第6話 異世界自給自足生活
「さてマスター。この世界には危険な存在がたくさん存在します。人を襲う魔物が生息していますし、人間社会の事はわかりませんが害意を持つ人間もいることでしょう」
「やっぱいるのか、魔物……」
「はい。もしかしたらマスターのすぐ近くにいるかもしれませんから、注意して下さいね」
それは物騒だ。戦いなんて無縁な生活をしてきた日本人に言われても全く実感が沸かないし、そもそも俺は戦闘経験皆無だしな。
「そこで、ある程度戦えるよう備えなければなりません。幸いにして武器になりそうな物を手に入れられる素材で作ることが出来ます。チャッカタツムリと貝殻をレンキンガイに投入して下さい」
「いいけど……この素材って、コンロを作る素材と同じじゃないか?」
「調整を少し変更して別の物を作ります。まぁ見ていて下さい」
俺が言われたとおりの素材をレンキンガイに入れた後、ハミットがレンキンガイの穴の縁を掴む。いつも通りの錬金風景だが、おそらくハミットはコンロを作った時とは別の物を作るようにコントロールしているのだろう。
しばらくしてレンキンガイから吐き出された物は、指揮棒のようなサイズの貝殻で出来た杖だった。先端にはチャッカタツムリの殻が大きいサイズで乗っている。
「『火の杖』です。魔力を注ぎ込むだけで火魔法を誰でも放つことが出来ます」
「ふーん」
火の杖を持つと、俺と杖の間に何かパスが繋がった感覚がした。さらに身体の中から何かを杖に流し込めそうな気がしたのだが、これが魔力なのだろうか?
試しに、感覚に身を任せて杖に流し込んでみると――杖の先からライターほどの火が出た。
「それが魔力を注ぎ込む感覚です。しっかり覚えて、使いこなしましょう」
「お、おう」
ライターよりも小さい火とはいえ、初めての魔法らしい魔法だ。俺は興奮気味に再度魔力を注ぎ、その感覚を身体の中に記憶させていく。
ちなみにこの世界で魔法とは才能主義的な法則で存在しているらしく、適性がなければ魔法を使うことは出来ない。適性があっても魔法には『属性』が存在し、適性がある属性の魔法しか使用できない。
ただ魔力は大なり小なり全ての生物が持っている物であり、それを利用した道具はおそらくこの世界に存在しているだろう――とハミットは予測している。
でもハミットはこの世界の人間社会には疎いので、本当にそんな道具があるのかどうか不明だし、あるとしてこの火の杖はどのくらい有用だったり珍しい物なのかはわからないけどな。
しばらく火の杖の練習をしていると、ある程度使いこなせるようになった。火力の調整、放出する火の形、大きさの変化など。ただ、なんか何年も前から使い込んでいるかのような感じがするんだよなぁ……。
そして火の杖の練習中に、身体に電流が一瞬走ったような感覚がした。
「これは、もしかして――」
「レベルアップです。ステータスを見てみましょう」
ハミットが言う通りにステータスを開いたのだが――。
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スキル:貝使い
称号:貝殻の守護者(第3段階)
召喚可能な貝:ベジシェル、スターチシェル、モーターガイ、デンチガイ、カバンガイ、センイガイ、アカリガイ、コオリガイetc...
<既に召喚可能な貝は非表示>
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――うん、全く知らない貝ばかりだな。貝使いの能力で召喚するしかない、特別な貝だけが追加されたのかな?
「その通りです、マスター。新たに召喚出来る貝は、より生活を便利に充実させる道具の素材になります。1つずつ試していきましょう。お昼が近いので食材系の貝を使ってみましょうか」
「そうだな。まずは食材系の貝で」
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ベジシェル
野菜のような味と食感を持つ『貝類』。様々な種類があり大きさや味も様々なので『類』とまとめられている。生態も植物に近く、水管で呼吸しているが食事は行わず、光合成と地面や水中のミネラル分で成長する。殻ごと食べられる。
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試しに召喚してみた『ベジシェル』は、説明にあるとおり色も大きさもバラバラ。なんなら二枚貝も巻貝も存在している。
共通しているのは光合成で生きていること、そして殻が簡単に砕けたり潰れたりするほど弱いことだ。
「ベジシェルをレンキンガイに入れてみましょう」
ハミットに指示されたとおりレンキンガイに入れると、なんと野菜になって吐き出されたのだ。
「にんじん、レタス、キャベツ、トマト、タマネギ……野菜なら何でもあるな」
「野菜を錬金するための貝ですので。では続いて『スターチシェル』を召喚してみましょう」
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スターチシェル
穀物のような味と食感を持つ『貝類』。ベジシェルの近縁種で生態もほぼ同じ。学術的には同一視する説がある。ただ食材としては穀物に近いため、便宜上分けられているだけ。
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姿は白や茶色、黄色が多いベジシェルといった感じ。
ベジシェルと同様にレンキンガイに入れ、今度は穀物になった。小麦とか大麦、ライ麦、トウモロコシとかだな。そして、錬金された物の中には……。
「これ、米か!?」
「はい。米も穀物なので、スターチシェルから錬金可能です」
「うおー! お米だーっ!」
野菜や穀物が手に入ったことで栄養バランスの心配をしなくて済むようになった。それだけではなく、食べ慣れた米が食べられるのは精神衛生上めちゃくちゃうれしい。
「小麦を錬金すれば小麦粉になります。さらに小麦粉と水などと一緒に錬金すればパンになります」
「ということは、米と水を錬金すれば……」
「炊いたご飯になります。熱源になるチャッカタツムリも必要ですが」
よし、それならお手軽だな。炊飯器がないから鍋とコンロで炊くことも考えたが、実際にやった経験が無いし時間がかかるからな……。錬金で手軽にご飯を炊けて良かった。
そしてレタス、トマト、キュウリの生野菜と貝の塩ゆでを用意すれば――転生してから一番豪華な食事になった!
「それでは頂きましょう」
「いただきます。んぐんぐ……うん、うまい!」
野菜の新鮮な味わいや米のモチモチした食感を久しぶりに味わい、転生してから今までの中で一番うまいと感じた。ただ、物足りないと感じてしまう部分もある。
米があるのでせっかくなら味噌汁だったり醤油を垂らした潮汁のほうが絶対合うのだが、残念ながら味噌も醤油もない。
そして生野菜を食べるからにはドレッシングやマヨネーズがあればいいと思うが、その材料も入手できていない。
「まぁ、そのうち食べられますよ。焦らずゆっくりやりましょう」
「そうだな。転生してからまだ数日だし。簡単に手に入ると思う方がおかしいよな」
今は、栄養バランスにある程度配慮できるようになったことを喜ぼう。




