20 長徳の変は帝の怒りから呪詛問題そして定子出家、為時は越前へ
ドラマのネタバレをしてますので、お嫌なかたは回れ右を。
私見がかなり入ってますので、それも嫌な方は回れ右を。
第二十回 望みの先に
今日のお茶請けは六方焼きだ。あんこをクッキーみたいな生地で包んで、一面ずつ焼いていくと、立方体になる。自分で作ってみるまでは、自宅で作れるなんてまったく思っていなかったお菓子だ。あんこのカタマリみたいなお菓子だけれど結構楽しく美味しい。あんこ系の和菓子なので、問答無用で日本茶を用意。ほうじ茶が好きなので、ほうじ茶率が高いのは仕方ないのです。梅里様は文句言わないけれど。
時計を見て、ドアを開ける。今日はなんだか静かだ。……まあ、観るのは三回目なのだから、なぜ初めて観る時のような反応ができるのか不思議なのだけれど。
「お茶の時間ですよー」
「ん? それはなんだ?」
見た目五~六歳の梅里様がちょこんと首を傾げると、子供にしか見えないから不思議だ。
「六方焼きです。中身はあんこですよ」
「家で作れるのか!」
「そうなんですよ!」
驚いて叫ぶ梅里様に、私も叫び返す。
「まあ、わたしも驚きました。なので作ってみようかと」
きょとんとする梅里様に笑って言う。
「へえ…」
お茶とお菓子をミニテーブルの上に載せると、さっそく一つ摘まんで少し齧る。
「お、まだ温かいな」
「焼きたてですから」
お気に召したようで、ぱくぱくと一つ食べてしまう。
ほうじ茶を口に含み、さて、と言う。
「今回のメインは、前回の続きの『長徳の変』だ」
はい、と小さく頷きかけてふと思い出した。
「梅里様、続きで思い出しました。前々回の最後、六条のお邸ですれ違った道長とまひろはどうなったんですか?」
「ああ、あれか。何もなかったぞ」
「何も、ですか?」
梅里様は重々しく頷く。
「みごとに何もなかったんだ。吾も途中までは気にして観ていたが、最後の最後に隆家(たかいえ)が矢を放ってすっかり忘れてしまっていた」
「潔いですねえ」
まひろがつぶやいたように、道長は昔の自分に会いにきた、ということなんだろう。
「話を戻すと、今回は『長徳の変』がメインで、まひろはその裏のほうで別ストーリーという感じで進んでいく。なので先にまひろのほうを話すことにした」
「?」
わざわざ説明するのは、何故……
「比重の問題というか、ある意味本筋、というか長徳の変にはあまり関係ないんだ。先にするか後にするかの問題で、まあ、それくらい長徳の変がちょっと大変なんだ」
不思議そうな顔をしたのが分かったのか、梅里様が説明してくれる。
でも、大変なんだ…
なんとなく気を引き締める。
「今回のまひろは、淡路の国司に任ぜられた父の赴任先を越前に変えようと申文を書いた、それだけだな」
「それだけ、ですか?」
梅里様は一つうなずき、あ、と声を上げた。
「もう一つあるな。申文を読んだ道長が帝に見せる。もともと越前の国司に選ばれていた人物は宋の言葉も話せないので今の問題の対処には心もとないので、漢文も宋の言葉も得意な為時(ためとき)に変えてはと言う。その結果、国替えとなるんだが、さすがの為時もまひろと道長の間柄を問うんだ」
「さすがの為時…」
思わず復唱すると梅里様が苦笑する。
「一応淡路の国司の時点までは、可能性を考えたくらだったみたいだぞ」
「それに加え、国替え、ですもんねえ」
「まひろは、かつて恋い焦がれた殿御(とのご)と言う。身分差があるから二人で遠くの土地で暮らそうという話をしたこともある。けれど昔のことだ、と」
「為時はそれで納得したんですか?」
「納得できたかは分からんな。話すよう促したときも、自分には男女のことは分からないと言っていたからな」
「はたから見たら、変な関係ですもんね…」
きっとまひろがごく普通の考えを持つ女なら、妾(しょう)になっていたのだろう。
「で、長徳の変だ」
ほうじ茶で喉を湿らせて、ついでみたいに六方焼きを口に入れて。
「伊周(これちか)と隆家(たかいえ)が、花山院(かざんいん)に矢を射かけ、帝の母の詮子(あきこ)を呪詛した。その結果、伊周は大宰府へ、隆家は出雲への赴任、定子は内裏から下がり出家、というのが流れだな」
「呪詛」
これまでも何度か出てきた、謎の呪詛。果たして超常的な力があるのかどうか。
「この時代、呪詛したことが分かると罪になったらしいんだが、今回はかなり怪しい」
「兼家(かねいえ)の時は完全に嘘でしたよね」
兼家が倒れたフリをした時だ。
「ああ、そっちの意味ではない。今回も呪詛という意味では、不思議な力が働いた感じはないんだ。……まずな、女院(にょいん)……詮子のことだな、女院は、敵を排除したいから伊周と隆家の極刑を望むが、道長がそうはならないと答えた。おそらくこれが発端なんだ。道長は、情を持って裁くべきだと言うのだが、詮子は納得したようには見えない。そしてある日、詮子が具合が悪いと言って寝込む」
それって。
「倫子(ともこ)が空気が悪いと言って家じゅうを探索する。女院の部屋のいろんなものの中から呪符が山ほど出てくる。床下からも出てくる。女院は、伊周と隆家が恨んでいるに違いないと言う」
