第二話 美少女勇者の自画自賛
町の門をくぐる頃には、太陽がずいぶん高くなっていた。
ワンダは、縄でつないだ山賊三人を連れて歩いている。僕は彼から借りた外套を、首元までしっかり閉じていた。中に何も着ていないと知っているのは僕とワンダと山賊三人だけだ。道行く人たちは、外套を着込んだ旅人だと思っているだろう。
「まずは服だな」
町へ入って早々、ワンダはそう言った。
「うん。僕もそう思っていたところだ」
「俺はこいつらを役所へ連れていく。服屋は通りを二つ進んだ先だ。買い物が終わったら、噴水広場で待っていてくれ」
彼は懐から革袋を取り出し、僕へ差し出した。
「服代だ。足りなければ言ってくれ」
袋を受け取ると、思ったよりずしりと重い。
「こんなにもらっていいのかい?」
「釣りはあとで受け取る。返したければ返してくれてもいいし、別に返さなくてもいい。金には困ってない」
「いや、返すよ。服を買うだけだからね」
「好きにしろ」
ワンダはそれ以上気にする様子もなく、山賊たちを引いて役所の方へ歩き出した。
昔から、ワンダは自分の懐に無頓着だった。稼いだ金を見て喜ぶより、必要なことに使えればそれでいいという顔をする。相変わらずだな、と思う。
僕は革袋を握り、教えられた服屋へ向かった。外套の前を押さえながら歩くのは、なかなか気を遣う。風が吹くたびに、僕は襟元を確かめた。道行く人は誰も気に留めていない。よし。完璧な旅人に見えている。
服屋では、店員の女性が明るく声をかけてきた。
「いらっしゃい。何かお探しですか?」
「動きやすくて、手頃なものを」
「ご旅行中かしら。こちらのチュニックはいかが?」
店員が勧めてくれた服は、どれも僕の予算で十分買えそうだった。それでも僕は値札を確かめ、一番安い長めのチュニックを選ぶ。腰に巻く布と、肌着のキャミソール、それからショーツも一緒に買った。森を裸足で歩いたせいで足裏が痛むので、丈夫なソックスと、飾り気のない歩きやすい靴も選ぶ。
ワンダは「金には困っていない」と言っていたが、だからといって好き放題使うわけにはいかない。僕は勇者である前に、堅実な買い物のできる男なのだ。今は少女だけれど。
試着室で外套を脱ぎ、買った服に着替えた。キャミソールに袖を通し、ショーツを身につけ、チュニックをかぶる。腰には布を巻き、ソックスを履いて靴を足に合わせた。冒険の装備とはずいぶん違う。軽くて、風が通るような感じがする。
「……お股が、すーすーする」
女性の服装というのは、こういうものなのか。
慣れない感覚に戸惑いながらも、胸の奥には妙な爽快感と高揚感が湧いていた。新しい人生の始まりにふさわしい、なかなか新鮮な気分だ。
外套を羽織り直して店を出る。そのとき、店頭の大きな窓ガラスに、自分の姿が映った。僕は足を止めた。
灰色の髪に色白の肌。小柄な身体に、長めのチュニック。腰の布が歩くたびに揺れている。可愛らしい。実に可愛らしい。
「……これは、想像以上だ」
少し顎を引き、片足を前に出してみる。いい。次は首を傾けて、片手を頬に添える。通りすがりの女性たちが、こちらを見て微笑んだ。
「かわいい子ね」
「お人形さんみたい」
聞こえているよ。聞こえているとも。
僕は窓ガラスの中の少女に、もう一度ポーズを取らせた。周囲から「まあ」と小さな声が上がる。なるほど、この角度も好評らしい。
もちろん、僕の美的感覚が優れているのは知っている。けれど、こうして通りすがりの人々まで同じ結論に達するとは――この姿、想像以上の逸材だ。
「ふむ。これは将来有望だね」
自分自身を評し、僕は満足げにうなずいた。この姿で美少女たちと出会ったら、どうなるだろう。
「レインさんって、本当にかわいいですね」
「君たちこそ素敵だよ、マイハニーたち」
美少女たちに囲まれ、腕を組んで歩き、仲良くお茶をする僕。彼女たちは頬を赤らめ、僕の隣を譲り合う。誰かが「私が一番近くにいたい」と言い出し、別の誰かが「順番にしましょう」と提案する。
悪くない。実に悪くない。想像しただけで頬が緩む。
「ふひ……ふひひ」
窓ガラスの中の少女も、同じようににやけていた。当然だ。僕なのだから。
気分よく噴水広場へ向かう。ワンダとの待ち合わせまでは、まだ時間があるはずだ。広場の中央では、石造りの噴水が水を噴き上げていた。僕はその縁に腰掛け、外套の前を整える。それから、水面に映った自分をのぞき込んだ。
やはり、かわいい。髪を耳にかけてみる。水面の少女も同じ仕草をする。少し微笑む。向こうも微笑む。
「君、なかなか魅力的だね」
「ありがとう。君もね」
自分で自分を口説いていることに気づき、僕は小さく咳払いをした。
「こほん……いや、僕だ」
近くを通った人たちが、僕を見ていた。変なものを見る目ではない。目が合うと、何人かはやさしく微笑み、少女たちは「かわいい」と囁き合っている。
なるほど。観客がいると、ポーズにも力が入る。僕は水面に向けて、最後にとびきり愛らしい笑顔を作った。そのとき、広場の向こうに掲げられた大きな横断幕が目に入った。
『魔王討伐一周年記念祭――』
僕の笑顔が止まった。
魔王を倒した帰り道。王都で行われるパレードへ向かう途中。崩れた橋。胸元で砕けた転生の石。あの事故から、もう一年が経っている。僕は水面を見つめたまま、しばらく動けなかった。噴水の水が、さっきまでの笑顔を静かに揺らしていた。




