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決戦

 東西南北、各方面の門で立ち上がる戦いの炎、爆煙……ライラたちは宮殿三階のバルコニーで、その戦いの行方を見守っていた。

「8魔王……上手く引き離されてしまいましたね……」

 宰相ディーテが、ため息交じりの声で言った。

「かと言って、8魔王以外で押さえられる訳もない。こうなると我らは魔法陣から離れるわけにもいかんでな」

 ディーテの言葉にホーラが答えた。

 魔王たちは全て応戦、12神はホーラとディーテを除き、既に結界で隠された王宮魔道殿の、魔法陣のある間に赴き、起動準備に入っている。

「おそらくミカドは、ここに直接やってくるでしょう。魔法陣が起動しても最後には猊下のお力が必要です」

「猊下を直接狙うほど愚かとも思えんが……」

「そうなっても大丈夫よ、メルはあたしに任せて。あなたたちは魔法陣の防御・起動に全力を尽くして。それに……」

「それに?」

「リョウくんたちが、きっとミカドを止めるわ」

「恐れながらライラ陛下、彼らは本当に参戦するのでしょうか? 必ず故郷へ帰っていただくと甘言の如き言葉を並べ、アデスに尽くし続けさせた挙げ句、こちらの不手際での計画改変。結果として我々は彼らを陥れたと言っても過言ではありません。なのに……」

「それでも奴らは来るよ、御大」

「ホーラ……」

「彼女の言う通りよディーテ。彼らは必ず来る」

「陛下……」

「リョウくんたちに聞いたんだけど、彼らの居た国はね、魔獣の襲撃も戦争もない、平和なところだったんだって。だから欲張りなんだって、彼は言ってたわ」

「欲張り?」

「平和が当たり前になっちゃってあれも欲しい、これも欲しいって目指せるから、諦めなければきっと手が届くから……だから何も諦めたくないんだってさ、チキュウに帰るのもアデスを平和にするのも両方ね。そういう風に考えられるのって結構、羨ましいよねぇ~」

「確かに彼らは超人的です、味方になっていただければ心強い。しかしながら、やはり彼らは異世界人ですよ?」

「そう思う気持ちはわかる。確かに連中は敵に回すと厄介だ。特に、あのオヤジの腹ン中の闇は御大以上だぞ?」

「わ、私を引き合いに出す必要が?」

 ディーテは唇を尖らせた。噴き出すライラ、メル。

「確かにディーテはあたしたちを手玉に取るほどの度胸は無いわね」

「あの腹黒さも味方なら心強く感じるもんだ。御大、我らはそろそろ神殿に向かうとしようか?」

「あ、はあ……」

「大丈夫よ。リョウくんたち、信じよう」

「そう……そうですね。でしたら私たちはいつでも魔法陣を起動できるように……では、猊下、ライラ陛下」

「ええ、こちらは任せて。メルはあたしが必ず守るわ」

「お願いいたします、陛下」

 そう言い残し、ホーラとディーテはその場から消えた。


 彼女らが魔法陣に向かった後、四方の門の他からも戦闘の声が聞こえてきた。

 襲来したミカドもどきとの戦いで、外壁や門扉などの損壊部から魔獣が流れ込んできているのだ。

王都防衛軍の駐屯地や展開地から鬨の声が、フィリア邸の方向からは銃声や爆音が響いているのは、それらに応戦しているせいであろう。

 そんな状況を尻目に、

「綺麗な朝焼け……」

メルが、そっと囁いた。

 言われてライラも東の空を見てみる。

「やたら赤いわね、今日は雨かな……?」

 そう言えば、いつの間にか西の空の雲が濃くなってきているように見えた。

 南の空を見る。まだ朝焼けに照らされて赤く染まった雲の高さが、先程より低くなってきている。その空の下で、ギャランドラの雷撃や、ラーのレーザー攻撃の光が激しくフラッシュしていた。

 苦戦しているらしい。周辺の爆炎や土煙の上がる範囲がさらに広がっている。

「復興が大変ね~」

 ――事が終わって復興作業に入ったら、いくらかヘソくりからカンパしようかな~?

