第52話 昔あったこと
私は、ロクス様に衝撃的な事実を告げられていた。
ロクス様が私を婚約者に選んだのは、私のことが好きだったかららしい。
その言葉に、私は大いに動揺している。そのようなことを言われるなど、まったく思っていなかった。私は、どうすればいいのだろうか。
「……突然、このようなことを言ってしまって、申し訳ありません」
「い、いえ……えっと、なんと言えばいいのか……」
「ええ、セレンティナ様が動揺しているのはわかります。だから、今は何も言わなくて構いません。落ち着くまで、いくらでも待ちます」
動揺する私に、ロクス様はそのように言ってくれた。
その言葉は、ありがたいものである。落ち着く時間が欲しいと思っていたからだ。
とりあえず、私は深呼吸する。すると、動揺が少し落ち着いてきた。いや、あまり落ち着いていない気がする。好きと言われて、すぐに落ち着けるはずはない。
私は、本当にどうすればいいのだろう。この動揺を抑えることなどできるのだろうか。
「……少し、昔の話でもしましょうか?」
「え? 昔の話ですか?」
そこで、ロクス様はよくわからないことを言ってきた。
このタイミングで、何故昔の話をするというのだろう。
もしかして、私が動揺しているため、他愛ない話でもしてくれるのだろうか。いや、こんな時にそんなことはしない気がする。何か、ロクス様に関する重要な話をすると考えた方がいいのかもしれない。
「昔、僕は町中を馬車で移動していました。その時、僕は窓を見ていたのです。外の景色を何気なく眺めていると、ある人達が目に入りました」
「は、はい……」
ロクス様の昔話は、よくわからないものだった。
昔、馬車の窓からある人達を目撃していた。それは、どういう話に繋がるのだろうか。
「そこには、老人と若い女性がいました。何やら、女性は溝の中に入っており、何かを探しているようなのです」
「溝の中……」
「なんだか、奇妙な光景だったので、僕は馬車を止めました。その直後、女性はあったと言って、何かを溝から取り出したのです」
「それって……」
ロクス様がそこまで話して、私は色々と察してきた。
その話は、とても聞き覚えがある。同じような状況をしたことがあるからだ。
最も、私は端から見ていたという体験ではない。昔、溝にイヤリングを落としたという老人を助けたことがあるのだ。
同じような状況があったという可能性もあるが、今これを話すということは、そういうことなのだろう。ロクス様は、あの時の私を見ていたのだ。




