世界が広がっている。


<シャトレ>

「今日の演目は……『かたわらの石』か」


掲示された看板を見上げる。


<シャトレ>

「脚本は、いつものあいつか」


思わず、苦笑が漏れた。


<シャトレ>

「あいつの顔でも拝みに行きますか」


軽く肩をすくめて、劇場の中へと入た。。



ここの劇場は、昔ながらの造りだ。

観客席が実際に場内にあり、同じ空間で舞台を観ることができる。いわゆる“現地型”の劇場。


席が専用施設にあって、仮想空間で鑑賞するイマーシブ方式もある。

あちらはあちらで、演出の幅も広く、完成度も高い。だけど――


<シャトレ>

「やっぱり、こっちだよな」


空間の響き。舞台の振動。

役者の足音が、板を踏む音として直接伝わるあの感覚。

すべてが“そこにある”という実感が、何より心地いい。


チケット売り場に目を向ける。


<シャトレ>

「本日券……あるね」


まだ空きはあるらしい。

だが、選択肢は限られている。


<シャトレ>

「人と人の間の席か……後ろは……どうだろうな」


少しだけ眉をひそめ、視線を巡らせながら考える。

席を選ぶ時間すらここでは楽しみの一部だ。


<……>

「おやあ?何かお困りですかな、シャトレ殿?」


背後から、やけに芝居がかった声がかかる。

振り返るまでもなかった。


<……>

「もしよろしければ、脚本家権限で特等席をご用意しますが」


 ――連盟軍 Aランク魔術師―― 

     脚本家 ダンセ


<シャトレ>

「ダンセェ……僕から楽しみを取るのをやめて欲しいな。確かに特等席で見る演劇は最高だけどね、席を自分で選ぶってことに意味があるんだ。席にも一期一会ってものがあって座る場所や周りに誰が座るかによっても感じ方や雰囲気も変わってくるんだよ。音の反響とか見る角度によっても演劇は同じなんだけどその場所でしか見れない表情が見え隠れしたりしてたりさ〜あとはね」


<ダンセ>

「あれ、この方こんなに面倒臭い人でしたっけ?」


<シャトレ>

「自分より身長の高い人が座ってちょっと見れなかった〜とか家族連れで子供の泣き声とか叫び声とか聞こえて大変だなぁ〜って思ったり、演劇やってるのに横で居眠りしてイビキかいてる人とか演劇中なのにiDeas起動して返信してたり、食べ物平気で音立てて食べてたりせっかくこの静寂のシーンが大事だっていうのにくしゃみしちゃう人とかさ〜 そうやってせっかく良い演劇だったのに客層最悪じゃんと思いながら見る演劇も中々の味がして楽しいって訳……じゃないんだけど人生の趣の深さを感じられたりするんだ。だからそんな八百長まがいのようなその席だって本当はそこで観たい人がいるのに予約も何もしてない僕が座るなんておこがましいし見ている観客に失礼だよ。でもその好意だけは受け取っておくよ」


<ダンセ>

「ええ、そうですか」


ダンセは、どこかむつかしい顔をしていた。


<シャトレ>

「今回もダンセの脚本なんだね。オリジナル?」


<ダンセ>

「ええ!今回も気合を入れて作りましたので、ぜひ観てもらいたい!」


その声には、隠しきれない自信が滲んでいる。


<シャトレ>

「じゃあ今回も安心して観れるよ」


そう言うと、ダンセは一歩近づいてきた。


<ダンセ>

「ああ、ぜひ早く観て欲しい!ああ、ぜひ早く観て欲しい!この話の事を考えるだけで、ああ言ってしまいたい!物語をここで話してしまいたい! 良いですかシャトレ殿、今回の話は第三次魔術大戦が舞台で……」


<シャトレ>

「もうしゃべり始めてる!」


<ダンセ>

「おおっと申し訳ありません!取り乱しました。ワタクシ、物語を話し始めると止まらないタチでして」


<シャトレ>

「知ってる。これは早く席に行った方が良さそうだ」


これ以上ここにいたら、本編を聞かされかねない。


<ダンセ>

「ええ、今回もぜひごゆるりと」


ダンセは満足そうに微笑んだ。



ブザーが鳴る。

低く、場内に響く合図。

ざわめきが、徐々に静まっていく。

照明が落ち、舞台に光が集まる。


<シャトレ>

「……始まるな」


舞台が、静かに幕を開けた。



<ダンセ>

「いかがでしたかな?」


隣から、得意げな声がする。

軽く息を吐きながら、舞台の方へ視線を残したまま答える。


<シャトレ>

「敵国の王子との禁断の恋と、その結末。大戦という厳しい時代の中で、次々と試練が襲いかかる。展開はベタだけどさ、それを面白くする技量があるよね、ダンセは」


<ダンセ>

「えぇえぇ!もっと褒めて頂いても構いませんよ!」


待ってましたと言わんばかりに身を乗り出してくる。


<ダンセ>

「脚本家にとって最大の報酬は賞賛!感想!称賛の嵐!さすが秀才。レヴィリオン一の脚本家と言われるだけはありますねえ!」


<シャトレ>

「はいはい。まあ、他にも良い脚本家いるけどね?」


自画自賛するダンセを軽く流した。


<シャトレ>

「でもさ、あのラスト。王子の死を思って王女が石になる展開。なんなの、あれ?演出と演技力でちょっと泣きそうにはなったけどさ、冷静に考えるとだいぶ超展開じゃない?」


<ダンセ>

「いやあ、あれはですね”死しても貴方の側に”という想いを、視覚的かつ感動的に表現したものでして――」


ダンセは満足そうに語り始める。


<シャトレ>

「なるほど、だから石ね。ネタバレを題名にするのもどうかと思うけど」


<ダンセ>

「終わってから意味が分かるというのもまた一興ではありませんか」


<シャトレ>

「お」


視界の端に見覚えのある姿を捉える。


<……>

「シャトレさん、ダンセさん、うっす」


軽く手を挙げて近づいてきたのは――


――連盟軍Bランク魔術師、37番隊副隊長補佐――

  ――オルフェイ・ヤーゴ――


<シャトレ>

「お、オルフェイじゃん。どうしたの?」


<オルフェイ>

「今回はジニスが出てたもんで」


<シャトレ>

「ああ、そういえば付き合いあったね……あれ?出てたっけ?」


<……>

「つれない事言わないでよシャっトレ〜!」


突然、背後から声が飛び込んできた。


<シャトレ>

「うわっ」


反射的に肩が跳ねる。


<シャトレ>

「その登場、心臓に悪いからやめてくれ」


<……>

「おっはよーさーん!」


やたらとテンションの高い声。


<……>

「退屈な人生なんてつまんない!そんなあなたには一輪の花をいや、花畑が良かったかな〜?そうかな?そうかも?そうね!きっとそうに違いないわ!」


くるくると動き回ってやかましい。彼の言葉が止まらない。


<……>

「いつも元気なジニス・ジ~~~~~~ニアスで———

———————————————————————————


————連盟軍Aランク魔術師 五十四番隊隊長—————————————ジニス・ジーニアス————————


——————————————-す!」

次回は4/29になります!

☆いっしょに!なになに~☆

イマーシブ劇場

仮想空間で行われる演劇に特化した劇場

全周天モニターのある専用のカプセル席で鑑賞する。座席にいながらありとあらゆる方向に視点を変更することができ、演者の間近での鑑賞も可能。

仮想空間での演目である事に加え、視点の変更による複雑で臨場感のある演出が売り。見るアトラクションとも言われている。

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