 などとのんきに考えていたライラの眼に、

「ん……?」

宮殿敷地内の最南端辺りから、こちらに歩いてくる人影が映った。

「……メル?」

「ええ……」

 メルも気が付いていた。


 ヴォオォォーン!


 ライラとメーテオールは宮殿敷地全体に結界を張った。

 敷地内をドーム状に覆う結界、加えて宮殿施設には建物に合わせてコーティングされる形での防御結界に攪乱結界を重ねる。魔法陣の場所を知らせないためであろう。宮城魔導殿内でも12神によって、更なる多重結界が魔法陣に張り巡らされているはずだ。

 もっともこの敷地ごと、この世から消え去るほどの破壊魔法を奴が使えたら……

 奴が……ミカドが……

「いきなりの結界か。ずいぶんな歓迎だね」

 ミカドの口調は呆れるほど平穏だった。

「この結界を破れるのはシランの太陽魔法くらいね」

「それほど余を消し去りたいか?」

「ミカド……」

 いや、平穏と言うにも抑揚が無さすぎる、意図的な棒読み……に近いが本当に抑揚が無くなってきている。

 ――錯乱の裏返し?

 ライラもメーテオールも不気味に感じ始めた。

「メル、ミカドの身体……」

 現在8魔王と闘っているミカドもどきほどではないが、ミカド本人の身体からも光が漏れていた。

「魔素の過飽和?」

「魔素の濃度がサワダさんの身体の限界を越え始めている……」


「答えよメーテオール……なぜ余は消えねばならん……」

 ボン! また魔素が噴き出した。

「ライラ……答えられるか? なぜ、余はお前たちと一緒ではなかったのかと?」

 マズい状況だ。史郎の身体を依り代にした仮の新生の弊害が出始めている。

「教えてって……そんなのあたしが知りたいわよ!」

「余は……余は……」

 凝縮された魔素が臨界を超える? 

「非常に危険な状態です。ミカさんの部分が抜け落ちたまま、サワダさんを無理矢理その代わりにした結果、精神体に歪みが生じ、彼の自我を不安定にさせています!」

「不安定って……」

「推測ですが、アデスの記憶を持つミカドと、チキュウの歴史の中で培ったサワダさんの意識が混在した結果、精神の安定に亀裂が生じ、そこに限界を超えるほどの魔素の凝縮が重なって……更に魔獣や分身を操る負荷に仮の身体が限界を……」

 ウドラ渓谷の底で、ミカが良二と時系列を共有しようとした時に、それを逃れるため良二が半ば出まかせに言った事と同じ意味であるが、いみじくも良二の言った通りの事がミカドの中で起こったのか? それとも、夥しい数の魔獣やライラ級の魔力を持つ分身4体の制御で過負荷が掛かり過ぎているのか? いや、恐らくその両方が……

「それじゃ一体、一体どうなっちゃうのよ……」

 メルはライラの問いに答える事が出来なかった。

魔界で再会した時のミカドはまだ安定していたし、思考、言動にも違和感は感じなかった。

思えばあの辺りが魔素吸収の限界だったのか? 今のこの状況は、メルにも予想外に過ぎた。

「余は……まだ、消えるわけにはいかん!? 人間界の魔素を、全ての魔素を余が!」

 ミカドは跳んだ。シランと交えた時の光炎剣を振り出しながら。

 バシィー!

 ミカドの光炎剣は一撃で結界壁に刃を通してしまった。

 最外周の結界をいとも簡単に斬り破りながらそのまま着地し、

バンッ!

ライラとメルに襲い掛かるべく、再度跳躍する。

 ――Abyss black flame!

 迫るミカドを迎撃すべく、ライラは右手に黒炎を滲ませた。

 しかし広範囲に複雑な結界を維持している分、魔力は相当量、間引かれる。今の威力はブレーダー並みにまで落ちるかもしれない。

 だがライラはメルを守らねばならない。魔法陣の最終誘導は、彼女の力が必要なのだ。

 接近するミカド、ライラは意を決し右手に念を込めた。

 と、その時、


 バッシャアァーン!


