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大河ドラマと梅里様  作者: 今西薫
3/50

2 再会。散楽とアキ女御とオトウトと

ドラマのネタバレをしてますので、お嫌なかたは回れ右を。

私見がかなり入ってますので、それも嫌な方は回れ右を。

第二話 めぐりあい


「六年経っていたぞ」

 お茶を持って行くと、梅里ばいり様がうずうずした様子で話し出した。

「はいはい。大河ドラマですね。二回目も面白かったですか?」

「うむ。面白かった」

 頷くと、肩の上で揃えられた髪が揺れる。見た目は五、六歳の子供なのに、表情が大人びているのはいつものことだが、これから語られる内容がドラマのことと思うと、ちょっと残念だ。

「今日はチョコを掛けたアーモンドですよ」

 キャラメリゼしたアーモンドに溶かしたチョコを数回に分けてかけてコーティング。粉砂糖をかけて甘めに仕上げてある。カリっとしていてついつい手が止まらないが、作り置きができるので便利なお菓子だ。

「なので今日はコーヒーにしてみました。梅里様はお砂糖とミルクがあったほうがいいですよね」

「うむ。でも、食べてから決めることにしよう」

 梅里様は、指を伸ばして、小皿に載ったショコラアーモンドを取り、口に運んだ。カリっと軽い音がして、かすかにほほ笑んだ。気に入って貰えたようだ。

「指はこちらで」

 ウェットティッシュを渡す。

「で、六年経ってたんですか?」

「まひろと道長が本役に変わっていたぞ。それでな、裳着の儀式で腰結(こしゆい)の役をしていたのが、宣孝(のぶたか)だったのだ」

 ウェットティッシュで指先を軽くぬぐった梅里様は、そのまま手を握りしめ、ソファの上で正座をしている膝をどんどんと叩いた。

 梅里様は妙に興奮しているようだが、意味が分からない。

「ノブタカって誰ですか」

 聞いたところで分かりはしないのだが、あまりにも聞いて欲しそうだったので、言ってみる。

「誰って、………!」

 梅里様は口を開いて慌てて閉じた。

「……まひろの父、為時(ためとき)の友人だ」

「それのどこが、梅里様が興奮するほどのことなんです?」

「うむ。これ以上はネタバレになるので言えぬ」

 なるほど。史実ではあるけど、この後出てくる事実ということらしい。そういうこと、あんまり気にしないんだけどな。

 とはいえ、梅里様がとても楽しそうなので乗っておくことにする。

「裳着の儀式って成人式みたいなものでしたっけ?」

「そうだな。今の成人式みたいに年齢が決まっていたわけではないがな」

「じゃあ、道長のほうもそういう儀式を?」

「男子は加冠かかんと言うらしいな。このドラマでは出てこなかったけどな」

「そうなんですね」

「重要な場面じゃないってことなんだろうな」



 結局、梅里様はミルクと砂糖を足して甘くしてからコーヒーを飲んだ。ショコラアーモンドも甘いらしいが、それはそれ、らしい。

 喉を湿らせた梅里様は思い出すように首を傾けた。

「恐いのは、兼家だな。道長の父親の。道兼(みちかね)が人を殺したことを知っていた。知っていて、黙っていた。それで道兼を連れ出して二人だけで話をするんだ。貴族が自分の手で人を殺してはならないと」

 ………?

「人を殺すのが悪いのではなくて?」

「そう。死は穢れなんだそうだ。直接手を下すことで穢れることを嫌う。兼家はそのことを出して、おまえのために口封じもしたと恩を売るようなことを言う。そして、家のために働けと言う。帝に毒を盛るように言う」

「……むちゃくちゃ恐くないですか?」

 梅里様はうんうんと何度も頷く。

「帝に毒を盛るのも恐いですけど、息子を操っちゃうんですか? いわゆる毒親ですか?」

「そうなのだ。恐いだろう?」

「恐いです。……でも、梅里様は楽しそうですね?」

「このドラマがきらびやかな世界だけを描くなら不要な描写だろうが、この時代の政治の世界も描くつもりなのだという覚悟を見せられた気持ちになるな。今年一年が楽しみで仕方ない」

 なるほど。

「兼家と言えば、まひろのお父さんはまだ教育係をしてるんですか? ええと、東宮の?」

 ふと思い出して聞いてみる。

「それがしているんだな。しかも、本人から感謝されている。それまでの者はすぐに辞めていったのに、為時は辞めずにずっと続けてくれたとな。実は、兼家から東宮の様子を探るよう言われているから辞めなかっただけなのだがな」

「東宮、報われないですね……」



「あとな、藤原実資(さねすけ)が良かったな。お笑い芸人がやっているんだが、実に似合っている。平安貴族にしては色が黒いが、地黒の者もいたと思えば……思えば…?」

 梅里様、かなり無理をしているようだ。

「実資って有名な人なんですか?」

われも知らなかったので、調べたのだが、『小右記』という日記に、いろんな儀式や出来事を事細かに書いた人らしい。そういう有名人として良い演技をしたという意味ではなく、妙に平安貴族っぽく見えるのが良いのだな」

 官職は頭の中将、帝に信頼されていたようだ、と付け加えてくれる。

「帝といえば、第一回の時に兼家の娘の詮子(あきこ)が入内していたが、男児を産んだな。円融帝(えんゆうてい)唯一の子だが東宮はすでにいるし幼いため、まだどうなるか分からない。兼家の孫でもあるから、兼家もいずれ帝にしたいと思っている。思惑は一致しているが、円融帝は兼家を嫌っている。そして詮子のことも嫌っている」

「複雑だ…」

 あ、そこで兼家の道兼への命令が出てくるのか。

「ところで、東宮って何なんですか?」

「皇太子のことだな。次の天皇になる者のことだ。王制なら、王太子」

「てことは、ええと」

 円融帝の唯一の子が詮子との子ということは、この時の東宮は……?

「為家が教育係をしている東宮はどういった血筋なんですか?」

「師貞(もろさだ)親王は、円融帝の甥だな。父親が円融帝の兄だ」

「叔父と甥で、ですか」

「平安時代は、その呼び名とは違ってそういう血なまぐさい時代なんだな」



「まひろと道長は再会しないんですか?」

「したぞ。道長は相変わらずお忍びで散楽を観ていて、まひろは、和歌の代筆をしていてな。市女笠も被らず共を一人だけ連れて歩いていた。その時に出会った」

「案外、引っ張らないんですね」

 もっとすれ違いを見せるのかと思っていた。

「うん、あれは少し驚いたな」

 梅里様は笑う。

「でも、終わりのほうで、道長を役人が捕まえようとするのだ。まひろが歩いていたら走ってきた男がぶつかって、彼女が落とした荷物を拾って渡すと去って行った。そこへ役人が男がどっちへ行ったかを聞いた。適当な方向を指したら、そこに道長がいた。そして、待て、次回、だ」

「そこで引っ張りますか!」

 思わず突っ込むと、梅里様はニヤリと笑った。

「盛り上がってるだろう?」

「盛り上がってますねえ」

 思わず深く頷いたのだった。


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