「つまり、詮子の狂言、と?」
まんま、兼家の方法と同じではないか。
梅里様は小さく首を横に振る。
「おそらく、部屋の中に仕込んだ呪符は詮子が仕込んだものだろうと思う。ただ、倫子が道長にこのことは自分にまかせて欲しいと言っているんだ。道長が大事(おおごと)にしたくないと倫子は知っていて、そう申し出ている。だが、伊周と隆家の祖父……貴子(たかこ)の父が呪詛したと、実資(さねすけ)が帝に奏上する。これはこれで間違いないだろうと思われる」
倫子の差配をすり抜けて話が出たというのは無いのか…。
「道長自身、倫子に言われた時に、呪詛の件は詮子の狂言だと気づいた様子だ。だがその後で実資から報告があって混乱したようで、晴明のところに行くんだ。そこで、本当に二人が呪詛したのかと訊く。晴明は、そんなこともうどうでもよいではないか、と言うのだが」
あ、なるほど。
「詮子の部屋から見つかった呪符は詮子の狂言、床下から見つかったのは、貴子の父が用意したもの、そのどちらか、もしかすると両方に晴明が関わっている可能性がある、と」
梅里様がうなずいた。
「先ほども言ったように、呪詛したことばばれると罪になる。誰かを陥れるためには、実に有効な手段だ」
そして晴明ははっきりしたことは言わない。事実をはっきりさせないまま、話が先に進んだのだろう。
「さて、長徳の変のもう一つの話、定子の話だ」
確か、出家した、と。
「中宮の身内の仕出かしたことだから、まずは家の者と会うことを禁じられる。次に、呪詛が分かった時点で、定子は内裏から出されるんだが、一度、道長に頼み込んで帝に会いに行く。この二人は互いにちゃんと想い合っている。だが、帝はだからこそ、中宮の身内だからと甘くすることはできないのだろう。結局は罪を減じて、都から通い場所へ赴任させることになるのだが」
それがなぜ、出家に繋がるのか。
「伊周と隆家は、呪詛が分かった時点でも、罪が軽くなるよう訴えていた。呪詛については知らなかったようで、内裏に戻れるようにしてほしいと、道長に言っていた。そして措置が決まっても遠くには行きたくないと邸内にとどまっていたが、命に従わない二人に業を煮やして帝は検非違使たちを二条邸へ差し向ける。検非違使たちが屋敷の中に入ってきたら、隆家はそれまで嫌がっていたのが嘘のように潔く出雲に向かうと言う。伊周はやっぱり駄々っ子のように嫌がっている。それを見て定子は、帝の命に従ってください、と言ったのだが、伊周は検非違使に捕まらないよう逃げる。検非違使が…この時の長官は実資(さねすけ)だったのだが、部下たちに探すように言い、定子は牛車に連れて行くように指示をすると、御簾の内から出てきた定子は、近くにいる武士の腰から刀を引き出し、髪をひと房切り落とす」
髪を。
「この時代、ひと房でも髪を切るということは、出家するということなのだそうだ。貴子は悲鳴をあげ、実資も息を飲んで……あ」
息を飲んで……? あ?
「忘れていたぞ。まひろはもう一つあった」
「なぜ、そこでまひろなんですか?」
すごく意外な名前が出てきた気がする…
「実は、まひろとききょうが見ていたのだ」
「ききょうのところにまひろが来ていたんですか?」
そう訊くと、梅里様は首を横に振る。
「さすがに、気軽に遊びに行ける状況ではないな。それに、ききょうは定子に下がるように言われていた。定子は自分の置かれている状況を正しく理解していたのだろう。家族に罪人が出ている者のそば仕えは、酷い目に合うことがあるからな。ききょうは、定子の気持ちを慮って実家へ帰るんだが、検非違使が遣わされると聞いて心配になってまひろを誘って二条邸へ行くんだ」
な、なるほど。
「下働きの女のような姿でな、こう、木の枝を持って、庭木の後ろに潜んで」
ん?
梅里様は、頭の横に両の握りこぶしを持ってきて、木の枝を持っているジェスチャーをしてみせた。
「………コントですか?」
そうとしか思えない。
「そうなんだ……」
ため息をつき。
「前回の予告編の最後に、その場面がちらっと映ったんだ。一体何が起こるか分からないものを見せられて、一週間不安と期待でぐるぐるだ…」
なるほど。
「しかも放送では、シリアスな場面なのに、そこだけコントで、やっぱりぐるぐるだ…」
とか言いつつ、梅里様は幸せそうだ。
「ああ、明日が楽しみだ……」
なによりです。
「ちなみに晴明は、今後隆家は道長の心強い見方になるだろうと言う。伊周は道長次第ということだ」
「やっぱり、晴明にはなにがしかの力があるってことですか」
「どうだかなぁ」
梅里様は腕組をして、首を捻る。
「あと、まひろが送った申文は、道長が字で気づいて、確認のために文箱の中の漢詩と見比べて確信を持っていたのだが」
漢詩を残していたことがここで活きる!
「その様子を後ろで見ていた倫子が詮子の具合が悪いと伝えるんだ」
「なんか微妙に恐い場面ですね…」
「毎回、楽しくて仕方ないな!」
梅里様は満面の笑みで言い切ったのだった。