二人の立つバルコニーの下側、宮殿二階部分の窓がいきなり飛び散った。同時にとてつもない勢いの突風が噴き出し、ミカドの身体はそれ以上宮殿に近付けず、ふっ飛ばされた。

 その突風に乗り、破られた窓から魔法剣を構えた二人の男が、目にも留まらぬ速さでミカドに向かって飛び出してきた。


「うおおおおおお!」


 バキィーン! 


 振り下ろされる魔法剣。ミカドの光炎剣はその魔法剣を受け、魔素の火花を撒き散らすが如き輝きを発する。

「てやぁ!」

 もう一人の男も迫ってきた。

 居合の構えから魔法剣を振り抜き、わき腹を狙ってくる。

 ミカドは左手にも光炎剣を振り出しそれを受け流した。

 二刀流となったミカドは最初にうけた男を狙って剣を振り払った。

 男は瞬時に水流を噴射させ間合いから逃れた。が、すぐに逆に噴射して更に斬りかかっていく。

「リョウくん!」

「ライラには手出しさせない!」

 窓から飛び出したのは良二と誠一だった。



 初手でダメージを負わせたかった。いくら人並外れた魔素濃度を持つとは言ってもライラやメーテオール級のキャパシティを誇るミカドに正面切って敵うはずもない。

 かと言って致命傷もマズい。なんと言っても今のミカドの身体は美月最愛の恋人、沢田史郎なのだから。

 良二と誠一はミカドを挟む位置に立ち、討ち込む機を窺った。

「不意打ちとはあんまりだな?」

「歳でなァ、余裕無ぇんだわ」

 相も変わらず軽口をたたく誠一。そう言いながらも良二と一緒にミカドのスキを狙う。

「ふん!」

 魔素ブースト全力発動、良二と誠一は二人同時に斬りかかった。

「ハ!」

 バシイィーン!

 弾かれる良二、誠一の剣。見事に受け流されてしまった。

 お互いが刃渡りを1.5m程と結構な長さを取っているので懐に飛び込むと言うのも、なかなかに困難だった。

 しかもミカドは受けるばかりではない。

「フン!」

 良二に向け、左右の光炎剣を振り払い、剣先から衝撃波を繰り出すという攻撃を仕掛けてきた。

 良二はシールドを張り、衝撃波を受け流すが、そのスキを突いてミカドは一気に距離を詰めてきた。間合いに入るやミカドは良二に向かって剣を振り下ろす。が、

ブオォン!

超突風だ。強烈な突風にミカドの動きが乱される。容子が二階の窓際から二人の間に突風をピンポイントで発生させ、ミカドの接近を妨害したのだ。

「ハァ!」

 そのタイミングを逃さず、逆に仕掛ける良二。だがそんな状態でも、ミカドの反応速度は良二を上回っていた。

 右の剣で良二の水剣を受け止めると、左の剣で良二を狙う。

「ホァ!」

 誠一は、そうはさせじとミカドの後ろに回り込み背中に光剣を振り下ろす。

 それを察知したミカドは左の剣を反転させ、誠一の光剣を背中側で受けた。

 良二と誠一は、前後からの打ち込みで懐深くに入り、膠着させることが出来るか? と期待したが、ミカドは素早く体を翻すと二人の剣を弾き、良二に蹴りを入れた。

「ぐは!」

 身体強化されてはいたが、ミカドの蹴りは強烈であり、良二は転倒した。

 次手どころでは無く、転がりながら距離を取るのが精いっぱいだった。

 誠一もすぐに後退し、仕切り直す。

「無様な動きだ。余裕が無いと言うのは本音のようだな」

 ミカドが含み笑いを交えるように二人を(なじ)った。

「そっちも笑っていられるのか? 魔素の喰い過ぎと操り人形(マペット)の世話で、体が限界じゃねぇのか?」

 誠一も負けずに精一杯のハッタリで言い返す。

 とは言え、ミカドも確かに言っている傍から、光を伴った魔素が体のあちこちから噴き出している。

 8魔王を引き付けるため、魔素で作られた4つの分身を操り、その制御のための魔力維持で大量の魔素を消費。その消費を上回る魔素充填のため、魔獣の死骸を誘導・吸収し魔素への精製の同時進行。

 史郎の身体は、その酷使に膝を折る寸前に思われた。

「その身体のあるじは部下の大事な恋人なんだよ。壊れる前に返しちゃくれねぇか?」

「こんな身体のことなど知ったことでは無い。魔法陣を片付けるまで保てばそれでいい。ハァッ!」

 言い終わるや、今度はミカドの方から仕掛けてきた。

 誠一は再び居合の構えを取る。

「イヤ!」

 誠一は光剣を振り払った。だが初太刀は奴の右の剣に見事に受け流され、左の剣が襲ってくる。

「ダァ!」

 良二の袈裟斬り。先程の再現だ、ミカドは左の剣を反転させ良二の剣を受ける。

 バン!

