27 赤染衛門先生の房中術とまひろ懐妊そして出産。宣孝は気づいて、定子は皇子を。彰子は中宮へ。
ドラマのネタバレをしてますので、お嫌なかたは回れ右を。
私見がかなり入ってますので、それも嫌な方は回れ右を。
第二十七回 宿縁の命
今週は水ようかんだ。前々回の梅ジャムを使った梅ゼリーの元レシピのほう。こし餡は作るのがちょっと面倒なので、買ってきた。つるんと美味しい水ようかんは、ついつい食べすぎてしまうけど、夏だから仕方ないと思う。
「おー、確かにこの間の梅ゼリーと食感が似ているな」
スプーンですくって一口食べたあと、梅里様が言う。
「レシピ同じですからね。梅ジャムとあんこの食感が違うから、まったく同じではないですけど」
「うん、でも、ゼリーとは違うこの感じは、確かに同じだ」
ゼリーのプルプル感は無いむっちりと詰まった感じの、けれど夏らしく羊羹よりはねっとり感の少ない美味しい水ようかん。冷蔵庫に冷やしておいたのを食べるのが至福の時間だ。
「美味い美味い」
「よかったです」
でもまだ7月の半ば。暑い日はまだまだ続く。どうやって凌いでいこう…
「前回の続きだが」
持っているレシピを考えてると、いつの間にか食べ終わった梅里様が話し出した。
前回……ええと、まひろと道長が隙を見つけては会っているとかそういう話。
「石山寺で二人は再会し、いろいろ話をし、そのままそれぞれの泊っている所へ戻ろうとしていたのだが」
梅里様はため息をつく。
「背を向けて歩き出したのに、二人とも振り返って抱き合うんだ」
……あああー。しょうがないなあ…
「そして、石山寺のどこかで、罰当たり的に」
「まさか」
「そのまさかだ。そして都に戻ってきてしばらくして、まひろ懐妊発覚」
「まさか……!」
梅里様は哀しそうに首を横に振る。
「いとに問われるまま月の物が何回来てないか答えて、宣孝(のぶたか)とケンカ中の頃だとバレてしまう」
「まひろ、バカですか」
「そもそも、吐き気があって気分が悪いとなった時、妊娠したとまったく思いついてなかったからなあ」
「あああ……」
「いとはすぐに、行けるところまで行きましょう、と言うのだが、まひろはバカ正直だ」
「まさか……?」
「そのすぐあと、ひさびさに宣孝がやってきて食事中、食欲がなくて懐妊がバレてしまう。いつ頃が出産予定かと訊かれ、今年の暮れ頃と答える」
「………まさか」
「宣孝は、良い子を産めよと、笑顔で言ったが、気づいてないはずがないとまひろは考える」
そりゃそうだろう。相手が同年代の子を一人も持たない若者ならいざしらず、宣孝は何人も妻を持ち、何人も子を持っているのだ。
「夜、まひろは別れたいと告げる。一人で育てると。だが宣孝は、誰の子であっても、まひろが産む子は自分の子だ。おまえがいなくなるより良い。左大臣様は良くしてくれるかもしれない、と言う」
宣孝!
「ここにきて、宣孝の器の大きさが示される、という…」
「はい!」
質問、と手を挙げる。
「史実として、紫式部と道長の間に子がいた、みたいな話はあるんですか?」
「無いらしいぞ。SNSでも、微妙な反応があったな」
「微妙な?」
「道長とまひろの恋愛についてはギリギリOKでも、子供については却下みたいな意見が散見された」
フィクションでも許される部分と許されない部分があるということなのか。
「ドラマの内容からすれば、道長とまひろの恋愛については、そういう関係としておいたほうが描き易い部分がある、というのは分かるのだが、子供を道長の子とすることで、今後の展開に影響があるとも思えない」
梅里様は腕組をして、考えながらそんなことを言う。
「すでに、為時(ためとき)の任官で世話になってますもんね」
「まあ、この設定を活かしてくるのか、何もしないのかは、観ていかないと分からんのだがな」
「定子のほうだが、定子も懐妊したと帝に知られる。桜の花が映っていたから、春なのだろうな。帝に、何故報せなかったのかと責められ、子を産むことなど許されぬこと、と定子は謝るのだが、ここでも帝の頭の中のめでたさが現れている」
「………あ、呪詛、ですか」
梅里様は頷く。
「定子の言い方は、出家した身で帝の子を身ごもったことを言っているように思えるが、むしろ胎の子を守るためと考えたほうがいいかもしれん。だが、帝が知ることとなり、当然道長の耳にも届く」
道長の……、あ。
「秋に、皇子が」
晴明が予言した。
