第60話 ぎこちない二人
私は、久し振りにロクス様と会うことになっていた。
何故かわからないが、私はとても緊張している。いや、理由がわかっていない訳ではない。思いが通じ合ったから、緊張しているのだ。
「あっ……」
そんなことを考えていると、家の呼び鈴がなった。
どうやら、迎えが来たようである。
準備は既にできていたため、私は玄関へと向かう。恐らく、いつも通りロクス様が待っているはずだ。
「ふう……」
玄関の戸の前で、私は深呼吸した。
とりあえず、呼吸は落ち着いてきた。これで、ロクス様が目の前に現れても大丈夫だろう。
という訳で、私はゆっくりと玄関の戸を開けていく。すると、見知った顔が目の前に現れる。
「お久し振りですね、セレンティナ様……」
「ええ、お久し振りです、ロクス様……」
挨拶をしてきたロクス様も、心なしか緊張しているように見える。
やはり、私を同じような気持ちになっているのだろう。
「さて、行きましょうか」
「あ、はい……」
いつも通り、ロクス様に導かれて、私は馬車の中に入っていく。
なんというか、お互いに動きがぎこちない気がする。
馬車の中で座っても、変な空気は続いた。お互いに、何故か話せない。よくわからない沈黙が続いているのだ。
「……」
「……」
そんな沈黙の中、馬車はゆっくりと動き始めた。
何か話すべきだとは思う。だが、何を話すべきかがまったくわからない。
今までなら、世間話でもしていた気がするが、それでいいのだろうか。
「えっと……最近は聖女の仕事はどうですか?」
「あ、はい……忙しいですが、順調だと思います」
そう思っていた私に、ロクス様は世間話を振ってきた。
どうやら、ロクス様はいつも通りの会話でいいと判断したようである。
確かに、いつまでも変に緊張しているのはよくないだろう。表面上だけでも、元に戻せば、落ち着いてくる可能性もある。
という訳で、私もこの会話に乗ることに決めた。そういえば、この流れで言っておくようなことがあるので、それも言っておこう。
「ロクス様、その聖女の仕事について少し聞きたいことがあるのですが、後で少し時間をとってもらえますか?」
「ええ、構いませんよ」
私の言葉に、ロクス様は頷いてくれた。
これで、あの話もしやすくなった。後で、ロクス様に色々と聞いてみることにしよう。
そんな会話をしていると、気分も良くなってきた。緊張していたのが、落ち着いてきたのである。
落ち着いてくると、ロクス様と話せることが楽しくなってきた。元々会えたのは嬉しかったが、それをより実感できるようになってきたのだ。
そんな風に話しながら、私達は馬車の中で過ごすのだった。