 又しても相互に弾かれ合う剣と剣。今度は三人一斉に体を引いて距離を取った。


 ――やはり埒が明かない。


 二人掛かりで剣を受けるのが、やっとの状態が続く。どうしても懐に飛び込み、必殺の一撃を撃つ距離に届かない。

 8魔王が抑えているミカドの分身。仮に一組でも魔王側が倒れ、その一体がこちらに回って来たら、もう手の打ちようがない。

(やはりやるしかねぇ。ぶっつけ本番だが良、お前に賭けるぞ)

 誠一が良二に念話を送った。

(ああ、そのようだね。ミカ、行けるな?)

(リョウちゃん次第じゃ。たのむで?)

 ミカを含む四人は念話で何やら確かめ合った。

「やぁ!」

 容子が二階から飛び降りた。同時に誠一もミカドから距離を取り後退する。

 良二を先頭に、誠一と容子が後ろ左右にに控える三角のフォーメーションだ。

(受け取れリョウちゃん!)

 ミカが叫んだ。

 その叫びと同じくして、ミカの霊手が誠一と容子に繋がれた。

 その霊手は二人の身体からミカドと同じような魔力の光を押し出す。

 押し出された光は、そのまま良二の身体に取り付つくと、吸収、融合していき、良二の身体をミカドと同様に輝かせた。

「あれは!」

「まさか、属性の移植融合!?」

 メルとライラが叫んだ。

「他者から属性を分離して融合するだと!?」

 そんなことが……なんだその発想は! ミカドも、そしてライラもメルも意表を突かれた。魔力の同期は技として存在するが、特定の属性だけを複数から分離しての融合とは……

 だが、良二たちには十分イメージできる魔法だった。

 ようするに子供のころ観ていた特撮・戦隊モノで見られた合体技のイメージだ。もちろん、ミカという優れた触媒があってこそだが……

 しかしこれで、良二は属性的にはライラや史郎、そしてミカドと同等になれたわけである。

「でも、そんな事したら!」

「本来、身体が得意としていない別属性を無理矢理注ぎ込んだら……」

(3分じゃ! 3分が限界じゃぞ!)

 ライラとメルの脳裏に懸念が浮かぶ中、ミカの警告が飛んだ。

 全てを受ける良二は勿論の事、属性を分離した誠一と容子は魂、生命力を切り渡すも同然であり、身体的にも精神的にもその負担は同期技の比では無く、長く続けられる道理などない。

 ウル虎マンかい! 良二は嘯きながらミカドに仕掛け始めた。全力加速で突っ込んでいく。

 ――は、早い!

 まさにトリプルブースト! 眼にも止まらぬ速さ、と言う言葉すら生温い。

「ハァ!」

 気合い一発! 良二は剣を振り下ろした。

 ガィン!

「く!」

 ミカドは良二の斬撃を何とか受け止めた。だが、今までの水剣、光剣とは段違いの重さの剣圧に驚愕した。

 桁違いであっても、速度だけなら時間を止めるホーラや、光の速さで移動できるラーでも可能であっただろう。

 しかし、水、雷、風に加え、底上げされた火や、天・地の属性が融合した水雷剣は、ミカドの二本の剣をもってやっと受けられるくらいの威力を誇った。

 ――予想外だ……

 異世界人は油断すべきではない、ミカドも当初はそれを危惧していた。

 だから誠一の暗殺や美月の叛逆も図ったのだ。

 だが油断とは言え、あっさりと部下にしてやられる誠一の甘さに彼らを見くびっていた……それは不覚だったかもしれない。

 しかし、ミカドも史郎の記憶をある程度覗いてはいた。それを使う時か。

「うおりゃ!」

 ガン! カィン! ギャン! カァン!