「うん。道長もそう考える。それで少しでも味方を増やそうと、入内の際の道具の屏風に公卿達に和歌を詠んでもらってそれを行成(ゆきなり)に清書させて貼っては、と考える」
「娘のためとはいえ、なんかやることが姑息というか」
左大臣で、帝の次に力を持つ人間から頼まれて和歌を詠まないなど、よほどの気概がなければできないことだろう。歌に自信があれば、声をかけられるだけでも誉れであろうし。
「実資(さねすけ)もそう思ったのだろう。ヤツは断っていたがな」
「さすが!」
「そして、定子は出産。やはり皇子を産む。彰子(あきこ)入内」
晴明、正しかったか。
「帝は、そなたのようなおさなき姫にこのような年寄りですまない。楽しく暮らしてくれればうれしいと告げる」
「……ちなみに、この時二人の年齢は」
前回聞いた時は、十一歳と十八歳だったような。
「ええと、十二歳と十九歳、だな」
「あんまり変わりませんね…」
意外と時間が経っているかもと期待したのだけど。
「道長は、晴明の元へ行き、愚痴るんだ。運が悪い、体調も悪い、と。晴明は、運は傾いていないと言い、彰子を中宮にし、定子を皇后にしては、と言い出す。一帝二后は、道長の力を増させる、と」
「あ、ええと、そもそも、彰子を入内というのは晴明案ですもんね。それにより災いが減る、と。でも、え? 中宮と皇后って、前にも出てきたような…?」
なにやら情報過多で頭の中が混乱してしまう。
「うん、定子と円融帝の皇后遵子(のぶこ)の時のことだな」
「あ、それぞれの夫は違う人だから、ちょっと違うんですね」
「そう。それでも異例中の異例だ。だが、今度は一人の帝に、要するに皇后が二人だ。呼び名は皇后と中宮だが、二つは同じ意味だからな」
「道長は、何て?」
「どう決めたかは、待て次回、だな。来週のタイトルが『一帝二后』だから、おそらく、彰子を中宮にすることに決めたのだろうが」
「……なんか、道長は晴明にいいように操られてるような感じですね」
「人をどうするとか、税をどうするとか、道や川を、というのは前例があったり、いろんな文献から知見を得ることができるが、どうにも天災については手出しができぬからな。その部分を司っている陰陽寮があれば、そちらを頼らざるを得ないのだろう」
「あとはだな…、赤染衛門(あかぞめえもん)の勘違いが面白かったな」
「赤染衛門……あ、倫子(ともこ)サロンの」
「うん。倫子は、彰子に華やかな艶が欲しいと考えるんだ」
「華やかな、艶」
「うん。例えば、定子が管弦の会を開いたり、和歌の会を開いたり。定子の母貴子がいろいろ手配をしたというのもあるが、定子自身にも素養があった。頭がよく、知識もある。琴を奏でることもできる。そういう部分だ」
「なるほど」
「まあ、倫子は定子のそういう部分を誤解していたがな。どうも倫子は、帝は定子の色香に惑わされていると考えているらしい。だが、そうだな。定子の最大の魅力は、帝の心に寄りそうことができたところだな」
「彰子には難しそうですね。まだ…」
「そう、難しい。だから、人を惹きつける華が欲しいということだ。だが赤染衛門は誤解する。後ほど倫子に閨房の心得は教えたと伝えるんだ」
「けいぼうのこころえ…」
うん、確かに、必要なことかもしれないけど、倫子の求めるものではないよね…
「倫子は呆れてそれはまだ先のこと、と言うのだが。彰子が、花を見て、キレイ!と歓声をあげたり、そこまではっきり喜ばなくても表情に表れたり、そういう娘ではないからな。赤染衛門にもどうして良いのか分からないのだろう」
「……きっと、学問はできるのでしょうね。でも、情緒的な部分の表現方法は知らない。花をキレイと思う心はあっても、表に出さずに静かに思っているかもしれない」
「あるいは、もっと違うものに興味があって、まだそういうものに出会ってないのかもしれない」
「なんか、まだ夢に出会ってないのに、夢を持て!って言われている保育園児の話を聞いている気分です…」
「うん、それが一番近い気がするな…」
何故か二人で顔を見合わせてため息をついたのだった。
最近は、最初に食べて、終わってからおかわり、というパターンが定着してしまっている。どっちみちお代わりするのだから、まあいいんだけど。
水ようかんにはアレンジはないから、味変はできないのが少し残念。梅里様は文句なんて言わないけど。
水ようかんをもう一つトレイに載せて、今回も水出し煎茶を入れて部屋へと向かうのだった。




