第53話 見られていた行い
私は、ロクス様に告白された。
その後、ロクス様は昔の話をしてきた。それは、若い女性が溝で何かを探しているというどこかで聞いたことがあるような話だ。
「あの時、私のことを見ていたのですか?」
「ええ、見ていました。セレンティナ様が人助けをする所を……」
どうやら、かつて私はロクス様に見られていたようである。
まさか、そんな所を見られていたとは思っていなかった。ただ、別に見られてもおかしくはない場面だ。
なぜなら、あれは人通りがある場所での出来事だったからである。色々な人に、変な目で見られたことを今でも覚えているくらいだ。
「人目もはばからず、誰かを助ける姿勢。その姿勢に、僕は感銘を受けました。なんて、素晴らしい人だろうと思ったものです」
「そ、それは……ありがとうございます」
ロクス様は、私のことを褒めてくれた。
確かに、あの時の私は人目をはばからずお婆さんを助けていた。困っている人を助けることを優先して、他のことは無視することにしたのだ。
あの時のことを褒められるのは、それなりに嬉しいものである。
「世の中には、こういう人もいる。自分も、あのようにならなければならない。あの時の僕は、そう思っていました」
「そうなのですね……」
「ただ、話しかけたりしようとは思いませんでした。貴族である僕が出て行くと、色々とややこしいことになりますからね」
「まあ、それはそうでしょうね……」
あの時、ロクス様が話しかけてこなかったのは、当然だろう。
公爵家のロクス様が出て来れば、色々と騒ぎになる。そのような騒ぎになることを、ロクス様が望む訳がないだろう。
私としても、いきなりロクス様に話しかけられていたら、動揺していただろう。貴族の人と話すなど、想像もしていなかったことだからだ。当時に関しては、話しかけてこなくてよかったと思う。
「その後も、あなたが誰かを助けている所を見つけることはありました。迷子の子供の親を探していたり、老人の荷物を持ってあげたり、あなたは色々なことをしていましたね」
「そ、そんな所まで見ていたのですか?」
「ええ、丁度屋敷への通り道が、セレンティナ様の生活圏と重なっていたのでしょうね」
どうやら、ロクス様は色々と見ていたらしい。
確かに、私はかつて、ヴァンデイン家の屋敷に続く道の周辺で暮らしていた。そのため、帰り道で見られているのも、それ程おかしくないことだ。
だが、見られているなど考えたこともなかった。意外な所で、意外な人が見ているものである。