 次々と繰り出される良二の剣撃にミカドは防戦一方だった。

「フン!」

 ミカドは後退して距離を取り、左手の剣を納めた。

「うん?」

 良二は訝し気にミカドを見た。奴は剣を一本にし、霞みの構えのような姿勢を取った。

 ――決める気か?

 予感した良二も奴と合わせるように正眼に構える。


 ズ……

 ズズ……


 ジワリジワリと間合いを詰めていく両者。

 お互いの眼は相手の眼を見据え、周りも足元も全く見ず、そのままジリジリと距離を詰める。

 やがて斬り込みの間合いまで、あと半歩、いや、足の裏半分程度の所まで来た……そんなところで、

「ふふふ……」

ミカドが薄笑いを始めた。

「……なにがおかしい?」

「やはり剣技で決めてしまおうなんてカッコつけすぎかな?」

「……魔法勝負でもするってか?」

「望むなら? 人間界を取るためには王都は消すまいと思ったのが甘かったかな」

「消す?」

「太陽魔法!」

「え!」

 良二は驚愕した。あのシラン必殺の大量破壊魔法。

「あ、あれは封印されたはずだ! お前が知る訳がない!」

「サワダの記憶にあったんだよ! カクバクハツってのがなぁ!」

「な、なんだと!」

 まさか! 沢田くんは知っていたのか!? 核反応の理論を!

「はい、スキあり!」

 機を逃さず、ミカドは瞬時に間合い内に踏み込んだ。必殺の間合いに入り込み、わき腹を斬り払うべく、剣を振るった。シランを斬り払った時の再現だ。

 ガアァン! 

「な!?」

 ――止められた!?

 今度はミカドが驚愕した。良二の水雷剣は自身のわき腹までギリギリ3cmほどのところでミカドの剣を誘うように受けたのだ。

 ――こいつ、笑ってる?

 文字通りの鍔迫り合い。それは同時に、懐に飛び込んでの膠着状態でもあったはず。しかして良二の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

 シランからウドラ峡谷での顛末を聞いていた良二は、ミカドが核を口にした瞬間に「誘える」と判断して驚いた演技をしたのだった。

「これを待ってたんだ!」

「なに!?」

「確実に撃ち込める、この距離をな!」

 言うより早く、良二は増力した左手だけで剣を押さえ、右手の手首を外側に反らせた。

 ガシャ!

 良二の袖口から旧式の単発デリンジャーに似た小型拳銃が飛び出した。誠一がアレジンに作らせたあの格納式単発銃ユニットだ。

 千歳一隅、万に一つとも言うべき超絶対好機の膠着、必中の距離、この間合いを逃しはしない。良二は瞬時に銃口をミカドの腹に押し付け、短銃に念を送った。

 バン!

 拳銃から撃ち出された弾頭はミカド――史郎の腹を撃ち抜いて、背中から飛び出すほどの貫通力を見せた。

「ガハ!」

 ――なんだ、この武器は! こんなもの今までに見たことも……!

 放たれた弾頭が、史郎の腹を弓矢とは段違いのスピードで貫いていく。

 史郎の身体は同じ日本人であり、致命傷を負わせられない盾としての効果もあった。

 しかし斯様な手段は想定外。その未知の衝撃に速度に、身体強化魔法も追いつけなかった。強化を念じた時には弾頭は既に突き抜けていた。

 身体を抉られる様な衝撃に、眠らされている本来の身体の持ち主である史郎の魂が揺らいだ。その史郎の魂に憑りついているミカドも安定さを逸してしまう。

 良二は手応えを確信すると後ろに飛び、そのまま体を伏せた。

「美月ィー!」

 誠一が全力で叫んだ。

「ミカドォ! 史郎くんを返せー!」

 ヴァォッオオォオーン!

 宮殿一階正面の部屋に潜んでいた美月の狙撃錫杖が火を噴いた。

 一階窓ガラスを撃ち抜き、ミカドに向かって一直線に飛ぶその火球は、いつもの青白い火球ではなく純白、というより透明に近い火球だった。

「聖属性火球!」

 メルは気づいた。美月が放った火球は聖属性魔法で作られた火球だと。

 パアァーン!

