絡まれたら必殺のあの言葉を
「プリシア、もうすぐに王都みたいですよ」
ガタゴトと揺れる馬車で少し微睡んでいると
「...本当...?」
「えぇ、眠そうですね、着いたら起こしましょうか?」
「んっ...大丈夫」
ぼんやりしていた意識を覚醒させる。
んー、やっぱり馬車は窮屈だなー。早くベッドにダイブしたい。
「やっぱり栄えてるね」
馬車から外を眺める。窓から眺める王都は活気づいて賑やかだった。
「そりゃ、王都ですからね」
「ふふっ、そうよね」
「そうだ、プリシア」
「何?」
「王都に着いたらお出掛けしない?」
「...嫌よ、めんどくさいわ」
だってそうでしょう。王都は人が多いし。
「そう思って調べておきました」
「何を?」
「プリシアが好きそうなお菓子や本を扱っている店を」
「!」
「残念です、せっかく調べたのに...」
心底残念ですって顔してるけど目は楽しそうに笑っている。
本当、ノエルはイイ性格してるね!私の侍女なんだけど!
「...うっ、分かったわよ...」
ノエルはニコニコと笑っていたが私にはその笑顔は胡散臭く見えた。
「うわー人いっぱいね」
「分かってると思いますけど離れないでくださいね。...迷子になられるとめんどくさいんで」
「分かってるわよ!」
ちなみに私達は変装しています。まぁ当たり前ですよね、いかにも貴族令嬢が歩いていたら襲われますし。私は少し良い所の娘の格好でノエルはーー
「さぁお嬢さん、お手をどうぞ?」
ーーー男装しています。
いや分かってます。男装してたら男避けになるって。でも心なしかノエルが楽しそうに見えるのは気のせいですか?
「あぁお嬢さん、離れないでください」
そう言って私の腰を引き寄せました。
...これ、完璧に楽しんでいますね。周りからは仲の良いカップルに見えるかもしれませんが女同士なんです。もう一度言います女同士なんです。だからそんな暖かい目で見ないで。
(...これ、こんなにくっつく必要あるの?楽しんでるだけじゃない?)
(違いますよ、変な人に絡まれないですし、何より...)
(何より?)
(楽しいですから)
「楽しんでるじゃない!」
少し大きい声が出ました。
「...失礼」
おっと、はしたないですね。
「ふふっ恥ずかしがる貴女も可愛いです」
...ここぞとばかりにからかってきますね。
言い返そうとしたら
「離してください!」
少女の声がした。声がした方を見ると一人の少女が酔っ払った男牲に腕を掴まれている。
周りにいる人は心配そうに見るだけだ。多分、面倒な事に巻き込まれたくないのだろう。どうしたものかとノエルに言おうとしたら
「...ちょっとノエル?」
隣にはノエルは居なかった。
「まさかっ!」
現場に目を戻すとそこには案の定少女を庇うように立っているノエルが居た。
『何だお前、どけよ』
『どくのはお前じゃないかな?この子が困っているだろう?』
『何だと!!』
『聞こえなかったのかい?どくのはお前だ。それとも理解する知能が無いのか?』
うわーっ何、挑発してるの!
『てめぇ!』
案の定キレてます。
こうなったらっ必殺!
「衛兵さーん!こっちです!!」
『なっ!』
男は私の嘘に騙されて慌て出した。
『どうする?このまま、拘留されるのを待つか?』
『っ!覚えてやがれ!』
男は負け犬の遠吠えよろしく走って逃げて行った。
「もう!ノエルっ」
「あぁプリシア、ありがとう」
「何、挑発する様な事してるの!」
「相手がやって来たらやり返せるでしょ?」
「ノエルがやり返したら男が死んでしまうでしょ」
ノエルは一応、私の護衛も兼ねているのでただの酔っ払いが敵うはずが無い。
だからやり過ぎない様に私が嘘をついた。私は少女に目をやる。
可愛らしい少女だ。艶のある明るい茶髪を肩で切り揃えている。
...何だかこの子どっかで見たような...
「あっあの、助けてくださりありがとうございます」
まぁいいか、無事だったから。
「大丈夫だった?」
「はいっ!」
反応が初々しくて可愛いです。
「貴女は可愛らしいから気をつけなさい?」
ちょっと口角を上げて言います。怖がられると嫌ですから。
「は、はいっそれではっ!」
「えっ?あ、あの?」
顔を真っ赤に染めて逃げる様に少女は去って行った。
「あーあ、やっちゃいましたね」
「は?」
「何でも無いですよ、そろそろ戻りましょうか?」
「あっそうね」
この日はもう帰る事にした。私は疲れていたのでノエルの呟きは聞こえなかった。
「...言わない方が面白そう」




