第8話 快適ライフへの道
翌日。朝食を食べた後、早速作業を開始した。
「まずトイレを縮めて下さい。その後、縮めたトイレと素材をいくつかレンキンガイに入れましょう」
トイレはテントガイを素材に出来ているため、再び頂天を押せば小さくして持ち運ぶことが出来る。俺はトイレを縮めた後、アカリガイ、モーターガイ、デンチガイをレンキンガイに入れた。
しばらくして吐き出されたのは、壁から棒が突き出したテントガイだった。
「では、その貝を元のトイレの位置に設置し、大きくして下さい。突き出ている棒は自動海水浄水装置の方向を向くように」
「こうか?」
ハミットの言うとおり棒の向きを気にして設置し、頂天を押す。すると貝が大きくなったと同時にハミットが棒の位置を気にする理由がわかった。
棒はパイプだったのだ。
「突き出しているパイプにモーター付きパイプを繋いで下さい。浄水装置に接続しましょう」
「わかった。これでいいのか?」
「はい。これでトイレへの水の自動供給が完成です。では中をご覧になって下さい」
トイレの扉を開けると、レイアウトは変わっていなかった。だが明らかに雰囲気が変わっていた。なぜならば――。
「明るい。照明がある!」
俺の身長より少し高い位置の壁に、何個か照明が付けられているのだ。さらに採光兼用の換気窓だった所には、回転するプロペラ――換気扇が付けられたのだ。どうやら貝殻で出来たプロペラをモーターガイの動力で回しているらしい。これでトイレの暗さと臭いが籠もる問題を解決できる!
手洗いと海綿シート保管用の水槽。これは常に新鮮な水が流れるようになっており、不要な水はトイレ下部の浄化槽へ流れるようになっていた。これで毎日の水の入れ替えから解放されるな!
そして便器の方だが……。
「あれ、変わってない?」
長方形の穴だけのシンプルすぎる便器のままだった。明らかに変わっていないように見えるが……。
「いえ、変わっていますよ。正面にボタンがあるでしょう?」
「ああ、確かに」
「押すと便器内の壁面から水が出て流れるようになっています。要は水洗になっているのです」
……なんでわざわざ? 今までの穴から浄化槽に直接排泄する方式の方がシンプルで良かったんじゃないのか?
「意味はあります。この便器はN字型パイプを通って浄化槽に流れていきます。マスターならこの意味がわかると思いますが」
「そうか、臭い対策!」
前世の排水管では、N字型のパイプを使う事例が多かった。なぜならば、パイプの一部に水が常に満たされる構造になるからだ。この水が満たされている部分によって下水道から虫やネズミが這い上がってこないし、異臭も通れなくなる。
このトイレもN字型パイプで浄化槽からの臭いを防ごうとしているわけだ。
「換気扇と合わせて、臭いはかなり抑えられるな。……ところで、1つ聞いてもいいか?」
「どうぞ」
「ウォシュレットは付かないのか? モーターガイを使えば出来そうな気がするんだが」
大量に水を送水できるパイプが錬金できているんだ。それを応用してウォシュレットが出来そうなものだが。
「出来なくはないですが、モーターガイは微細な力のコントロールが苦手なのです。力の大きさを求めていると言いますか……。なのでモーターガイでウォシュレットを作ると、お尻やおまたを破壊するような物に仕上がりますね。それでもいいとマスターがおっしゃるのであれば作りますが」
「……いや、作らなくていい」
さすがに身体――しかも大事な場所を傷つけるような物を使う勇気は無いぞ、俺には。
***
トイレから出た後、『ところで……』とハミットが切り出した。
「そろそろ新しい服が欲しくはないですか、マスター?」
「まぁ、確かに」
転生してから数日経っているが、ずっと同じペチコート付きワンピースのままだ。下着も替えていない。これしか持っていないから当然だが。
そして俺自身、口には出していないが不満に思っている。このワンピースはペチコート付きなので俺にとってはゴテゴテしているように感じられ、様々な作業をやらなければならないサバイバル生活を営むには圧倒的に不向きな服なのだ。あと結構高そうな服なのでなるべく汚したくないという考えもある。
それに長期間同じ服を着続けるのは、衛生的にどうかとも思うのだ。
「なので作りましょう、服を」
「作れるのか!?」
「はい。『センイガイ』を召喚して下さい」
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センイガイ
巻貝だが、見た目は殻がある白いウミウシに近い。植物性プランクトンや海藻を主食とする貝。摂取した食べ物から繊維成分を殻の材料にする。繊維を材料にしているためか成長が早く、ウミウシに近い見た目になっているようだ。布製品や紙の原料になる。
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召喚してみた感想が、『不思議な貝』だった。説明にあるとおり殻があるウミウシ――表現を変えると『サザエみたいな殻を持ったカタツムリ』だ。殻は固くなく、繊維で出来ているためふわふわ。見れば見るほど不思議な貝なのだ。
「この貝で服を作りましょう。錬金中に調整を入れることで様々な性質の布や紙を作れます。何か服装の希望はありますか?」
「とにかく動きやすい服。下着は普段使い出来るもので」
「わかりました」
そしてセンイガイをレンキンガイに投入。しばらくして吐き出された物は、白いポロシャツ、白い短パン、白い靴下、小さいリボンが付いている白いパンツ、白いシャツだった。貝を素材にしているからか、ほのかに真珠のような光沢が見える。
「染料があれば色を付けられますが、今はないので白一色となっています。下着についてですが、ブラジャーは見送りました。まだマスターは付けるほど成長されていらっしゃらないようなので」
「最後の台詞は余計だろ。他の女性にそんなこと言ったらぶん殴られても文句は言えないぜ?」
中年男から少女に転生した俺としてはまだ地雷になっていないが、他の女性にとっては確実に地雷だろう。この世界の住人に会ったとき、その口の悪さが出ないといいんだが。
「ご心配なさらないで下さい。こういうことを言うのはマスターだけですので」
「それはそれで、なんか悲しいな!」
とにかく、新しい服を手に入れたんだから早速着替えてみようかな。高価な服は汚したり破ったりしたくないから、さっさと脱いでカバンガイに仕舞いたいぐらいだし……。
「少しお待ちを、マスター。着替えるのであれば、ついでに『アレ』をやってからにしてはどうでしょう?」
「『アレ』って何だよ?」
ハミットはもったいぶるように間を置いてから、口を開いた。
「『お風呂』ですよ」