 美月渾身の聖属性火球はミカドのどてっ腹ど真ん中に命中した。だが聖属性に纏われた火球は史郎の肉体は破壊せず、魂を、いま彼を乗っ取っているミカド自身を撃ち抜いた。

 撃ち抜かれたミカドの魂は史郎から見事に引きはがされてしまった。

 戻ろうにも今の史郎は銃撃によって仮死状態、というより死にたてと言っていい。

 元々の史郎の魂と肉体の繋がりが不安定で依り代の役割が果たせなくなっている。史郎の魂との連結・同期が出来なくなっているのだ。

 ――も、戻れない! 魂が剥き出しのまま、さっきの聖属性火球を、もう一発喰らったら……

 即座にミカドは史郎への憑依・同期を断念し、改めて念を込めた。


                ♦


 西門周辺を防御しているウドラとプロマーシュは、進捗の無い戦いに、苛立ちがほぼほぼ頂点まで高まっていた。

 攻撃をすれば多少、相手の動きは封じられるものの、決定打に繋がる手法がまるで見いだせないでいた。

 物理攻撃も魔法攻撃も、ダメージを与えて動きを止めることは出来るのだが、極めて短時間で再生してしまい、全く進展がない。

 ローゲンセンの言う通り、ミカドの本体を潰さなければならないのはわかってはいるが、このまま目の前のミカドもどきを放置する訳にもいかない。この戦闘で西門付近の外壁はかなりの損傷を受けており、群がってきている魔獣がスキを突いて王都に入り込んでいるのだ。

 後方で王都防衛軍や、増援の魔界軍が迎撃してはいるが、今現在、宮殿に現れたと言うミカド本体に向かえば流れ込んでくる魔獣とミカドもどきを軍だけで押さえられるはずもなく、二人の魔王は完全に釘づけにされていると言ってよかった。

 まんまとミカドの手管に嵌ってしまっているだけでもムカつくのに、自分らの能力でミカドもどきを蹴散らせない現状も余計にウドラを苛立たせていた。

 だが、その苛立ちが一気に吹き飛ぶ現象が目前で起こった。

「!?」

 対峙していたミカドもどきが突然、ウドラとプロマーシュを無視し、宮殿方面へ向かって飛んで行ってしまったのだ。

「な、なんだ?」

 ミカド側のいきなりの転換に一瞬二人の魔王は躊躇したが、

「あたいが追撃する! プロマーシュはここで魔獣を押さえてくれ。軍だけでこの数は抑えられん!」

と、即座に判断したウドラはプロマーシュの返事も待たずに、ミカドもどきを追って宮殿に向かった。

「おい、勝手に何を! ああもう、しょうがねぇなぁ!」

 現実に、二人ともがこの場を離れられるほど魔獣の数は少なくはなかった。

 プロマーシュは、破壊された門を乗り越えて群がる魔獣に対して火炎攻撃を始めた。


                ♦


 次々に宮殿敷地内に集まってくるミカドの分身。

 依り代を失ったミカドは身体を再生すべく、四方の分身を呼び戻したのだ。

 一瞬で目の前から敵が消え、虚を突かれた8魔王を尻目に、ミカドの元に集まった分身はそのまま彼奴の魂と共に融合をし始めた。

 本来、ミカド新生委員会が目指していた、魔素の凝縮によるミカドの身体の生成。

 今、ここでそれが行われるのか?

 集まり融合した魔素体はさらに凝縮し、眩しい光を放ちながらも段々と、段々と人の形になっていくのが良二にも分かって来た。

「あ、あれは……」

 やがて集まった魔素は、良二の予測を肯定するかの様に人の形をかたどっていった。輝く光の中で形作られた人影の風体は、良二らの予想に反してまるでカリンと同じくらいの、とても小柄な体形であった。

「あ……あれが……ミカド、の……」

 人型となった、魔素の身体を持ったミカド。その姿はまだ幼さを残す、人で言えば10~12歳くらいの少女の姿だった。

「彼女の……本当の……姿……?」

 狙撃態勢を取っていた美月の護衛に付いていたカリンやシーナがミカドの姿を見て、そう呟いた

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